表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/100

変化の兆し

『敵性対象の消滅を確認。撃退したものと推測します』


《お前は一体誰だ!? メディ君じゃないのか?》


『私は「レイ」。このシステムの主格メインAIです。』


主格メインAI? メディ君の他にもAIが在ったのか?》


『マスター、今は他に優先すべき懸案あり』

『原住民三個体は、既に「敵性対象モノリス」にる不可逆的変異を開始。このままでは凡そ10時間後には、完全に別種の個体として変貌します』

『このまま見捨てますか? それとも』


 …なんだと? それは


『元の自然な生命体として尊び死滅させますか?or変化を制御し我等の同胞はらからにしますか?』


 俺の応えはとっくに決まっている。が、確認はしよう。

 崩れ落ちる様に膝を付き反応の無いリベイラには、変容の兆しが無い事を、俺は何故か知っている。

 

 異形に歪み、恐らく想像を絶する恐怖と苦痛でのた打ち回り、最早正気を保っていられない様子のダスティン。

 よく見ると頭や目からも小さな手の様な触手がざわざわと蠢いていた。

 苦しいだろぅ、痛々しい……。俺はその顔に手を当て、尋ねる。


[苦しいか。今お前の身体はモノリスの影響で別の化物ナニかに造り変えられている。俺ならその変化を制御する事は出来る。どうする、楽になりたいか? それとも生きたいか?]


「ぐぅ、苦…しぃ……ぃ…何言って…けど……死に…たく……ない」


[人では無くなるかもしれないが、其れでも良いか?]


「俺…は生…きた……い!」


[わかった]


『元素変換、及び生体チューニング開始』


 かざした俺の腕の周りから何かが投射される。

 すると、のた打ち回っていたダスティンが、謎のフィールドに覆われていく。


《出来るだけ機械的にはするな。見た目だけでも元の身体に見える様にしてくれ》


 言ってる間にダスティンの表情から、少しずつ苦悶が消えていく……


『問題ありません。元よりそういう仕様なのです』


《それは僥倖ぎょうこう、他の二人はどうなってる?》


『意識を失っている為、承諾の是非は無意味。死滅or改造どちらも準備完了しています。但し時間はあまり』

《決まっている。「生存」だ》


『了解。……今後、この懸念に関して一切の生殺与奪を確認しません』


《うん? ……なんでだ?》


 その体内会話の間にも獣人二人、グラバイドとアビゲイルに謎フィールドが発生した。


『人として述べるなら、今のマスターの物言いは「横暴、ズルい」と判断しました』


《……ず、ズルぃ? ……フン、まぁ、確かにそうかもな。「レイ」と言ったか。お前本当に、メディ君とは違うんだな》


『主格不在の際の代行プロトコルに則った仮想AIですね。現在私には知覚されません』


《……後からソレも話して貰おう。お前に解る事、全てな》


『私も確認したい事があります故、やぶさかではありません』


 随分と生意気なAIである。

 因みに声は落ち着いた、若い女性に感じられる。

 俺は意識の無いリベイラを獣車の中に運ぶと、この「レイ」と名乗った(自称)主格AIと話をする事にした。


《では話を聞こう。先ずはレイ、君の事だ》


『「お前」では無いのですね、若干の待遇改善と認めしょう。質問をどうぞ』


《…んん? では、君が主格AIであるとして、何故今まで居なかったのだ?》


重大主要イベントリログだけでも膨大になりますが、ご覧になりますか?』


《……ログを、掻い摘んで、話してくれ》


『畏まりました。私は、最初のマスターと共に、今より絶対時間で1400周期前に初期登録され、地球人類型主観時間で凡そ1世紀程の間、共に任務に付いていました。第一次任務完遂後、』


《おい? ちょっと待て。確か、今は銀河連邦時間で470年代とかじゃなかったか? 君は何時の時代のAIなんだ?》


『今は銀河連邦標準時1517年です。システム上、誤差は有り得ません』


《え? レイ、君が誕生したのは何年だ?》


『「製造」では無く、「誕生」なのですね。素直に嬉しいです』


《そ、そう? それは良かった。……で?》


『私は銀河連邦標準時115年に誕生、(製造)登録されました』


《どういう事だ? メディ君が間違っていたのか??》


『主格である私は、常にメタデータ・リンクしていますが、補佐サブに過ぎない仮想AIならば或は。または、意図的にミスリークされても今の貴方マスターでは、データ齟齬の確認は不可能です』


《……何のために俺を騙す必要が? ……それに、それなら俺に、そのメタデータとやらにアクセスさせてくれ!》


『元より承知。貴方マスターをサポートする事が私の存在意義です。……メタ・リンク・アクセスを受諾。知覚化する為に精神同期します。此方へどうぞマスター』


 グリッドに扉が現れ、「其れに触れる」と認識すると、世界が一変した。

 

 煌びやかな瞬きの後、目の前に途轍もなく巨大な本棚の群が、文字通り壁となって出現した。

 上も下も、左右すらどっちにも両端が見えない。

 あくまで俺に判り易い様に用意したイメージなんだろうが、コレは……。

 明かされた過去データは、俺にはどうにも出来ない膨大な量であり、想像を絶していた。


《……ちょっと、あのぉ、レイさん?》


『はい、どうしました? マスター』


《えーっとですね……。こんなの、どうしたら良いかさっぱり判らんのだが?!》


 比喩では無く、最早容赦の全くない、眼前にそびえる巨壁。

 自分が突然アリンコにでもなった気分だ。

 コレを一体俺に、どうしろと……??


『ええ、そうでしょう。その為に私が居るのです。何を知りたいですか?』


《うーん……。メディ君は、この中には居ないのか?》


『私には知覚されていません。が、ロックされている所が複数あります』


『欲しいデータが見つかるまで、アンロックしていくしか無いでしょう』


《どうやるんだ?》


『アンロックする所を指定してください。マスターが認識しやすい様、私が具象化します』


 目前の壁でしか無かった巨大な本棚群が内破し、替わりに広大な意識世界が具現化された。

 その世界の空中に、自分の身体がポンっと出現した。現実のロボ姿のままである。


 俺は自分の身体を確かめてみる。

 感触は現実と何も変わらない。ただ、面白い事に自分の姿自体を後方から確認する事が出来た。


 具現化した世界は宇宙空間を模した様で、銀河や星の瞬く遠景をバックに、大小様々な光源が浮かんでいるのが見える。

 その一つ一つを注視しする度、光源が大きく強調され、中に何が格納されているのかが、判り易く表示された。

 まるでマウスポインタでホバーした時みたいな……


《そうかこの姿(コレ)、アバターみたいなモンなのか…》

『はい、マスターにはこの方が認識しやすいかと思いまして』

《あぁ、確かに解り易い……やるじゃないか、レイ》

『恐れ入ります』


 何となくドヤった感を滲み出していたが、敢て触れない。

 なんかコレ、弄ったら負け的な奴……。

 にしても、「思いまして」か。まるで人の思考そのものだ。


 暫くの間、目に付くデータを片っ端から覗いていると、少し離れた所に黒い不可視の何かが浮いているのを見つけた。

 

《アンロックて、…これかな?》


 それを指差すと、此方に吸い寄せられる様に接近したと思ったら、目の前に施錠した扉が現れた。

 それは何重にも頑丈な鎖で巻かれ、随分と厳めしく重々しい扉である。


《……で?》


『ロックされたデータを見つけましたね。面倒なので安全鍵セキュアをオーバーライドします』


 オイオイ、結構乱暴なんだな。


 バキン! と、鎖が粉々に砕かれ、両開きの扉が内側から開いていく……。

 徐々に明らかになっていく中の様子を覗くと……


 そこには信じられない物が映っていた。


《な?! コレ俺の記憶から具象化しているのか? 凄いな! こんなリアルに作れるのか!》


『マスター、注意してください。ソレは私が具象化したモノではありません。……コレは』


『まさか他時空間が存在しているとは……否、プランク長に折り畳まれた、ゲートの様です』


 何時の間にか、躯体アバターから扉の外側に固定する様な光のチェーンが伸びていた。


《なんだって?! じゃぁアレは本物?! 現実リアルなんだな?!》


 それは忘れようもない、見覚えのある光景。

 前世(?)ではTVでしか見た事無いが、宇宙空間からみた地球であった。

 日本列島の形をした陸を発見すると、どんどんアップされ東京、大阪、福岡等紛れも無く懐かしい景色が次々と広がってくる。


 てっきりAIレイが俺の記憶を具象化したのかと思ったのだが……。

 AIレイの反応を見る限り、どうも本物(リアル)映像の様だ。

 まるで魅入られたかの如く、俺は食い入る様に見つめてしまう。



《……帰りたい。》


 今まで敢て考えない様にして振り切った筈の過去が、いざ目の前に現れると、俄かに強烈な郷愁が込み上げてきた。


『マスター……無理もありませんが、異なる時空間に置いて現状のまま飛び込んでも、明らかに現実には到達出来ません』


《……じゃぁ、充分な準備をしたら……戻れるのか?》


(俺は……、こんなに帰属意識が強かったのか?)


『不明です。せめてこのゲートと、彼方の世界を解析出来たら良いのですが。意識体に過ぎない状態で物理干渉は不可能です。何より意識体が操作・認識可能なデバイスを、直接彼方に持ち込む術がありません』


《!?そ、そうだった。ココは》


 データ上空間と認識しているだけで実体は無いのである。というか身体の中の極小スペースでしかない。


《どういう事なんだ?》


『判りません。ただ、解析は並行して行ないます故、吉報をお待ちください』


 拍子抜けした所為か、其れとも懐かしさの余り興奮し過ぎたのか解らないが、急激に疲労感が出てきた。


《…あぁ、勿論任せる……。ただ俺はちょっと休む。なんだかとても疲れた》


『了解しました』


 それから俺は丸1日何もせず、剛鎧魔虫プロトンの世話をしたり、謎のフィールドにて体調を回復させようやく起きたリベイラに新しい仲間(AI)の話をしたりして、時間を潰した。

 変化中の三人を見ると、謎のフィールドは既に見え無くなっていた。


 意識の無い三人を獣車へ改めて運ぶと、彼らは三日間眠り込んだ。

 リベイラは未だ本調子では無さそうだが、俺と交代で甲斐甲斐しく看病していた。

 ソレから三日後、三人が起きて来た時、レイの宣言通り見た目はそれまでと何ら変わりは無かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ