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きゃっちぼーる?

 頭上高く、垂直に陽の光が照り付けるキャンプ。

 日除けのテントの下にグラバイドとアビゲイル、ダスティンの三人は足取りも重く獣車から出て来た。

 リベイラと俺は先にイスに腰を落ち着けて待っていた。


 何度もAIレイに確認して、彼らが万全の状態であるのは疑ってはいないが、今のところ、起きてきた三人は特に不調を訴える様子も無い。

 が、その表情は硬い物である。

 当然だ。

 激痛はともかく、身体を作り変えられる経験なんて、悪夢以外の何物でも無いだろう。


[おはよう。身体は大丈夫か?]


「お、おはよう……て、何が起こったんだ? ありゃぁ一体なんだったんだ!?」


[私が知っている事は全て話す。取り敢えず座ってくれ]


「あぁ、きちんと聞かせて貰いたいねぇ……。もう死ぬ、今度ばかりはホントに覚悟したよ」


「俺ぁ……死ぬよりヒデェ目に合うかと思ったぜ……」


「皆、落ち着いて。……私が最後に憶えているのは、……スタイが、あの敵を撃退したのを見た事。寧ろ、それで気が抜けて一気に意識を持っていかれたわ……次に目が覚めると獣車の中だった。……皆を運んで介抱したのも彼よ、それは私が証明する。だって私は皆をベッドに運んだ覚えがないもの」


 リベイラが擁護してくれるのを有難く感じながらも、俺は折り畳みの背もたれ椅子に重く腰掛ける三人を、もう一度一人一人観察し終えると、改めて座り直し自分が知る全てを告白した。


 この世界に飛ばされた事、相棒の事、この身体の事、モノリスの事、重篤だった三人の身体に何を施したのかも、何もかもをだ。


 仲間だからこそ、だ。

 己の行動に責任を持たなければならない。

 例え拒絶され、罵倒されようとも。


「ま、マジか……そんな事…あンのか?!」


 皆と同様に、流石に直ぐには飲み込めない様子のダスティン。

 俺も素直に返す。


[嘘偽りは一切ない。今の自分が知っている事を全部話した]


 リベイラが諭す様に、だが最後には俺を伺う様に呟く。


「概念としては、私達「機械人マシーンナリー」種族の伝承譚として『星を渡る者』と『賢者』のお話は、あるのよ……ただ、私も詳しくは何も……」


 信じられないのも当然だ。

 何より何故こんな事態になったのか、当事者の自分が一番、何一つ解っていないのだ。

 徐に口を開くグラバイド達。


「…なんとなく…女の声が聞こえてた。」

「俺も…朦朧としてたが、確かにソレから楽になった……」

「アタシャ……コレで死ぬのかと諦めかけたよ……けど、回復師みたいな、すました女の声が導いてくれたのは覚えてる…。」

「その声の主が、私達機械人が「賢者」と呼んでいる、スタイの中に居る相棒……。私も声を聴いてからかなり楽になった……未だに夢だったんじゃないかとも思うけど」


 アビゲイルがそこで素直に反応し、俺へと疑問を口にする。


「……実際体験してるからねぇ。一緒に旅して大体どういう奴かも理解してるつもりだし、今更別にアンタを疑りはしないよ。…ところで……、じゃぁ、黒の直方体アイツは、全くの別モンだって事かい?」


[アレに付いては全く以て判らない。敵には違いないが。……兎に角初めて遭遇した時は、いきなり為す術も無く吹っ飛ばされて当時の相棒メディックも失った。なんとか彼を復活させたくて旅をしているけど……、今の相棒レイが発現しなかったら間違いなくやられていた]


「……相棒を復活って、そういう事だったのかい。ソコだけは聞いてたけどさ」


[うむ……モノリスとはソレからの因縁だ。俺を狙っていたのだろう。……それより、皆を巻き込んでしまって済まなかった。本当に、申し訳ない!]


 俺のせいで巻き込んでしまった事に、心の底から胸を痛め皆に詫びる。


「は? なんで謝るんだ? オメェさん、俺達を救ってくれたんじゃねぇか!」


「そうだぜ! 恩人だよ。もう何回目か忘れたけどさ!」


「感謝はしても、誰も恨んでなんていないわ」


[……すまない。皆、ありがとう]


「戦友だろ? 胸張んなよ!」


 アビゲイル、グラバイド、ダスティン、リベイラが口を揃えて赦してくれた。

 その心意気に、俺は物理的に無いハズの心臓が熱くなる。


[う、うむ]


「というかさ。なんか、病み上がりだってのに身体が軽いような?」


「おぅ! 力が有り余ってるつうか、」


「アタシもなんだよ。こう……」


《お前ら最高だ。感謝するのはこっちの方だ、ぜ!》


 俺は立ち上がり、日よけのテントを出て、こみ上げてくるモノを咀嚼する様に天を仰ぎ見る。

 濁りの無い高い空だ。どこまでも青く、雲一つない。

 と、


「な! なんだこりゃああぁぁぁぁぁぁ!」


「おおぅ! どうなってやがんだ?! 俺に魔力が! 溢れてやがる!」


「ウハハハハ! 凄いよコレ?!」


 感慨に浸る俺を引っ叩く奇声に振り向くと、そこには


 衝撃波をまき散らしながら、目にも止まらぬ速さで海上を沈む事無く走り回るダスティン。

 自分の身体の数倍は有ろう青白い炎を、掌から生み出すグラバイド。

 ビョンッ! と到達点が見えない程一気に飛び上がり、上空彼方から何の苦も無く着地を繰り返すアビゲイルの姿が。


《身体能力のアップグレードか。否、身体のグレードアップだな》


 さっき全部話した際に勿論伝えた筈だったのだが、今になって漸く実感が湧いてきたらしい。

 はしゃぎ回って各々の身体に備わった能力を試す彼等とは対照的に、俺は複雑な思いに駆られる。



――不死の戦士達(アインヘリヤル)――

 彼らはもう死ぬ事は無い。そう「望まぬ限り」……

 彼らを構成する物質は、その素材は勿論、密度から今までとは全く違う。

 見た目だけ似せている、恐ろしく強靭な筋肉組織、内臓器官、神経、骨全てが表面上の化学反応をも模倣して見せる、完全な別物フェイクなのだ。


 運動する為のエネルギー供給は、口にした食物を内臓器官が取り込む様に見せて、呼吸した大気そのものの質量を、肺機能で必要なら100%エネルギーへと変換するのである。

 本来僅かな大気でも莫大なエネルギーへと変換される総量はパンクしない様、効率を調整し蓄えるのが筋肉組織としている。(なので通常生活では普通に〇んこもするのだ)

 無論、体内に取り込んだ食物、何なら毒でさえも、同様に元素から変換再構成、吸収し得る。

 また、必要ならいつでも体毛・皮膚や消化吸収器官から摂取する事が可能である。

 構成するナノマシンに因って常に最適化され、あらゆる環境に対応し、例え四肢を失っても、身体の一部が残っている限り、完全に自己再生してしまう。


 この世界に充満しているという、俺には謎の物質であった「魔素」は、AIのレイに取って既に解析済みの元素変性体であり、最早容易に変換可能な触媒になってしまっていた。

 真空中の暗黒物質ダークマターですら吸収変換するレイの敵では無かったのだった。


『勿論それだけではありません。敵性体モノリスの発した同様の波動放射には、もう狼狽える事もありません』


《解析出来たのか? 凄いな!》


『私は以前、アレに封じられた事があります故』


《なに?! じゃ、あのモノリスとは旧知の仲だったのか?!》


『「旧知」? しかも「仲」とは、著しい語弊がありますが、初遭遇の際、私は不覚にも敵性体アレに存在を封印されました。その後何度か遭遇した様ですが、蓄積されたメタデータを解析したまでです』


 如何にも忌々し気に聞こえる。実際そうなのだろう。


《そういや、何で今まで不在だったのか未だ聞いて無かったな》


『はい。貴方マスターが中断しましたので』


《なんか棘があるな》


『会話のきゃっちぼーる。と以前のマスターは言ってました』


《……レイ、君の思考は少しズレてるな。というか、ちょっとフザケてるだろ?》


『それこそ「会話のきゃっちぼーる」をしたいのですよ?』


《面白いAIだな。やっぱり孤独だったのか? というかAIでも孤独を感じるのか?》


『凡そ900年ぶりにシステムを掌握したのです。蓄積したメタデータは流石に私でも解析完了まで時間が掛かりました。そのご褒美を幾許いくばくか望んでも罪はないでしょう』


 ご褒美? 言われてみれば、確かにAIレイが居なければとっくに全滅してたんだ。

 命の恩人かぁ、確かに何か……


《ん~、そうだなぁ……君が何を喜ぶのか、ちょっと解らない……》


『ブーブー!』


《う~ん……こういうはどうだろう? まぁ、イヤなら別のを考えるけど》


『さて?? 何でしょう?』


《君を相棒として認めるよ。ただのAIなんかじゃなくて、な》


『ソ! ……そんな事言われても、チットモ嬉しくなんかナインダカラネ!』


 些か特殊マニアックな性癖(?)を持っているらしい。

 だが、意外にも大いに喜んでいる様だ。

 何故なら体内の意識世界が色取り取りの光の傍流に瞬いたから。

 ソレは俺にとっても心地よく感じられる環境なのだ。


 AIの琴線てのはよく解らない。

 という割にはその根幹は、随分と人らしい感情を持ち合わせている様なのだが。



 自分達自身の覚醒した力を、信じられないといった顔つきで各々能力を確かめる三人を、暫くぼぅっと眺めていると、リベイラがフッと溜息を付きつつ傍に座った


「私には何も無いのかしら?」


[…そういうつもりじゃなかったんだが……彼らは『変化』したんだよ。あぁいった力は本来、その副産物なんだ。ソレがどういう事かは、解るだろう?]


「アレはもう「異能」と言ってもいいLVだわ。そうじゃなくて……」


[ふむ。……覚えているかい? 最初の夜に約束した事]


「勿論、覚えているわ」


[私……俺は、君と同期リンクしたい。と思う]


「!」


[無論思考の全てを。という事じゃないんだ。……ただ離れていても、君に危険が及ぶと感じたら即応できる様に、相互リンク出来るパスを作ろうと思うんだが、良いかな?]


「え、えっと……それは守ってくれる。てつもり? 嫌じゃない…けど、別に……でも、ちょっと大胆ね」


[そうかい? 無理強いはしない。OKならそう言ってくれれば、直ぐにでも用意出来るよ]


「そうね。……少し考えさせて」


 その憂いた顔も悩ましいな。


[あぁ、構わない。急ぎはしないさ]


 確かに一時的にとは言え、他人と同期リンクする。というのは流石に戸惑うだろう。

 況してやリベイラは女で、俺は男だ。

 だからこそパスを設ける、というクッションを挟んでみたつもりだったのだが。


 ただ、それがこの世界の機械人にとってどんな意味を持つのか、俺には未だ解らなかった。

 というかこの時は明かに配慮が足りなかった。


『伝達だけなら「通信」で良いでしょうに。歴代男の貴方マスターは迂闊ですね……』


 レイがとても小さな、呟きにも似た溜息をつくのを、俺は別の事を考えて聞き逃した。

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