舅しゅうとバトル
腰を屈めた瞬間、ダッ! と、一気に間合いを詰めマノンに足払い。
間髪入れずそのまま連続して上段回し蹴り、中段、下段へ挟み蹴りを叩きこむ。イメージは飛燕連脚だ。
加速されたその十二連撃全てをマニピュレータで捌こうとしたマノンの両手が軋み、ガードは弾かれ跳ね上げられウィウィと鈍い駆動系のモーター音(?)と関節可動部に高負荷が掛かった匂いがする。
「ちぃ!(フレームごとイカレたか!ならば)」
ガコン! マノンの四角柱ボディ両脇から新たな一対の義手が飛び出てドリル状に鋭く回転しながら怒涛の連続突きが襲い掛かる。
俺は後ろにスウェーしつつ、高速で突いて来る義手を上から手刀で叩き付ける。
ボキン! と折れるマノンの義手。折れた瞬間、素早く後退し距離を取ったマノンは破損した義手をパージ。直ぐ様さっきより一回り太い、新たな義手を出すと銃口の様な先端をこちらに向ける。
「!」
ドドドドド! 小型の機関砲を乱射し更に足の間の小さなドーム状ユニットからも機関銃をぶっ放す!
かなりの集弾率だ。本気で殺す気か。ま、当たっても無傷なのは解ってるんだが、俺は中空を縦横無尽に三次元回避。
弾丸は固体弾ではなくプラズマパルス状のエネルギー弾だ。マノンのジェネレータ(?)は思ったよりタフらしい。
間断無く続く掃射を躯体前面に展開したバリアで弾きながらダッシュ!
その俺を見て取るや、背中側から何かをパージし上方へ6体の飛翔物を発射したマノン。
誘導弾か?否、滞空したのは小型砲台。ソレからレーザーじみた光線が次々に発射される。
ファ〇ネルかよ!。収束帯域がやはりの精度で、回避した直下の床に浅い溝が削られていく。
上下左右前後六方から自在に発射されるオールレンジ攻撃!
浮遊する小型砲台が引切り無しに位置を変える。俺はフッと右へ飛び、左へ後ろへ前へ滑る様に回避しつつ砲台を叩き潰していく。その間に回り込んで移動したマノンが再びプラズマパルスの嵐を叩き込んでくる。
……飛翔砲台が五月蠅いな……マルチロックオン。
「電磁誘導荷電流放射!」
一気に叩き落とすハズの浮遊砲台が電撃の直撃で蒸発、俺は加減に戸惑いつつ距離を詰める。逃げるマノン。
「(クッ!なんて出力だ!流石と云おうか)まだまだぁ!」
場の隅まで後退したマノンが軽くジャンプし急に倒立し上下逆様になると、ボディ上部だった外装が四分割して変形、四つ足で身体を支えた。
そこから上になった脚ユニットだった部分が勢いよく回転し始め、脚だった先からビーム状の刃を発生。車輪でも付いてるのか加速突進してくる!
俺はしゃがみ、スウェー、右へ左へ前へフェイントを織り交ぜ回避しながら、更にボディ両脇からくる義手のドリル攻撃を捌き捲る!
[(なんつう手数だ! 六本……否、追加きた!)]
今度は逆さまボディ前面から電磁ムチと脚ユニット上部の機関銃をも掃射され、十か所から繰り出される、その竜巻の様な畳掛ける攻撃バリエーションに舌を巻く。
流石はSランク保持者と云うか、どんだけ義手スロット、てか武装あんだよ!
ま、「己を棚に上げて」とは俺の事なんだろうけど。
俺は後ろに飛びずさり、僅かに空中に浮き接近戦から一時離脱。
「(なんたる体捌き!我が必殺のアレを凌ぐか!)どうした?」
「もうバテたのか?なら気合を入れてやろう!(奴なら避けるだろうが、喰らわせてみたい。ソレも耐えるのなら……)」
「コレを喰らって立っていられるなら、認めよう! 我が娘の婿殿とな。それとも避けるか?」
[!逃げるつもりは毛頭ありません。受けてたちます]
「よく言った! 手足がもがれても泣き言は聞かんゾ」
スッと床に降り立ち身構える俺。
上下逆さまだったボディを正位置へ戻し、前面へ屈む様に四角柱を倒し脚ユニットで固定、残った義手も胴体を支えるマノン。
頭頂部に当たる四角柱外装天辺が一部凹み、一部せり上がり砲塔の様に展開していく。
空気中の何かが電化され、光の粒がチリチリと砲口へ吸い込まれる収束放射の予備動作に、俺に取って今までにない規模の熱量を感知
「見事受けきって見せよ。・・アークバスター!」
現象は最早お馴染みだが、単純に最高度の熱源線攻撃が周囲の空気を焦がし来る!
[極低温投影拳!]
周囲の空気が焦げる程の「裸の高々度熱源」を見て取り、危険と判断した俺は反射的に相殺した。
あっぶねぇな。
極端な現象は限定化しないと周りを巻き込むじゃないか。
妻に何かあったらどうする!
て、アレ? 見てたんじゃないのか? 誰も居ないぞ……
AIが徐に口を挟む。なにやら「決着が着いた様なので。」との事
『マスター、奥様方は最初の攻防を見たお母様が、即刻皆さんを引き連れていきましたよ』
グリッドにその時の映像がリプレイされる。タイミング的には父の義手を叩き折った時点かな。末妹のオリビアちゃんを「見ちゃいけません!」と抱っこした母君がリベイラ達を促していた。
「見事だ……」
先程までの張り詰めた勢いが失われた父の台詞に反応してスキャンすると、グリッドには極端に下がったマノンの個体エネルギー予測値が示される。どうやらエナジー切れの様である。
「(傷一つ負わせられなんだとはな)よくぞ受けきった。」
「(ポテンシャルが違い過ぎる!)約束通り婿と認めよう」
「(理不尽この上ない!クソ!)我も歳をとった……」
いや、だからお父さん、心の声駄々洩れですってば。
しかし俺はこの歴戦の戦士の怒涛の戦いぶりに、心情的に圧倒されたのも事実だ。正直に言おう
[御義父上…いえ、圧殺怒涛のマノン殿。私は心底感服致しております。惹いては……]
「……続けろ」
「御義父上」の際にピクっと反応したマノンだが、光通信は来ていない。
[この躯体は明かな規定外。私個人の技など、貴方の足元にも及ばない。]
[その勇猛果敢な姿に心から圧倒されておりまする。惹いては弟子に志願したい程]
拳を交えて初めて分かる、その豊富な実戦に裏付けされた戦闘センス。
それに触れ俺は生涯?で初めて闘争本能の昂りを覚えた。それは事実である。
コレ以上、男が一々言葉にするのも無粋かと思い、俺は直接、光通信を頭部から発する。
『マスター? 其れは』
「(なんと!小奴は我と同期を望むのか!)……」
あ、ヤバい。何か間違ったかも……
「…(良いだろう。面白い奴だ!ブハハハ!)」
様々な戦闘風景が圧縮され送られてくる。同時に俺は歴戦の戦士マノンの戦闘経験を網羅、追体験した!