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第十四話 戸惑いの予感

[えっと、じゃぁお前さん…アルタミラさんは、実際は三百歳超えてて、ずっと石碑に【悪魔】を封じて込めてたって事? ですか?]

「そうよ。……アタシだって、目覚めたらいきなり「闇の民」がおどろおどろしい儀式なんかやってて、「伝説の大魔女様が目覚めたー!」とか、「三百年ぶりの目覚めは如何ですかな」とかかしづかれて、はぁ? って周りを見たら……あぁ! もう思い出したくもない!」


 心底嫌な物見たとばかりに目を瞑り、頭を左右しながら、己れの身体を抱き撫で擦る魔女っ子。

 こうして見ると、その辺にいる単なる幼い子供の様だ。


[ならその話の裏付けが欲しいな、どうにも説得力に欠ける。せめて身元はハッキリさせたい]

「アタシの出生記録なんてモノが未だあるならだけど……そうね、【魔女】の「登録碑紋」ならあると思う。嘘だと思うなら「聖都」で「アルタミラ=タイクーン」を調べれば判るハズ……て、遠いか。うーん」


 頭を捻りどうやって身の潔白を証明するか、を悩む【魔女】アルタミラの四方山よもやま話を聞いている内に、


(「タイクーン」!? ですって?! た、大変!)


 取り出した自分の情報端末ボードを途中から一心不乱に読み漁り、見る見る顔色が変わってきたリベイラが、深い溜息を吐くと、恐る恐るアルタミラへ話し出す。


「確かに。文献がございました。先程は誠に失礼致しました。知らぬ事とは言え……」

「へ? もう解ったの? ……別に良いから。アタシ成人する前にこうなったから、「人生経験」なんて貴方達より知らないもの。ところでソレなに? え? 今そんな便利な物あるの?! 見せて見せて!」

「ええ、どうぞ。ココをこうやって……そうです。貴女の事もココに…」

「へー! アタシが寝てる間、こんなの出来たのね! 年月って残酷だわー!」


 半分ひったくる様にリベイラから端末を受け取ると、興味津々に情報を漁るアルタミラ。

 その様子を鑑みていると、俺は唐突に後悔の念が浮かんできた。

 えぇ? マジですか。ソレはなんか…マズい、俺大概悪い事したみたい……だってそれがホントなら


『この内容に寄ると、タイクーン家というのは、代々高名な神聖魔法学者の家系の様ですね。歴代「聖都」の最高指導者スーペリュールチューダーを最も多く輩出してる。とあります』

 幼女AIレイがしたり顔で何か呟いているが、俺はそんな事どうでも良かった。ただ、


[いや、なんと云うか…ホントにゴメン、すみませんでした]

「だからもう良いって」

[いいや。なんていうかその、身を呈してそんなに長い間【悪魔】を封じていたなんて、その、…頭が上がらないや]


 単純かもしれないが、俺は自分に出来ない事を他人がして見せた時、素直に認める所がある。

 それが善意に基づくモノで有れば猶更だ。何故なら俺は身も知らない他人の為に無償で働く程、善性に溢れた人間ではないから。少なくとも自分でそう思っている。

 流されまくった人生で、終いには遥か未来(?)に飛ばされ、其れでも俺は自分の都合の良い様に生きている。


 ……でも……ソレで良いのかな……

(スタイ、アナタ……)


「アルタミラ様……私も同じ思いです。先刻までの浅はかで粗暴な振舞いを、どうかお許しください」

「べ、別に良いってば。アタシは自分の尻拭いをしてただけだし、ソレに余り時間がないの!」

「ソレは……どういう事でしょうか」

「いい? アタシがこうして肉体を持って顕現出来るのは限られてるの」


 アルタミラの独白が再び始まった。


 ソレは己の、魔導への探究心故に巻き起こしてしまった事故。

 【魔】を崇拝する【闇の民】から如何にそそのかされたとは言え、人が扱える神聖魔法、その総本山である「聖都」で、有っては為らぬ、邪悪の権化である【魔】の顕現。

 その悪辣たる気配は嘗てない未曾有の危機を予感させ、アルタミラは辛くも暗躍した【闇の民】の裏を画き、身命を賭して【悪魔】を封印する鍵となった。


「当該者の責任よ」


 と自嘲する【魔女】は、何処か寂しげで遠い記憶を思い返している様であった。


 【魔女】は未だ幼さの残る左手を、上空へ向かって伸ばし、星空の中心に浮かんでいる暗い月を指差す。


「今宵は新月。【魔】に類するモノに取って一番忌々しい夜」

「明日の朝日が昇る前に、アタシは石碑に戻らなきゃならないの。この身に宿した【悪魔】と共に」

「でも、それじゃもう長い時間耐えられない……。限界が近いの。……【悪魔】は召喚された時に自らを「【地獄の公爵】ダンタリオン」と名乗った。「名持ち」で、格付けさえ豪語する【悪魔】なんて「神話」にしか記載がないわ」


 グっと身を屈め、座った俺達に視線を合わせる様に顔を向けて魔女は続ける。


「目覚めた時、本当に辛かった。自分が何の為にココまでしたのか、まるで無駄だったとばかりの光景を見せられた」

「アタシはもう、あんな事二度とさせないし、赦さない。元凶である【悪魔】を完全に滅したいの」

「だから協力して。アンタ達の使う「力」は魔法じゃない。でも明かな効力を持ってる。【魔女】を屈服させる程のね。なら【悪魔】に十分対抗出来るわ。いえ、アタシが視たトコ、魔法を操る者には「天敵」とさえなる筈……どう? ダメ?」


 必死に訴えるその表情は勿論、無断でスキャンしたバイタルモニターでも嘘を言ってる様な感じはない。

 ソコはもう疑って無いのだが……俺は決心しもう隠す事はせず、アルタミラに自分の事を話した。


「《星渡り》?! あぁ……そう云う事だったのね……道理でか……アタシが知らない術なワケだわ」


 落胆しつつも、その瞳には力強い意志が感じられる。何かブツブツと暫く思案するアルタミラ。


《「星渡り人」て、機械人の伝説じゃなかったの?》

(【魔女】に限らず、魔導を極めようとする人達は、大体が知識欲の塊だって聞くわ。名にし負う「タイクーン家」きっての天才児だったらしいし、況してや「聖都」の歴史重要文献に残る程の「神童」だもの、私達の伝承を知ってても不思議じゃない)


 俺達が夫婦で様子を伺っていると、不意にアルタミラが俺達の方へ振り返った。


「アタシがすぐ覚えられる類の術じゃないのは解った。だったらお願い、【悪魔】を退治して。アンタ達なら其れが出来る」

[どうすれば良い? 【悪魔】を呼び出すのかい?]

「ううん。もう少ししたら陽が昇るから、アタシが良いって言ったら「石碑」を壊して。アレが【悪魔】の依り代であり封印石だから。ソレで【悪魔】は否応なしに出て来るしかなくなる」

「でも、其れではアルタミラ様が戻る場所が無いのでは?」

「心配しないで。貴方達が【悪魔】を倒してくれれば、アタシはそのまま顕現出来る。ソレに「様」とか敬語は要らない、呼び捨てで構わない」


 俺は魔女を観察しながら、一瞬だが沈んだ表情をしたのを見逃さなかった。

 真っ直ぐ見つめて提案する。


[じゃ、「ミラ」って仇名で呼んで良いかな? 呼びやすいし]

「…へぇ……良いよ! ソレで」


 何となくだが、「ミラ」が嘘を付いてる気がした。

 其れも俺達にではなく、「ミラ」に取り不利な何かで。

 だから俺は、敢て気がついてない振りをしてこの場は流した(・・・)


 俺達はもう一度歩哨兵に取次ぎ、夜明けと共に【悪魔】退治をする旨を伝えた。


 ソレにしても、データだけで判断するのは危うい時もあるのだ。と自戒した。

 今回俺は最初から「ミラ」を十中八九【悪魔】だと決めつけていた。

 若しくは意識ごと乗っ取られ、虚言を吐き捲る、只の傀儡だろう、位に思っていたのだ。

 AIレイでさえ、見分けがつかなかった。その事実はちゃんと認めよう。


 俺はもう、自分の見立てが間違っていない事を何の疑いも持って無かった。

 最後に見せた「ミラ」の表情と嘘(?)が俺へ確信を持たせた。


 と、今の内にメディ君に繋いで我が子と対面しとかないと。

 兵員達の慌ただしい動きを邪魔しない様にと拠点へ戻り、リンクし引き延ばされた精神世界で、俺は妻と一緒に家族の時間を共有した。

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