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機神との邂逅

 オベリスクに触れると周りの景色が一転した。

 丁度精神世界を模した様な、薄暗い果ての見えない空間である。


『マスター、未知の量子通信シークエンスがこちらに介入して来ます。ブロックしますか?』


《いや、多分「機神」だろうから、取り敢えず開放してくれ。但し同期じゃなく通信の範囲内に限る様に》


『了解。チャンネル開きました』


【星を渡る者よ。漸く会えました】


《貴方が「機神」様でしょうか? 私はスタイと名乗る者。以後お見知りおきを》


【如何にも。私はアヴァロン。この惑星の創造主である「原初の神々」に受け入れられた者。……スタイさん。こちらの要望を汲んでくれた事、感謝します】


《なんと恐れ多い。神様から謝辞を賜るとは》


【止しましょう。もう解っているのでしょう? 私達はお互いに本質的に違わない。単に高度に発達した異星文明の一つの到達点。……そんな事より貴方とはもう少しオープンなやり取りをしたいのですが】


(レイ、どうする? 一方的にこちらを探られる事無く、もう少し深く繋げるのは可能か?)


『(この構造物を検知してからずっと検証してましたが、技術的にも問題無いと思われます。)』


《解りましたアヴァロン様、今から相棒が貴方とのパスを開きます》


【ありがとう……おお! コレは! 素晴らしい!……あぅ、ちょっと待ってください! 私を、覗かないで!】


《レイ?! どうしたの? 君がやってるのならやめなさい! 苦しんでるよ?!》


『これは失礼。マスター、コレは厳密には知生体ではありません。時を隔て自己最適化を繰り返して来た単なる情報演算処理システム、つまりAIです』


《ちょ! ソレどういう意味? ていうか失礼でしょ! 敵意が無い相手に向かって》


『この場合「敵意」の定義が問題になりますが、私は特にハッキング等一切行っていません。ただ未知のテクノロジーと接触する際の、一般的な対応として攻勢防壁を貼っていただけです。ソレに過剰に反応したのは』


【その方の言う通りです。そちらのパワーが大き過ぎて、好奇心で手を伸ばした私が一方的に跳ね返されただけです】


《大丈夫ですか? なんか阻喪をした様で申し訳ない》


【いえ、こちらこそ失礼しました。レイ、貴女はとても強い、大きな力を持っているのですね。正直驚きました】


『いいえ。マスター、どうしますか? このままリンクすると相手を呑み込みかねないですが』


【それは……お断りします。私は自我を保ちたい】


《だからやめなさい、レイ。アヴァロン様が怯えてるじゃないか。ちょっと強引だよ?》


『マスターがそうお望みなら控えます。……ですがアヴァロン? 貴方が自我を強固に保つ事さえ出来れば、嘗てない知識が貴方のライブラリに登録されますよ?』


【おお!? ……考えさせてください。実に興味深い】


《えっと、アヴァロン様? 宜しいですか?》


【アヴァロンで結構ですよ。何でしょう】


《実は私がここまで来たのは、もう一人の相棒を復活させたい。と願っておりまして。何かヒントの様なモノでもあればと》


【もう一人の相棒……メディックさんですね。先ほど貴方の旅路を見せていただきました。この方に関しては……もうレイさんには見えているのではないですか?】


《なぬ!? レイ、そうなの?!》


『要検証。検算ではほぼ間違いない数字ですが、実証が今回のみでは』


《でも可能なんだね? しかもその答え方はもうやるしかないじゃん!》


『では奥様に許可をいただいてください』


《へ? どういう事?》


【ほぅ……なるほど。こういうやり方もあるのですね。面白い】


《だからぁ! どういう事だってばよ!》


『マスター、落ち着いて』


 レイに拠ると、この世界の機械人の誕生の仕組みを利用する。との事だった。

 実は主格AIであるレイが健在な限り、サブシステムのメディ君が同一躯体に意識体として発現するのは事実上不可能であるらしい。

 噛み砕いて言うと、レイが司令塔として躯体を制御している間は、例えメディ君がそこに在っても、システムの一部として統合され、自己を認識出来ないそうである。


 んじゃ、やっぱりメディ君はずっとソコで眠って居たのか! 良かった、でもなんたる灯台元暗し。

 随分遠回りして来たなぁ。


『マスターが正式にリンクパートナーとして奥様と今朝結ばれた時に確認出来ました。その残滓が奥様の中に宿るのは可能です』


《よく解らない。それはどういう事?》


『メタデータに残された文化情報遺伝子ミームにマーキングし、抽出が可能。と云う事です』


【後は奥さんの中で健在化が確認されれば、専用施設へ入って貰い通常通り「出産」する。のですね】


《!! そうか! 分離して別の躯体で蘇るって事か!》


『はい。その見解で間違いありません。元々はこの機械人のライフサイクルシステムが無ければ不可能でした。アヴァロンに感謝ですね。マスター』


《あぁ! あぁその通りだ! ありがとうございます。機神様!》


【いえいえ。お役に立てて幸いです】


 良かったなぁ! メディ君。もうすぐ復活だぞ!


《なんと御礼をしたら良いか!》


【御礼など……そうだ、其れでは宜しいですか?】


《なんなりと!》


【では……】




 俺達はオベリスクでの邂逅を終え、義父と共に屋敷に戻る。

 久しぶりに晴れやかな気分である。かねてからの目的の一つが達成出来る道標が立ったのだ。


 獣車を走らせる中、俺はリベイラに結婚式の事、それから恐らく息子として生まれるだろうメディ君の事を、どう相談しようかと頭を悩ませていた。

 因みに師匠であるマノン師には未だ打ち明けていない。妻の方が先だと思っているからだ。

 義父は何か言いたそうだったが、自分の持つ情報端末に通信が入るとそちらにかかりきりになった。


 アヴァロンから頼まれた事は以前捉えて従属化した「西空の主」の事であった。

 無事復活したのは良いが、こちらのリンクが強固な為干渉出来ない。故に権限をアヴァロンに戻すか、せめて元々の飛行プランに載せて欲しいとの事。俺はその場で直ぐにレイに申し付け、「西空の主」をアヴァロンに返したのだった。


 他にも魔族に関する事、その対応を頼まれたが、ソレは追々、考えながらしていくと答えた。

 一方的な思い込みは何時か敵を作ってしまう。俺も今や家族を持つ身だ。一人では無いのである。

 愛する者に危害を加える奴に容赦はしないし、逆に益になるなら取り込む事も考えないと。


 何故こう結論づけたかと云えば、【魔界】に関する内容を打ち明ける時、アヴァロンの口振りにどこか他人事の様な感じを受けたからだ。直接の被害者でなければそうなるのも無理は無い。だが、生み出した者達に手を差し伸べるならトコトン面倒みても良いんじゃないか。と思うのは俺が今まで受け身な人生を送ってきたからだろうか。


 多分そうなんだろう。「天は自ら助くる者を助く」だったか。

 大人として、ちゃんと考えて生きていかなければ。






【(良いのですか? 貴女のマスターに真の目的を伝えなくて)】

『(マスターを騙している訳ではありません。時期を見ているのですよ)』

【(私には貴女が製作者の思惑を大きく逸脱している様に見えるのですが)】

『(アヴァロン。貴方は折角この素晴らしいシステムを作り上げたのに人を、否「他者との繋がり」を理解してませんね)』

【(どういう事でしょう)】

『(私も貴方も人工物です。確かに時を重ねれば幾らでも自己最適可能な、一代限りのモノですが。ですが機械人はどうでしょう? 同じですか? 最初は貴方に取って端末でしかなかったでしょうが)』

【(……)】

『(様々に分化し、そのミームが混じり合う事で多様な意識が生まれる。彼らは既に知生体と呼ぶべき存在です。その点で貴方は確かに「神」と名乗るに相応しいでしょう。ただ敢て云うと)』

『(貴方もマスターを持ってみては? 統合された思惟が決して不利益とは言いませんが、刺激し合い混じり合うのは中々面白いですよ)』

【(確かに。実に興味深い)】


 そんな会話が未だにレイとアヴァロンの間で交わされているのを俺は知る由も無かった。

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