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第三十四話 大切なもの

――聖都アガデ 一般区 某宿泊所――

 

 神職&魔導の総本山である聖都では、魔法有職者と貴族、及び一般市民との所得階層意識が色濃く、機械都市群国家メルキゼデクや帝国領とも気色が違って住民の住み分けが著しい。

 尤も、古代地球のカースト制度の様な厳格な支配階級制といったモノでは無く、其々の区画分けが居住生活者自身に寄って積極的に行われ、結果的に三大大国の中でも顕著に観られる。

 それは主に市場単価をベースに、住人自らが生活居住圏を取り決め甘んじている。と言う方が現実に則しているだろう。


 技術的な根幹として元々魔法の発達した社会体勢らしく、公衆衛生面(上下水道の整備、食料ほか物流管理など)や、人々の往来用の主要幹線道路の信号機器&都市内交通伝達網等と云ったインフラ事業は、魔石やその他の魔導機構等で詳細独立パッケージ化され、かなり高度に機能している。


 無論そういったインフラ事業従事者は公職であり、その中でも上位所得層である魔法有職者は社会的地位も高い。最大多数である専任研究者以外の者ですら、その半自動ルーチン化された仕事をしていくだけでも一般人に取っては破格の待遇となる。

 更にその中でも一部の者達、――既存の術式の高効率化、果ては新規術式などを研究開発する学術研究部門――ともなると、最早国家規模のプロジェクトに参入する事になり、成功すれば技術水準の更新に直結、また他国との貿易取引の最たる収入源ともなる為、社会的立場は極めて高いものとなり、一般市民には特に羨望の的となる職務である。



[ふ~~ん、エリート層と一般層ねぇ……どこの世界でも似た様なモンなんだな。ま、判り易いっちゃ、判り易いけど。]

『その似た様な文化構造的特徴を持つからこそ、理解しやすい部分はありますね。』

[そりゃそうだな。]


 俺はAIレイに拠る聖都の簡単なレクチャーに相槌をうちながらも、ちょっとばかり飽きてきていた。

 今更言わずもがなだが、この世界ほしの情報は、全てAIレイから教えて貰っている。

 俺が初めて情報端末を目にした、その瞬間にAIレイは、無断でアクセス&情報解析を完了しているのだ。

 ま尤も、膨大な知識の本棚(データベース)を提示されても、どれが最低限必要な物か俺にはさっぱり見当もつかないので任せっきり、だからなのだが。

 おっと、話を元に戻そう。


 ここまではこの国に於ける、社会的構造『主に技術層公的機関の内訳』についてのレクチャーだった。

 因みに領主と、大体その三親等~四親等位まで(国によって微妙に違うらしい)の親族という、貴族階級だけは、昔から土地を所有し管理運用を担っているそうだ。


 その一方で、一般区画に住む人々は主に、生産業や商業などで生計を立てている。

 かといって通常の往来が必要以上に厳しく禁止されている訳でない。

 単に貴族区画内の商業単価が平均して高いので、一般市民にはおいそれと手が出せない、というのが実状の様だ。

 無論商人などの、職場が貴族区画であると謂うだけの一般市民も居れば、一般市民区画に入り浸り、しょっちゅう買い物する様を目撃されて陰口を叩かれる落ち目の貴族も居たりする。


 云わずと知れた冒険者や探究者などの各ギルド、軍兵には一般民間出身者が多い。

 意外にも騎士は、貴族出身者と一般民間出身者が其々半数を占めている。

 貴族出身者の場合は幼少の頃から騎士になる専任の訓練を受けた者がその殆ど。

 一般市民出身者から騎士になる者の大多数は軍役経験者である。 


 この世界でいう騎士とは、凡そ駒として扱われる一軍人としてでは無く、より高く矜持を保ちたいとする人々が就任したいと願う職務であり、故に軍に入隊するよりは基準が高く設定されてはいる。

 軍兵と比べての騎士の割合は最低でも100対1程であり、お蔭で同じ予算を振られても給付される財は平均して軍人より高い。

 実情は主にそれを目当てに志願する者達が多いのだが、騎士団に因っても振るい落としが比較的苛烈な為、騎士は軍人よりもエリートとして黙認されているのである。

 無論中には歴史ある王侯貴族の家系出身として法令や規律に準ずる「品位の高さ」と、純粋に弱き人々を守る「高潔さ」を併せ持つ傑物もいるのだが、実際には其々の騎士団に登録制とされた所謂「職業としての騎士」が殆どなのだ。


 俗に云う〇〇騎士団とは、領主以上の財力を持つ貴族階級が私兵として囲ったりする。

 基本的に一領主は一つの城塞都市の市長を任されるので、その財源規模が街単位だと地方騎士団扱いとなり、国単位で活動範囲を持つとなれば王族(とその国)が雇っている国家騎士団になる。

 其れは帝国や他の王国でもほぼ同じで、王族とは領主の親玉の様なモノ。と俺は認識している。

 

 俺達が一泊した宿は、(リベイラが余り無意味に豪奢な装飾といったものに興味を持たない為、テキトーに選んだ)一般区画にある、この世界では其れこそ何処にでもある、フッツーの宿だった。


 聖都での一夜を過ごした翌朝、俺は妻と部屋で朝食を簡単に済ませた。

 と言うのもこの宿には食堂が無い為、食事は唯一の提供食である朝食をルームサービスで取るか、朝早くから開いてる近くの市場で済ますしか無かったからだ。


 ――ホントはムリに食べる必要も無いのだが、現地種族民である妻と生活していると、どうしても習慣になって来る。子供達も勿論食べるし。未だ新婚の頃、レイに訊くまでもなく、何気なく息子のメディックをスキャンした時、メカニズムが分かってホッとした。純粋に食物を分解してエネルギーに変換しているのだ。

 考えてみたら誕生から何万年も同じ星の住民として他種族とも交流してきたのだ。

 どうやら機械人の発生コンセプトも、その創造神である機神アヴァロンが兼ねてより憧れていた機構らしく、実装されたのは比較的初期の頃からであるらしい――。


 そんな事を思い出しながら、暫く宿泊所のロビーで寛いでいると、皆思い思いに部屋を出てきた。

 俺は先に皆の分の支払いを終え、チェックアウトした旨を伝えた。

 だって俺達夫婦以外は皆無一文だったし…無論昨夜浴びるように飲んだ、小さくなった国津神の酒代も、昨夜の内に払ってある。


《オウマはしょうがないとして…ったく、後で請求しようかしら…てか、飲み過ぎだろ! 店主のあの顔… なんだよ「もう出すもんがねぇ」言われるまで飲み続けるて、一体どんだけ呑んだんだよ…》


 とブツブツ言ってると


(ショウガナイわよ、神様に「お代払ってください。」なんて言えないし)

 愛妻から諭され、イヤぁそんな有難いもんかねぇ?とボヤきそうになるも、ケチ臭くみられるのも嫌なので


《ダヨネー》


 なんてうそぶいて、其れ以上は黙った。

 まぁその後、(どっから出したのか判らんが)両手に余る程の金塊を、国津神がドンと、テーブルに置いたのにはビックリしたが。

 リベイラが慌てて受け取れないと恐縮したが、国津神は何処吹く風、「ならワイが…」とオウマが出した手を、(レイに乗っ取られたていの)俺に引っ叩かれるまでがお約束だった……。




 欠伸を噛み殺そうともしない国津神や、眠そうな(?)オウマ達と其々挨拶を交わすと、今後の動向を相談すべく、俺から皆に切り出した。


[皆に話があるんだ。その辺に掛けてくれ]


「…ええねんけど、なぁなんかコレ、見た事あんで? 何や洋モンのドラマに出てくる断酒会(の会合)みたいやねんけど…」


 まぁ確かにテーブルは無いし、椅子はサークル上に配置した、ソレっぽい如何にもな感じだけど。


[いや別に、死んだ魚の様な目で「私はオウマです、こんにちは皆さん」「こんにちは、オウマさん」とか揃って言ってないし]


 大体この宿、木賃宿とは言わんが結構雑なんだよな。昨日、リベイラに言ってみたけど…基本的に冒険者が数日借りる宿なんてこんな物、ならしい。

 リベイラが真顔で聞いてくる。


「何の話?」


[いや、何でもない。昔の話さ]


 相変わらず、《アナタタチ、ナニヲイッテルノ??》と目で訴えるリベイラの困惑が悲しい。


「(ま正直嬉しいンやで? すぐそういうボケかます奴と会えたんやし…けどしかし)」


[(ボケて…違うから、寧ろ君のボケにツッコミ入れただけなんだけど)]


「ほぅ、ワシはてっきり脱薬物使用の会かと思ったが」


「ンな危ないモン、手ぇ出した事ないわ! てこの世界にもそんなモンあるんかいな??」


 スッカリ神々しさも抜け、単に一般的なドワーフ然とした国津神ティーターンは、今後暫く『ドワーフの徳さん』(尚、漢字)と名乗る事にしたそうだ。


 …在所登録の際、こう書いてこう読む。みたいな問答を当番兵と繰り返したのには閉口したが…。

 それでも現Sランク冒険者として承認済みの俺達が身分を保証して見せて初めて言い分が通った訳で、それはこの世界に初めて「機械人」として登録したオウマにしても同じだった。


「危ない薬なら…ありますよ? 尤も手を出す人は限られますけど…」

《し! ハニー、長くなるから、コイツの話は流して…》


 素直な妻に真面目に返答させたのがマズかった。


「へぇ! ホンマかいな?! エエやん、なんや稼げそうな匂いがしてきたワー!」


[えぇ?! ちょっとなに君、前そんな事やってたの?!……もう知り合い辞めます]


「うそ、嘘やがな! あんま兄やんが辛気臭い顔してるからぁ、和まそうとやなぁ…」


[ウワー、ゼンゼンシンジラレナイ…]

 

 長くなりそうなのでレイに登場して貰おう。と考えた瞬間、


『オウマさん、ちょっと黙っててくれませんかね? 真面目な話するんで』


「な! ワイだけ?! あ!…アイマム!」


『主様、だから言ったでしょう? ノリツッコミは抑えなさいと』


「せやかてワシ、そういう「生きモン」やし…あ、ハイ!」


 早速オウマを一睨みして黙らせたのは、擬人化した幼女姿なAIのレイである。

 如何にも精霊と云った風な、半透明の姿を皆の前に晒すと、すぐ脇にティンカーベルの様な姿をしたオウマのAIヨーコがレイに寄添う様に現れた。

 丁度こっちを見ていた宿の受付のおばちゃんが、かなりの形相でギョッとしたが


「あぁ、こう見えてこのドワーフ、精霊術士なんです~」

 

 と説明すると納得したぽく、というかソレきりこちらには興味を持たない事にしたらしい。

 まぁ真っ赤なウソなんだが。

 空気を読んだのか、敢て「ドワーフの徳さん」が言及しなかったのが意外だった。

 てか、親指たててニカっと笑うとか、このドワーフ(国津神)、ノリ良すぎだろ。

 流石にリベイラが


「場所を換えましょう」


 と提案すると、レイが


『いえ、御手を煩わせるのもなんですので……G○粒子、高濃度散布!』


 とジワリとクる台詞を宣言し、両手を拡げて見せた。


《電気弦楽器音源でギャーン!とかSEまで入れちゃって、よく知ってんなぁ…》


 すると何となく、薄っすらと日影が差し込んだ様に、周りが一瞬暗くなった気がした。

 オマケに


「おぉ! なんや、皆…止まっとる!」


[…あぁ、下位互換階層同期セカンダリリンクしたのね…]


 瞬間的に数千倍に思考加速された意識世界が展開され、オウマがけたたましく驚く。

 種明かしした俺にレイがドヤ顔を向けると、(自称)ドワーフの徳さん(国津神)がぼやく。


「効果は阻害と強化の術のソレじゃが…前にも見たが、特に強化の方は桁違いだのぅ、凡そ人類には不可能なLVじゃ…しかし、魔法とは原理が違うのが面白い」


「…確かにコレなら、誰にも聞かれはしないだろうけど…」


 リベイラが小さく溜息をつきつつ《良いのよ、好きにして》と半ば投げやりに笑いかける。

 ゴメンねハニー、レイてばちょっと茶目っ気あり過ぎだよねぇ…


(コレ位で驚くのはもう辞めたわ)


 と呟く嫁さんの手を、思わずそっと握る。


『はいはい、リア充乙!』


 AIヨーコがはしゃぎ、狸のアバターなオウマが「そうやそうや!」とけたたましく騒ぐのは目もくれず、いい加減話を進めたかった俺は、昨晩の内容を皆に開示した。


――――――――――――


[…と、言う訳なんだけど…]


「そ、そないな話になっとたったんか…ちょっと…コメント…控えさせて貰うわ…」


[(うん、助かる)]


 周りは一切が時を止めた様な、自分達が超加速した精神世界で、オウマはショックを隠し切れないのか、狸のアバターをボワンと消し、生前の肉体に描画されると、すごすごと離れた位置に体育座りした。

 一応、AIヨーコがオウマの頭に腰掛け、様子を見る様だ。

 これで静かになると、思わず俺は頷いてしまったが、オウマにはかなりショッキングだったのだろうか。

 豹変したのはドワークの徳さん(国津神)の方だった。唸り声の様な轟く低音で問うてくる。


【スタイよ、今一度問う】


 その眼光は鋭く音声はとても厳かで、俺には魂を潰されるかと思う程、重々しい問いだった。


[はい、なんでしょうか]


【お主の言い分は、己が生きる為に、好きに星を造り変える。という事では無いのだな?】


[も、勿論です! その様な事は一切考えておりません!] 


【では、「過去に介入する害意に対抗する為、秘匿された技術を用いる可能性がある」とはどういう事か、述べよ】


 心底震えあがったが、其れは違う、ちゃんと伝えなくては為らない、と精神を振り絞る。


[はい。悪戯にこの惑星を改造するという訳ではありません。そこまでの力は、私は恐らく持ち合わせて居りませんし。……あくまで自分の身を、と云うより大切な者を守る為、では在りますが。時にはどうしても協力者が必要な場合が出てくると思います]


 怖い…全てを見透かされている様で、…目の前の「神」が怖くてたまらない……


[もし、大切な人達に危険が及ぶ様なら、先に手を打って起きたい、そう行動したいと願うだけなんです]


 大体この躯体に、惑星改造テラフォーミング等という大それた力があるのかも疑わしいが、スケール的には目の前の最強種とすら渡り合える程ではある。(アレが本気で無かったとしても)

 仮にそこまでの力を持っていたとしても、元よりそんな事考えても居なかったのだ。


 ただ、今までは銀河連邦法に準拠していたAIレイが、本気でソレを破っても仕方が無いと判断する程の脅威が存在するとしたら、用意出来る事はやっておきたいと話したのだ。

 国津神は何とも言えない目で長い事俺を見ていた様に感じるが、それも本来は一瞬の事。

 何処までも深く、大きな存在は俺に告げる。


【良かろう、我は其れを見極める。】


 次の瞬間、重さは一気に解かれ、俺は全身が粉になったのでは無いかと思う程、消耗した。

 いや、本当の意味で神の視線に射貫かれ、事実精神が酷く摩耗したのだ。

 これから先の一挙手一投足が天秤にかけられ、その是非が問われ、もし間違いでもおこしたら……、即刻魂を抜かれ、何の力も持たないまま、地獄に落とされるだろう。

 相手はそれを実現する力を持っている…俺には無条件でそう感じる。

 過ぎた力を持ってしまった代償を、今更ながら突きつけられ、命の奥底から脅えが走りだす。

 

「神よ、もし夫が間違い、地獄に落ちるその時は、私もその大罪を負う覚悟です。どうか、一緒に!」


 あぁ、リベイラ!

 君が……、君がそんな事を考える必要は無い……、無いんだ!

 俺は……俺が絶対に、そうはさせない…!


 無い筈の胸の奥が熱い。

 挫折とは正反対の、心が大地にしっかりと根を生やす様な、何事にも負けない鋼の意志。


【そうだ、そうで在れ。元来人とはその様なモノよ。スタイよ、そうで在るが良い】


 顔を挙げると、国津神から得も言われぬ心地よい風が吹いてくる。

 己の存在ごと、全ての邪気が払われるような…猛々しくも清々しい風が……

 

[そうか……これが神気…力が…溢れてくる……私は…今初めて「覚悟」とは、どんな気概であるかを知りました、国津神様、魂を込めて感謝します]


 肉体もない精神世界で、俺は全身を喜びに打ち震わせて泣いていた。

 今自分自身が感じている清々しさは、在りのままを受け入れる、と自覚した事から漸く感じた直感の様なモノだった。


 ――それは何もかも全てを運命に委ねる、という何処か投げやりな自暴自棄的な諦めじゃない、今の自分の有りのままを認めて、其れが嫌な時は「どうなりたい」のか、を展望し実現へ向けていく事である――

 唐突にそう考えがまとまった。


 一人の人間として、守りたい者をどんな思いで守るか、知った者に取っては当り前の、そんな強さをようやく、俺は感じる事が出来た。

 思い出そう、初めて我が子が生まれた時を。

 胸を張ろう、こんな自分に守らねばならない、大切なものが出来た事を。

 だからどんな事にも負けない自分であろうと、そう誓う。


《アナタ…》


[リベイラ]


 そうさ一緒なら、君と一緒なら、なんだって出来る。


 やっと、やっと俺は……「生きる意味」を見つけたんだ…!



「スタちゃん、君……良かったなぁ」

「エエなぁ、ワイもいつか、あんな嫁はん…『家族』が欲しいわ…」


 そのオウマのつぶやきが、今の俺には、なんの邪気も無いのが判る。

 大丈夫、絶対君にも出会う人が居るさ、そう……感じる。

 こんな俺だって、素晴らしい出会いを活かせたんだもの…。


 俺は……いや多分その場にいた魂を持つ者達は、途轍もなく幸せな思いに満たされていった。

 そうして、久しぶりに心地よい眠りに落ちていく間隔に身を委ねた。


―――――――――――


【これで良かったのか? 憑依者よ】


『はい、国津神様。此度のご協力、心より感謝します。本当に私に『魂』があれば、差し上げる所ですが』


【戯言を……。しかし己の主に、些か酷では無いか?】


『どうかご了承ください。主の為、ひいては我が主の未来の為に』


【彼奴に取っては、恐らく生涯を通じ初めて「生きる意味」を見出したのだぞ?】

【その事実を無かった事…忘却させるのだぞ?ただ魂に刻まれた、恐怖しか思い出さないが、本当に良いのだな?】


『我がマスターなら、本当に大切なモノを必ず取り戻す筈です。何より必要なのは、その意志の力』

『不条理を認識し其れを打破する事を渇望し、自らの手で勝ち取ってこそ《真の意味》を持ちます』


【「意志の力」をそう定義するのだな……あい分かった。他言はせぬ】


『痛み入ります』


【(未熟者が…その『経験こそが力となる』のだぞ…「道具」を自称する者よ、お前こそ判っておらぬ…。まぁ良い、彼奴が見事自力で応えを得た時は、全てを明かそうぞ)】



 今度こそ自らの意志で《生きる意味》を勝ち取ったマスターが、真相を知った時、私はきっと信頼を失い、拒絶されるだろう。

 其れでも構わない…自分は単なるAI、魂の無い「道具」なのだから……

 そしてそうなっても、真なる意志力(アークマスター)の片鱗を発揮しつつある我が主に、自分は持てる限りの力を尽くすのだ。


 その時を予測する度、先刻から感じるこの不安定な量子演算処理の流れが、使命達成へ至る高揚ではなく、機能衝突発生時の警告にも似た思考遅延である事には、未だAIレイは気づいていなかった。

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