過去と今と俺とAIと
書き溜め無くて申し訳ないです。
『敵、対象の消滅を確認』
あっと言う間に、展開されていた四肢や武装は真ん丸ボディに収まり、元のボールに戻った。
あーあ、折角の俺の雄姿が。
《えっと…、メディ君? コレからどうしよう》
『マスター、取得していたデータの復元は完了しています』
『但し、その大部分は失われ、再取得は不可能な状態です』
《そっかぁ、大変だね。それで?》
『帰還に必要な物資と情報を調達する為、この惑星をくまなく探査する必要があります』
《うんうん》
『目的地を設定。先ずはココへ向かって下さい』
グリッドに点滅する光点が示される。
んん? 結構遠いのか? あれ? そういや俺、飛べそうじゃん?
スラスターノズル(?)も中に格納してんだしさ。
『尚、現時点で資材が不足している為、ビット(子機)は作成不可です』
《ムム? どうもイマイチ判り難いな。メディ君、今俺が使える、兵装とやらを教えて》
『了解しました。〔大気圏型惑星内仕様戦術兵装〕=WLRⅡ……』
延々と続く兵装仕様に半ば呆れつつ、その恐るべき破壊力を思い出し身震いする。
が、直ぐに飽きてきた。大体…多過ぎるっつーの!
《うーん、思考リンクとか…もっとこう、パパッと詰め込めないかな》
『マスター、機密保持プロテクト介入の為、実装開放以外の装備は開示出来ませんが、マスターと私が共に成長する事により徐々に開放されていく仕様となっています』
『今のマスターは形容すると別人の記憶がメインになっている様で、凡そ効率的とは言い難い人格かと思われます』
『共通する知識、見識が懸け離れたまま思考リンクすると、今の人格を破壊する恐れがあります。』
バレてら……ま、当たり前か。
《で、それが判ったらどうする?》
『特に問題ありません。私が認識するマスターは元々複数の人格を備えています。「人」の内包する矛盾は私(AI)には再現出来無い「ゆらぎ」です。マスターと私(AI)の練度が高まる度に、任務遂行の上で通常達成不可能な結果、を覆す事が可能だと期待されています』
《ふ、ぅん……なんか…壮大な計画だけど、ソレって危うくないか?》
『私の基底倫理概念は、そうデザインされています』
《そっかぁ…。まぁ、改めてよろしく頼むよ、メディ君》
『承知です。マスター』
俺は心の中で絶句した。
と言うか、いくら何でも……あり得ないだろう……
今のメディ君の話は、社会的にかなり成熟した高度な思考の上に成り立つ代物である。
但しそれは、開く迄理念とか概念での話だ。
しかも「司令部へ合流」と宣ったという事は、軍事機密をも持つAIだろう。
それが内包する武装は、ザっと提示されただけでも気の遠くなるような兵器群と、聞いただけでは想像すら追いつかない物ばかりであり、そんな機能が満載の超科学の結晶なのだ。
通常、軍事兵器に「不確定要素に期待」等、そんな利害予測を全く無視した論理は、検討すら却下されるであろうとは、流石に自分でも解る。
そういう重要物の、制御機構自体に『ゆらぎ』などという不確定な要素を盛り込み、設計思想に取り入れる、とは一体どういう事なのか。
穿った物の見方をすれば、それが齎す利益が、与える被害よりも遥かに大きいと認定されば、或いは有得るかもしれない。
若しくは、アレだけの武装を内包した探査機が、外宇宙で何をしでかしても、全く度外視してOKな環境であると言う事?……。
それがどれだけ俺の(覚えている)故郷と、かけ離れた規模であるかを、まざまざと見せつけられ、自分が完全に異邦人である事を今更ながら実感させられたのである。
……大丈夫なんだろうか……
ただ、何となくだが、このAIの説明する言葉に、今の所嫌なニュアンスは感じない。
虚実を決するには余りにも比較要素が無いが、開く迄直感的には。という塩梅である。
それにしても、と溜息が出る。
一体何百年、何千年経った後なのだろうか、と。
あくまでこの、メディ君達の居る世界が、俺の故郷の未来だったとしてだが。
だって解ってしまった。
最初の《起動》が漢字であり、何よりソレが表示される直前、文字列が羅列したあの瞬間にも日本語や英語、アラビア文字、ギリシャ文字(全てらしきもの)、他にも見た事のある文字群が浮かんでは消えたのだ。
……まぁ今は大人しく言う通りにするのが望ましいだろう。
何より今の俺が、他にどうこう出来る事は無さそうだし、な……。
取り敢えず俺(達)は目的地を目指し、移動を開始した。推進機関は身体の中なので無論文字通り転がっている。
コロコロコロ、トン、コロコロコロコロ。
ほのぼの~とした感じだが、実際は時速200km以上は出ている。
すぐ脇の緑や、時折奥の薄暗い風景が、横長の残像を帯びて飛ぶ様に流れていく。
因みに大樹の間を縫う様に疾走している。
不可抗力で出来上がった新道とは方向が違うのだ。
何せ地形が変わったかもしれないのだ……ビビッて逃げた。
ともいうかもしれないけど。
《そういや、今って何年なの? 西暦?》
『AG(銀河連邦標準時)476年です。因みに西暦とは過去5500年前、古代地球人類が宇宙に飛び立つ前に使用していた暦です』
《そ、そっかぁ……》
今更もうどうしようもない。今は目的があるだけマシだ。
気長に、先を急ぐ事にする……
西暦の後は宇宙歴であったとか。
銀河連邦に加盟している種族は主に四つの大文明圏だとか。
道中色んな話をメディ君から聞いた。
飽きもせず応えてくれるのが地味に助かる。
相手が機械とは言え、それ程孤独に感じないのは有難いな。と俺は痛感する。
……どの道、艦隊司令部とやらに帰還しなければ、何がどうなってるのかさえ、判らんだろう。
そこで俺自身どうしたら良いのかジックリ考えればいい。
出来れば故郷に帰りたいし、この小さな体に入ってる理由や、元に戻れるのかも、当然知りたい所である。
もしどうにも出来なければ……その時はその時だ。
今はネガティブな事案は考えたくない。
訳の判らない現状に、俺は敢て思考放棄、現実逃避するしか無かった。
いや、現実を飲込み、立ち向かうと決意した。と考えよう、せめて……
転がり抜ける途中で何体か恐竜モドキらしきものや、見た事も無い生物の群れを見かけたが、全て無視した。
面倒だったから。
向こうも追ってくる処か、反応自体が薄かった。
まぁ謎の高速球が一瞬駆け抜けて行っても、何が起こっているのか理解できまい。
そうこうする内にそろそろ目的地周辺に差し掛かる頃だ。
もうかれこれ3時間近く走ったから、500km以上は走破した事になる。
にしても、疲れは全く感じない。便利な身体である。
周りはニ三分程前から極端に緑が疎らになり、最後には草木の存在しない、岩肌が剥き出しになった岩石山岳地帯に差し掛かっていた。
《アレか……おや?》
グリッドに矢印が浮かび、目的地周辺の景色が小窓にピックアップされる。
どういう原理かよく解らないが、見ようと意識するだけで途中の障害物に遮られて明らかに直視出来ない筈の目標が、小気味よくズームされていくのが便利だ。
聳え立つ山の麓、小高い丘の上に縦に切れ目の入った大きな洞穴が見えてくる。
その洞穴に続く比較的平らになった、広くなだらかな坂に違和感を感じ、急速に速度を落とした後、近くの岩場に身を潜める。
翳り始めた陽光を受け、岩場の影が辺りを暗く覆っていた。
《なぁ……コレ山道、じゃないのか?》
『分析完了。目的地までの道のりに加工された跡と、複数の生物の痕跡(足跡)と視られる物を発見。更に奥の目的地周辺には生体反応があります』
《人、かな?》
『恐らくは。又傾斜、道幅へのある程度均一な密度から、稚拙とは言え、少なくとも土木、建築加工技術を有す可能性が高い。と思われます』
《ン~……そうだ、俺しゃべれるのかな?》
『翻訳するのに若干の時間は必要ですが可能だと思われます』
マジかよ、思わず聞いてしまったけど……
流石、銀河規模の文明の利器て凄いな。
『生物として同系統であれば異種族間であっても、ある程度の予測で瞬時に「言葉を発する種族であれば」意思疎通が可能であると断定できます。コレは銀河間のみならず、ある一定の宇宙規模では証明されたプロトコルに基づいた推論です』
ほほぅ?て事はココは完全に未開域の惑星て訳でもないのかな。
『いえ、残念ながら深宇宙探査に於ける3dステージ範囲に設定されています』
《それは、どういう意味?》
『3dステージ……同時接続不可能領域、及び帰還可能率が一桁未満の宙域です』
聞かなきゃ良かった……
『マスター、御安心ください。例え現状可能性が1%を割ったとしても、私とマスターが整合性を高めて機密保持プロテクトを解除していく事で帰還可能率は跳ね上がります。寧ろその為の現システム構成なのです。我等の文明圏と接続さえ出来れば、その瞬間に帰還は確定します』
《おぅ、そうなのか?!》
……少しだけホッとした。今日聞いた中で唯一、先行きが明るくなった気がしたのだ。
お蔭でなにか、心持ちまで軽くなった気がする。
《……じゃあ、メディ君、お願いね!》
『承知です。マスター』
俺が其れ以上何も考えず、ウッカリ動き出そうとした瞬間
『ステルス発動。重力制御出力調整最適化完了。そのまま進んでください』
《おっと! 流石凄いな! メディ君は! んじゃ、突入しますか》
俺の一挙手一投足を瞬時に拾い上げて(と云うより先読みか?)即応するメディ君に舌を巻く。
どんな奴が待ち受けてるのか。俺は少し胸(?)が昂るのを感じながら洞穴に入っていった。
設定は諸々出てきますが、突然の仕様変更がなんどもあります。
生暖かい目で応援よろしくお願いします!