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第十八話 大巨人

『マスター、少しエラーが出ていますが、事前予測データです』 


 レイがスキャンデータを数値化、予測値として表示する。


 対象名:国津神ティーターン

 種族名:神?

 推定体長:32m(変動)

 推定質量:650000t(変動)

 物理功力:不明

 物理防御:不明

 物理耐性:不明

 魔力攻力:不明

 魔力防御:不明

 魔力制御:不明

 自己修復:不明

 構成比率:魔素1:魔素変性体1:光子8

 備考:特殊位相体(半実体)


 もう訳が判らない。少し? 殆ど不明なんだけど?

 大体、神? てなんだよ、疑問形かよ。……まぁ検証不足なのは否めないけど。

 神か……確かに会った事も無いのに特定しろってのも酷と云えば酷か。


『マスター、其れより対象は「重い」ンですよ? 間違いなく半質量体(ハーフ・マテリアル)であるのに、タングステンなどより遥かに比重が高い。という結論になります。…本来有り得ない数値です。注意するのに越したことは有りません。』


《そうなの? なに? 引き寄せられる~とか?》


『そう単純な事象でもありません。現時点で視認透視予測化ビュースキャンがキャンセルされたのも気になります(生意気な)』


 ポニテ幼女レイがボソっと呟きながら目を細めて何か言いたそうな、そんな科白を吐いた直後だった。

 いきなり巨人、否、大巨人がジャンプした!


 ま、ままマテ! そんな巨体が無茶すんな! 着地を考えろ! 地面がっ!


【ほぅ! 奇異な事もあるものよ! 【魔界】の壁を突き破って来る物好きが、我以外にも居るとは!】


 上空から雷鳴の様なドデカイ音声を轟かせ、大巨人が着地する!


 ヒィィィイ!

 ……アレ? ……なんだ? 思ったより……静かだぞ?


 意外な程その場に壊滅的な地響きもせず、呆気ない位にストン、と飛び降りた特大の巨人。

 直後にくるぶしが見えなくなる程メリ込んだが、易々と割れた岩盤を踏み均し、舞う土煙の中でも全く隠れる事のない巨体に、俺は顔を仰ぎ見る。


 この土地に精霊が居たら、きっと真っ青になって泣き叫んでいただろうなぁ。


 に、しても……コイツは……確かに「国津神ティーターン」!

 グスマン達が四年前くらい前に実際に戦った奴だ! 

 名乗りの翻訳に驚いてレイに問い詰めた憶えがあった。

 それにしてもなんて存在感だ。こんなにデカかったのか!

 でもなんでこんなトコに?


【む?! お主()星の外の者達(・・)か?】


 手にした、コレまた巨大としか言い様が無い斧を降ろし、少し驚いた様な表情で巨人の目が問う。

 その巨大な眼光が俺を射貫くのを感じた。 


 本気で、デカい!


 しかも野太い。もう何もかもが。体表に所狭しと浮かび上がる魔法陣の紋章が、タトゥーとはまた違った趣に見える。

 確かにジャンプして一気に距離を縮めたが、そこまで近い訳でも無いのに、遠近の距離感がおかしく感じる程、大巨人のディティールが見て取れ、思わず固唾を飲む思いだ。

 ボケっと見上げていると、唐突に身体の内側、意識的に俺の頭の上の所から、俺とは違う音声が出力された。


国津神ティーターンとお見受けします。私達は別の星から来た来訪者です。私は従者AIのレイ。マスターはマスターライトと申します。主はスタイと呼称されるのを好みます。以後お見知りおきを」


 は? レイ、君初めて外に向けて喋ったね!? なんで? 相手が神様だから?


 球状の物体から発せられる言葉に眉をひそめ、如何ともしがたい様子のティーターンが僅かに首を傾げる。

 

『マスター、此方からコンタクトを試みる相手には、自己紹介は最低限のマナーですよ。せめて声くらい掛けてください。其れに、気付いてますよね?』


[あ、っと。初めまして、スタイとお呼びください。国津神様]


《あぁ、俺も解った》


 コイツは初対面である筈の俺に向かって、複数形で問い掛けたのだ。

 其れはこの躯体が内包するレイの事を、即座に見抜いたと云う事。

 何より四年前の交戦記録とは明らかに大きさが違う、ココまで巨大では無かった筈だ。


【ぅぬぅん? 何故我を知っている? お主らは星の理の外の者であろう? 忘却の彼方へ過ぎ去った、古き神民である我を、ドコで見知ったのか?】


 途轍もない重量感のある手指を、同じく途轍もなく巨大な顎の髭に当て、トンでもない存在感を放つ大巨人。ホントに山の様だ。にしても一々見上げるのも面倒である。何せ近くは無いと言っても精々50mも離れていないのだ。無論声もかなり大きい。雷の様な大音量が圧力を以て文字通り空気を震わせている。


[以前、私の友人から貴方と戦った時の事を伺っておりました故。ただ、こうまで大きな方とは存じませんでした]


【ほぉ、音そのものはか細いのに確かに明瞭に理解できる……不思議な術を使う。いや成程、我が知る「術」では無いのであろう。それにしても、何故その様ななりをしていながら、斯様かようなか細き声で話すのだ?】


 へ? 何を言ってるんだ? この大巨人は

 そういや目線は俺の遥か上を見ている様な……


「其れは貴方が大き過ぎる為です。物理的に、どうしても相対的な彼我の差がある為に、貴方の聴覚器官(と思われる箇所)に直接響かせているのです」


【なんと? 少し待て……おぉぅ? なんだ、お主達、「器は」そんなに小さかったのか。通りで見た目にしては随分下から声がすると思ったわ! ガハハハ! 足に口があるのかと思ったゾ!……そうか、ならコレくらいでどうだ】


 おかしな謎の独り言を繰り出し、変に納得した様子の大巨人は、気合を入れると一気に小さくなった!

 其れでも俺の三倍くらいは有るが。体長4m前後ってトコだろうか。

 どっかと腰を降ろし、胡坐を掻く巨人。


 流石は神様、身体の大きさなんて自在に変化出来るのね。


 俺は突っ込んだら負けかなとばかりに、あまり深く考えずそのまま事実を受け入れた。

 相手は神様?かもしれないのだ。何でもありなんだろう、多分。


『マスター、質量は変わっていません。やはり注意は怠らない様願います』


《わかった》


【どうだ、少しは話しやすくなったであろう?】


[は、ありがとうございます。私達に合わせていただいて]


「少し伺いたいのですが」


 レイが外部音声でティーターンに問う。

 なんで俺の頭の上から聞こえるかな。


【申してみよ】


「先程貴方は私達の事を「見た目と違う」といった話しぶりでしたが、どういう事でしょう? 私達は貴方の様に取り立てて体長を変化させたりはしていないのですが」


 小さくなったとはいえ、相変わらず巨人なティーターンは少し考える素振りで、決して軽くはない口調で話す。


【ふむ、お主達はあの「外から来た異形の神」とも違うのだな。得心した。良かろう】


 得々と巨人の説話が始まった。


 ――ティーターンに因ると、この惑星の高次存在である半精神体「原初の神々」、其れに連なる「神族」、ある一定以上の力を有する「精霊」や「天使」達は、基本的に相手を識別する時、無意識に内包する「魂」を見ている。という。

 元々「神々」が振るう力「神霊力」や「神通力」とは、神々に因って生み出された人類が決して直接行使できない「神の力」であるが、人や獣、果ては精霊が拘った上で生み出された全ての生物には「神の力」の加工品である「魂」が大なり小なり内包されているらしい。

 「神の力」の加工品である「魂」は、決して壊れる物では無いが、その所以故に敵対する「魔族」に取って得難い貴重な力となる。かといって草花などの植物では、どんなに摘んでも一人の人間が持つ「魂」に匹敵するには、それこそ星一個分くらい溜めないと届かない。

 だからこそ「魔族」はいつの日か「神々」に反旗を翻す為に、日々人類を脅かし、取り込もうとするのである。

 と言っても「神の力」の加工品である「魂」は簡単には還元出来ない。

 あくまで「魂」其の物が神に還るのを拒絶しなければ取り込む事など不可能なのだ。

 だがそれは神に造られし自らを否定するという事。

 そして魔族が用いるその業は「絶望」でしか為せないのだ。

 以上の理由で、人に取って「魔」とは天敵であり、存在を容認しがたい不倶戴天の敵なのである。と―― 


 其処まで一気に話すと、巨人はフゥっと、何処か遠い所を見る様な眼差しで溜息を吐きだす。


【……さりとてその「魔」も、人に因って作り出された存在ではあるのだがな。誠、業深き因果よ】


[それは、どういう……]


 なんだか壮大な話になってきたぞ……それにしても、と俺は思う。

 其れはどういう事なんだろうか。何かとても……理屈が合わない。

 何処か理不尽、というか何でそんな存在が生み出されたのだろう。

 まるで憎まれる為に生まれて来たみたいじゃないか。


「お話の途中で申し訳ないのですが、其れで貴方は何故私達の事を見誤ったのでしょう? 加えて云うと私は従者とは名乗りましたが、明確に「人間」ではありません。容量や処理速度、自己最適化などの適応能力は確かに自慢できますが、本質は単なる記憶媒体を持つ演算処理システムです。私には「魂」は無いのです。」

 

 さり気無い自慢とやらは混じっているが、確かにその通りだろう。AIレイは率直に疑問を投げかける。


【我にはお主達は人と変わらぬ在り方に見えたが? ただソレだけだ。おぅ、其れだ!】


 胡坐あぐらを解き、巨人は再び立ち上がる。


【我にあれ程の存在を見せたお主達に、頼みがある。】


[頼み、ですか? なんでしょうか?]


【手合わせを願おう。お主達なら存分に振える。嘗てない程にな。あぁ、心が躍るぞ】


[な、な何を仰いますのか? 神様に手を挙げるなど]


【なに、心配いらぬ。死合おうと言うのではない。我は我の楽しみを謳歌したいが為よ。】


 ニヒリ、と笑みなのだろう、への字口な口角をクイッと上げた巨人。

 そのままガッツポーズの様に両拳を空へ向け、太ましい力瘤にクワっと、力が入った!


 ちょっと、何この脳筋巨人?! 何言ってるの! 危なくてしょうがないワ!

 サイコですか? あぁもう、マジでサイコ〇ンダム位の大きさになってるし!

 背景に重低音な効果音まで見える気がする……。

 ……ちょ、付き合いきれないって!


『マスター、やりましょう! ちょっとこの星の、(おそらくは)最強種に興味が出てきました。』


《はぁ? ねぇちょっと君、言ってる事おかしいって!》


『いきなりオーバーライドかますマスターが悪いんです。いざとなったら、いつでもリミッターのON、OFF位できないと! ホラ! いきますよー!』


《えぇぇ?!》


『メタデータにアクセス、システムアップリンク、ステージ1(ダウンサイジングLV1)開放オープン!』


《な、なんじゃこりゃぁぁあああ!》


 自分の躯体がグングン大きくなり、やがて大巨人である筈のティーターンをも凌駕しかねない、文字通り、いやちょっとだけ見下ろす程、視点が高くなる。

 一瞬呆気に取られる国津神の、ありありと眼を見開いた様子がグリッドに浮かぶ。


【な! なんと!? お主達の存在が跳ね上がったゾ?! なんたる力!】


【ガハハハハハ! おもしろい! こうだ! こうでなくては! 我も存分に参るぞ!】


 喜々とした満面の笑みで、楽しくて仕方が無いと云った表情で、相対的に僅かに小さくなった巨人が躍りかかって来るのを、俺は半ば呆れて、且つ国津神の余りに嬉しそうな顔と、その巨体に闘気が立ち昇るのを見て、戦士としての血が沸き上がるのを感じた。


 俺もあの師匠マノンに弟子入りした身だし……仕方ない。

 そんじゃ一丁、やってみっか! 


 巨人との一騎打ちが始まった!

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