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新たな人生

 この惑星の文明は、というか世界は、どうやら近代というより現代に程近い文明LVの様である。

 と言っても化学反応の内燃機関を有する、比較的小さな個人用の車両等は発達していない。

 小型の物なら使役獣を使った方が割に良いし、替わりに「魔力炉」を内装した、精々が艦船などの大型の船位な物が発達している。


 強大な魔獣が闊歩する世界で、各都市は軒並み巨大とは云え閉ざされた空間である。

 「魔法」なる科学にとって替わる技術は確かに万能だが、庶民の生活LVは俺の知る現代日本よりかなり遅れているくらいだ。


 何が言いたいのかというと、世間一般でいう「娯楽」は種類が圧倒的に少ないのである。

 精々スポーツイベントに近い競争系統の物である。庶民に情報を一般化するネットやTV等は無い。

 尤もそれは家庭単位の事であり、人々は一般的には神殿や各ギルド、飲食店、若しくは区画単位の寄合所に設置されている大型の情報端末装置モニターで条例の発布や取り締まり結果、街や国からの「お知らせ」を得る事が出来る。


 モニターが無ければ、緊急の場合はスピーカーから放送される事もある。

 但し週刊誌等は一般的で、書物がより具体的に民衆の日々の情報媒体となっているのである。

 因みに法を取り締まる警察機構は、国や街が常設する騎士団や軍兵団が直接担うのが通常である。


 そんなご時勢の中、唯一例外の個人通信手段を持ち合わせている、各ギルドが所属する会員に提供する情報端末ボードを、延々と操作していたリベイラがふと顔を上げ、俺に告げる


「向こうの準備が整ったらしいわ」


[うん? あぁ、君の故郷の事かい? なんて言う所だっけ]


機械都マシンシティの事? 実家は「首都エルドラン」に在るの。尤も、帝都ではまとめて機械都市国家メルキゼデクと呼んでるけどね。人族や獣人族の街と比べると、一つ一つの都市がとても近いの。」


 そう言うと、少し区切る様に、窓から見える外の景色を一望するリベイラ。


 他の三人は散々己の能力を確認した後、全快&異能覚醒祝いに祝杯を挙げたいから。

 と付近の海域を航行していた護衛付きの旅客船団を見つけると、海上を走って渡り(!)、大層驚かれながらも、〔明けの星風〕のメンバーと知れると、特に護衛艦の軍人に歓迎され、乗り込んで行った。


「旦那ー! 目的地はぁ! 叩っこんだからさぁ! そこでーっ! 合流しよう!」


 とは喜々としたダスティンの怒鳴り声である。

 なんだか訳知り顔のアビゲイルとグラバイドも輝いていた。様に見えた。

 と云う訳で、海上を何の苦も無く突き進む獣車のキャビンには、今は俺とリベイラの二人だけである。


「ねぇ、スタイ……貴方からの申し出だけど」


[あ、うん……]


「お受けしよう。と思う。」


[そっかぁ! 良かった。一瞬断られるかと思ったよ]


「それでね、ちょっと確認なんだけど、貴方スタイって私達の風習の事、よく知らないじゃない?」


[うん。それは認める……で? 何故そんな深刻そうなの?]


「ハァ~、やっぱりね。……貴方が提案したのはね、私には……婚姻求愛プロポーズと同義なの!」


[ハゥ! そ、それは……いや! でも、間違ってない。俺は、俺は君を愛している!]


「ウソ……本当に? ウレシイ……けど」


[後悔させない。君を守って見せる!]


「知らなかったくせに……もう、後悔しても遅いわよ…」


 小刻みに肩を震わせる彼女の手をそっと握り、俺は決心した。


[後悔なんてしないし、させないさ。守るよ、君を]


「スタイ……私、私嬉しい。……よろしくお願いします」


『おめでとうございます! マスター!』


《あぁ、ありがとう! レイも新しい家族、リベイラの事ヨロシクな!》


『それはもう! お任せください! リンクしたら人類が嘗て味わった事の無い、究極の快楽へいざなって差し上げます!』


《ソレは、ヤ・メ・レ! おっと、そうだ、君の事も伝えなきゃ》


『もうお話してますよね?』


《ちょっと静かにしててね、あと、ファンファーレ五月蠅うるさいから。もういいから!》


[リベイラ、それで、君に話しておく事があるんだ]


「…ちょっと待って。……良いわ。どうぞ」


[同期リンクした後、多分、相棒レイがチョッカイ・・基、相棒を共有する事になると思う]


「え!? 私が『賢者』を共有・・するの? そんな事、可能なの!? ちょっと想像して無かった…」


[そうなの? だってリンクするなら当然…]


「ううん、伝承譚に登場する『賢者』は厭くまで一人の英雄の中に寄添う、もう一人の英雄と言っても良い存在なの」


[うん?]


「二人で一人の「英傑」なの。伝承でも数多あまたの英雄を率いる、卓越した知略を発揮するんだけど」


「それでも、未来を見通してると云わんばかりの奇策が、周りに理解されず裏切りにも合って、何度か危機に直面する度に、皆に英知を満遍なく伝える事が出来ない。と悔やんでいたの」


「貴方の『賢者』はそんな垣根を超えられるの?」


《どうなんだ?レイ、君なら問題ないよな?大丈夫だよな?》


『全く問題ありません。思考その物が理解不可能なタイプなら兎も角、これだけ意思疎通コミュニケーションが取れているのなら、私はおろか、代用プロトコル(メディ君? でしたか)でも可能でしょう』


[全く問題ないってさ]


「そうなの?! なら、貴方の相棒は『大賢者』いえ、『星を渡る者』として、もう覚醒しているのね」


[?まぁ、多分そうなんじゃないのかな?]


《なんだろ?最初から別の星から来たって言ってたんだし、そう理解したと思ったんだけど》


『詳細が不明で検証は必要ですが、原住民の伝承いいつたえですので……何らかの記憶媒体が在れば速いのですが』


[そう言えば、君の故郷には何が或るんだい? 伝承を伝える人とか? または遺物とか、かい?]


「…そうね。まだ話していなかったわね。各機械都市には「至言の理」というオベリスクが或るの」


[オベリスク? 石碑? じゃあ遺物なんだね?]


「そんな簡単な物じゃないわ。私達、機械人マシーンナリーはね……」


 リベイラの話によると、この世界で機械人は、共同生活ひみつのこういを重ねた夫婦パートナー何方どちらかに新たな意志の存在が確認されると、機械都市に必ずある、特別な装置を介して誕生するとの事。

 元々その姿は大抵、球形や多脚型四角柱等、といった簡素な個体なんだそうだ。大体1m未満の「可愛らしい存在」らしい。因みにそのままでは「機械人マシーンナリー」とは認められず、単に家族補助メイドとして登録される。


 最初はその姿で夫婦の生活を補佐(所謂メイドロボ的な)をするのだが、個体差はあるが、その内自我を欲すると、自力でオベリスクに向かうそうだ。無論当該夫婦が、若しくは不在の場合は先達の家族が付添う。


「その姿は一生懸命で、とても心に響くの。見掛けると先ず皆が道を譲ってくれるわ」


 オベリスクに辿り着いた個体は、そこで「対話」し、取り込まれると新たな躯体を獲得し吐き出される。

 この時例外はあるが、ほぼ「人型」になる。

 そこで初めて「機械人」として覚醒、家族として認定し行政登録されるのだ。

 ここからが「機械人マシーンナリー」の人生と云う訳だ。


「「至言の理(オベリスク)」にはね、人生でもう一度訪れる事になるの」


 機械人マシーンナリーに取っての一大最重要転換期メインイベント「成人の儀」は、幼体で過ごした個体が、まさしく成人となる変化の時である。

 機械人として初の覚醒を終える時、オベリスクの中では自分の成人化が何年後か、を記憶に転写されるそうである。

 それこそ個体差が生じるが、リベイラは僅か5年で成人化したとの事。


(おませな娘だったんだな。えぇ? ちょっと睨まないで。…なんで解ったんだろぅ)


「大体想像つくのよね。別にマセてるって訳じゃないの! これでも神童とうたわれたんだから!」


 補足するとオベリスクとの「対話」では、特に意志の力がその効力を発揮する様で、どれだけ意志を貫くか、且つ具体的に己の姿を想像するか、で変化後の姿形が決定されるとの事である。

 但しそのエネルギーは相当なモノで、一度変化すると、不満は合っても大抵もう二度と同様の精神力エナジーは出せない。

 と諦めるのが一般的だそうだ。


「男性は換装BOXで着替える感覚が或るけど、それも「変化」って訳じゃないし、女性は基本的にこのままね」


[ふ~ん、でも「若くは無い」って最初に言ってたけど、実際君は幾つなんだい?]


「ん~そうね。女性に歳を聞くなんて失礼だけど、もう夫婦になるんだし良いかな。」


(あら、やっぱそうなるのか? でも夫になるんだし、知っておいた方が良いよな)


[そうだな。先に言うよ。俺は(多分)今年で__になる]


「え……そうなの?! なんだ良かった! ……私よりずっと年上じゃない!」


 ……ドキドキ


「私ね、機械人として覚醒が早かったから色んなお仕事もしたの……数えて(ゴニョゴニョ)」


(え! マジか!? 全然年下じゃん!)


「……もう後悔してる?」


[ハハ! なんで? まさか。寧ろこんなおじさんで良いのかい?]


「それこそまさか。だわ……愛してるわ。スタイ」


[あぁ、俺も君を愛してる]


 さぁ! これから目くるめく甘い展開に期待を膨らませ、彼女の手を取り自室に洒落こもうと立ち上がると


『マスター、海中から動体反応です。原生動物と思われますが、相対速度からこちらに接触する様子です』


 ……間の悪い奴め。


「どうしたの?」


 ふと立ち止まった俺に、怪訝な表情を向けるリベイラに事情を説明する。


「軽く捻っちゃいましょう!」


[あぁ、人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえ。ってね]


「フフフ。面白い言葉ね。ね、スタイ?」


[なんだい?]


「……ううん、やっぱり後でいいわ」


[んじゃ、とっとと終わらせて聞くとしよう!]


 俺は喜び勇んで獣車から飛び出ると海中の影を睨み付けた。

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