「お宅の娘さんをお嫁さんにください」
街の中心から外れ、郊外の比較的広い敷地が連なる場所へ出ると、やがて立派な門を構えた庭園が見えてきた。
妻と妹の指示で獣車ごと門を潜ると、奥に屋敷が在った。結構大きい。
てか屋敷の大小なんて知らないけど。高さは三階建て位か? 横は……何個部屋が在るんだ? ちょっと見当つかない。無意識にスキャンするとAIが補正してくれ、Uの字型の建物と判る。奥行きも広いな。なんか結構広めの倉庫みたいな建物が有るみたいだけど。
俺の知ってる現代日本では到底見た事ない景色だ。強いて云うと洋画なんかに出てくる貴族の屋敷みたいだった。
貧乏性な俺には些か不釣り合いな場所(正しく場違い)であった。心なしか躯体も高揚している気がする。
(アレ? 俺なんか緊張してる?)
ありもしない心臓がバクバクなってるこの感覚は……?
『初めての花嫁家族とのご対面と御挨拶の際の、一般男性視点から身体的特徴を再現してみました』
今までほぼ無言だったAIが「褒めてホメて!」と言わんばかりに訴えて来た。
『いかがでしょう?』
(コイツは一回〆ないと。てか芸が細か過ぎンだよ!)
《レイ、君とは後でキチンと話し合わないとイケナイな。相棒の在り方について!》
(何この子? もしかして自分を具象化してるのか?)
いきなりポン! と、グリッドにポニーテールの幼女が現れて、口を尖らせて「ピーピュー」と鳴らぬ口笛を吹いて見せるAI。
(だから芸が細(ry))《メディ君を復活させたら君、二号にするよ?!》
『すいませんッした!以後気を付けますからソレはご勘弁を』
幼女が土下座してペコペコ頭を下げる。ズルいゾ。俺が悪者みたいじゃないかっ。
《……もうメディ君が相棒一号に決定で》
『大変申し訳ございませんでした』
フッと幼女が消え、真摯な態度を精神世界にまで侵食させるAI。
何か主格AIとしてのプライドの様なモノでもあるのか?
《時と場合を考えなさい。重々反省する様に。この件は一旦保留とする》
『畏まりました。マスター』
まぁ反応は良いんだけど、今は俺も余裕がない。
なんたって「お宅の娘さんをお嫁さんにください宣言」するんだからな。
そんなこんなでやって来ました、今、ヨメ方の御両親の前です。
因みに屋敷に入ってから案内された事など殆ど記憶にない。ココは応接間? 豪奢な飾りつけ。よりは質実剛健と云った風情が、普段なら幾ばくかの安心感を覚えるハズが返って緊張を煽る。様である。
母よ。息子は異世界で嫁を貰います。
(出来れば報告したかったな)
『マスター・・・』
さてと、
[お初にお目に掛かります。私はマスターライトと申す者。どうぞスタイとお呼びください]
「オ・マ・エ・が!」
いきなり《「生涯の敵」を見つけたゾ!》と云わんばかりの、どうみても自動販売機大の四角柱に四つの脚が生えた物体が、直接音声と、四角柱ボディ上部左上の小さなパイロットランプから光通信を同時に送り付けてきた。
比較的自由度の高そうな一対の万能義手を備えたその姿は、某TVアニメ第二期冒頭に出て来たオートマタの様だ。
「アナタ……! (地が出てますよ! 「威厳を以て。」はどうしたの?)」
まるで我妻の姉と言われてもおかしく無い位に見える綺麗な女性機械人はきっと母君だろう。
「コホン! 失礼。君が「賢者保有者」で「星を渡る者」か、私がアーセナル家当主マノンだ。【我が娘】の父である」
(コホン! て物理的に咳き込んだりしないよね? 今声で言ったよね?)
「初めまして。スタイさん。私はこの娘の母、メローダと申します。バラク王国からいらしたんですってね。長旅さぞ疲れたでしょう。」
[いえ、この度は父君、母君ご両親様に御拝謁をお許しいただきました事、無上の喜びを申し上げます。]
「(ちょっとスタイ? 王家に陳情のお願いって訳じゃないんだから…緊張してるの?)」
[何を言ってるんだい? 人生の一大事だよ? 愛する人をこの世に生み出してくれた、ご両親に最大の敬意を払うのは当然の事だよ]
「…プフッ! ごめんなさい。まぁ、お上手なのね…中々憎めない方の様ね。アナタ?」
「ムムム……フン!(小者の振りか? 賢しいな)ブッ!」
御父様、心の声は全て光通信で聞こえておりますが、ソレはワザとデスカ?
(え? ナニ?!)
パチパチと荷電粒子が、素体換装した父マノンの四脚四角柱の尻あたりから弾ける。
アレ? なんか今、お母様から電磁ムチみたいなのが……
「ねぇ? ア・ナ・タ」
「ムゥ……私も人の親。我が娘の夫に相応しいか、少し手合わせ願いたい」
話が早くて助かる。って訳でも無いか。
「お父様!」
「アナタ!」
[噂に名高い「圧殺怒涛の機人」の御指名とあらば、尻込みする訳には参りませぬ]
「ほぅ、少しはキレる様だ。娘から聞いたか……」
最初から舐めてなどいない。寧ろ敬意を払っている。嫁になる人の父親なのだ。
別に奪うとかそういうつもりは一片も無い。ちゃんと祝福された方が良いに決まってる。
なにより貴方達が愛し育てた娘、俺の愛するその人の為に。
その為にも先ずは父君のお目に叶う様、振舞って見せるさ。
『マスター!全力でサポートします!』
《あ、今回はイイよ。コレは俺自身でやらなくちゃならないし》
『そうですか。ご武運を。負ける要素はありませんが』
判ってるさ。いくらなんでも星を壊すポテンシャルでやられたら目も当てられない。
「(スタイ・・・)」
[(コレは試験なんだ。心得ているよ)]
リベイラがそっと寄り添ってくる。母君の夫へ溜息を吐いた諦めの表情とは対照的である。
マノンの後へ続き屋敷の奥へ。丹精に手入れされた中庭を抜けて屋敷と同じ位の高さのある建物へと入って行く。最初スキャンした時に見掛けた倉庫の様な奴か?
横長で3m程の高さを持つかなり分厚い扉から入ると、どうやら倉庫ではなく「闘技場」っぽい建物だった。壁は扉同様かなり分厚く、足元は更に厚く硬い岩盤のしっかり加工した床が全面である。
中央に立ち、向かい合うと父君が重かった口を再び開いた
「愛用の武器を使うと良い。大層な大剣を振るうのだろう?」
[…生憎と我が真の武器はこの躯体です。]
「……よかろう。では、かかってこい!」
戦闘開始!