表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/100

第六話 日誌

――アルペンスト軍事要塞――


 人類軍イストニア帝国アルペンスト正規軍第3大隊15中隊所属、バルトロ=ケラー大尉の私的日誌より



「今日も甲高い音が頭上を飛び交う。新型兵器「STA」テスト機体五機が順次ロールアウトしたのだ。空は最早我等の知らぬ戦場では無い。各機体の大まかな仕様は以下の通りである。


 高速機動型STA「ブルジン」

 五機の中では一番軽く、機動力に優れ、短距離の速度と旋回性能は他を圧倒する。制空権は極めて広く、汎用型であり他の機体より比較的軽装だが、リミッター解除後の出力強弱の最もピーキーな機体であり、最大出力時にはその一撃は軽く「山」をも粉砕する。


 重火力戦型STA「バイフォーン」

 砲撃戦仕様の重STA。五機の中では唯一内臓武装を持つ。専用携帯兵装を併せると最大8個の個別武器を装備可能である。空中、地上、海中問わず殲滅戦に最も真価を発揮する。フル装備時は、巨大な砲塔を肩や背中、両腕にも装着する。脚は他の機体同様二本脚だがかなり大きく、魔力変換トルクが最も太いのも相俟って、安定した高火力運用を常時可能にした機体。


 支援特化型STA「キュピネー」

 魔素変換支援特化型。「ブルジン」と同じく汎用型。五機の中では三番目に重い機体だが機動力にも優れ、最も安定したバランスを保つ。最大の特徴は、他各機体の魔素変換循環を促し、通常上げ過ぎた過分な余剰出力を抑え、且つ限界出力時の長期安定稼働を、戦場でリアルタイムに実現させる事にある。

 蝶の様な特徴的な形状のパワ-コンバータを装備する。


 高加速突撃型STA「ライテール」

 五機の中で唯一、高加速巡航形態に自立変形可能な機体。戦略・戦術偵察&専用武装装着時には突撃仕様となる。最高加速で長距離から一気に敵陣に切り込み、爆撃又は攪乱の後、素早く離脱する一点突破型。機体名称の由来となった「尻尾」を持つ、伝説の竜人の様な形態。


 機動大楯装備型STA「ベスクード」

 最も重く、その専用兵装は大小併せて12個の楯を装備する、防御特化型。戦場展開時には広範囲に渡り霊力式力場で専用楯を浮遊させ重複合防御障壁を貼る。その強度は嘗てない程強力。また力場楯を展開時にも自由に動く事が出来、二の腕には別の武装も持てる。まるで超巨大なゴーレム、歩く岩山の様な姿。


 現在人類が用意できる最強の兵団である。古代史実から基づく大戦争時代にもこの様な「兵器」は存在しなかった筈である。「新しき神々・神族」様達により「天啓」に促されたとはいえ、何故今になってこうまで強大な力を持つ事が我々に許されたのか、実に興味深い。


 さて、あの事件(的場山粉砕消失事件)から早四週間が経つ。張本人のスタイ殿は三日間の停職処分の後、無事にテストパイロットに復帰した。人的被害が一切なく、資源の一欠片も無いボタ山の一つや二つ今更無くなった所で「帝国の、否人類軍の基盤は揺るがない」との陛下の一言で片付いてしまった。恐るべき強運の持ち主だ。本来ならアレ程の大惨事を巻き起こしたのだから(傭兵預かりとはいえ)軍属資格剥奪も十分に有り得たのに。まぁ、あんな事(・・・・)が興れば致し方の無い事であるが。――今はソレには触れたくない。


 元々リース中尉の件もあり、中尉本人もスタイ殿の復帰を嘆願し、我が第15中隊としても彼の処遇については吝かでは無い。

 何せあの〔明けの星風〕のメンバーであり、そのメンツ誰もが一目置くという、噂の「規格外のナイスガイ(ナイスガイは自称)」である。

 尚、彼(スタイ殿)の復帰嘆願書には〔明けの星風〕メンバー、及びその関係者から、中にはあのデイフェロ殿率いる「マイスター特務団」の銘が連なったのは言うまでもない。

 また、彼スタイ殿については諸説諸々の噂があり、そのどれもが凡そ一般的には首を傾げる所業がある。


 1、ツーリーンカ大森林地帯に、海まで貫く大空洞(新道)を生成した。

 これについては本人の証言のみだが、同〔明けの星風〕のメンバーはさもありなんと評す。また、コレは兼ねてより帝国貴下の騎士団が現地に赴き、報告した件とも符合する。「海岸線から数kmに渡って森の奥まで続いている。どこまでも真っ直ぐにだ。あんなキレイに、すっぱり削れた怪木なんて今まで聞いた事すらない」と騎士団員が発見当時の事を語った言葉が印象的だった。何やらその「新道」には魔獣すら近寄らないのだ。とも。

 今更言わずもがな。であるが、ツーリーンカ大森林は近年「神々の天啓」が降るまで、誰も足を踏み入れる事の無かった未踏の地である。

 何故なら、その大森林地帯に自生する巨木(俗に怪木と呼ばれる)群はとても硬く、例え一本の若木であっても通常の鉄や鋼を用いた用具では先ず歯が立たない。其れまでは加工するにも骨の折れる代物だったのである。過去の大戦争でも魔族すらその進軍を回避した。との記述がある位なのだ。

 スタイ殿の話では、ソレをいとも簡単にへし折って?! 出現し、自らに暴行を加えた魔獣、(そんな魔獣が存在した事自体が恐ろしいが)を撃退するのに勢い余って(・・・・・)やってしまった。との事だが、ソレが事実なら新型兵装など造ってる場合では無い。一度技術部に進言してみようと思う。

 尚、現在ではもたらされた「天啓」に由り、この巨木達は途轍もなく頑丈な柵や城壁の大黒柱として、果ては戦艦などの竜骨にも加工される程の多様性を見せる事に為るとは誰も思い知らなかった事ではある。が、スタイ殿のソレは「天啓」以前の事であり、益々以て不可解である。やはり彼には一肌も二肌も脱いで貰わなくては。


 2、【悪魔】を圧倒し、物理攻撃で倒した。

 〔明けの星風〕メンバーほぼ全員が口を揃えて証言している。称号名高いグスマン殿やその奥方レジーナ殿は勿論、当時【妖魔】に魅了され(パニックを避け、妖魔に気づかれない様に伏せられていたが)戦時下に合った「トラム」司教、イセリア元市長(現スペリオル大神殿大司教)も支持している。

 しかも、魔法を呼吸するが如く操る悪魔、が放つ呪詛を事も無げに「無力化」し、見た事も聞いた事も無い魔法を駆使した挙句(?)、最後には一太刀で寸断した。という。

 これはもう前代未聞である。確かにあの伝説的マイスター、デイフェロ極師に寄って創られた見事な大剣には目を見張るばかりだが、其れでも如何に機械人とは言え「人間」が「神霊力」も持たずに悪魔を撃滅した。事など史実には残っていない。

 (後日談だが、デイフェロ極師はその事実をスタイ殿本人から感謝された際、「馬鹿()くでねぇ! ありゃ(大剣)、単に物理特化した代物シロモンだ! ソレを……悪魔なんて……物理耐性の権化みたいな奴だぞ?! しかもブッた斬っただぁ?? 有り得ねぇぞ!」と目を丸くした。と云うか、呆れていた。何故知っているかと言えば、丁度その現場を私自身、遠目で見ていた為だ。)

 やっぱり技術部に、否いっその事「神々に」相談した方が良いのでは。大隊長に進言して神殿の神官方の助力を請おうと思う。


 3、「圧殺・怒涛の機人」を一蹴、且つ弟子入りした。

 コレは正確にはSランク保持者(元Sランク冒険者)「圧殺・怒涛の機人」マノン=アーセナル氏(現機械都市群国家国会議員)の愛娘を娶り婿入りした。との報告の方が正しい。

 が、実際には人類に於いて、歴代最強との噂も名高い、かの有名なマノン氏との「本気」の死闘を完全に制した上で勝利し(しかも辛勝では無い、という(マノン氏談話))たにも拘らず、即座にスタイ殿本人から弟子入りを懇願したとの事。情に厚く義父を立てたのか解らないが、その模様は愛娘リベイラ殿(現〔明けの星風〕リーダー)とスタイ殿の結婚式でマノン氏自らが披露したと言う。

 (マノン氏は同会場にて、武勇名高い自らの負けを認めたその潔さと、懐の深さを再評価され招かれた客人満場から拍手喝采を受けた。らしい)

 ただ、この時マノン氏は、その嘗てを知る「機械都市群国家メルキゼデク国議会議長ハーベイ=レムナント」氏から、「現役の頃より強くなったんじゃないか?」と称されていた事が興味深い。技のキレは勿論の事、マノン氏の身体能力が各段に上がってる様に感じたとの事。

 

 蛇足した。他にもスタイ殿に関しては「謎の敵対勢力を撃退した」、「(現)〔明けの星風〕メンバーを超絶パワーアップさせた」、「原初の神々から指名され直接「天啓」を受けた」等々全く訳の分からない噂もあるが、ソレについては確認のしようがない。直接聞くのも無粋だし、ソレが本当なら最早何も云う事は無い。

 「神々に指名される」なんて畏れ多い事だ。しかも選りによって「原初の神々」とは。歴史上アリエナイ。……放っておいた方が良いか。



 またかなり蛇足した様だ。スタイ殿の事はもうほっとこう。



 ソレにしても新型兵装のSTA部隊である。今も頭上を飛び交っている。

 その様は天駈ける甲冑の騎士。いや甲虫の騎士だろうか。特異な形態だがその巨体は苦も無く空を駆け巡り、容易に山を砕く。無論この場合の「山」とは他国との協定によりどこにも属さない、ツーリーンカ大森林付近の尾根を指している。スタイ殿(また彼の名が出てしまった)の持つ「賢者」は隠れた資源を悉く見抜くのだ。当然何も利用価値がない、生物や人気の一切ない山岳地帯のどこを爆撃して良いのか即座に暴くらしい。また恐ろしい事に、(史実に由れば)嘗てそんな事をすれば一早く「天使」が駆け付け、我々人類に苛烈な試練を与えてきたのだが、今は「そんな試練」は無い。

 何故ならスタイ殿有する「賢者」が、一日掛けて爆砕した土地を「ほぼ完全な状態に戻す」からである!


 ……なんてデタラメな奴、基、人なんだろうか。もう何でも有りだ。我等人類はもう魔族との戦争など彼に任せてしまえば良いのではないか? とさえ思えてくる。

 実は彼の三日間の停職処分は、仮処分でスタイ殿が出所した後、彼が「公約通りに」土地を元に戻した(・・・・・・・・)為にそれで済んだのであった。コレは驚天動地だった。

 

 本当は前述の噂などどこ吹く風で、現実を少し忘れようと普段書きもしないこんな日誌を付けた。今思い返しても摩訶不思議である。もう本当に彼に押し付けてしまえば良いんじゃないか……否、私は誇り高き帝国軍人! グスマン殿も言っていたではないか! 「他人が何を成したかではない、自分が何を成すかだ」と。私は……」



「大尉、そんな所で寝てると身体痛くなりますよ?」

「Zzz……」

「あぁ~あ、涎たらしちゃって。珍しく朝から隊舎に来て、皆にハッパ掛けたと思ったら、日誌書いてたんですか……」


 本日の試験訓練を終え、テスト機から降りてきたリース中尉が隊舎に戻り、机に突っ伏するケラー大尉を見つけた。背中から声を掛けると、気持ち良さそうに寝ているケラー大尉は、ホンの僅かに身じろぐとまた寝息を立ててしまった。


「全く、日誌見られても仕方ないですからね?」


 乗せていた頭がズレて露わになった日誌を、ちらっと盗み見みすると、にこやかな笑顔を浮かべ、何事も無かった様にソッと表紙を閉じるリース中尉であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ