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第九話 村-2

 「フハハハ! 蛆虫共め! 踏み潰してヤル!」

 

 現れたウッドゴーレムの頭に、さっきのイブスが乗っている。

 廃墟を文字通り踏み潰しながら、俺達の居る広場に迫る。


 こんな奴、どうとでもなるんだが。

 俺は今回の任務を振り返る。



 ――先日、俺達〔明けの星風〕メンバーは、人類軍の軍人達とチーム分けされ、ある任務に任命された。

 その内容は、多発する「各小村・小神殿消失事件」の解明である。


 ここ最近、普段村々を訪ね渡り歩く、交易商人の隊商キャラバンなどが行方不明になる事件が相次いだ。

 場合に寄っては、国に取っても重要な物理供給を断絶される一大事に、各騎士団、国軍所属部隊などが少人数の選抜隊を編成。調査に赴かせた所、そのほぼ全てが還って来なかった。

 尚、無論冒険者ギルドへも調査依頼がなされたが、殆ど受ける者はいなかったと言う。

 ある一団のリーダーはその調査規模を見て最初から受ける素振りも無くした。

 またある者は他の同業者と手を組んだが、現地に出発した後は軒並み居なくなった。


 唯一、帝都ラゴアへ帰還を果たしたのはたった一人の騎士だった。

 装備もボロボロになっており、見るも無残な満身創痍のその騎士は、「村が【魔】に飲み込まれた」と声を振り絞った後、突然様子がおかしくなり、「異形のモノと化して」その場で結界に焼かれ消滅した。

 無論その場は大騒ぎとなり、当日中には帝都中の民が知る事となった。

 帝都には最早ありとあらゆる著名人が召喚されている事もあり、この一連の不可解な事件は即座に各国へ向け打診された。


 コレを受けて各国は異常事態宣言を発布、各々の国内に即刻本格調査を命じた。

 緊急性の高い任務の為、各国は其々の精鋭を速やかに組織し、遂行する様達したのである。

 角云う俺達〔明けの星風〕も、今は偶々帝都を拠点としている為に、広大なイストニア帝国領を中心とし展開する潜入調査部隊に、各2名ずつ計四組が組み込まれた。


 実質帝国領を網羅しているのは、メインの大街道が四本なので丁度良い。

 無論それでも国全体をカバーするのは不可能であるが、最低でも「大天使」以上が複数宿る「神殿」を有する、比較的大きな「街」は強力無比な結界がある為か、今の所被害は皆無となっている。

 今問題になっているのは「小神殿」と呼ばれる、祠が中心の村々なのだ。


 配属としては「第一部隊」であるグスマン&レジーナ編入部隊が些か不安ではある。

 (元)〔明けの星風〕の中でもこの二人だけは(・・・・・)、「生身の」人のままなのだ。


 ま、それが当たり前なんだけど。


 何か合ったら即知らせる様、AIレイに頼んでバイタルモニターを作って貰って渡してある。

 グスマンは対巨人戦でも人間離れした活躍をした様だし、まぁ何とかなるだろう。


 俺とリベイラは、志願してきたリース中尉と共に「第二部隊」へ編入された。

 恐らく行先のコースを知って、居ても立っても居られなかったのだろう。


 「第三部隊」編入のアビゲイル&グラバイドのペアが寧ろ一番安心出来そうだ。下手撃たなければ。


 残る「第四部隊」がダスティンとローニャの若手夫婦だ。コレもダスティンが居るし、余程の事が無ければ大丈夫だろう。

 ローニャは色々あった様だが、ダスティンと共に過去を克服し、今は円満な家庭を築いている。

 何が有ったかは知らないが、ちゃんと乗り越えた様で良かった。


 其々の子ども達は、帝都大神殿近くの託児所に預けてある。

 無論我が子も「至言の理(オベリスク)」で初めて身体を得た、メディ君に頼んで面倒を見て貰っている。

 その姿は中と小の球体。コロコロと転がる二体が並ぶと本当に兄弟の様だ。

 まだ下の子は、自我が無いから、ピープー機械音な会話しか出来ないけど。

 なんて言ってるかはメディ君にしか解らない。今のところ。

 リンクした精神世界では、ハイハイする我が子を抱えあげると、アウアウしか言わないので未だ意味はないんだろうな。

 子育ては大変だけど、やっぱり可愛いものだ。この上なくね。


 ただ、折角皆其々が家庭を持ったのに、何だか不憫だな。

 と、この任命を受けた際久しぶりに揃ったメンバーに話した所、


「自分達の為にやってるだけだ。大体それならスタイのトコも一緒じゃねぇか」


 とグラバイドに一笑に伏された。

 そうだよな。余計なお世話だったか。と皆で笑い合う。


 因みにSTAは、各五機ともテストを十全に終え、データをフィードバック、其々「〇〇改」後継機(シリーズ)として量産体制に入った。

 今は人類軍貴下、軍人達の完熟訓練用機体として、日夜台地を走り空を飛んでいる。

 流石に武器発砲訓練は模擬弾のみだが。

 何しろ広範囲の土地や山など粉砕しては、修復するのが俺しか居ない為、神々が作りたもうた大自然をむやみに壊したりすると、苛烈な試練が襲い掛かるという「天罰」が怖いのである。


 まぁ、当然ちゃ当然だ! んなデタラメな事、する方がおかしい。


 俺も謹慎処分中の際、独房に出現した「山の精霊」からさめざめと泣かれたので、仕方なく「直した」のが始まりだったんだけどね。

 自然の摂理を破壊しちゃイカンよな。うん。――

 



「アナタ、敵が来るわよ、しゃんとして!」

[はーい]


 俺を抱えていたリベイラがその手を離す。

 まぁ、俺の思考速度(演算処理速度?)は戦闘に入る際に、必要な時に(・・・・・)レイに拠って馬鹿々々しい程加速されるので、さっきから未だ1秒も経っていないんだけど。


 イブスのウッドゴーレムは、途中から上が折れているとは云え、元がとても大きな大樹の為、軽く5mは超えている。

 無論関節なんてどこにも無いのに、その曲がりくねった枝葉や幹を器用にしならせて、根を千切り歩んでくる。


 予想はしていた展開の為、人類軍の部隊は既に迎撃体制を整えていた。

 ただ、リース中尉は更に薄くなった祖父の魂との邂逅が名残惜しくてたまらないらしく、動こうとしない。

 この第二潜入調査部隊を率いるソロムコ部隊長が鋭く声を放つ。 


「中尉?! 任務を忘れたか! 敵が来る! 顔を上げろ!」


 ピクっと反応はしたが、展開した部隊の真ん中で、リース中尉はうずくまり、遂に消えゆく祖父の魂に何事かを呟いた。


「大変! あの、動けないのかしら?」

[いや……、大丈夫だ。彼女はちゃんと解ってるさ]

 

 末期の水替わりの別れの言葉だ、察してやろう。

 それに俺には聞こえた。お爺ちゃんの魂を救うと。

 それが具体的にどういう事なのかは判らないが、多分「仇を取る」という意味なんだろう。

 元々オッサンな俺に取っては、未だ少女な一面も持つ彼女を不憫に思う。


 俺に喧嘩を吹っかけて来た後、無事テストパイロットに戻れた要因に俺の助言があったのかは、実際分らないが、独房に居る俺を訪ねて来て、床に頭を擦り付け、直謝ひたあやまりすると、一変物凄く感謝してきたのだ。

 その後の嘆願書の件も聞いている。


 ちゃんとした良いじゃないか。

 そのリース中尉の大切な身内の弔いなら、無論助力は惜しまない。

 出来ればこうなる前に、救ってあげたかった。

 

「ダメか! そのまま伏せてろ! 総員構え! 撃てー!」


 ソロムコの号令に軍人部隊が手にした小銃と、比較的口径の大きな直筒の、連装式ロケットランチャーの砲火を一斉に浴びせる。

 その間、やっとリアクションを興し、リース中尉が地面に這いつくばってこちらに匍匐前進してくるのが見えた。



 ソレに気づいたリベイラが彼女(リース中尉)に向かって手を伸ばし、バリアを貼る。

 勿論そんな芸当は過去の妻は持たなかった。俺は家族を守る為、妻に承諾を得てリベイラ本人を「強化」したのだ。

 多分、今の愛妻リベイラは俺を除いたら、この星の人類最強なんじゃないかな。メディ君のバックアップが在ればこそだけど。

 これが俺の「最愛の人を守る」答えだ。俺自身だけじゃなく、本人にも何者にも屈しない程強くなって貰う。だって……まぁ今はいい。



 包囲する逆扇の猛火に晒されたイブス=ウッドゴーレムは、その全身を削られ、如何にも前進を阻まれたかの如く、一瞬の硬直の後、僅かに振り向いて後退する。 

 ただ、ロケット弾の着弾する派手な爆発の割には舞い散る木片も大した量では無く、頭上のイブスを守るべく、分厚い樹の手が小銃の狙撃を防いでいる。


 物理防御の多重結界か、邪魔だな。

 大体ロケット弾つっても、純粋な火薬、炸薬弾じゃないからなぁ……。


 砲弾や弾丸がウッドゴーレムに着弾する直前に、波紋の様な痕が幾重にも重なり、阻まれている。

 この惑星の独特な技術体系――魔力を介する特徴的な不可視の防御膜――が多重展開しているのが目視で確認できる。


 アレじゃ単に火力が足りない。

 同じ技術体系の魔力補正射出に頼ってる限りは。

 強いて言うなら、弾頭にでも何かちょっと工夫しないと、簡単には破れなさそうだぞ。


《んん? アイツの目的はアレか》


 俺は奴が手を伸ばそうとしている、偽の小神殿石碑が何やら黒い闇の様な波動を放つのを感知した。


『フワァ~フ! 未だチマチマやってたんですかぁマスター、アレ? ん~、ちょっとマズイかもですねぇ』


 ポンっと、例の幼女がグリッドの片隅に現れる。


《起きたかレイ。マズイって何が?》


 別に寝てなんかいないくせに。が、敢て相棒の小芝居にのって俺は訊く。


『こっちの石碑に宿る「天使」の光子放射量を、そろそろあっちの石碑の出力光子量が上回ってきますよ』

《え、ソレはどういう》

(どうしたの? 何か悪い事?)


 リベイラが会話に入って来る。

 メディ君と離れてる今、レイに直接バックアップして貰う様、戦闘中は俺がそう仕向けたのだ。

 リース中尉は既に味方の射線上から逃れ、奥の移動拠点の獣車に走って行った。


『いえね? 最初から内包する許容量が違ってるというか、このままじゃウチの「天使」さん、パワーを吸われて干からびちゃうかもって事です』


《よく判らん。あの黒い闇の波動が作用して、「天使」の力を対消滅させるって事じゃないのか?》


『マスター……、合ってるのは「対消滅」て言葉だけですねぇ。そもそも「光子」には対となる反粒子がありません。超対称性粒子「闇の粒子(フォティーノ)」が存在して「光子」と喰い合うってワケじゃないんですよぅ』

《じゃ、じゃあなんで宇宙には「暗いところ」があるんだよ?! ダークマターだって!》

『「ダークマター」は単に真空中の、「光子に満たされて無い部分」ってだけの空間なんですよぅ。私がソコから抽出しているのは、直接ソコにある物質であり、空間そのモノを歪めて変換する際に生成される物質を搾取したり、次元断層から変異させられた物質を取り込んでるだけなんですぅ。ホントに何もない空間なんてこの宇宙に存在しませんよ?』

《えぇ? もう何がなんだか解らない》

(貴方達が何を言ってるのか解らないわ。それよりちゃんと……)


 ああ、判っているよハニー。

 でも何か引っかかる。何だろう……つまり「光」は……

 メンドクサくなってふと周囲を見回すと、


《アレ? なんか周りが止まってる!? あ、そうか! 今、相棒レイが俺の思考(速度)を加速させてるから》

 どうりでリベイラからも、ピタッと声が止んだハズだ。

 皆と一緒に固まっている。……凛々しい君もまた美しい。


『マスター、惚気過ぎ。ヤル気あるんスか』


 へいへい。



 ウッドゴーレムは丁度しゃがんで「偽小神殿石碑」に今手を掛けた所だ。イブスのニヤケ面が見える。

 奴からアレを奪ってみるか。

《レイ、俺がこの思考速度と同じ様に動けるのは無理?》

『う~ん、それはヤメといた方がイイと思いますよ? 大惨事になりますって。周りが』


 OH……


《仕方ない、正面から力づくで奪うか》

『手伝いま~す』


 楽しそうな表情かおをして幼女がパチンと指を鳴らす。

 白目を向いてラリッた顔がちょっと怖い。そんな小芝居要らないっての。


『限定時空確率改変実行開始……成功』

『マスター、そのまま局所タイムワープします』

《え》

 

 ストンと、目の前に石碑が現れた。石だけに。

 いや違った、俺が移動したのだ。

 振り向くと、今まさにイブス=ウッドゴーレムが俺越しに、石碑に手を掛けようと(・・・・・・・)していた。


[おっと!]


 チョイっと、俺は転がってソフトに偽石碑を球体の身体で押し出し、イブス=ウッドゴーレムの挙動先から回避させた。

 まぁ圧された石碑が土台から外れ、地べたの土をモリモリと押しのけ、逆に俺の尻の方では小さな山が出来たのはご愛敬。

 頭上の中空をスカるウッドゴーレムの腕。

 

「ハっ?! な、なな、なんだこの球は?!」


 タダでさえ目を血走らせていたのが、より飛び出さんばかりに目を見開いて驚いた様子のイブス。


 ーー失敬な。ただの球じゃないぞぉ!ーー


 敵に向かって放たれる銃弾と炸裂する爆発の流れ弾の嵐の中、悠々自適に、余裕綽々と変形し、軽々と石碑を抱え上げ、飛びずさる俺。


「! 撃ちかたヤメー! 味方に当たっとる!」


 ソロムコ部隊長がこめかみに青筋を立てて部隊を制す。

 

 うん? 大丈夫よ? 何ともないし。ま、五月蠅かったから丁度いいや。

 



[ぃよぅ! お前さん、コレが欲しかったんだろ?]


 まんまと出し抜き、ドヤ顔で石碑をお手玉する俺を、信じられないと云った表情のマヌケ面。

 イブス=ウッドゴーレムは腕を伸ばして宙を空振りし、何故か何もない足元に引っかかり、その巨体ごと派手な重低音を轟かせ転んだ。


『アハハハハ! 見事にスッ転びましたね! あのマヌケな顔! 大体完全限定とはいえ、局所的に時空を捻じ曲げたんですよ? 整合性を保とうとした時空間が未だ歪んでて……プフフ。そこにただ無策で突っ込むからあんなマヌケな……アハハハ!』


 おかしくてたまらない。といった様子の幼女がグリッド一杯に転げまわって笑う。

 AIコイツ、こんなキャラだっけ? 

 と思いながらも激しく同意した俺は、空中で身を捩り笑ってしまった。

光子の超対称性粒子に関しては、あくまで現代物理学の見地から展開します。

何せ作者の頭の悪さでは理解出来ませんので><;

ご都合展開です。

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