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幻魔

 イセリアが睨み付ける中、アルクトゥールスはニタァリ、と笑うと


【ほほぅ。オマエ、見た目に自信があるなぁ。他人と比べて】

「おや、今度はおべっかですか。気味が悪い。【魔】に塩を送る真似はしませんよ。私は」

【あざといなぁ。あざといよオマエ。俺は心の鏡だ。直ぐにオマエの醜い本性を曝け出してやろう】

「結界に阻まれておきながら、よくもそんな見え透いた嘘を」

【結界だぁ? オマエ、めでたい奴だなぁ。クケケケ……神々が本当に人類なんか本気で守る、とでも思ってるのかぁ?】

「くだらない。口先ばかりで時間稼ぎの変化へんげですか。どうせ何も出来ないでしょう? 滅して終わりです」


 幻魔は唾棄すべき、ニヤつく顔を晒しつつ様々に変化し形を変えていく。

 時折サイズまで目まぐるしく変わる。

 イセリアは、こんな小物を相手にするだけ時間の無駄、とばかりに吐き捨てる。

 一方で畳掛ける様に幻魔は饒舌になっていく。


【クカカカ! オマエには今俺が変化している様に見えるのか? 何故だろうなぁ? 俺は何もしていないゾ? 俺にはほんの少しだけ、それこそ髪の毛すら通さぬ隙間でも、あれば(・・・)、お前が知らぬ間に心の内に干渉するなど容易いゾぉ? ……んん? このガキ共はなんだぁ? オマエの子供かぁ? いやぁ、オマエが保護していると思い込んでる、見捨てられたガキ共かぁっ!】

「……!」

【今少しだけ心が動いたなぁあ?! (掛かったなぁ?!)ホレ、俺の下僕共がオマエの大切なガキ共を狙ったゾ? いつまでも、ガキ共が地獄に落ちて、その魂が真っ黒に染まるまで、永久に狙い続けるゾ? オマエが便りにしてる「神々の加護」は、オマエの大切なモノまでも永遠に守ってくれるのかぁ?】


 その口撃の直後から目まぐるしく姿を変化へんげさせていた中でも、不定形の怨念の塊の様な様相は死霊レイス。寒気を催す、まどろんだ暗黒。


(ンのバカが…。タダの勘繰りだ馬鹿女バカめ。俺は幻魔だぜぇ? 口八丁手八丁なんぞお手の物。神々の走狗(コイツ)の心に入り込み、嬲り殺して犯してヤロウ。その堕ちきった魂を喰らってヤル。……ククク……。ソレにしてもコイツは、ヌフゥ……極上のタマだ。堕ちたらさぞ香しいに違いない……アァ、タノシミダァ。グフフ…ァハハハ!)


 最早邪悪さを隠しもせず、口端の裂け切った、満面に悦楽の歓喜を浮きだたせ、幻魔は赤い目を爛々と光らせる。

 その幻魔の目に、信じられないとばかりに、驚愕と不安の入り混じった眼差しを向けてしまった大司教の心の内が暴かれる…。

 飢えた獣は、情欲に爛れ湿り腐った執念の塊となって、正に極上の獲物へと襲い掛かっていった……。


 物理的な限界の無い、内なる精神世界に囚われたイセリアを何度も惨殺し蘇らせ、その度に凌辱の有らん限りを尽くし、更に大切なモノをも目の前で何度も殺し尽す。


 精神を怨嗟の鎖で締め上げ、身動きも取れないまま悲鳴も上げられず、為す術もなく壊れていくイセリア。

 無力さを叩き込まれ、終いには精神から呪詛を吐き散し、その魂を黒く黒く染めていく……。


【ククク……カカカ、ハハハーッハハハハ! 浅はかな人間め! コイツは実に美味そうな魂だ! ……まてよ……コレをフリアエ様に献上して、幹部に付け入るのも良いか。何せ極上のタマだ! ハハハ! ハーハハハハ! 俺にも運が向いてきたな!】


 コイツはタマラン! と有頂天にはしゃぐアルクトゥールス。とそこに


「フリアエ。それがお前のボスですか、まさか七大魔王の一体とは。また随分と豪勢ですこと」


【こやっ! ななにぃ? バカな!? オマエたった今、何度も殺し尽して絶望を! 魂を! しくった? 俺が?! な、何故だ!?】


 そこには今まで幻魔アルクトゥルスが見ていた堕ちた魂とは全く違う、輝ける天使を頭上に戴いた、正しく大司教たるイセリアが居た。

 事ここに及んで、先に相対した状況から、一時も事態が動いていないのは、誰の目にも明かであった。


「何を寝ぼけた事を…。お前が勝手に一人芝居をしていただけ。間抜けなお前の様を見るのは確かに苦痛でしたけど。ええ、もうタダの痛い妄想ヤロウ……中二病? ですか? 滑稽な…あぁ汚らわしい」


 心底汚物を見る目つきで身体を抱き、パッパと叩く真似までして見せるイセリア。

 振りならば(・・・・)正に堂に入っている。


【アリエナイ! オマエを精神からボロボロにしたハズ! 大体人として自我さえ無い筈だゾ! オマエ、オマエ、何をした?!】


 全く現状が理解できず、憤慨至極のアルクトゥールスは、自らの憤怒の炎で身を焼かんばかりに奇声を挙げた。


「ハッ……結界にも入って来られないお前が、唯一可能な事は、精々幻覚を見せる程度だとは、すぐ解りましたよ。私は「神々の加護」に因って鏡を貼っただけ。私が見たのは、お前が何もない空中に向かって、一人で喘いでいた姿だけ。……哀れでしたよ、お前の悦に入る様は。己の浅知恵に溺れた、だらし無い間抜けの極み。お前の顔は本当に見るに堪えない。私が敢て放置したのは、そんなお前に絶望を突きつけてやる為です!」


【か! 鏡だとぉ? そんなモノ】

「おだまりなさい! いい加減みっともない! あぁ、でも一つだけ礼を言いましょう。ありがとうございます。お前の崇拝する、下劣なボスの名を教えてくれて!」


【き! きっさンまぁぁぁぁあああ! グッ? ギャァァァァアアアアアア!】


 突然結界が前進し、憤怒に染まったアルクトゥールスは予想も出来ず、ほぼ全身を呑まれた。

 消滅しゆく身体から少しでも逃れ様と、仰け反り自ら手首を切り捨てる。唯一呑まれなかった手首は結界の際から必死で飛び離れていく。


「あらあら自滅ですか……。まぁお前如き魔族風情には、分相応の丁度良い幕切れですね。同情の余地もない」


 イセリアは激化する一方の、レジーナ達と巨人の戦いを一瞥すると宣言する。


(巨人の魔力が膨れ上がっている。コレとは比べ物に成らないくらいに。急いで加勢に入らなければ)


「いっその事生まれなければ良かったのに。トドメを刺してあげましょう。あちらは佳境に入った様ですので」


 手首だったモノは落下して地面に着地すると直ぐ様、手の甲に幻魔の顔を浮かび上がらせる。

 その様は正に人面拳である。

 イセリアの言葉を受けてか、幻魔は一瞬ギョロリと巨人の方へ眼を向ける。


【ア! アレハイカン! フン! オマエゴトキニカマッテラレルカ!】


 人面拳に付いていた指を拡げ其々割れ、細く長い多脚に変化し、不気味なカニの様な姿になると、カサカサと全力で地を這い逃走を開始する。 


「逃がす訳が……無いでしょう!」


【ギェェェエエエ!】


 大天使の光り輝く一撃を受け、幻魔は断末魔まで未練たらしく、消滅していった。




 一方、残りのグスマン達騎士団&傭兵&魔導部隊は死力を尽くして巨人と戦っていた。

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