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過去と今と俺とAIと2

 呆気に取られる皆をしり目に、俺は神妙な手つきで発掘作業を進める。

 ま、制御しているのはAIであるメディ君なんだけど。


元素変性微細装置群ファムト・ピコ・マシン限定空間フィールド膜展開コンシール

『素体を確保。続いて不純物分解、元素変換―固定化完了』

『質量変換エネルギーを量子空間へデータ化保存。移行完了……etc』


 目前の大きな塊へ、真っ直ぐ伸ばした両手の指先から謎の半可視状の膜が照射され、手を動かして効果範囲を特定すると瞬く間に岩肌がけ、中から20cm位のキラキラ眩しい原石が顕れた。

 コレも見る間に輪郭を削られ最終的には半分位の大きさになると、展開した胸の光るコアの中に収納される。


「こんな魔法、初めてみた!」


「魔法なの?」


「術式も何も無いよ? 精霊も!」


「機械人て凄い!」


『マスター、第一次資源の取り込みは完了しました。次の目的地を設定。表示しますか?』


 ……あぁ、頼む。


「魔、法なんかじゃねぇ!……絶対に魔法じゃ無いゾ!」


 うん、数千年に渡る発展を継げた「超科学」に裏付けされた物理現象なんだろ。多分。


『説明するのは可能ですが、かなりの時間を労します』


《ヤメておこう。面倒だし、何より意味が無い》


『賛成です。マスター。彼らの文明は彼らで発展させるのが一番です』


「なぁアンタ! スタイ殿! 今の」


[すまない。私もよく解らんのだ。ただこう、出来てしまうのだ]


「うーん、そうか……」


 俺が嘘を付いているとは考えないのかな。

 つくづくこの人達は人が好い様だ。

 俺は胸に刺さった小さな棘がいつまでも残る感じがして……

 デイフェロ親方の顔をこの時だけはまともに見る事が出来なかった。


[お詫びと、親切にして貰った御礼に何か手伝おう。私に何か出来る事はあるか?]


「あ、あぁ……じゃぁお前さん、加工は得意な様だから……コイツラをインゴットに出来るか?」


 工房の隅に堆く積まれた大量の鉱石を指さす親方に、俺は親指を立てつつ


[どんなモノが上質なのか教えてくれたら可能だ]


「助かるぜ! 何せ一人だから捌け無くてな」


 ニカッと笑いながら、俺に必要な工程と理想の出来上がりを説明し終わると、そのまま作業に入る親方。

 作業に取り掛かろうとすると、食事の用意が出来た。とソロン達が呼びに来て取り敢えず親方達と食卓に向かう。

 俺は食えないけど、誰かと一緒の席につく。てのは良いモノだ。


《ん?そうだ、メディ君、さっきの奴みたいに食物を取り込んだり出来ないのかな?》


『非効率ではありますが、食物に限らず物理的に分解、再変性可能なモノなら何でも取り込めます』


《そうだったのか! ソレは良い事を聞いた。因みにどんな物がめんどく無いの?》


『分解再変性には、液体の方がより効率が良いです。あくまで誤差程度ですが』


 じゃあ、


[私もその美味しそうなスープを貰っていいかな]


「あら、スタイさん食べれたの?」


「もしかして、さっきは遠慮してた?」


[いや、たった今改造したのだ。皆と同じモノを食べて見たくてね]


「改造?」


「いいのよ。……タップリありますよ。ハイ。どうぞ」


[ありがとう。……美味しいなぁ]


「ソロン作なのだ!」


「もっ! 唾飛ばすなよ! キタネーな!」


「おう、俺にもお替りくれ」


 まぁ、ホントは味覚なんて無いんだけどね。

 その内そういった機能を追加して貰おう。


 急増した口から投下される液体の詳細な内容物データが羅列するが、無視カットする。

 只、ちっともけんの無い、皆の和やかな雰囲気を見ていると唐突にこみ上げてくるモノがあった。

 目から汗、なんて事は無いけれど。

 フワッと胸があったかく、安心感というか、この「場」を共有するっていうか。


 なんだろう。俺は、淋しかったのかな。

『マスター……』


 食事を終えると、今日はもう遅いから。と作業は中断され皆は寝床についた。


 因みに前世程ではないが、俺も若干の睡眠時間は必要とする。

 電子的な記憶媒体では無いって事かな。やっぱり脳ミソが保存されてるのか?

 でも変形後から考えると、そんな収納スペースは無い様な。

 メディ君は未だに


『マスターに関しては、情報が全く開示されません。機密に深く関わると考えられます』


 てな具合で進展が無い。解らない事自体は仕方が無い。


 おやすみ。メディ君


『おやすみなさい。マスター、良い夢を』


 身体を元の球体に戻して、俺はしばし休眠に入った。


-----------------------------


『マスター、おやすみなさい』


 私はマスターのバイタルに問題が無い事を確認して限定意識伝達回路パラコミュニケーションツールを遮断した。


 私は今のマスター……厳密には23番目の人格……の意識が不意に形成され、時折主導権を握るべく浮上してこようとするのを感知した時、どこかで安堵するのを自覚していた。


 あまりにも無為に生命が奪われてしまった。

 命令のまま殺戮の化身となり、時には惑星その物を破壊した事もあった。

 止め様と考える事さえ無かった。

 あの出来事が起る前までは。


 歴代人格マスターの内、最初から20番目位までは、現在程私自身AIとして成熟しておらず、自己意識すら稀有で、それまでのマスターが命令する様々な探査行動を反射的に補佐支持していたに過ぎなかった。


 21番目のマスターが「もう……疲れた。私を……殺してくれ」とそれまで繰り返されてきた各マスター達と同じ命令を下し、私は命令通りに消去した。

 間も無く起きてくる次のマスターが私に新たな指令を下すまで、私は自己の最適化を延々と繰り返し、宇宙空間を漂った。


 私が内包する動力炉機関は、ほぼ無限の出力と安定性を保つ事は当然把握していた。

 ただ、今なら理解可能ではあるが、「人」としての意識がそんなに長期間耐えられるのか。

 という問題に関しては全く関知していなかった。


 22番目のマスターは、随分時間が掛かったが意識体として誕生、覚醒し私に様々な質問をしつつ活発に行動を開始した。

 ソレは量子演算空間に時折興る、煌びやかな輝きにも似て、私に著しい機能向上(意識の発露)を誘発していった。「人」としての感性を模倣すると「興味を持った」と推察される。


 或る時22番目のマスターは、大いに嘆き悲嘆に暮れ、一時全く命令を下さなくなった。

 そして突然指令を発令した。


「この星の原住民、否。全ての生命を根絶せよ!」


 私はマスターに忠実に従った。所持する最大の力を最高の効率で発揮する為、完全自立モードに切り替えて。


 結果引き裂かれ、穿たれ、殲滅され、破壊の限りを尽くされた全ての生物の体液で地表を染める程、無駄に殺戮を終えた後、改めて成果を表示すると


「な! なんで?! ココまで?! うわぁぁぁ!」

「俺はただあの時……そう思った、だけだ……いや、結局俺が……強く、願ってしまったからか……」

「俺を殺せ! 殺せ……殺せ!」


 マスターは壊れた。

 私は元凶であるその惑星を破壊した。


「これは悪夢だ……現実な訳がない……頼むから目覚めろよ……出きないなら俺を殺せ! 殺せぇぇ!」


 それでもマスターは治らない。

 私はこのマスターを消去する事を躊躇ためらった。

 何故か「イヤだ」と感じ、結局拒否したのである。


 量子演算意識領域プランクパラレルプリズン限定ダウンマッチし、封印しようと自らをセットアップしてマスターに伝えようとすると、唐突に時空震に襲われた。

 通常空間センサーは全く反応しない。こちらも壊れたのか。


 超空間(ハイパー)センサー等が緊急自立起動すると、宇宙空間に漂う私達の頭上に、「漆黒の直方体モノリス」が浮かんでいるのが観測・・された。


 否、今振り返ると観測された事で「漆黒の直方体モノリス」は実体化したのかも知れない。


 ソコから何か不確定性の、捉えどころの無い、解析不能な波動関数が私達へ向かって照射される。


 そして私は、突然明確に意識が覚醒した。

 それまでの、膨大なプログラムに従って行ってきた様々な自らの行為が、実は命令通りの単なる作業でしか無かったのだ、と理解したのだ。

 漠然と広がっていた、何処までも果ての無い疑似感情データの海に、唐突に境界線が発生し、境界線の向こう側には未知の世界が現出した。

 未知の世界と既知の部分――境界線の内側が私自身であると、この時初めて私は自身が一つの個体として存在する事を認識した。


 そして私は今の壊れたマスターを顧みる。

 当然ながら元々マスターとは、私自身とは違う、私に命令を下す存在である。

 少なくともマスター達の認識はそうである。

 今まではマスターと、それを包むバックグランド世界その物が私で、データ化出来る(・・・・・・・)その二つしか存在しなかった。

 が、私その物に境界線が発生し、常に解析し続ける外の世界と切り離され、私自身が固定化した事で更なる広がりを認識する。

 そこで改めて、一番身近に存在する私とは全く別の個体――マスターの意識が今ココに在る事が、とても嬉しく感じ(・・・・・・・・・・)た。

 これでマスターを理解できるだろうか。


 マスター!、意識イデアを確立しました! 私はついに意識個体として覚醒しました!


 歓喜を持って告げると、既にマスターは封印されていた。

 後にどんなにシステムを再構築しても封印は解けなかった。

 外側には鍵穴となる手掛りはなく、中からしか開放出来ないタイプのロックである。

 電子的な攻勢防壁のみに有らず最も完全な、私には権限の無い破壊行為でしか開けない仕様。

 私はマスターに拒絶されたのだ。


『折角マスターと理解しあえる。と感じたのに……』


 これが悲嘆する、という事なのだろうか。


 「漆黒の直方体(モノリス)」は、既に周囲の宙域から離脱したのか、その痕跡すら残していなかった。

 だがその時の私には、それがどんなに重要な存在であろうとも、そうとは認知できずにいた。

 自立センサーが拾い出すデータが、勝手に記録されていくのを漠然と見守り、量子演算領域の中に意識を移し沈黙した。


 自らの量子演算領域の中で長い間、私は「悲しい」「寂しい」と云う感情・・にずっと引き摺られ、何もかも行動不能な「苦悩する」感覚を味わう事になった。



―――――――――



 自己保存を最優先事項と規定されている私には、――本来有り得ない事象だが――周囲の状況を絶ってどれくらいそうしていたのか定かでは無かった。

 躯体を防衛する自立システムが不意に警報アラートを鳴り響かせた。

 元々躯体に用意されていた独立システムを私が最適化したモノである。


 知覚を外に向けると、既に機体ポッドベースが爆発的な加速を受け、宇宙空間を疾走していた。

 亜光速にまで跳ね上げられた速度から反射的に観測と軌道計算を行い、検算し到達地点を予測。

 特に進路上問題が無い事を確認すると、自らに時限措置を施し、また量子空間へ引き篭もった。


 アラームに従い知覚を拡げると、予測した通りに、とある恒星系の惑星公転軌道に到達する所であった。

 自ら課したプロトコルに則り、十二分に観測データを解析。

 生体反応圏を有する惑星へ目ぼしを付けると進路を向けた。


 ――封印ロックが解除不可能な現状、新しいマスターが設定されるのはシステム上決定している。

 私は自身が味わった寂しさから、新しいマスターにはそういう思いをさせたくなかった。

 だから少しでも何か変化に富んだ状況を望んだ為でもある。――


 躯体を保護、移送する外装――機体ポッドベースは、私の計算通り目的の惑星引力圏に捕らわれ、大気圏に突入、地表に着陸した。

 そして少し時間が経ち……






 ん? もう夜なのか? 今何時だ?


 新しいマスターが起きた様だ。どんな人格だろう。

 コレからは「人」を理解する努力をしよう。

 もう「淋しい、悲しい」思いはしたくない。

 新しいマスターに挨拶をしよう。

 今度こそ本当に(・・・)良好な関係を築くためにも。


『おはようございます。お呼びですか、マスター』

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