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第十話 村-3

 大好きだったお爺ちゃん、家族、幼馴染、村の皆。

 あんなに大好きだったのに、任務にかまけてもう三年近くも帰郷しなかった事が悔やんでも悔やみきれない。

 かけがえのない人達とその思い出。ソレを蹂躙し踏みにじった奴らは……何をどうしても

(絶対に、絶対に赦さない! 私は、【魔】の存在を否定する!)


 リース中尉は今、万感の思いを込めて一歩を踏み出す。


 この部隊の橋頭堡きょうとうほであり、移動拠点である一際大きな獣車から、魔導の紫光を帯びた重々しい物体が顔を出した。

 

 ――重鎧魔導騎士マジック・アーマー・ナイト――。

 既存の兵装であるこの全身甲冑フルプレートメイルは、今やSTAのデータフィードバックを存分に活かされ、最早其れまでの魔導鎧とは別物となっている。

 元々体長5m以上の大型魔獣などが討伐対象の、過酷な任務を遂行する為に生み出された重鎧である。

 大型魔獣の直接攻撃にすら十二分に耐え得る、その圧倒的な防御力は勿論の事、同じく魔導の力で制御される一撃は、STA登場以前は間違いなく単騎での人類最強の破壊力を持っていた。

 そのシルエットは一見、鎧の上に鎧を重ねたかの様な、まるで鋼の鞠の如き姿である。

 よく見ると、漸く人型に見える本体から、張り出し気味の肩部外側に、前後に四つの縦長の可動楯リアクティブアーマーが浮いている。

 その接続基部は、背中から胸部に掛けて張り付いたスライドする可動軸で、必要に応じて背部側に移動出来る為、鋼鉄のクローク兼マントの様だ。



 リース中尉は、獣車のラックから専用の大型剣を取り出し、鎧の背中に背負わせると、更にもう一つ専用のランスを持ち出した。

 大木が切り倒された時の様な音と地響きに振り返ると、さっきのウッドゴーレムが地面に倒れ込んでいた。

 操っている魔族の男は、沢山の枝葉を纏う樹手に庇われた様だが、落下した衝撃で顔面でも打ったか、鼻と口から血を流して喚いている。

 魔族の男が空中に向かって喚いているその先には、人型になった「あの人」が浮いていた。

 自分の身体の倍はあろう石碑を、まるでハリボテの如く片手で軽々と跳ね上げている。

 

 魔導強化された鉄仮面の内側で目を凝らし、ソコまで見て取ると、リーズ中尉は軽く助走を付け、思いっきりジャンプすると、ランスを振りかぶってフン! と投擲した!




「お! お前?! ソレを返せ!」

[ハハハ! いや、スマン。余りにも見事に転んだのがおっかしくて、つい笑ってしまった]

「そんな事どうでもいい! さっさとよこせ!」


 えらい焦ってんな。そんなにコレが大事なのか?


[そんなにコレ、大事なのか。どうすっかなぁ~]


 俺は意外な程慌てるソイツに見せつける様に、偽小神殿石碑をお手玉してみせる。


「ば?! 馬鹿! そんなに軽々しく扱うな! 落として割れたらどうする!? 大体なんなんだお前は!?」

[俺はスタイ。この人達に]


 あ、中尉が


 ドン! と鋭く重い一撃が、樹腕を伸ばし立ち上がり掛けたウッドゴーレムを正確に射貫き、大地に縫い付けた。


「ぐぁぁぁあああ!」


 空気を切り裂き、音速を突き抜けた長鎗の破壊力は決して細くは無く、ゴーレムを叩き伏せ、多重障壁を容易くブチ破った衝撃波でイブスを吹っ飛ばした。


 うん、芯の通った怒りの一撃だ。やるなリース中尉。


 射貫かれ縫い付けれらたウッドゴーレムは、術者であるイブスが放り出された為か動かなくなった。

 着地した重鎧姿のリース中尉が、地面をめり込ませ、次の瞬間には爆発的に地を抉り加速した。

 あっと言う間に、ゴーレムから投げ出され這いつくばるイブスに追いつき、その手で抗う奴の左腕を掴み、肘ごと握り潰すリース。


「ぎゃぁぁぁあああ!」


 悲鳴を挙げ、握り千切られた己の腕を抑えながらのた打ち回るイブス。

 それまで呆然と事態を見守っていた軍人達の中で、ソロムコ隊長が、ハッ! と弾かれた様に駆け寄っていく。


「お前だけは! お前が父を母を! 村の皆を! お爺ちゃんを!」


 怒りの重鎧魔導騎士(リース中尉)は、砕き千切ったイブスの腕を更に捩じり切り、その場に投げ捨てると、のたうつイブスに、重く歩みより更に膝を一気に踏み砕く。

 

「ガ……!」


 あまりの激痛の為か最早悲鳴すら上げられず、食いしばった口から血を滲ませるイブス。


「殺すなリース中尉! ソイツには未だ、聞かねばならん事がある! 堪えろ!」


 流石に部隊長に任命される男だ、冷静な判断だ。確かにそうだが……

 軍人達も中には四、五人がソロムコを追う様に駆け寄って来る。他の者達は武器を降ろし事態を見守っている。

 誰もがその表情には深い同情の念が浮かんでいた。


「コイツ、だ・け・は!」


 絶対に赦すか! そう気迫で物語るリース中尉には、ソレでも逡巡し苦悩する様子が見て取れる。

 奔り込んできたソロムコは、ワナワナと肩を震わせつつも、取り敢えず動きを止めた中尉に少し安心したのか、


「ソレで良い。今は堪えるんだ……よく耐えた」


 と声を掛け、痛みに身動き出来ないイブスに歩み寄る。 

 無言のまま、動かなくなった傍のウッドゴーレムを殴りつける中尉。

 粉々に吹っ飛ぶ元大樹が、大小の木片となってバラ撒かれ、宙に舞う。


「リース……」


 巻き起こる木っ端を物ともせず、正面から歩み寄ったリベイラが、思わず中尉を鎧ごと抱きしめ様としたその時だった。


『マスター、出ましたよ』


 幼女なレイが囁く。あぁ、俺もセンサーで感知した。


【そんなにコイツの事殺したい?】

【でも簡単に殺しちゃ、殺し足りないでしょ?】


 鎧を纏ったリースのすぐ後ろに、小柄な女の子の姿をした禍々しいモノが現れた。

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