神々
――惑星テラニア 神階にて――
《テラニアも随分と賑やかになったものだ。のう、「機神」よ》
《原初の神、大神ゼブル様。貴神達と出会えた事が私に取り最上の喜び。心から感謝しております》
《なにを仰るのか。我等こそ貴神の叡智に甚く感銘を受けておりますのに》
《うむ。今や大小問わず新しい神々も続々と生まれた。貴神の在絵を改めて尊ぶばかりだ》
《それも「機神」、貴神が我等に「人類」を齎してくれたからだ。礼を言おうぞ》
《正しく。まさか我らが生み出した者達が「神々」を創造するとはな。予想できなんだ所がまた面白い》
《アレこそ私では生み出せない奇跡です。私は己の子らしか制御出来ません故に》
《それは我等も同じ事。相の子はまだしも、貴神の機械人は我等ではどうしようも無い》
《ただ、あの不明存在は気がかりですが》
《「機神」でも判らないのですか?あの黒曜板の事は》
《はい。広い宇宙を旅した私ですが、あれ程異質な物は見た事がありません。尤も、あの存在を排除した者は更に興味深いですが》
《ふむ。極めて機械人によく似ておるがのう。貴神が知らぬのではな。やはり別の「星渡り」なのであろう》
《物質でありながら霊的な存在と、同じく物質のままで虚数解を打ち破る者……》
原初より神々が実在し、嘗てその三柱の力を以て創成された惑星テラニア。
星が生まれた後、暫く様子を伺っていた原初三柱神は、いつまで経っても変化の無い無毛の世界に飽き、変化を与えようと様々な動植物などの「生き物」を齎した。また動植物を繁栄成長させる為、調整役に様々な「精霊」を用意し、その力の源として「魔素」を生み出す能力をも与えた。
星はまるでその時を以て初めて誕生したかの如く、地に海に山に空にも「命」が満ち溢れ、やがて豊かな色彩を放つようになった。
ところが、とても美しい自然も生命誕生以降は変化に乏しく、幾億の歳月を重ねるとやはり神々は暇を持て余した。がそんなある時、星の外から「機神」と名乗る叡智ある異形の神が飛来した。退屈しのぎに奔走していた三柱神は、それまで自らが決して知る事の無かった、外の広大な世界=宇宙の旅話を聞き、喜々として受け入れた。
画して、原初テラニア神の一柱となった「機神」は、自らの好奇心を満たす要因として「知性の種を宿す者」を作る事を提案する。触発された神々は大いに喜び「人類」を創造した。神々に似せて作られしその姿は、大きく四つの種族「人族、獣人族、天人族、機械人族」で構成される。誕生した人類は、やがて其々が独自の発展を遂げ、同様に文化圏を形成するに至る。
するとその内、神々ですら予測し得なかった事態が興りだす。
それはある時、飢饉で困り果てた一人の人類が祈りを捧げ、応えられる事も無くやがて力尽き命を絶った。本来何十億年も存在する神と、精々数十年の寿命しかない人類では感覚が全く違うのも無理は無いのだが、その事に気付いた大神ゼブルが気の毒に感じ、殉教した死者を蘇らせ、作物も育たせた。すると生き返った者が多くの信者達を先導して神に深く感謝の祈りを捧げた時、非常に僅かだがゼブル神の存在がより濃くなり、力が増したのである。
それまで(気が付けば)人類の悩み事などを細々と解消していた神々で在ったが、自らに向けられる祈りが、より深く純粋で有る程効力を発揮するのが判ると、挙って困窮する人類に手を差し伸べた。より力ある神へと劇的に変化する訳では無いが、人類の種々雑多な祈りの中で「美の女神」や「戦神」等新たな神族が次々に神階にて生まれ出でたのである。
この変化に神々は沸き立ち、それまで主に大自然を調整、使役していた「精霊」とは別に、神々と人類との物理的な仲介者となり、より近しく神々の力を行使する「天使」を生み出し、神殿を作らせた。またこの頃から人類は、生命の生き死にすら自在に操る原初の神々を「天帝四柱神」と呼び、新しい神々とは別格であると認識した。
こうして各地に神殿が祀られ、その信仰が廃れる事が無かったのは、時の権力者や巫女等を通して神々が時折人類へ干渉している為である。徐々に増加していく人類が「神々にとって」偏向的な争いや進化(退行と揶揄される)を興す度に、時に「天使」を遣わせ、時に天啓を授け神々の威光にそぐわぬ様、導いて来たのだ。
《だが、今はあの者達の事だ》
《「魔界」か……異空間を生み出すとは相当な力を持ったな。最早我等と同等、それ以上かもしれぬ》
《私も心を痛めています。この様な事は誰も望んでいない……》
《今は「魔神」を名乗っている。我等と同じ様にあちらでは「魔族」を生み出し、争いに明け暮れている様だ》
《新しい神々の中では一番古く、利発な良い神で在ったのに……我が子らが生み出したとは云え、いつか理解し合わなければな》
《ええ、その為にも「人類」には成長して貰わなければ。憎しみや嫉妬、誤解等は乗り越えられると》
《ただ、其々の人生には我等程の時間も無ければ、不滅でもありません。恐らく戦々恐々とし、怯えるが故に抗う事も辞さないでしょう》
《当然だ。理不尽には抗う事こそ、生存する本能。そうでなければ存在出来ぬ》
《我が子らと、我が子らが生み出した者達との争いか……やるせないモノだ》
《何度もそのカラクリを天啓を以て諭すのだがな。ああも頑なな憎悪は容易には消えぬ》
《「魔界」は確かにその権化。生み出された経緯が故に》
《そうは言っても我が子らが危害に晒されるのを黙って見ては居れませぬ》
《各々「神族」には「人類」を守護するのなら思うまま行動させよう。「天使」の造兵もな》
《「人類」側は既に技術的に強力な兵団を用意しつつあります。恐らく「神族」の誰かが天啓を与えているのでしょう》
《我等が手を下すのは「魔神」が「魔界」から出てこようとした時のみ。そうでなければ星が割れる》
《同意します》
《私も同じ考えです》
《是非も無い。同意する》
天帝四柱神はその場から音も無く消える。神族とは別の空間にて開かれた神々の会合はこうして幕を閉じた。