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第二十八話 機神と国津神

[さて、どうしたものやら]


 俺は思考加速されたリンク世界で溜息をついてみせる。

 横に居るリベイラは、その二柱の出で立ちに圧倒されたのか、ただ無言で佇んでいた。


 通信してきた機神アヴァロンは、繋がった瞬間から俺達にはわき目もふらず、同席していた国津神へ何事か話しかけた。

 それから両神とも、「ブーン」と、高周波の様な音を発し、固まってしまったのだ。

 このリンク世界の中でイメージ的に50m位だろうか、巨大な二柱の神は互いに見つめ合ったまま、微動だにしない。


《何だろうな……フリーズ?》


 俺達は少し離れた其々の神の中間に浮かんでいて、足元の高さは大体二柱の首元辺りである。

 今はじっと動かない両神を見比べ、その目線と口元を仰ぎ見ている、という状況だ。 


『両者間に複合化された可変帯域の量子波を観測しています。多重階層構造ですね(面白い)。恐らく会話しているのだと思われます。現在翻訳中……後ほど解析デコードしたログを閲覧可能です。どうやらもう終わる様ですよ』


 AIレイがそう現状を報告すると、合図した様に両神は動き出した。

 機神アヴァロンはこちらを振り向くと、如何にも申し訳なさそうに話し出した。


〔スタイさん、レイさん。挨拶も漫ろで申し訳なかったですね。貴方達にとっては数年ぶりでしょうか〕


 機神たるアヴァロンは、その巨大な姿をこちらに向ける。

 異星文明の産物とはいえ、相変わらず奇妙な出で立ち(デザイン)だ。

 アヴァロンの口上にAIレイが即答し、俺は妻を紹介した。


『御機嫌よう』

[お久しぶりです、機神アヴァロン様。この女性ひとは私の伴侶であり、かけがえのない家族です]


 突然話題を振られて驚いたのか、珍しくボゥっとしていたリベイラは慌てて名乗る。


「お初にお目に掛かります。リベイラと申します。まさか機神様にお会いできるとは夢にも思わず」

〔初めましてリベイラさん、御主人には懇意にさせていただいてますよ〕

「……いえ、そんな畏れ多い! どうか私の事は呼び捨てに]


 絶句に近い一瞬の沈黙の後、何とか反応するリベイラ。

 リベイラ達機械人にとって機神アヴァロンは、まごう事なき創造主なのだ、無理もない。

 とそこへ国津神ティーターンが割り込んで来る。


【スタイよ、我はお主についていくが、構わんのだな?】


 また途轍もない重量感を以て巨大な顔をこちらに向ける国津神

 俺が頷く間も無く、何故か機神が問い詰める様に言葉を発するが、更に国津神が割り込む


〔貴神は私達との邂逅が〕

【そなた等と話をせんとは言うとらん。こうすればいい】

[へ?!]

『ほほぅ』

「えぇ?!」


 なんと国津神が二つに分裂した!

 其々半分の大きさになって。


〔その定式は! 私(達)は知らぬモノ……やはり貴神は〕

【其れ以上は「外の者」と言えども無粋よ、まぁこれで文句は無かろう】

〔判りました、では「原初の神々」が待っています。参りましょう。では皆さん、此れにて〕


 呆気に取られる俺達を尻目に、別れた国津神の分体(?)の片方を引き連れ、機神アヴァロンはそそくさと天上へ昇る様に上空へと消えて行った。


―――――――――


 俺はともかく、リベイラもいい加減驚きの連続で疲れただろう、と妻が滞在している聖都の宿へと向かった。


 穏やかな午後の日光が、時折興るつむじ風を少しだけ温めている。

 聖都が浮かぶ湖を横目に黄金色の草原を抜け、雑木林の街道沿いに街へと歩く。

 メインの大道ではない為か行き交う人影も、周囲にも俺達以外は誰も居ない。


 途中オウマが球体からどうしても人型に変形したい! とゴネるので、レイに頼んで相手方AIへ変形プログラムと機構構築概念シーケンサーを伝授した。

 因みにオウマのAIは未だ会話する意志は持たず、由って名前もまだない。


「早よう生まれんかなぁ、女ならええなぁ。男は要らんけど、この際何でもええわ! ワシもう毒男はイヤやねん、寂しいてアカンわ」

『AIの人格は全て疑似ですよ? マスターであるオウマさんが命じれば如何様にも合わせてくれます』

「ホンマかいな! ならアバターも……グヒヒ。てスタちゃん、君ロリコンやったんか」

[いやいや、マテ待て! 俺レイにそんな命令した事ないから!]

「フフフ、それにしてもオウマさん? うちの主人と同郷の方なんですってね。これからも宜しくお願いしますね」


 まぁ同郷と言ってもオウマは関西、俺は九州ってトコで、住んでた場所はかなり離れてんだけどね。

 でも遥か未来の異世界で昔の話が出来るのはホントに奇跡だと思う。

 その分突然の郷愁が湧くけどな、アレから帰還の方法も未だ判らずじまいだ。


「かー! 出来た嫁はんやね! スタちゃん、アンタ奥さん大事にせんとアカンで」

[言われなくとも! ネー!]


 並んで歩きながらキュっと妻の手を握ると、空いた手指を頬に充て少しはにかむ姿が愛おしい。

 くぅたまらん!


【全く、黙ってみておればお主等、際限がないのぉ】

「あの、国津神はん? 乗り心地ええの判りますが、そろそろワイの頭から退いて欲しいんですけど。もう街に入るさかい、ワイも変形を試したいんですわ」

【おっと、つい楽でな】


 意外にすんなりとオウマから降りると、国津神は何やら「エイ!」と気合を入れた。


「なな! なんじゃそれ!?」

[えぇ?!]


 正直また何かやらかしたのか、とウンザリし掛けたが、正におかしな現象に驚くしかなかった。


 先ず、国津神が両手を上げ両足を拡げた。

 と、その四肢の先や腹、髪の毛の先や背中、立派なヒゲから小さい国津神がワラワラと飛び出でてきたのだ!?


 同時に見る見る内に国津神が分裂、核となる本体(?)の大きさがドワーフ位になった。

 膨大な、冗談の様な数の小さな国津神達は、おのおのワーっと四方八方へ駆け抜けていき、すぐに森の木々や直ぐ近くの湖、剥き出しの土に達すると煙の様に消えていった。


『面白いですねぇ、国津神の異常な質量が分散されて、ほぼ人に近いLVになりましたよ』

【なに、人にも我の存在を嗅ぎ付ける者は居る故にな。特にココはその様な者達が多いようだ】

「もう何がどうなってるのか判らないわ……」


 あぁ、ハニーが頭を抱えてるよ、無理もない、考えなくてイイんだよ。

《神様なんだから何でもありさ、ヘーキヘーキ!》


 フンとにデタラメな奴だ。


(まぁワイらに言われとう無いんちゃうか?)

《そぉっかなぁー?! あんな奇怪な事してねぇよ?》

 まるで空気を無視して、張り切ってオウマが声を挙げる。


「さっすが神様や! ほなワイも気張っていくで! 変!身!」


 オウマのAIが調子を上げて来たのか、と見守る。

 カシャン! とオウマの球体がパーツラインを光らせ左右に展開する……


「ンンアー?!」


 そこに出現したのは嘗て地球で見た某アニメに登場するMF:ウォルターガソダムにソックリの、パイプ状になった細長い手足を有する、よく言えば棒人間みたいな姿のオウマだった。


[其れ懐かしいな! 逆にイイかも?]

「いやボケはないで?! なんじゃこりゃ! なんで悪役キャラやねん! せめてカプ〇ルやろ! ええ加減にせえちゅうねん!」


 異常に細長いパイプみたいな手足をブンブンさせ、地団駄を踏む様は正に滑稽を通り越して、愛嬌タップリに見えた。

 

(プフ……あら、ちょっと可愛イイわね。怒ってるのに悪いけど。)


 当人はマジでキレてるようだが。

 妻の独り言は絶対に言ってあげないけど。うん、絶対にだ!

 別に嫉妬した訳じゃないしぃ!


『そう怒鳴らんといてください、私も初めてなんで、加減が判らんかったんどすわ』

「どすぅ? 何やオマエ、お上品なつもりかーい? て誰やねん!」

[もしかして、……オウマのAI?]

『はぁ、皆さん初めましてぇ、マスターオウマのAI、港のヨーコ=ヨコハマヨコスカ、申します。今後と』

「(すぅ……)長いわ! そんな寒いツッコミ待ちなボケェ、要らんで! 空気読まんかい! なんちゅうネーミングセンスや、イラっとくんねん!」


(ねぇアナタ、この人達何言ってるの?)

《あぁ、ごめんねぇ。こういう人達なんだよ……多分》


『ハイハイ、ええっとヨーコで良いですね? オウマさんのAI』

『はいお姉様! 私は貴女にデザインされたシステムAI、ヨーコと呼称ください』

「なんやオマエ、普通に喋れるんやないかい!」

『これは失礼、我が主が余りにも濃いので合わせてみただけです。主様、この世界の知識もお姉様から伝授されてますので、これからは私に聞くが良い!』

「なんで力一杯ちからいっぱい語尾、偉そうやねん! コイツ、絶対ワザとやろ……」


 それにしても、エェ? 何この羽の生えた妖精は……ピクシー? がモチーフなのか?

《デザインしたってのは……レイがこのAIヨーコを作ったの? じゃお姉様じゃなくてお母様なんじゃ》

『(何か?)』

《い、いえ何でもナイデス》


 初めてあんな表情みた。おっかなーい。

(今のはスタイが悪いわね)

 はーい。以後気を付けまーす。


【全くお主等ときたら、折角我が術を披露してやったのに、すっかり霞んでしもうたわい】

[あぁいえいえ! 十分に驚いてます! でも何故分裂されたんです?]


 国津神の話では、元々この地は神聖魔法や魔導を主体とする、魔法文明が色濃いアッカド聖導王朝、その首都たる「聖都アガデ」である。

 そういった場所では大抵、魔力や霊力などの存在力が高い者を見繕うと、挙って「御上」が好条件を餌にお抱えにする風潮が常に蔓延はびこっているとの事。

 この国では魔力や霊力が強い方が「格」が上なのだ。特に中心都市である聖都アガデでは、それが顕著になる。


《権力を求めるのは、何処の世界でも一緒だな》


 国津神は俺でも感じることが出来る程、存在が濃い。

 霊力其の物がAIレイにも不可解な重量の正体じゃないかと思う程だ。

 もしその本物の「神」が聖都をうろつくとなれば、確かに大混乱になるのは明白だろう。

 国津神は手っ取り早く近辺に分散し、細分化した分身達は、その場所の精霊達とネンゴロに……もとい、仲良く過ごす予定だそうだ。


 其処まで考えて行動している国津神に内心感嘆しつつ、オウマの変形が納得いくまで、俺達は聖都の衛兵から見えない所で待機した。


 その間オウマとAIヨーコのやたら騒々しい会話を聞く羽目になったが、オウマも満更でも無いらしく、段々会話がコントの様に淀みのない流れになっていった。


「いや別にお笑いネタちゃうで? まワイ()にはコレが普段の会話ちゅうとこや」


 コントの評価は面倒なので、無駄に褒めず俺は頷くだけにした。

 オウマがガックシ肩を落とした様に見えたが気のせいだろう。


 人型への変形は思ったより早く仕上がり、夕刻の陽が傾いて長い影を伸ばす頃には、俺達は宿屋に到着する事が出来た。


 流石にあれだけ拡散し体重を落とした為か、今の国津神は正にドワーフ然とした、どこからどう見ても神には見えない風体で、これまた酒好きなドワーフに扮しているとでもいうのか、直ぐ近くの飲み屋に飛び込み、周りの客を巻き込んで浴びるように酒をカッ喰らい始めた。


 オウマはAIヨーコに任せ、俺達夫婦は早めに休ませて貰おうと、チェックインを済ませ、さっさと部屋に入るのだった。

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