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首都エルドランにて

 俺達は、識別レーダー波と思われる残滓をAIのレイが傍受すると、足下の「西空の主」を離脱した。

 巨大エイ(西空の主)を外洋へと離した後、浮上&離水。元々そのメモリーに刻んであった飛行プランに従わせて高空へと上昇させた。

 どうやら、俺達はようやく「機械都市国家メルキゼデク」の領海防空圏に入った様だ。

 

 上空に上がった「西空の主」からAIのレイを通して様々なデータが入ってくる。が、今の俺には取り敢えず必要ないので黙殺フィルタリングした。


――「機械都市群国家メルキゼデク」――

 「機械人」により建国されたこの都市群国家は、他の大元の三大種族と違い、混血が物理的に不可能な事もあり、単一種族立憲国として数千年という、惑星テラニア「人類」史上最長の歴史を持つ。

 それでも万年という単位では、幾度も勃興を繰り返した為、現在の秩序ある国として安定した基盤を持ったのは凡そ一万年前とされる。


 概容は、ほぼ真円の輪郭を持つ直径20kmに及ぶ、長大な外壁に囲まれた首都「エルドラン」を中心に伸びる、コレまた頑強な外壁を持つ道で繋がった、ほぼ同規模の各五大都市から形成される。

 遥か高空からスキャンすると、各都市は超巨大な五芒星形に繋がり、その中心核として首都を持つ非常に整った配置である。

 地上に見えている街道とは別に、発達した地下通路が縦横無尽に伸び、発展した地下都市をも内包している。


 各都市はその中心に現代日本に程近い、高層ビルの立ち並ぶ様相を呈しており、他の街では見た事のない独自の交通網も散見される。


 ――愛妻リベイラの話では、所属する人口は「機械都市群国家メルキゼデク」全体で約570万人。

 「機械人」の国とは云え、地上の住人は種々雑多な民族で溢れている様に見える。

 が、実際そういった他民族は所属者全体の1.2%にも満たないとの事。

 他の都市国家とは比肩するものが無い程、安全で独自の文化を保つ故、旅行者や移住希望者が後を絶たない。しかし、移住は希望してもその国に所属するとなると話は違ってくる…らしいが、詳しくは俺にはよく判らない。

「その内、判るわ」愛する妻はそう言い含んで、少し寂しそうな顔をしたのだった――


 嘗て原初の神々により「人類」が創造されて数十万年の時が過ぎ、各種族(人族、獣人族、天人族)は単一種族国家での栄枯盛衰を繰り返し、その文化圏を拡げるにつれ、互いに徐々に混じり合っていった。中には精霊や果ては魔獣との子孫など、神々が想像もしていなかった種族も誕生したのである。


 次点の長さを誇るイストニア帝国ですら千数百年の歴史を持つが、今でこそ長命な文化年号も、その建国前までの長い混迷を極めた「人類」同士の、時に「魔」との争いを、新しき神々「神族」によっていさめられた末にもたらされた安息の地なのである。


 故に今では「機械都市群国家メルキゼデク」以外では、単一種族が主体となる国家は無くなって久しい。

 「機械人」が決して戦争を好まず、他国の戦いに一度も介入しなかった。という訳ではなく、万年単位の長い年月上、どうしても「生き残る為に」敵味方を入れ替えて加担した事は数回では無い。

 だが、長らく「人類」同士の争いは身を潜め、且つ其れまでに興った国家を消滅させる程の大戦争が、「魔」に起因するとの「天啓」が下されて久しくなると、「人類」は団結を固めていったのである。


 現に昨今、「神族」より次々に新たな「天啓」が降り、其れまでに聞いた事も無い「兵器」を「人類」共同で開発していた。



 そんな事など露とも知らず、我妻リベイラの実家が在る「首都エルドラン」に辿り着いた俺達は、リベイラの妹エメラダから熱烈な歓待を受けた後、一緒に獣車に乗せて移動していた。


「あのぅ、スタイさん?」


[はい、何でしょう?]


「あ、えっと……お義兄様になる方なんですから、かしこまらなくてイイですヨ。それより」


「何故にそんな可愛らしいお姿のままでいらっしゃるのかそれは……」


「ね、言ったでしょ。」


[おっと、コレは失礼。最愛の人がとても好んでいるので]


 因みに機械人にとって、俺の素体球バージョンは至言の理(オベリスク)で初の機械人認定までの家族補助ロボメイド「より原初に近い姿」に似通っており、とても愛らしい存在との事。

 リベイラの膝上でクッションの様にその腕に抱きしめられていた俺は、素体球からロボフォームへ変形すべく、スルリと妻の手から抜け出した。


[躯体変形ロボフォーム!]

「あ、待って!」


「えぇ!? な、何?! 姉様この人、単体完全変形シングルフォームチェンジ出来るの?!」


「もう……だから言ったのに」

[あっと……ゴメン]


「驚いた……だからさっきも「換装」にしては早過ぎって思ったの…。そんな人聞いた事も無いワ…。やっぱり私達とは違うのね」


 どうやらこの世界では「換装」と「変形」は全くの別ものらしい。

 まぁそりゃそうか。

 気を取り直して改めて挨拶した後、獣車の中で愛妻リベイラの実家まで世間話に華が咲いた。


 というかなんか忘れてる気がするけど……なんだっけ? まぁその内思い出すだろ。


 俺は何かに引っかかりながら、エメラダの機関銃の様なおしゃべりと、リベイラに途中いなされながらも炸裂する質問攻めに閉口しつつ、久しぶりに賑やかな雰囲気を楽しんだ。


----------------------------------


――首都エルドラン長老議会 議長室――


 議長のハーベイ=レムナントは、秘書のエルメロイから情報端末ボードを受け取ると


「着いたか。……ま、積もる話もあるだろう。急かす事は無い」


「はい、私としては多少見極めたい所もあります故…」


「愛娘の夫になる相手だ。無理もなかろう…。止めはせぬよ…。ただ、程ほどにな」


「重々心得ております」


 まるで人生の一大決心を宿すかの様な、議員マノン=アーセナルの硬い表情を垣間見ると、フッと軽く溜息をつき、議長ハーベイ画面モニターの映像を落とした。

 後ろに控え、端末板ボードを受け取ったエルメロイが呟く


「いつも飄々(ひょうひょう)としたマノン氏からは見られない、沈痛な面持ちでしたね。」


 嘗て「圧殺・怒涛の機人」の名を馳せたマノンも、今や三女の父である。

 かといって「天啓」が降り立つ前までは、「星を渡る者」などお伽話。とした認識しか無かったとは云え、軽んじる訳にはいかない。


「ま、アレも人の親…。致し方ない所もあるだろう」

(迎え入れる以上、他人事では無いのだがな。「星渡り人」…か。意地を張るなと云うのも無粋であろうよ)


「それより…帝都への技術派遣師団の進捗だ、あれはどうなっておるか?」


「は、…こちらです」


 エルメロイから再び渡されたボードには、動画が小窓に、バックには設計資料が映っている。

 小窓の動画を再生しながら、別に呼び出した画面を次々に移り変わらせ、詳細なコメントを読み進むハーベイ


「ふぅむ……試作品テストタイプが組みあがったか…ワシは技術的な事は詳しく無いが」


「どうにも完成形が見えぬのぅ。対【魔】族だけに特化したモノでもない…しな、コレは」


 年齢と共に、年老いた機械人独特の風貌を好むハーベイは、デスク上に肘をつき、鈍色の顎を撫でさすり、ワザと残した古傷の窪みに指を這わせたポーズ。


「はい、派遣師団によりますと…」


 対してエルメロイは、流石に議長よりは比較的若く、精悍なパーツラインで、時折覗く顔の表面装甲がキラリと光る、如何にもデキる秘書然とした風貌。


「神々から与えられた情報は、とにかく先進的で、解釈にも様々な視点を模索している。との報告が上っております」


「異形を以て偉業を為すか…。ま、洒落になれば御の字か。派遣した技術師団にも労いを…な。」


かしこまりました」


--------------------------------

――首都エルドラン・イーストゲート――


「リベイラ達はなんだって?」


「あ~、スタイの旦那と一緒に先に行っちまったって」


「なんでぇ、俺達ぁ置いてけぼりか?」


「それがさ……どうも実家に挨拶に行くんだと。二人で!」


「そうかい! リベイラも身を固めるんだねぇ…」


「ま、めでてえこった。」


「で……どうするの? ココで宿でも探すの?」


「う~ん、今そんなんじゃあ、リベイラさんトコ行き辛いしな。」


「暇つぶしに街でも見て回るか?」


「いやぁ、どっちみちもう今日は姐さんトコ行くにはおせえし? 宿取って飯でも食おうぜ」


「んじゃそっちは任せたよ。…ローニャ、アンタはアタシについてきな。適当なモン見繕うから。色々と入要だろ?」


「やった! 私ココの「ブーランジュ」本店、行ってみたかったの!」


「(何々、ブーランジュ? おっ! 下着屋ランジェリーショップかぁ。コレはまた…グフフ)」

「(オイオイ、鼻の下伸びきってンぞ? 若ぇな。…ほぅ、こりゃ中々……乙なモンだな)」

「(だろだろ? コレなんてヒモじゃん?!)」

「(……コイツは!)な、オイ。アビー!」


「なんだい?」


「あ~。な、コレどうよ? 良いんじゃねぇか?」

「(ちょ、アニキ! やべーって!)」


 スパーンっ! と、顔を赤らめたアビゲイルにツッコまれたグラバイドは、それでも全く気にする事なくボードを向け、恐らく叩かれた事が原因ではない鼻血を垂流したドヤ顔をアビゲイルに晒す。


「む!(仕方ないねぇ……じゃ、アンタはコレね! 後で)」

「な!(オイオイ、こんなの履いて無いより見っともねぇじゃねぇか!)…イイぜ。」


「(えーっ!? なんだよソレ、アニキ! ドMかよっ! …いいなぁ。俺もローニャちゃんと…)」


「思いっきり猿顔になってるんだけど? どうしたの?」


「ハッ?! いや? 別に何でもねぇよ? ローニャちゃんはどの…(おっとアッブネー! 墓穴掘るトコだ)」


「アタシ? は……コレかな。」

「おおぅ!(鼻血もんだゼ! 生きてて良かった!)」


 新顔のローニャは、元々ソロで傭兵にも登録している冒険者で、ダスティン達が旅客船でどんちゃん騒ぎした夜、襲ってきた海賊団を〔明けの星風〕の三人メンツが欠伸しながら片手間に殲滅していく側ら、護衛の軍人達と共に、(普通の人族としては)かなりの手際で、焦りまくった敵の魔獣使テイマーいがヤケクソで呼び出した魔獣の群れを片付けたのである。


 それ以降、戦闘スタイルと主にその容姿に惚れ込んだダスティンが口説いた形で同行している。

 本人ローニャは、〔明けの星風〕と言えば精々名声だけで有名な程度、位の認識しか無かったモノの、いざ目の当たりにしてみると、現Sランク冒険者でもかくあるや。と目を疑うばかりの凄まじい戦闘力を見せつけられ、心底驚いたのであった。


「ほ、本当に人間ですか?! 貴方達は!?」


 ともあれ、その光景に誰より驚嘆し慄いたのは共に戦った軍人達であったのだが。

 何しろ現役の戦闘艦搭載武装を大盤振る舞いして迎え撃った護衛艦であるが、並み居る海賊団十数隻を、それこそ瞬きする間に撃沈させていくグラバイド達に、味方の機関砲が何度もFFフレンドリーファイアしてしまったのだ。

 ただ、三人はそれすら軽々と躱し、殺到する砲弾を敵船へはじき返して沈めたりする。というデタラメな戦闘の中、気が付いたら目の前の魔獣を倒していた。そんなトンでもない状況だったのだ。


 翌日護衛艦のブリッジにて艦長に労いと感謝を述べられ、益々優待された一行は船旅を楽しみ、機械都市へと入港する船を渡り、首都エルドランまでやってきたのである。


「(早く夜にならんかなぁ)」

「(……グフフフ)」


 有頂天な面持ちをホテルのレセプションで怪訝な顔をされながらチェックインを済ますと、何か精の付く食べ物を物色しようと大通りに繰り出すダスティンとグラバイドであった。

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