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第十六話 地獄

『デェェエエイ! ぬるい! ぬるいワ! 歯ごたえのある奴は居らんのか?! もっと我を楽しませよ!』


 赤と黒の異常な色彩を放つ空が覆う、【地獄】の一角。

 ソレを内包する【魔界】の大気の根底を構成する魔素が、闇色に染まった不毛の荒野で、次々と湧き出でる獄卒の鬼共を蹴散らしながら、荒れ狂う爆風と化した〔巨神ティーターン〕。

 嘗て旅程途中のイセリア達に自らを〔古き神〕と明言した荒ぶる巨神は、地上で本来の自分を取り戻した後、燻ぶりだした闘争本能の赴くまま、いとも簡単に亜空間転移ゲートを繋いだ先の、この【魔界】で暴れ回っていた。

 が、


『ツマラン、雑兵共では幾ら蹴散らしても、我が闘争を満たす足しにも為らん!』


 正に無限に湧き出る魔物達を、際限なく叩き潰していたのだが、地上では既に四年近くの時が経っていた。

 この【魔界】に自ら押し戻り、休みなく喜々として戦うも、一向に己を燃え立たせる相手を見つけられず、ウォーミングアップにも少々飽きて来た様子。

 この地を埋め尽くす程の魔物に囲まれても平然と全滅させながら、もう何度目か判らない空白の合間に、尚も闘気を爆ぜ吠える巨神。

 突然降って湧いた恐るべきわざわいに、自前の領土だと思い込む数々の大悪魔の中でも、【魔王】の寝首を狙う大侯爵「イーズライール」 は、とうとう業を煮やして苦々し気に巨神へと挑みかかる。

 

【おのれ、この…化物が! 一体どれだけ魔物を喰らえば気が済むのだ!? 【等活地獄】を統べる大侯爵、このイーズライール様が!?、ゴギャッ】


 触れれば一撃で消滅させられて来た魔物の大軍団の中でも、一際巨大な魔力(体躯)を持った大悪魔は、振り向いた〔巨神ティーターン〕が巻き起こす闘気と、利き手に握られた戦斧に因って振い起される爆風に晒され、文字通り粉々に吹き飛ばされ跡形も無く消し飛ばされる。


『なんたる脆弱さか!』


 〔巨神ティーターン〕にしてみれば、折角名乗りを挙げた奴が、どんな者かと振り向いただけであるのに、こちらの期待に少しばかり膨れ上がった闘気と、振われた神の一撃に相手が勝手に巻き込まれて自滅してしまい、拍子が抜けて馬鹿々々しくなった。


『物足りん、無為なだけか』


 フン! と、神気を放つと、巨神の視界に入る地域一帯が、瞬く間に変化を興し始めた。

 闇の魔力は消滅、純粋な魔素へと置き換えられ、地上と変わらぬ様相へと変貌していく。

 周りの荒野とは明らかに違う、闇の色に染まっていない清浄なる空気と大地。


 ――【等活地獄】

 「暗闇の書物」の四つの書物に記される「八大地獄」の最初の階層である。

 【地獄】の入り口であり、死後罪人の魂はこの地で先ず裁かれ、生前の罪に寄って各階層の【地獄】へと送られる。

 この【等活地獄】で裁かれる罪状は「殺生」。

 いたずらに生き物の命を断つ者が、死後真っ先に逝きつく後悔の地であり、懺悔しなければ必ずこの地獄に堕ちると説かれている。また、生前争いが好きだった者や、反乱で死んだ者もここに落ちると記されている。――


 巨神の圧倒的な神気に因り祓われ、魔物の気配すら消失したこの【等活地獄】の広大な地域一帯が、地上と変わりない姿になると、四年ぶりに闘気を納めた荒ぶる古き神は荒野へ腰を降ろす。この地には元々半精神体である魔物しか居らず、地上の様に植物なども無い為、魔物が居なければ全くの不毛の地なのだ。


『如何に恨みや呪い、「人の負の概念」から生じたとは言え、こうも歯応えがないとは。七柱居るという「魔王」とやらを相手にするか』


 溜息混じりに巨神がぼやいていると、頭上のどこまでも空虚な赤黒い上空に、何か変化を感じた。

 パリーン、と硝子が割れる様な音を立て、彼方の空の一部が欠けた。その奥には陽の光が見える。


『ふん? 何か入り込んで来おったな』


 凝らす巨神の目には、一部空の背景に溶け込む様な黒い魔力の塊と、とても小さな、時折光りを放つ物体が落ちてくるのが映ったのであった。 


ちと短いです。

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