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精霊

 海上で怪生物に襲われた! と思ったら野生の移動基地でした!


 自分でも何を言ってるのかと思うが、今俺達は海中から浮上した島の様な物体に乗って目的地へと進んでいる。

 その正体は、《超巨大エイ》とも云うべき、特異な姿をした「機械魔獣」であった。


 な、なんで? どうしてこうなった!?。


------------------------------


 リベイラとの甘~い時間を邪魔された俺は、さっさと片付けるべく獣車から海上へと飛び出した。

 獣車の真下の海中がかなり大きな影を浮き上がらせて来ている。


(アブネーな! つうかハタ迷惑な奴だ)


「ヌン!」


 俺は意識をエイに向け、転覆するのはゴメンなので重力制御で上から抑えつける。

 無論、実際出力調整をやってるのは(多分)相棒のAIレイなんだけど。


(全くハタ迷惑な奴だ)


 大事な事なので二回言う。


[さて、どんな奴かな。不届きものは!]


『マスター、スキャン結果から診てコレは原住民と関わりのある構造物、叉は同じ製作者に由るモノ、かと思われます。』


[へ? どういう事?]


『少なくとも構成物にタンパク質状の生体細胞組織、若しくはその代替流動組織がなく、微弱な電気信号に因る管制制御機構エレクトロメカニカルなど「機械人」と呼称される原住民と基本構造概念アーキテクト似通っています(・・・・・・)


 グリッドに詳細なスキャン画像が投影され、一見して「機械」と判る機構的な各箇所に、一々細かな注釈コメントまで入れる、その的確過ぎる手厚い手際に舌を巻いた。


《主格AIか。成程なぁ。てか俺軽く馬鹿にされてないよな?》


『「コレ位は朝飯前ですよ。」という単なるアピールですよ?』


[なんで疑問形なのか……まぁ良いけど。な、それよりこんなに相手の事解るんだったらさ]


『はい』


[いっその事ハッキングとかして使役してみないか?]


『マスターは、ア……! 天才ですね。面白そうなのでやってみます!』


 マスターは、ア! の後に何と言おうとしたのか、問いただそうかと思ったがヤメた。

 今からは忙しいのだ!


(ごめんよハニー、もう少し待ってておくれ)


「スタイ? どうなったの? 終わった?」


 丁度、心の中で呟いた瞬間に獣車の上部ハッチから顔を出す愛妻リベイラ

 やっぱり俺達って、通じてるんだね! 俺は喜々として妻に事情を説明する。

 すかさずレイが従属化ハッキング完了。と報告してきた。相変わらずの早さだ。


「機械生物ですって? もうそんなに故郷に近くなったのね。…え? 従属させたの?」


 と、改めて車上に身を乗り出して、天板に降りた俺に支えられ下を見たリベイラの顔色が変わった。


「ね、スタイ? 私、こんな大きな生き物、見た事も聞いた事も無いけど……どれくらいなの?」


 その間もさっきと違い、非常にゆっくりと海中から浮上して来る、更に巨大になってくる影に、段々愛妻の表情が硬くなる。

 うん、確かに海影の境界線が見えなくなってきた……


[えーっと]


『全縦長凡そ900m、全横幅800m、上下厚み最大300m、銀河連邦では海洋型惑星にて復活された古代地球海生物「マンタ」エイによく似た形状ですね』


 説明している俺自身が慄いてしまった。そんな大きかったの? いや、グリッド表示ちゃんと見てたけどさ!

 で、デカすぎる! 怯える妻を安心させる様にお姫様抱っこして上空へと上がり、改めて驚嘆する。


 なんかもう獣車が浮上島にポツンと乗ってるんですが……俺は慌てて妻を獣車に戻して「島」に降り立ち、鎧魔虫プロトンを停めて「駐車」、落ち着いて辺りを見回す。


 海中に潜んでた割には、小さな寄生魚などの痕もなく、比較的綺麗な装甲表面を曝け出したマンタの背中に、なだらかな窪みを見つけた俺は、改めてソコに獣車を寄せて強い日差しを避ける為に日陰に入る。


 我妻リベイラは驚きのあまり頭を抱えて獣車の中で横になっている。

 俺は仕方が無いので剛鎧虫プロトンの世話をしている。……別に不貞腐れてる訳じゃないゾ。

 

 モソモソと餌を咀嚼するプロトンを眺めていた。……そういやコイツ、俺達を「モノリス」から庇ってくれたり、今の事態にも全然微動だにしないし、大した奴だ。


 思わず、硬く逞しい装甲に触れて撫でてみる。

 おや? なんか隙間に埃つーか小さいゴミが結構詰まってるな。掃除してやるか……

 日光を受け鈍色に光る巨大なカブトムシにソックリのプロトンは、俺が何をしているのか即理解した様で、ヴァサァっ! と甲羅を展開した。


(ソコも掃除しろってか。……良いよ、やってやるよ)


 黙々と念入りに掃除してやると、何だか機嫌良さげに大人しくなった様に感じた。

 スッキリしたか? 良かったな。俺は人心地つくと、コイツもそう感じたら嬉しいな。

 と、顔を上げた時だった。


『マスター、何者かが接触コンタクトを試みています。着信を許可しますか? このまま拒否しますか?』


(着信ってスマホか。て、知らないだろーな、そんな古代の遺物)

《レイ、君に任せて安泰なら回線を開いてくれ》


『了解。視聴覚具象化…どうぞ』


 途端に視界が淡い青色に染まり、目の前にフワフワと浮遊する沢山の雫の塊が出現した。


《やぁ! やっと通じた! ボク達は「飛沫の精霊」! 君がこの「西空の主」を大人しくさせたの?》


 どこに口があるんだろう……あ、なんか線があるな。

 丁度真ん中より上目に一対の横線の下に点が其々付いてる。

 コレ目かな? ビジュアル手抜きすぎじゃね?


[こんにちは。初めまして。私はスタイ。「西空の主」とはこの大きな、島の様な奴の事かな?確かに相棒の力で従属させたけど]

(海中に居たのに「空の主」とはコレ如何に?)


《ありがとう! 大分前から「機神」様の言う事も聞かなくなって困ってたんだ!》

《ありがとー!》

《ありー!》《がとー!》


 フワフワと漂いながら複数の雫の塊が、あっちこっちで勝手にしゃべる。

 コミカルだが、流石に無視できないワードが出て来たので即座に聞く。


[「機神」様? とはなんだ? 否、何かな? 無知で申し訳ないが教えてくれないか]


《!もしかして君が「機神」様が言っていた「星渡り」なの?》なの?》


 なんかトト族の皆を思い出すな。どうしてるかな。……だけど今は


[あぁ、我妻の「機械人」からはそう呼ばれているな]


《そうなのかぁ! 凄いね! 「西空の主」を従属させるなんて!》

《「機神」様はね、原初の神々の一柱なんだよ!》

《なんだよー!》よー!》


(いや、だから海中に居たのに「空の主」とはコレ如何に)


『この構造体は元々飛行能力がある様です。恐らく飛行性能が著しく低下した為着水したモノかと。故障原因も特定出来ましたので、修理とついでに改良します』


(そうなのか。て、その即決どうなの?)

[その「原初の神々」とはどんな…どれくらい御健勝、つまりいらっしゃるなのかな?]


《原初の神々はね!「神階」に四柱お座すんだ!》

《てんてー四柱神って呼ばれてるんだ!》るんだ!》

《オマエさっきからマネばっかしてるー!》

《オマエって言う奴がオマエなんだぞー!》

《だぞー!》


《飛沫の精霊達よ、あまり騒ぎだしては他の者達が驚きますよ…》


 奥から渦を巻きながら颯爽と姿を現した人影は、明らかに妙齢を過ぎた叔母様に形を固定した。

 その衣装は実際に水流で、否海流か、を纏い、ノースリーブな肩口で小さな沢山の渦を巻いている。

 右手を軽く左胸に沿え充て、実に優雅な姿勢で軽く会釈をすると


《初めまして「星を渡る者」。私は海流の精霊》


 と挨拶をしてきた。正に流れる様な一連の動作である。


[コレはご丁寧に。スタイと申します。以後お見知りおきを]


《あー! 海流の精霊様だ!》様!》様だ!》


 俺が返礼すると、飛沫の精霊達が一斉に騒ぎ出す。

 こっちはけたたましいな。


《飛沫の精霊達よ……後は私が引き継ぎます。「海と獣の神(オベリオン)」様より言付かりが有る故、そなた達はもうお戻りなさい》


《えー! 難しい事言ってオババ様ずるいー!》

《BBA!》ズル!》ババア!》


 あ、ばか! 妙齢の女性にそんな事言ったら…

 オォ、なんと凄まじい変化へんげだろう……

 一気に恐ろしい形相になる海流の精霊!


《オイ誰がババアだ! 今言った奴前へ出ろ! それとも矮小な飛沫ごと喰ろうてやろうかや!》


《わーい! 逃げろー!》

《逃げろー!》わーい!》ろー!》


 瞬間移動の如く、アチコチに散り廻って最後には文字通り消えてしまう飛沫の精霊達…

 いやぁ、アレは流石に俺でも捕まえるの難儀するわ…なんだか楽しそうだったけれども。


《待てぇい! ……ハァハァ……オノレ雫共が! 後で憶えておれぇ…》

(こ、こえぇぇ)


 リアルに唖然とするばかりの俺に、まるで何事も無かった様に、次の瞬間には取り澄ました雰囲気を強調する海年増。基、海流の精霊さん


《では原初の神々よりお伝えします。》


 ア、ハイ


《『機械人の都にて「機神」と邂逅せよ。「星渡り人」にとっても決して悪い様にはならぬ。』との仰せです》


(これはこれは…)


[私の様なヨソモノに、態々見目麗しい淑女にお出向き、また斯様な具体的な指針を、否、正に「天啓」をいただけるとは…。とても有難く、恐悦にございます。不勉強故、不躾な物言い拙く申し訳ありませんが、どうかこの大恩に甚く感謝申し上げます事をお伝えください]


 と深々と頭を下げると、取り繕った笑顔が少しだけ変化し、更に僅かに口端の上がった海流の精霊の表情をみて、俺はホッとした。


(ちょっとほぐれた感じになったかな?)


 考えて見れば、向こうからすれば、自らの主である神々の神託を、どこの馬の骨とも判らぬ奴に告げに態々遣わされたのだ。それを労う位の相応の挨拶は必要だろう。

 俺とて元おっさん、それなりに相手の立場は考えるものだ。


《貴方はとても察しの良い、素直な心の持ち主の様ですね。感心しました…では此れにて…。ごきげんよう》


 下世話な言い方だが、猛り狂った叔母様(?)に逆らう程、俺は愚かではない。

 ご機嫌を取り、サクッと流した方が賢明なのだ。


[こちらこそ。誠にありがとうございました。ごきげんよう」


 海流の精霊は最後にニコリと笑うと、渦を巻きながら伸びて、海へと帰っていった。

 ふっとチャンネルが閉じられ、リアルな世界が戻ってきた。

 俺は今から妻に「精霊」と交信した事、それで「天啓」の事、この島が飛ぶ様になる事、などをどうやって掻い摘んで話すか頭を悩ませた。

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