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オベリスクへ

 ――翌朝――


 夕べは結局、姉妹は遅くまで話し込み、俺は自分宛のメールを明け方読む事になった。

 そんな訳で嫁との初同期ファーストリンクは……ちゃんと結ばれました!

 厳かに、粛々と、神聖に、蜜の如く甘美で‥‥と に か く! 最高でした!


「ね、スタイ……」

[なんだいハニー?]

「スタイって……思ったよりソフトなのね。それとも……私に気を遣ったの?」

[!?……!は、ハニー? これからずっと一緒なんだよ? 最愛の人との最初は厳粛にありたい。と思ったのさ。そりゃコレからどんな趣向でもお望みなら…ね]

「フフフ、優しいのね。ありがとうスタイ……私、貴方が夫で良かった」

[俺もさ]


 ほっ。一瞬「淡泊なのね」って言われたのかと思ったゼ。

 ……もっと妄想イマジネーションを鍛えないと。


 精神世界での心地よい疲労感で軽くまどろんでいると、通信が入る。AI(レイ)からだ。

 態々(わざわざ)「SOUND ONLY」などと小窓で語り掛けるとは、小憎らしい演出である。


『マスター、オリビアお嬢様が1分前からドアをノックしておられますよ。……因みに現在時刻は9時を回る所です』


 おっと。もうそんな時間か。確か一時間後には長老と面会しなくちゃだった筈。


「おはようございます。賢者レイ」

『おはようござます。リベイラ奥様。私の事はレイ。とお呼びください。それから、もっとざっくばらんにどうぞ』

「じゃ、おはよう。レイ」

『おはようございます奥様。それとマスター?』

[あぁ、おはようレイ。なんだい?]

『奥様とのリンクパスは既に確立しています。時間も差し迫ってますのでソロソロ準備を』


 おぅ。俺達はゴソゴソとベッドから出て身支度を整える。


「姉様~? お兄様? 父様と母様がもう支度しなさいって!」


 相変わらずノックするオリビアの声


「あぁ、ごめんなさいオリビア。今行くわ」

 

 直ぐに身支度も終え、リベイラがドアを開く。俺はボールに変形しただけ、だけど。


「おはよう…兄様? なの? きゃー!」


 途端に抱っこされる俺。


[お、おはようオリビア]

「兄さまおはよう! ね、リベイラ姉さま! 私、下まで抱っこしていいでしょ?」

「おはようオリビア。ええ、良いわよ。スタイ、大人しくしてね」

[勿論。さ、行こう!]


 俺を抱えた末妹のオリビアは、ニコニコしながらパタパタと、小走りに階段を降りる。


「慌てて転ばないようにね、オリビア」

「はーい! ね、兄さま?」

[ん? なんだい?]

「今度、姉様とのロマンスのお話、してね!」

「ろ、ろまんす~?」


「フフフ……、オリビア。そこは『お話を聞かせて』じゃないかしら。……ちゃんと、レディらしく話すのよ。そうしたらきっと、スタイも『ロマンス』を聞かせてくれるわ。」

「うん! じゃなかった……はい、リベイラお姉さま。私、ちゃんとレディらしくするわ!」

[(やっぱり、女の子なんだなぁ……どうみても、単なる幼女なんだけど)]


 随分前から(というかリベイラと初めて会ってから)だが、俺は機械人という『人種』其の物を完全に同じ『人』として認識していた。

 オリビアも見た目からリベイラや義母メローダ義妹エメラダ達同様、とても滑らかで自然な『人』の子供としての振る舞いなのである。

 それに今の会話だって、正に生前の従妹や親戚との会話と、全く何も変わらないから。


(家族かぁ……何処であっても、『人種』が違っても、やっぱり同じなんだな)


 そう、ソレはそう難しい事では無いのだ。

 特に価値観が似通っていれば尚更である。

 寧ろ、だからこそ、お互いを認め合えるというものだ。

 心の価値基準がまるで真逆であったなら……。

 互いが影響を及ぼす範囲内に居るのは、双方にとって只の苦痛でしかない。

 それは何も「人」と【魔】の関係のみとは限らない……。


 俺が内心、ふとそうモヤいていると、幼女オリビアに抱えられて上下していた視界が緩やかに治まった。

 廊下のガラス窓越しに、美しい中庭の立派な噴水がキラキラと散水の飛沫を振りまいていた。

 オリビアが扉の前で止まり、俺を抱えたまま小さな手を伸ばそうすると、微笑みながらスッとリベイラが前へ出てドアノブを開いた。


 中の食堂には朝食が用意され、母メローダと次妹エメラダがいそいそと座る所であった。

 父マノン師は既に人型モードである。


 ほぉん、なんか(偶然)リンクした時とは違うなぁ。どっちかというとヒョロイ感じだ。

 スルリとオリビアから自然に抜け出すと、俺も人型形態に変形し挨拶する。


[おはようございます]

「うむ、おはよう。婿殿ちと遅いゾ」

[はい。遅れて申し訳ありません。急いでいただきます。]

「あら、おはよう。スタイさん」

[おはようございます。]

「姉様、義兄様おはよう。昨日は姉様、遅くまで突き合わせちゃって、ゴメンなさい。」

[おはよう。あぁ、いえいえ。]


 いやまぁ、ホントに明け方近くまで待ってたし……

 別に良いけど! 今の俺って、睡眠そんなに必要じゃないしぃ!


「おはようエメラダ。今日はお休み?」

「ううん、昼からの短シフト。同僚と差し替え勤務」

「あら、そうなの。久しぶりに一緒に出掛けようと思ったけど、また今度にするわ」

「なら私明日、開いてる! 良いところ出来たのよ、パーツ&カラー・クリエイトのお店!」


 上二姉妹が意気投合してワイワイと話し出し、ボーっと何となく突っ立ったままの俺を見かねてか、師匠マノンから声が上がる。


「ホラホラお前達。急ぎなのでな、婿殿も取り敢えず席について食べなさい。あまり時間はないぞ?」

[は、はい。]

「父様母様ね、今日は遅かったの。いつもは私の事起こすのに。だから、このお料理は私が作ったの!」


 空かさずオリビアが、さも誇らしげに愛らしい笑顔を満面にして訴えた。

 フッと、さり気無く顔を横に向けるメローダと、同じく無言のマノンには俺は全力で触れず、ニヤリと笑い合うエメラダとリベイラ。



「ねー! (他のは私が作ったから安心して食べて)」

[そうなんだ! じゃ早速、いただきます!]

「へぇ~。そうだったの。えらいわオリビア。(ありがとうエメラダ)美味しそうね。私も、いただきます!」

「(ううん、私も久しぶりだし!(笑))私もいただきま……あ、結構イケてる」


「ね、さっきの……カラー・クリエイト? 普通のカラーリングのお店と違うの?」

「なんか全然違うんだって。職場のたちの噂なんだけど……姉様と一度行ってみたくって」


 姉妹たちが姦しくも、それに時折母も混じりながら優雅に朝食を取る中、俺と父マノンは猛烈にかきこみ、10分もしない内にアーセナル家の屋敷を出発した。


 獣車を降りるとソコは摩天楼が立ち並ぶビルの一角。60階建て位だろうか、中々の高層建築物である。

 外壁は黒曜石の様な黒光りの不思議な建材で造られており、表面はとても滑らかだ。色味的に熱がこもり易いのでは。と勘ぐったが、建物に近づくに連れ初めて、黒いんだ。と解った事からも、鏡面仕上げ状の外壁が可視光他を効率良く分散反射して、日光を妨げない加工を施されている様だ。

 これだけビル群に囲まれていても、周囲が殆ど暗くない所を見ると、建築法とか在るんだろうな。と俺は感心した。


 エントランスに入ると、マノンの姿を見たドアマンが直ぐ様飛んで来て案内、促されエレベータに乗る。案内の人は何やらマノンと軽く挨拶を交わし、話し込んでいる。敢てこちらには触れない様だ。


 ドアマンじゃなかったのか。ま、ホテルでも無いし議会関係者かな。


 ガラス張りの外の景色が見える。上昇するに従いグングンと周りのビル群を追い越していく。広がる現代的な街並み。と動くモノがソコかしこに。街中の中空にモノレールの様な乗り物が行き来している。

 

 ほほぅ、ビルに直接出入りしてるな。獣車が見えるとちょっと違うけど、都心だとこんな感じのトコ合った様な。

 

「我が機械都市国家メルキゼデク首都、エルドランの景色はどうだ? 壮観だろう」

[ええ、なにか懐かしい感じがします。どこか故郷の都市に似てますね]

「む? そうなのか……普通は初めて見る奴は度肝を抜かれるのだがな。「星渡り人」たる所以か」

[私には、この星の大自然の方が、何よりも驚きですよ]


 そうなのだ。初めてこの世界で意識を取り戻してから結構な距離を旅したが、この惑星は人の住んでる都市部以外は驚天動地の世界だ。なんというか自然が自由過ぎる。魔獣なる原生生物の存在もそうだが、先ず何事にもダイナミック過ぎるのである。


 地球のギアナ高地の様な場所が如何にもその辺に普通に在る。グランドキャニオンばりの高低差と広大な範囲が森で埋め尽くされているかと思えば、いきなり断崖絶壁越しに海が広がっていたり。

 成層圏まで届きそうな長大過ぎる山脈を背景に、大湿地帯に屋根を掛けた様な大地の不自然な隆起等、単純に風化や浸食では済まされない奇天烈な地形。


 植生する植物も決して大人しくは無い。一度見た中で最大のモノは元は大樹なのだと云う大地。彼方の海にポッカリ浮かぶ、奇妙な台地だな、などと感心していると、「ありゃ大昔の戦争で折れた世界樹の根元なんだぜ。上には森と街が在る」とグラバイドが饒舌に解説してくれたモノだ。


 旅の途中で聞いた話では、海の底や天空にも都市が在るそうだ。まさしくファンタジーゲームの様な世界である。


 俺とマノンの会話の途中から何かに気づいた様に、遠慮の無い視線を送る中年男性は徐に挨拶してきた。


「初めまして。エルドラン長老議会長執務秘書をしております、エルメロイ=バジールと申します。貴方がマスター=ライト様ですね」

「初めまして。スタイとお呼びください」


 別に姓と名で区切った覚えは無いのだが。と、丁度エレベータは止まり指定の階層に着く。どうやら目的のフロアまで直通であった様だ。


「こちらです。どうぞ」

「ハーベイ氏はもう?」

「はい。お待ちでございます」

「それは急がなくては」


 高級ホテルの上階の様な落ち着いた内装の通路。途中に何個もドアの並ぶ一直線の廊下を真っ直ぐ進むと、T字路の突き当りに重厚な扉が在った。

エルメロイがノックし中へ入り、俺達を促す。


「よく来た。お初にお目に掛かる。ハーベイ=レムナントだ」

[こちらこそ初めまして。マスターライトです。スタイとお呼びください]

「その顔を見ると議員、歓迎(・・)は滞りなく済んだ様だな。なによりだ」

「いやナニ、未だ若いが中々の手練れでして。正直な所、少々遅れをとりました」

「ほぅ! 「圧殺」のマノンを以てしてか。流石は「星渡り人」というか」

[いえ、私はマノン師の技を受け感嘆し、師匠と仰ぐ事を誓いました。師は素晴らしい方です]

「コレコレよさんか」

「……そうか! マノン、良い婿を持ったな」

「ハ。最早懸念はありません」


 ハーベイは一瞬考えた後すぐにカカカ。と笑うと早速本題に入る。エルメロイは何時の間にかお茶を別の女性に出させると隅のデスクに座って記録を取り始めた。


 俺達は今後の予定を話し合った。無論今までの旅路からなにやらは既にリベイラから報告されていた様で、それ以外の、俺単体の話はそこまで聞かれなかった。

 ハーベイからはそれよりもこの後オベリスクへ行き「機械神」と邂逅せよ。との天啓を全うする様促された。


「では、その後は帝都に渡る。との事で良いのかな」

[今はそうとしか、ただ邂逅でどんな事になるかは未だ解りません]

「それもそうか。……「機械神」様との事は内密にな。我等も詮索はせんよ。但し、君の動向は知らせてくれると有難い」

[それは勿論、隠すつもりはありません。父、師匠にも相談します故ご安心を]

「議長、ソロソロ時間が……」


 エルメロイがハーベイに何か耳打ちすると


「うーむ。どうも今日は立て込んでいてな。次の議会調整をしなくては為らん。……おっと議員?」

「ハイ?」

「無論婚儀には呼んでくれよ。いや、スタイ殿に言うべきかな」

「ハハハ! 確かに。婿殿どうする?」

[婚儀……もしかして結婚式ですか?! そ、そうですね! はい! 議長のお時間が在れば]

「そういう時は必ずします。で良いのだ。弟子よ」

[は、ハイ! 是非ともお招きしたいと存じます!]

「良い返事だ! 期待しておるよ」


 では。と、俺達は議長の私室を出る。

 婚儀……結婚式か……全然意識してなかったけど、当然ちゃ当然だよな。

 人生初のパワーワードを突き付けられ、色んな妄想が一気に押し寄せる。そんな俺にマノンがさも大仰に宣う。

(結婚は墓場だ。とは云わん。が、嫁には十分良い思いをさせてやれ。ま、泣かせたらタダじゃおかんが。お主なら大丈夫だろう)

 光通信でしっかり釘も刺されたが。



 俺と義父はメルキゼデク国会議事堂を兼ねたビルから地上へ出ると、近くにある1ブロック先のオベリスクへと向かう。

 街の中心となる四角推型の大きな建物に入ると、ゲートを何度か潜り抜け、縦に広大な空間へと繋がっていた。

 何処か厳粛な感じさえする、その間延びした空間の中心には、全体を淡い青色の光が発光する不思議なモニュメントがあった。大きさは縦に10m強くらいだろうか。

表面には俺には読めない、ミミズののたくった様な文字であろう羅列が刻んである。

 俺が近づくと青色の発光が規則的に明滅しだし、なんだか呼ばれている感じがする。何故かAIレイはムッツリ黙ったままだ。


 マノンに促され、俺はオベリスクの元へと歩み勘が告げるまま、その表面に触れた。

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