再出発
「これから長い旅になるけど…。皆、本当に良いの?」
ココは「トラム市街」から約半日程歩いた街道沿いの広場。
あの飲んだくれた翌昼、結局見送りにきた二組のカップルに再開の約束をし、頭を抱える野郎二人をせっつきつつ出発したのだ。無論俺は二日酔いとは無縁である。
周囲に魔獣除けのアイテムと魔法を施し、夜の帳が下りる中、少し風が出てきた野営地の焚火の前で、リベイラは衣服に付いた埃を叩き乍ら、遅い夕食を共にした皆に問う。
因みに現在、彼女はこの〔明けの星風〕の最古参になる。
今更ながらその風貌は、体表は特殊な全身甲冑状のその物が、美しく成熟した女性らしい身体を形づくる。
まるで昔見たアニメに出てきた、左手が銃になった渋い男の相棒、アンドロイドの様な姿である。
当然、顔は有るがその目に瞳は見え無い。色は白いがかなり遮光されたコンタクトをしている様に見える。口元はマスク状のモノに隠されているが、食事の際にはきちんと外され、すっと通った鼻筋と、均整の取れた形の良い唇を垣間見る事がある。
驚いた事に人の皮膚の様な肌色に見え、マスクの下はとても肉感的に見えた。
ボゥっと初対面の印象を、改めて今と比べて見ても、相変わらず美しい。と考えていると
「なに? どうしたの?」
[いや、相変わらず美しいな。と思って]
「!?オイオイ、まさかの三組目か?」
「おめでたって……。子供が出来たワケじゃないんだから」
「あ、ありがとう。でも今は、ね」
[あぁ、済まない。……それで皆はどうなんだ?]
「俺は勿論ついてくぜ!スタイの兄さんといるとド派手なモンが見れるし!」
「そりゃリベイラはキレイだよねぇ! ……アタシゃ〔明けの星風〕のメンツだし、ついてくさ」
[いや、アビゲイル殿はまた違う、しなやかな美しさがある。例えて言うなら漆黒の闇夜に浮かぶ宝石の様な……]
「アビーに色目使うたぁ、良い度胸だ! ブッ飛ばされんぜ!(アビーにな!)」
「そ、そんな事初めて言われたよ……ど、どうしよう」
「え!? あ、アビー? おい…?」
「お黙り! 今浸ってんだよ!」
「身も蓋もねぇな。トホホ……あぁ、俺も勿論ついてくぜ」
「フーン……」
ジトーっと、リベイラに半目で睨まれた。
[り、リベイラさん? ちょっと後で話そう…]
「あら? 何を? 今で良いじゃない」
アバババ、藪蛇だ。針のムシロとはこの事だ。身から出た錆とも云う。
やっちまった感がヒドイ。八方美人の末路はこんなモノ。良い子の皆はマネしない様に!
「プププッ! スタイ殿でも困る事があんだな!」
おお! 心の友よ! この修羅場から救ってくれるのか! いいぞ! ケモリン君!
[面目無い……]
「ま! 安心したぜ。普段スカしてっから、ちったぁいい薬なんだぜ!」
オイオイ、調子コイてンじゃねーぞ。それぁ言い過ぎだ。
この毛玉めッ。が、俺も大人なのだ。ここは
[う、うぬぅ…め、面目ない。グラバイド殿もアビー殿を大切にな]
「ちょ! なんでお、俺が出てくんだよ! ズリぃ-ぞ!」
「そうよね。グラバイドも、もうちょっとアビーに素直になれば良いのに……」
「お、俺ぁいつも認めてンだよ。アビーが素直じゃないだけだって」
「へぇ? アンタが、アタシに、素直に、なんだって?」
「い!? いやぁ、ちょ! だから爪刺すなって! 割と痛えって!」
「…犬も食わないってか……あーあ、もう寝るか」
「それにしても…ブフッ。「う、うぬぅ」って…アハハ」
[いや、だから悪かった。勘弁して欲しい]
「アハハハ……良いわ。じゃぁ皆、明日も早いから。お開きにしましょう。…ブハハ」
「ハイハイ、おやすみなさいっと」
「おぅ!…イテ、痛ぇって(…なぁもう寝ようぜ、な。)」
「フン! (タップリ聞かせて貰うからね)」
[おやすみ……]
翌朝、何故かその特徴的な、長い毛足の身体のあちこちに、カラフルなリボンを付けた毛玉の獣人が!
「ファアア……! 良い朝だぜ!」
「おはよ! グラのアニキ、その恰好どした?!」
「ん? な、なんじゃこりゃ! アビー!?」
「なんだい? 良いじゃないか。可愛いよ? グ・ラ・バ・イ・ド」
「お!…か、カワイイ?? ……てオメー、アイシャじゃあるめーし……そうかぁ?……一個だけなら、ま、良いかな…」
「!?アニキ! マジか(敷かれてンなぁ)」
「あら、チャーミングね!」
「だろう? アタシがつけたったんだ!」
「アビー、イイワ! グッと可愛くなった」
[おはよう、グラバイド殿?! ……そ、そうだな。うん、アクセントになってイイかも……?]
「似合う似合う!」
「そ、そうか? ……グヘヘ」
あれだ。スターヲーズの映画に出てたチューバ〇カを膨よかにした毛玉獣人が、頭の天辺にリボンを付けた様な……そんな感じ。
ま、まぁ……可愛いのかな? 因みにリボンは赤と白のギンガムチェックだ!
なんだろうなぁ。需要? あるのかなぁ?
まぁ無いな。
そんなこんなで姦しく? 皆で朝食を取った。
無論〔明けの星風〕一行は「倉庫」を持っている。其々に上限はある様だが、それでも複数あると荷馬車が要らなくなる位は詰め込めるらしい。どうやら上級冒険者の必需品ぽいな。
其々身支度を整えると
「んじゃ行きますか!」
「おぅ!」
「ええ!行きましょう」
[皆。改めてヨロシク頼む]
「任せときな」
いざ出発。朝日を浴びて街道を進む。先ずは宿場町「ラジアン郷」を目指すのだ。
先は長い。何せリベイラの話では、故郷である機械人の国まで大凡数か月は掛かる道のりである。
《メディ君、もう少し待つんだぞ。必ず直してやるからな》
だが、俺はこの時ですら未だ気付いていなかった。というか完全に忘れていたのだった。
初めてこの地に降り立った時、最初に遺棄したポッドベースの事を。