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第二十一話 底に在るモノ

 通信回線を開いてリベイラを呼び出すと、AIレイが自動的に思考速度を減速させてくれた。

 流石に向こうも心配してるだろうな。と考えながら暫く経つと妻から返事がきた。

 声が聞きたかったよハニー!


 (どうしたの? 何かあったの?)

 意外にドライな反応にちょっと面食らう。

 《いや、もう二日も声を聴いてなかったからさ。心配してるんじゃないかなって》

 (二日? 未だ二時間も経って無いけど? あ、ミラは寝込んじゃったけど、命に別状は無さそうよ。体調も安定してるみたいだし、安心して)


 え?! なんで? こっちじゃ……あぁ確かに体感時間だった……恥ずかしい。

 で、でも良いじゃん! 俺達、夫婦なんだもんねー。

 俺は手短に、村を襲った悪魔は消滅した事、地獄とやらに迷い込んだ事、国津神ティーターンと手合わせして今は道中を共にしている事を告げた。


 (「地獄」ですって?! 「魔界」の中心じゃないの! でも不幸中の幸いかしら……。神様と一緒なら……アナタ、気を付けてね)

 《あぁ、判ってるよ。じゃ、また後で》


 急に恥ずかしくなって、其れ以上は回線を閉じた。切り際にリベイラの

 (ソレにしても手合わせって、軍神とか戦神様なのかしら? リースにも教えてあげなきゃ…)

 と洩らした言葉が耳に残った。

 リースか……確かに落ち着いてくれれば良いんだけど。


『マスター、ちょっと』

 あん? 

【随分デレっとするのぉ。伴侶と繋がって居る時はお主、まっこと腑抜けとるゾ?】


 いや、だってそりゃそうでしょ。え……なんだコレ、なんか頭にピト、って…

 ?! や、ヤメて―、そんなモノしまってーー!

 キ、キ〇玉が! 光り輝く神の金〇が!

 ご立派です! ご立派ですからもうヤメて!


【ガハハハ! 我は男神ゾ! 戦でも無ければ、自然体になるのは至極当然である!】


 流石にレイは『コメントは控えさせていただきます』とばかりに無言である。

 元々腰には神具めいた装飾を施された大層立派な腰当を付けているのだが、「その下側」には何も履いて無いらしく、けつ圧だけでも肉感があるのに其の物ズバリが乗っかって、あぁもう語りたくない。


【憶するでない。神は排便せぬ。極めて衛生的であるゾ? ガハハハ!】


 そう言う問題か! くそ、何で触感をカット出来ないんだ。

 アレか? 半精神体だからか?


『心中お察ししますが、マスター、ソロソロ次の構造体が見えて来ますよ』


 レイに促されて前を見ると、グリッドに積層型構造物が映し出される。

 この見渡す限り平坦で広大な荒野の先に、円錐型のタワー状の建物が見えて来ていた。

 速度が出ていた為、あっという間に目前に迫り、俺は一旦停止する。

 頭上に載った国津神ティーターンは、特にブレる事なく収まっている。


 どうやってつかまっているんだろう。

 まぁいい、神様なんだもんな。


 俺は目の前の構造物を反射的にスキャンする。

 すると上にではなく、主に今居る地面より下に伸びた重下層構造体だと判明した。


 それにしてもココに来るまで、ホントに他に何にも無かったな。

 なんか所々土台が剥き出しになった様な、変にいびつな形の廃墟っぽいのが其処らに見えたけど?

 ……まさかな


 目前の重構造体は、かなり老朽化している様で、地面から立ち昇る壁には無数のヒビが入っており、円錐形の上の方は途中から先が無い様にも見える。


『さっきの拡散した時空震動波の影響でしょうね。つくづく目標物が無事で、本当に良かったデス』


 ヤバイ……俺は若気の至りと言うには余りにそぐわない言い訳を取り繕うが、AIレイには聞こえていないフリをされ、バツの悪い思いを誤魔化し先に進むことにした。


 依然として身体は巨大化したままなのに、この建物?はかなり大きく見える。

 否、実際デカいのだ。相対的に言って、地上に見える部分だけでも軽く200mは越えているだろう。

 同じくデッカイ入口? の様なポッカリ空いた穴状の先は、下層へ行くほど階層がごちゃごちゃしている様に見える。


【さて、此れより先は我の「神気」は揮って居らぬ。魔物共が湧き出て来るゾ、心せよ】


 レーダー&センサーが見る見るグリッドに動体反応を拾い始める。

 ダンジョンの様な構造体の入り口の向こう側が、一気に埋め尽くされるのを見て、俺はウンザリする。


《メンドクサイなぁ……レイ、なんか良いの無い?》

『マスター、もうちょっと勉強してください。さっき時空振動波、飛ばしましたよね? アレを応用して空間を限定化したら反響させてみましょう。大抵のモノは破砕し、外からの侵入も出来なくなります』

《よし、其れで行こう! えぇっと、どうやったっけ……》


 無意識にやってしまった内容だが、俺が唸っているとAIレイ再生リプレイしてくれた。


《やるね! 流石レイだ》

『恐縮です』


 グリッドの前で幼女レイが恭しく頭を下げる。


《グラビティ・ブラスト・リヴァイブレーション、放射!》


 目の前の空間が揺らぎ、奥の広大な空間が下方へ向かって細長い楕円球状に輪郭を形成、外側と隔離された。

 断絶空間クラインスペースとも云うべき、「外と中の空間が捻じ曲がり完結した領域――《3Dメビウスの輪》――」の内側に、俺の躯体から波動が反響し増幅されていった。


 瞬く間に動体反応は消え、奥には何もない空間が広がっていた。

 残響さえ残さぬ静寂其の物の有様に、国津神は目を見張る。


【ほぅ! 神気も使わず、似た様な事ができるとは。お主等も大概よな】

[お粗末様です]

【いや、我が喰ろうた訳では無いが……まぁ良い。にしても我がする事が無くなったな】


 退屈至極といった風体で伸びをする国津神。

 まぁ俺の頭の上で、なんですけどもね!

 にしても緊張感もへったくれも無いな。

 あぁもう、足バタつかせんでくださいよ、も、ちょっと!

 ビタビタ当たるンですけど! 神のナニが! ……まったく。

 ……其れにしても身体が大きいままってのは、こう云う時邪魔だな。


 レイに頼んで小さくして、というか元の大きさに戻して貰う。

 ソレに併せて大巨人である国津神ティーターンまで俺に同調するのは閉口した。

 相変わらずそのまま乗ってやがるし!


 魔物が消滅した後の断絶空間に踏み入ると、広大な領域が空っぽのまま、外との断面を顕わにしていた。

 その巨大な細長楕円球状の内側から見ると、なんだか階層ハニカム構造の段ボールの様だ。

 かなり離れてるので小さく見えるが、実際は一つ一つの階層の高さが最低でも10m以上はある。


 ちょっとやり過ぎたかなぁ。あ、なんかいっぱいへばりついてる。

 うわ、きっしょい。


 どうやら其々の階層の奥から魔物がわんさか押し寄せているらしく、バリアーとなった領域界面の向こう側でひしめいているのが見て取れる。


『マスター、下へ降りますよ。底の奥の方に目標物があります。』


 グリッドにマーキングされた光点へ向かって、ガイドラインが示される。

 ほぼ落下する様な速度で断絶空間の底に着地。勿論ワザとだが……。

 すると何事も無かったかの如く、国津神ティーターンがノッソリと俺の身体から降りた。


【我をこの結界の外へ出せるか?】


『えぇ、お望みとあらば。そのまま外に出られます。』


 レイが直接思念で交信する。と言っても国津神にはさっきから筒抜けの様だが。

 ティーターンはニヤリと口端を上げると、


【なら、退屈しのぎに我はアレと遊んでおる。お主達は行くが良い。】

 

 国津神の獲物はさっきからグリッドに表示された、一際デカい生体反応の事だろう。

 底に着く前から目立っていた。雲霞の如く群がる魔物共の総量を併せても尚届かないであろう、大きな光点反応(エネルギーの塊)


 俺達の目的物とは丁度真逆の方向の奥から、巨大な濃い黒の塊が頭部と思しき部分の両目を金色に光らせて、こちらを凝視している。

 その両脇には牡牛の様な立派な角が生えている。

 体長は巨大化した国津神に匹敵しそうな程である。

 流石に心配してスキャンしてみたが、どうやら杞憂の様だ。


 あっさり数値化出来たのもそうだが、国津神とあの巨大な悪魔では、凡そ「格」が違う。

 流石は神様と云ったところか。

 因みに一戦交えたティーターンの戦闘力解析は、ほぼレイが暴いている様ではある。

 アレが例え本気ではなかったとしても。


 AIレイはスキャンした後の悪魔には殆ど無反応になった。

 というか気に掛けてない様子。

 余りにも対象となる悪魔と、国津神ティーターンの数値が、其れこそ馬鹿々々しい程掛け離れているので、レイも興味を失った。

 と見るのが正しいだろう。


 何せ相対値で【地獄の公爵】(と宣った)ダンタリオンを基本である1とすると、あらゆるパラメータが、会敵する巨大悪魔が約10000倍、国津神は更にその1000倍以上になるのだ。

 【遊んで居る】とは比喩でも何でもない、事実なのである。

 故に俺は何の憂いも無くティーターンに声を掛ける。


[では、行って参ります。]


 返事の代わりに右手をヒラヒラと振ると、巨大化する事もせず、国津神はその腰の神斧をプラプラさせながら、ノシノシと歩いていった。


 さて、ンじゃ俺達も行くか。


 グリッドに表示されるガイドラインに従って、浮遊しながら移動する。

 今更ゴツゴツした岩肌を、一々跳ね乍ら転がる気分じゃなかったのだ。


 結界から出ると早速群がった魔物が襲い掛かって来るが、メンドクサイのでG-インパルスキャノンで直線状に壁に向かって最短の空洞を作り、蹴散らしていく。


 俺がメディ君に促され、この星で最初に放った自然破壊の荒業は、今では主格AIであるレイに因って完璧に制御され、目標物を傷つける事無く辿り着いた。


 が、俺達は其処で意外なモノを目撃する事になる。


 窪んだ長い横穴の奥の行き止まりに、俺に取っては馴染みの物体がそこに在った。

 少し汚れて光沢こそ無いが、輪郭は完璧な球状の、表面は複雑に組み合わさったパズルの様なパーツ構成。時折点滅する小さな光点。

 決定的なのはこの星の原住民である機械人とは違い、通常のスキャン波などキャンセルしてしまう超剛性のボディ。


[同型機……!?]


 俺は自分と瓜二つの躯体に唖然とするのだった。

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