アップデート
オロム達の話によると、ドワーフ親方の場所までココから歩いて二時間位との事だ。
丁度良い、この世界の情報をもっと蓄えておこう。
当然俺の事も聞かれるだろうが、どうせ今の自分の事も詳しくは知らないのだ。
解る範囲内で答え、今後の身の振りの判断材料にしよう。
――自分の故郷は遥か遠く、仲間とはハグレてしまった。
何かがあったのだが思い出せない。
今は故郷に戻るべく旅をしている――
と打ち明ける(嘘は言ってない)と、途端にしんみりとなった五人のノーム達は其々、時に塊りとなって話し出す。
オロム達トト族一行は、部族の成果である、採掘&採集した様々な物を「モノ作りの業師」ドワーフ族のデイフェロ親方に預けに行く所との事。
デイフェロ親方は「モノ作りの業師」の称号の中でも、元々「武器の造物主、極」という最上級の「格」を持っていたそうだ。
あと、メディ君が特に興味を示した「魔法」なるモノを俺が代弁して聞いたりした。
話を聞いている途中から、相棒のメディ君は何ヤラ増設とか、同期とか、何かと身体の中で忙しくやっていた様だ。
ポテポテポテポテポテ、コロコロコロロロ、
歩く道すがら、道中そんな遣り取りをしていると重そうな扉が見えて来た。
どうやら着いた様である。
まぁこっちは、中の様子までメディ君の解析で大体知ってんだけど。
「着いたー」
「親方ー!トト族のオロムです。入りますよぉ!」
ドンドンドン!
とやけに大きな音を立て扉をノックする。
[奥はそんなに広いのか?]
それとも中からしか開かないのか、あまりにも騒ぎ立てるので、知らない体でふと声を掛ける。
さっと顔を逸らし、コナとロナは何故か気まずそうな顔をして答えなかった。
スロンが軽い口を開く。
「いやぁ、親方ってぇ、ドワーフの中でも変わってるていうか、この前来た時……」
流石にオロムのがなり声に気付いたのか、スロンの言葉を遮るようにガコン! と音がして、ズズズ、と扉が両開きに開いていく。
開け放たれていく中から、野太い声が轟いた。
「おおぅ! 来たか! 今開ける! 入れ!」
奥は確かに間取りなどメディ君の解析通りではあったが、実際の視覚状況では印象が少し異なり、雑然とした生活空間と言うより、まるで工房の様な有様だった。
頑丈そうな幾つかの卓に同様の椅子、溶鉱炉の様なものに、中に水を貼ってある石造りのバスタブの様なもの。
他にも大小様々な、どれもそれ迄の俺には余り馴染みの無いモノばかりで埋め尽くされていた。
少し離れた所には簡素な仕切りの向こうにベッドや釜などが見える。
ここで生活しているのだろうか?
丁度正面の壁際に設えた大仰な腰掛に、どっかりと腰を降ろしている親父が居た。
うむ、間違いなくドワーフだ。
身長は150cm位だろうか。
と見込みを思い浮かべたら、グリッドに147.8cmと表示された。
因みに体重は100kg近くある。
体形はまんまボン、ボン、ボン、でキュッとするクビレ部分がない。
てオイオイ、どんだけメタボなんだよ。
つーか、おっさんの体形とかどうでも良いっつーの!
それでもドワーフ親方の見た目はというと……。
どっしりとした筋骨隆々な体格、豊かな頭髪からそのまま顔の輪郭と口元を顎まで覆うフサフサの茶髭、額は狭く、太い眉の下の目線はあくまで力強い。
あと、首が(見え)無い。
顔を覆う頭髪から続いた顎鬚が広がり鎖骨に届く様は、まるでライオンの鬣みたいだ。
脚も同様に太いが短めで、存在感を主張するかの如く、身体全体に横と前後の厚みがある。
骨太でソレその物が密度も濃く、如何にも頑丈そうな体躯といい、いかり肩で二の腕がかなり太く、先の拳も指を含めて大きめに見える特徴といい、大まかな体型は似てはいるが凡そ俺の知る地球人類とは全くの別種である、とは一目見て感じた。
かと言って、何処か憎めない愛嬌の良さを感じるのは、その我儘ボディに嘗ての自分との類似性を見出したからなのか。
「豆戦車」とは正にこの人物の事だった。
「親方! 今日は素材と、ちょっと紹介したい人(?)が居る」
オロムに片手で差されて、おずおずと俺は親方と呼ばれた人物の前に転がり出る、と
「あん? なんだぁ? 弟子にでもなりたい奴か?…て、玉ァ?」
言い終わるやいなや、ギラりと親方の目が一瞬光った様な気がした。
暑いのか上半身裸の親方はつい、と立ち上がると此方に歩み寄り唐突に片眉を釣り上げて、ギョッとした表情を浮かべる。
「ほぅ! コイツぁ……ちょっとまて…見事な丸さだな! こんな完璧な玉ぁ、見た事ねぇゾ!」
いきなり俺の球体ボディを抱え上げ、その武骨な手で表面を測る様な手つきで撫でまわす。
「オイ、こりゃぁ……誰が作った!? まさかガベロの奴が作ったとか言わんよな! ……極意遺物……いや、神聖遺物か!?」
さも興味津々に、更に俺を撫で廻す親方。興奮を隠せない様子。
顔を寄せじっくり見ようと近づきすぎた鬣の様な髭がゾワゾワ(する様な気が)する!
まるで抱き着かんばかりに、フンフンと鼻を鳴らす様とも相まって暑苦しさを感じ、溜らず俺は声をあげた。
[ちょっと!……あの! 撫でるのヤメてくれませんか! あと近い!]
おっ! と声を挙げ、頑丈そうな近くの卓に俺を置くと、意外な言葉をデイフェロ親方が口にした。
「あぁん?! おぅ?! …オマエさん、もしかして機械人か?」
オロム達は揃って小首を傾け、頭の上に? を浮かべた様な顔をしている。
「ま、確かにこんなナリした奴は、機械人しか居らんわな、いやスマンスマン!」
グハハ、と苦笑いしつつポリポリと顎を掻く親方を余所に俺は驚いた。
な! んだと!?
[他に! 私の様な者が居……仲、間、を知っているのか?]
もしかして俺と同様に、過去から飛ばされた奴が居るのか?!
ひょっとして同郷の人(?)か?!
と色めき立つも、親方の次の発言で見当違いかも、と俺は気付く。
「おぅ! 昔、若え頃な。見た事があるぜ!」
若い頃か……結構前の話だろうな……
まぁそんな……都合の好い話は早々ないか。
それでも話を聞く価値はある。如何にも気さくそうな親方に俺は気を取り直して名乗った。
[そ! そうか、……申し遅れた。私はマスターライトと云う。スタイと呼んでくれて構わない]
「ほぅ……〔光の主〕か、大物そうじゃねぇか! 俺はデイフェロってモンだ。見ての通りドワーフよ」
いや、えっとすいません、名前は厨二病を患った元おっさんの悪ふざけなの、本当ゴメン。
[その、初対面で頼みもなんだが……良かったら、他の……仲間、の事を聞かせてくれないだろうか?]
是非会ってみたい。
もし同様のテクノロジー持つ者同士なら、コンタクトを取れれば少しは現状をより理解する糧になるかもしれない。
「あぁ、良いぜ……丁度こっちも一息入れてた所だ。久しぶりに賑やかになりそうだしな。おぅ、オメェ等、飯は頼むぜ!」
親方がトト族へ振り向くと、あいよー! とソロンがポンと腹を叩いて元気よく返事をした。
トト族達が荷物を解いて工房内や竈付近で色々と施す側ら、俺はディフェロ親方と話をした。
親方が「機械人」と呼ぶ種族(?)の事は勿論、世界の情勢の事を。
其れはトト族達の話よりも突っ込んだ内容ではあった。
親方の語る、機械人の話を聞くと、どうやら全く違う人種(?)の様だった……。
何より「機械人」とは、この星の人類誕生から発生した、この「惑星原産」の種族らしい。
ハァ……と肩透かしを喰らった俺は、気を取り直す。
単に自分の都合の好い様に勝手に舞い上がっただけの話である。
それにこの惑星に機械人なる存在を生み出すだけの科学力があると言うなら、其れはそれで話は早い。
切り替えていこう。
余談だが、デイフェロ親方の今の称号は「剣の造主天」であり、他の武器制作の「極み」は弟子で在った人達に譲っているのとの事であった。
ただ、この世界には他にも種族に係わらず、各々そういった称号を持つ者が居るとの事である。
更に言うなら、『天』の称号とは『極』の名を以てしても相応では無い、と称賛された唯一の旗頭の様なモノで、歴代でもデイフェロ親方のみに認可された『銘』らしい。
当人曰く「極みに到達して初めて解る、果ての無い修行の扉をくぐる、みたいなモンだな」との事。
そう宣う親方に俺は大層驚き、
[ほぅ、それは凄い!真に極みを体得した者ならではの至極の決意、尚もその向上心が素晴らしい!]
と相槌を打つと、親方は別に称賛には慣れてるのか片手をプラプラと振る。
も、不意に顔を逸らした親方の表情にニヤリと笑みが浮かんだのが見て取ると、まんざらでも無さそうだと感じた俺は、図々しくお願いしてみる。
[そうだ、親方。一つお願いがあるのだが。ココの鉱石を少し分けて貰っても良いだろうか?]
「おぅ、自分で掘る分は別に良いぜ。ただ、お前さんヤレんのか?」
怪訝な顔を向ける親方に向かって俺は得意気に言い放つ。
[雑作もない]
徐に俺は、未だ採掘されていない奥の岩肌の前にコロリン、と移動する。
[今度は爆発(?)させない様に……]
ピクッ! とオロムが反応したが心配ない、俺は加減の出来る男だ。
「待て!、壊すなよ!?」
《メディ君、準備はOK?》
『マスター、準備完了です』
[躯体変形!]
俺の真ん丸ボディがパーツラインを若干光らせ、カシュン!と展開した。
――身体の真ん中から縦横斜めに複雑に外装がスライドし分割。
左右両側上部やや斜め後方向きに展開したパーツが盛り上がり両肩を形成、その根元から先へ両腕が生えていく……出現した拳を開き、力強く握る。
身体の下三分の一が後方と前方へ其々大小スライドし、背部には前上部から同じくスライドしたパーツと合体してスラスターポッドを、前方には外装が割れた事で迫り出してきた淡く光るコアを保護する様にパーツが重なっていき胸部になる。
同時にパーツが展開したボディの、下から五分の三位から内側が剥き出しになり、後部より滑り出して来た外装が一部横から挟みこみ、くびれ状の胴体に。
同様にスライドしたパーツの中から現れたユニットが腰部となり、外装の一部で在った折り畳まれた両足が伸びて、外側に其々少し膨らみ、厚みのある力強いシルエットでしっかりと着地する。
序でに申し訳程度に小っちゃな頭部がモノアイみたいな目を光らせ、盛り上がる両肩に挟まれる様にピョコンと起き上がって収まっていた。
そのシルエットは最早完全な人型である――。
俺、見!参!
「な! ななな!」
「「スッゲー!」カッケー!」
ポカーンとするロナ、コナ。
飛び上がってはしゃぐスロン&ソロンは言わずもがな。
果てはオロム迄若干興奮している様だ。
「ど! どうなってんだ!? こりゃあ、元の玉とは全く別モンじゃねーか!」
掴みかからんばかりに手を伸ばし、思いっきり顔を近づけてくる親方。
吐く息が匂いそう。
フフフ、素とは違うのだよ。素とは。
って、親方。アンタが一番鼻息荒いのはどうよ。
『マスター、提案通り固定脚では無く、格闘可能な四肢として各部を強化しました』
《うむ! 上出来だ。実に良い仕事だ! これからも頼むよ》
『了解です。マスター、今回はアップデートですが、資源が入り次第アップグレードは随時行えます』
イヒヒヒ。もう脳汁がとまりません。
オロム達トト族から聞いた魔法なるモノにメディ君が反応し、しきりにUPDATEがどうとか騒いでたので、序でに俺から提案していたのだ(笑)
一しきり自己満足に浸ると、出来たばかりの手足を使って丁寧に資源となる鉱石を取り出す。
俺は(俺自身に)雑な男では無い(男になる)のだ。