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第二十話 眠りのあと

 ――漆黒の宇宙空間。

 彼方に浮かぶ星光が、時折掠める鮮明なビームの火線で遮られる。

 表示された小さな星雲を、何処かで観た覚えがあるのだが、其れが何なのか考える間は与えられない。


 俺は夢を見ていた。


 音は無く、次々に画面が切り替わり、見た事も無いロケーションに息を飲む。

 どうやら宇宙戦争の真っ只中の様だった。

 広大な宇宙空間の彼方此方で爆発や直線、曲線の光が入り乱れ、更に巨大な火球が生まれては消えていく。

 戦場が一つの惑星の近くへ広がり、その生活圏の一部であろうスペースコロニー群をも巻き込んで、破壊の波は一気に膨れ上がっていった。

 やがて防衛する側の戦闘艦隊から発射された不可視の何かから渦が発生し、攻撃して来た側の無数の機動兵器を含む全てを飲込んで空間を閉じた。

 勝利した側の惑星圏の人達であろう、異形の民達が歓声を挙げ安堵する中、地球人類と思われる人達と手を取り合い何かの調印式が映し出される。

 そして其れがこの、映像を編集した人達が関われる全ての宇宙空間で似た様な事が起こった、と示される趣旨の映像が次々に切り替わり、略されていった。

 何の説明もなく延々とその様子を見せられ、徐々に混濁していく意識の中、結局俺は意味の分からないモノにウンザリして心の目を閉じた。というか拒否した。――


 

 俺が意識を取り戻したのは、どうやら体感時間にして丸一日が経ってからだった。


 覚えているのは大巨人に突撃を喰らって、

……「動け〇オ! 何故動かん!」からの「判るまい! 戦争を遊びでやっている(略」……

 じゃなかった。

 完全に物理防御した筈の俺の躯体に、国津神ティーターンの光の衝角が突き刺さった所までだった。


 オッかしいな、なんであんな生前(?)の記憶なんていきなり思い出したんだろう。

 ……にしても懐かしいな。


 俺が現状況を思い出そうとして、出抜けに飛び出した記憶は先刻の

『「動け! THE〇! 何故動かん?!」~「この俺の、身体を通して出る力が!」(略』

 の事であり、嘗て自分がガキの頃見ていた某アニメ作品のワンシーンである。


 如何にも唐突で違和感しかない。

 変なタイミングだなぁ。

 等と勘ぐっていると、隣で寝ていた大巨人がムクっと起き上がった。


 大気と濃い魔素が巨大な大質量体に掻き混ぜられ、大巨人の輪郭の其処かしこで渦を興すのが見て取れる。

 舞い上がる土煙を物ともせず、やがて口を開く国津神が意外な言葉を発した。


【……我も神代の古きモノとは言え、神を名乗る以上察しは良いつもりだが、「流石にコレはナンセンスだ」】


 ん……?


【判らぬか? 「私メリーさん、今貴方の後ろに居るの」は面白い……いや「シュール」あぁ「ワロタw」と云うのか? うむ、「強者などいない、皆、弱者だ」には胸が打たれたわい】


 へ?……いや、なに逝っちゃってンですか、この大巨人は……

 大体ソレ、俺の過去世の話ジャン?!


[あ、あの]

【ま、お主も幼少の頃は色々あったのだな。好きな腐女子に「ちょこれーと」を貰えなくて、衣服の一部を捲って泣かしたり、その時に鉄拳を喰らった熱血教師(無論♂…言わずとも判るな?)へ対する恐怖のドキドキを、実は初恋じゃないのか(ブフ!)と勘違いして(ブッフォ!)人生を嘆いた事など痛々しい記憶も…】

[ちょっと待ったーーーー!]

『マスター! 落ち着いて。私は味方デスカラ』

[ななな、な何を言って]


 な、ナニいってるんだ?! ここ、こんなプライバシーの侵害、心外だぁぁああ!

 いや堕洒落てんじゃねぇよ!? 


【別に気に病むことは無い。我は】

[やかましいわ!]


 は!? つい心の声が、てそんな場合かっ!

 無意識に放った何某かの圧力が、国津神を取り巻く土煙ごと岩盤をこそぎ取ったが、国津神は屁とも感じていない様である。

 若干別の意味でも焦りながら、俺はそれを誤魔化して喰ってかかった。


[い!、いくら神様でも、言っていい事と悪い事が有ります!]

【…ブ!】

[ブ?]

【ブハハハ! いや…スマなんだ。よもやココまで反応するとは。お主の緊線に触れた様だの…ブっフォ!…いやスマぬ…】

[…Fu! FUNGA-KUKKU!]


 な、なななんと!…クッソォ…

 大体もうとっくに忘れてどうでも良くなった過去だってーのに!

 なんで今更こんなテンパってんだよ俺! あぁもう…!

 てか腐女子じゃねぇよ! 婦女子だよ! 字ぃ、間違ってんじゃんよ!


『ソコですか(ナイーブにも程が…)…』


 うるさいよ! もうどうしてくれようこの恥辱感……!


『もうマスター、本気で落ち着いてください』

『私が悪かったのなら、土下座でも何でもして謝りますから!』


 っさいわ、ほっとけ!

 …それに別にレイが悪い訳じゃないダロ。

 変に気を廻すなよ、俺が…大人気ないみたいじゃないか!


【さて、我が言いたい事は判るか?】

 

 唐突に、というか、いい加減話を先に進めて良いか?

 とばかりに国津神が俺に問うてくる。


 クッ、コロセ!

 ……てアンタが悪いんダロ! なんだよ、我、関せず。って顔しちゃってさ!


[わ、私の「記憶」を覗いた。との事で宜しいでしょうか?]

【うむ。不本意で仕方ないのは如何ともし難いであろう。いや、お主を蔑むつもりは更々無い。赦せ】

[は、はぁ…]

【フっ……(にしてもな、その素直さは、いっそ清々しいものぞ)】


 神々しい、圧倒的な「神の気」が押し寄せてくる。

 その猛々しくも清々しい、一変の濁りも無い鮮烈なる気配が、俺の一切の汚濁を洗い流していく……様に感じた。


 解ってますよぅだ。

 でも俺にだって触れられたくない過去の一つや二つはあるんで! 

 二度としないで欲しいな。……ったく!

 其れでも何時までもムッツリするのも馬鹿らしいので


[判りました。先をどうぞ]

『マスター、大人ですね!』


 もういいよレイ。コレ位なんともないさ! 悪かったな、気を遣わせて。

 などと調子の良い言葉を返しながら、国津神の次の台詞を待つ。


【我はお主の記憶を垣間見てのぅ、…別世界の理に触れた…まぁ平たく言えば、お主の体験した「多様な文化」とやらに興味を持った。という事だ。…忘れられたとは云え、戦神として戦時には無類の高揚を纏う我だが、其れとはまた「別腹」…ウム、面白いな!】


 捲し立てる様な言葉の中に、俺にも馴染みのある単語を拾いつつ、国津神は続ける。


【と、云う事でだ。我もお主らに憑いて行こうと欲する】

[え? 其れは……同行するという事ですか?]

【フム、些か察しは悪い様だの。そう言うておるが?】


 すいませんね、察しが悪くて!

 どうせ昔から「空気読めない奴」て言われてたしぃ。


『マスター、断っても面倒くさ……一緒に行くのも良いんじゃないですかね。(データは取れましたし、イザと為れば取り込んで見るのも一興)』


 …まぁレイも、大概不遜でおまけに物騒だけど、今回は同意見だ。

 心の声は聞かなかった事にして。


 どっちみちココは地元? みたいだし、案内がてら、もちっと話を聞いてもイイか。


[御恐れながら、御神言を賜りました事、この上ない喜びを申し上げます]


 俺は如何にも恭しく傅いて見せる。なんたって相手は「神」だからねぇ…


【止さんか、その気も無いのに還って不実であるゾ? 我等は対等である、出なければ面白うないワ】

[ハハー!]

【あとな、お主の言葉遣いはヒドイ。本気で我を崇めるのなら精進せよ。が、その気は無いだろう?】

[す、すみません! 不勉強な者で……せめて敬語で勘弁してください!]


 アレ? …なんか内心スッカリ見透かされてる様で、滅茶苦茶恥ずかしいんですけど…


【だから対等で在れと云うとろうが。良い、不快には感じておらぬワ。では、参ろうぞ!】


 ガハハハ!

 と笑い飛ばす巨体が、当然の様に俺に断りもなく俺の躯体に乗っかって来た。

 まるで大き目のバランスボールに乗った筋肉ダルマが、球体に飾り帽子を載せた様な有様。


 け、けつ圧が……アラ、神様ってやっぱ性別ないのな。


 ホッとしつつもトンデモなく重い筈なのに、俺は然程苦も感じる事なく浮遊する。

 AIレイが一瞬で最適化した重力制御シークエンスに有り難く便乗させて貰う。


[じゃ、参りますよ]

【あぁ、此れは楽だのぉ。やっぱり乗ってみて正解だったワ。ガハハハハ!】

『はぁ、調子コイてますけど、結構な御手前ですよ。この物体』

《レイ、君ももうちょっと他者に対して敬意を現そうよ、相手は神様なんだから》


 ちょっとねぇ、失礼っていうか無礼にも程ってモンが


《で、何が結構な御手前なの?》

『いえ今、摩擦係数を限りなく0にしてるんですけど、全くバランスを崩しませんねー。やっぱり半実体なのは間違い無いです』

【聞こえて居るゾ。全くお主等、「親しき仲にも礼儀あり」とはお主の郷の言葉であろうに……対等とは云ったが、少しは敬意と云うモノをだな】


 頭上の赤黒い空に憂鬱になりそうな気分を跳ね飛ばすかの如く、途中あーでもない、こーでもない等と、偶に説教を食らいながら、俺達はレイが示す目標物までの道のりを進んでいく。

 と、俺はもう二日も愛妻に連絡していなかった事を思い出し、量子間通信を試みるのであった。

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