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巨人

 体長は優に6、7mは超えているだろう、見れば見るほど存在の濃い、太ましい巨人。

 赤茶けた体色を持ち、一見してパワータイプと判る四肢と胴体の筋肉の鎧。

 間違いなく圧倒的な力を内包しているであろう事は一目瞭然である。


 一度はその手に掛けながらも、潜んでいた魔族を「仕留めきれなかった!」

 と悔しがるレジーナを気遣うグスマンは視線を元に戻し、その大きさに思わず呟く。

 他の皆は声さえ出なかったが。


「アース…ジャイアント…なのか?」


 すると暗黒のモヤモヤから、如何にも底意地の悪そうな声が横やりを入れる。


【っっンの馬鹿が。コイツは】

「アレはティターンです! アースジャイアントとは別種の、云わば我々人類の敵対種族……」

【ケ! イキりやがって。お前ら人が】

「……ただの使い魔風情が大層な口をきく。聞いてあげますから名乗りなさい!」


【な! なんだとぉ?! ッんのゴミが! さっきから被せやがって! 「幻魔」である俺様に偉そうな口叩くんじゃねぇ! このっ! ミジンコにも劣るムシケラが!】


 人を小馬鹿にした舐め切った態度、自分の十八番を逆に覆された事に、一瞬呆気に取られた直後、逆上し喚き散らす幻魔。

 己の台詞に悉く被せ煽るイセリアの挑発に、怒り狂って姿を成した。


「……やはり名も無い使い魔ですか、仕方ありません。ハァ、……さっさと滅してあげましょう」

「(イ、イセリア様?)」

「(今は黙って見てて。あの方が冷静さを欠く訳がないもの)」


 妻である副団長に諫められるグスマンだったが、確かにその通りか、と納得し、しばし状況を見守る。


【き! 貴っ様ぁぁぁぁあああ!】


 激高し直接イセリアに突進する魔族。

 直後に神聖結界に跳ね返され、伸ばした腕を消滅させられた。

 如何にも哀れな視線を向けてみせ、溜息すら洩らすイセリア。


 【幻魔】は言葉に為らない奇声を挙げ、驚愕と憎悪の表情が、沸騰しそうな程頭に血を昇らせているのがありありと判る。


 いつの間にか神職と魔導士達がすぐ後ろに付き、結界その物の場を移動していた。

 その手腕に、流石と頷くグスマン以下騎士達&傭兵達。

 レジーナは既にイセリアの隣にて臨戦態勢である。

 ニヤリとほくそ笑むと、グスマンも楯になるべく、静かに大司教の横についた。


【!お、オマエ……フン!】


 このごに及んでようやく、のせられた事に気がついたのか、あっと言う間に消えた腕を再生すると、唐突に吠えるの辞め、努めて冷静な様子を取り繕う幻魔。


【おい。ウスノロ! いつまでボーっとしている。お前は雑魚どもを片付けろ!】


 現れたまま、まさにボーっと佇んでいた巨人は、思い出した様にグスマンに向かって踏み入ってきた。


「(不味い。俺を狙っているのか? この巨躯では……巻き込んでしまう)」


「騎士団長、構いません。この「幻魔」とやらは私一人で充分です」


【イラつかせるのだけは得意な様だ。……小童、名乗れ】


「その言葉ソックリ返しましょう。但しお前に名が有るのならですが」


【ケ! 思い上がった人間ゴミクズが。……良いだろう、相手をしてやる。この幻魔、「アルクトゥールス」様がな!】


「……太陽神教スペリオル大司教、イセリア=L=アポロネス。参ります!」




「ちぃっ…デカいの! こっちだ! 皆イセリア様から下がれ、邪魔をするな!」

「了「合点!」です!」


 鈍重ではあるが巨大なティターンは、たった四五歩またぐだけで、イセリアから全速で離れたグスマン達に追いついた。

 但し結界は計算通り双方の味方に陣取る様に配置している。

 咄嗟のグスマンの機転と魔導&神職達のファインプレイである。


 コレでほぼ体力を気にせず戦える。

 ――時間は限られているが。


 いきなり拳を叩きつけてくる巨人。

 無論大ぶりな攻撃は当然当たらず、受け止めた地面が波打つ。

 岩盤ごと叩き割るのではないか、と思わせるほどの衝撃が走る。


「(ちぃっ! これはまた、厄介な)」


 つい先ほど滅したアシッドトロルとは、体格の差のみ為らず、破壊力の面で更に桁が違っていた。

 腕脚一対四肢の、人間をほぼそのまま巨大にした姿、力の差は歴然。

 その圧倒的過ぎるパワーは、マトモに受けるのは流石に危険である。


『オマエ、おぼえてイル、ニンゲンのくせにカタイヤツ』


 加えてさっきとは明らかに違い、若干の知性すら伺わせる相手に、グスマンは内心舌を巻く。


「(覚えている? だと)アシッドトロルから進化したのか! 喋れるとは!」


 大ぶりの拳の嵐を躱しつつ怒鳴り返すグスマン。

 その暴風圧で身体ごと飛ばされそうになる。


『アレはノロイ。ワレはモトニもどったダケのコト』


 横から鋭くホーミングして来るマジックミサイル!

 数十発が纏めて直撃し、ティターンの巨躯を霞みが一瞬覆い晴れる。


「効いてない!」

「見ろ! 体表に…魔法陣が!」

「ありゃあ……魔法は通らねぇな」

「オイ! 砲撃は物理とエンチャントメインでいけ!」

「属性だけの魔法は通らねぇぞ! 石っコロ…岩石を魔法で打ち込め!」

「「了解!」」


 海千山千の傭兵達も然るモノ、瞬時に戦況を理解し戦術を組み立て指示し合う。

 矢継ぎ早に呪文を詠唱しだす魔導士達。

 その横では神職達が各々天使を呼び出している。

 と、足元の地面を引っ繰り返し、その巨大な両手の圧倒的な力で固め、高密度の岩塊と化した塊を大きく振りかぶって投げつけた巨人の攻撃が、騎士達に迫る!


 躱しきれないと判断したグスマンは大楯を地面に打ち込み、正面から受けきった!

 砕け散る岩塊……。


 レジーナが息を呑み、注視した味方から上がる悲鳴。

 土煙の収まる中……、


――大丈夫だ。なんともない。――


 グっと親指を挙げ応えて見せるグスマン。


「「な!?」」

「「うぉぉぉおお!」」

「す…、スんゲェ!」


 その一歩も引かない騎士団長に、味方から歓声が上がる。

 魔法で強化されているとは云え、些か人間離れした行為である。


「あぁ! また!」


 巨人は脚のとまったグスマンに更に追撃しようとする。

 が、直後に魔導士達の岩石攻撃が雨の様に巨人に降り注ぎ、その行く手を阻む。


『グゥゥ』


「(魔導部隊か……いいタイミングだ)」


 グスマンは必死の形相で詠唱する魔導士達を内心称賛し、その怒涛の岩石雨に一瞬安堵した。


「ハ?!……だ、団長を囲め! お助けするんだ!」


 味方の援護とはいえ、局地的な天変地異には騎士達をも鼻白むが、すぐさま団長を囲む様に守備態勢に入る。

 グスマンは流石に痺れて直ぐには動けなかったが、両脇を固めた騎士達に即座に両腕を抱えられて結界内に戻る。

 回復していく体力に安堵を洩らすと、一呼吸ごとに気力が漲ってくる。

 詠唱を続ける魔導士達を背景に、矢継ぎ早に騎士や傭兵達が団長の下へ駆け寄って来る。


「団長殿! 我らもお頼りください!」

「アンタホントに人間かっ?! マジかよ!」

「さっすが旦那、スンゲェ団長だぜ! けどよぉ!」

「偶には俺等にも任せて欲しいぜ! とっ!」


 三人の傭兵達が、獣車に走り寄り、中から最早バリスタと呼ぶべき巨大な大弓を持ち出した!


「ちょっ? おわ!?」


 魔法支援結界圏内で身体強化されているとはいえ、様子を見ていた職人たちがただただ驚くしかないのも無理はない。


「おらよっと!」

「ぐぬぬぬ……んが!」


 傭兵達はそれを各々地面に設置し、その器に相応しいポールウェポンの様な長大な矢を軽々と装着すると、同じく強化された魔法の力で、人力では凡そ考えられないほどの、その強力な弦を限界まで弾ききり、ロックした。

 神職に目配せすると、即理解したのか天使による加護、「祝福」をその強力無比な投擲武器に施す。


「「「!」」」


 ほぼ同時に他の傭兵達は三人の挙動を理解し、隙を作るべく牽制を仕掛ける為四方に散開し、其々果敢に攻撃を開始する。


「オラオラオラ!」

「このデカブツ! こっちを向きな!」

「(頼むぜ、皆。)」

「(ヤロウの足を、)」

「(ちょっとだけ止めてくれ…)」


 岩石雨のみならず、四方からの猛攻撃に、傭兵達の気合を感じ取ったのか、さしもの巨人も両腕をクロスさせつつ、用心深く投擲や長得物で刺してくる傭兵達を睨み付け、注意が其方に移った。


「(今だ! やれ!)」

「(ぃよっしゃぁぁあ!)」


 狙いを絞り、同時に三連射!

 通常の弓矢とは明らかに一線を画す、矢としては異常な質量を持つポールウェポン弾が、恐るべき速度で飛ぶ!


 降り注ぐ岩石攻撃の中、落下物を物ともせずエンチャントされた長大な弾が、大気と岩石雨を切り裂いていく。

 頭部を狙った攻撃と察知したのか、ブロックしようとした巨人の両腕に三つの穴を穿ち、矢はそこで叩き落とされた!

 目に見えて判るほど大きな穴は、巨人の片方の腕をほぼ千切り落とすかと思う位のダメージに見える。


「「「おぉ!」」」

「(やるじゃないか。確かに実力はAランクオーバーの奴らだ)」


 グスマンは内心ほくそ笑む。


「(頼ってイイ。と言ったろうが)」


 記憶の中の戦友ともが笑っている。

 頭頂部のキラメキと共に。

 だが、


「なんだとぉ?! クソッたれ!」

「ちくしょうめ! アレで射貫けねぇのか?!」

「ちっ、洒落にならんぜ……」


 本来ならブロックした腕ごと頭部を貫く自信があったのだろう、口惜しそうに呟き嘆いた傭兵達に


「顔を上げろ! 見ろ! 初めて奴の身体に穴を空けた! やれるゾ皆、諦めるな!」


 グスマンが腹の底から声を挙げる。


「へ……まぁ、旦那が言うなら」


「そうだ! 我らも負けておれん! 騎士たる証、今見せようぞ!」

「「おぅ!」」


 その勢いに地面へ視線を落としかけた傭兵達は、再び巨人を睨み付け、益々色めき立つ近衛騎士達と共に不敵に口角を挙げていく。

 味方を鼓舞し、窮地を救う、そのグスマンの在り様を垣間見て、巨人ティターンは何かを感じ取った様である。

 巨大な目が爛々と意志の炎を灯しだす。


『――オマエ、なかなかオモしロい。ワレの獲物だ。……神々にはやらん』

「ほざけ! この、痴れ者が!」


 真っ先にグスマンを救出した騎士が激高し、弾丸の如く飛び出す。

 鋭く切り込む若い騎士。

 岩石攻撃の収まってきた巨人は、事も無げに刺突突進してくる騎士を、正確・・にベクトルを反転、叩き返した!

 弾かれたその騎士は結界の中に吹き飛ばされ、一目で人体の限界を超えたと判る程の重症を負った直後に、見る見る回復されていく。

 結果的に見れば、強運の持ち主である。

 或いはもしかすると――


 巨人が穴の開いた双方の腕を空中に差し出すと、まるで大気から養分を取り込む様に、即座に再生された。


 ――さっきまでと何かが違う。――


 グスマンはティターンの目に確かな意志の光が宿るのを見て取ると、ゾクッと背中に冷たいモノを感じ、こいつは厄介な事になった。ともう一度気合を込め直した。

 いや、元々手を抜いて戦える相手では無いのだ。


 そっとレジーナが傍に寄添い立つ。

 夫が何をするのか分かっているのだ。

 うむ。と頷くグスマン。

 ずいと皆の前に立ち大楯を構える。


「トラム騎士団団長、グスマン=マコーウェル」

「同じく副長、レジーナ=マコーウェル」

『名など無い。我はただの「国津神ティーターン」よ!』

「「参る!!」」


 結界内から天使に後押しされ、爆発的な加速で突進していくグスマン。

 レジーナが空中に瞬間移動の様に現れては消え、分身さながら切り込んでいく。


「団長に続けぇぇええ!」

「「「うぉぉぉおおおお!」」」


 弾かれた様に騎士、傭兵、魔導部隊の順に攻勢に突入していく。前進する結界。

 今初めて巨人との、真の戦いの火蓋がきって落とされた!

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