予測不能
ギルドマスターと〔明けの星風〕が和解した日から三日経ち、今はトラムギルド大講堂にて特別集会が行われている。
全快したベゼルは、その見事な頭部の反射を煌めかせ、壇上に登っている。
因みに綺麗な輪郭である。俗に「似合っている」とも云う。
和解した後、ベゼルが野郎共を引き連れて風呂にいき、無二の戦友に倣って禊をしたり、俺は改めて名乗り今回の非礼を詫びて、久しぶりに素の球体に戻り、メンバーからもたいそう驚かれた。のはまた別のお話。
「(禿げたな)」
「(あぁ、眩しい程にな。)」
「(やっぱり今度は相当派手に暴れたらしいな)」
「(なんでも悪魔をブッ飛ばしたらしいぜ!)」
「(ほー!そりゃ難儀なこって!そんで魔力ごっそりイカレちまったか?)」
「(しかもマブイ(死語?)愛人までゲットしたらしいぜ!)」
「(そりゃ、毎晩ゴッソリイカれてンだろうぜ。ゲヒヒヒ!)」
「(マジかよ!?そりゃスゲェ!うちのギルマス、パねぇな!)」
「あー!、ソコ!一部だけ本当の事も伝わってる様だが、俺は禿げてんじゃねぇ!コレは無二の戦友との覚悟の証だ!」
「ギルドマスター、後は私が話します。貴方は最後に締めくくってください」
「あ、ハイ」
イセリア司教が引き継ぎ、(なんらかの魔法を駆使したらしいが)会場内が一気に厳粛な雰囲気になると、先程までの下賤なヒソヒソ話は皆無となり、議事進行は滞りなく終了した。
内容は主に今回の顛末であり、その対処後の大幅な人事改革であった。既に国の中央審議会から通達済みであり、市民には二日後に街の中心部、議会議事堂にて同様の発表がなされる予定である。
――嘗て隆盛を誇った大都市国家群が【魔】に魅入られ、悉く崩壊していった歴史が数多く残るこの世界で、ソレを未然に防ぐ切っ掛けを作ったベゼルの貢献は大きい。トラムを中心とする冒険者ギルド方面長に任命された。
また、ベゼルが命を賭し、先んじて神殿に要請、これに見事に応えたイセリア司教は、領主アクタイオン家の口添えもあり、貴族以外初の、一般市民出身のトラム市長となり、街の全住民に篤く支持される事となる。
そしてその近衛騎士筆頭として、グスマンが抜擢されたのである。――
今回の〔明けの星風〕の活躍は、残念ながら公式には残らない。
ベゼルはせめて悪魔を倒したのは誰か、きちんと公表すべきだ。と抗議したが、敢てリーダーのレジーナが断固として首を縦に振らなかったのである。
しかし、人の口には戸を建てられないモノで、真相を知る付近の住民達はグスマン達を英雄視しているのだ。勿論ベゼルの事も含めてではあるが。
「やっぱり、居られなくなっちゃったよね」
「ココ、好きになり始めてたんだけどなぁ」
「まぁ、拠点を移すのは吝かでは無いし、それに」
「スタイ殿の「約束」もあるしな!」
「おやっさん、良い顔してたなぁ」
「アレが漢の面ってモンだな!」
「さぁさ!辛気臭い顔してないで、準備して出発だよ!」
[アイシャ殿、まだ迷っているのか?]
「お行きなさい。二度と離しちゃダメよ」
「見送りはイイからさ! 女は度胸だよ!」
「仕方ない、言ってあげるわ。貴方の居場所はココじゃない」
「!…うう、ゴメン。ありがとう。皆、ボク……幸せになるよ!」
「あぁ! ギルマスてか、方面長にヨロシクな!」
「おぅ! スエナガクバクハツシロ!よ」
「ナニソレ? なんか不穏な響きなんだけど!」
「だったよな? スタイ殿!」
[あ、アレはその、ジョークだ。スマン!]
「ブっ! なんだよそれ。アンタ、ジョーク言えたのかよ!」
「あ! また転がって逃げる!」
ギャーギャー騒ぎながら、それでもなんだか楽しくも、少し寂しくもあり、何度も振り返り、手を振るアイシャを見送った。それにしても……
[彼、良いのかなぁ?]
「ベゼルの事? アイシャの事?」
[やっぱり気付いてたのか]
「女ならすぐ気づくわよ」
「男二人は知らないからね。黙っとくんだよ」
[そんな野暮はしないさ]
「あら、意外ね。もっと頭の硬い人かと思ってた」
[愛の形なんて様々さ。エリアマスター(ベゼル)もまんざらでは無さそうだったし]
「ま、既成事実はあったんだし」
「ん? 何の話しだ?」
「「グスマン!?」」
「おやっさん! どうしてココに?」
「どうしてって……戦友を見送りに来たんだろうが」
「仕事は良いのかい?」
「非番の時くらいあるさ。…まぁ、司教様、イセリア市長殿がな」
「グスマン……これから頑張って……」
「やはり……行ってしまうのか。だが俺はいつまでも待つ。レジーナ、君を」
「でも! ……私! 私は!」
「ちょいと宿に忘れモンしてきたかな」
[そうだな。急が無いとアレが無くなったら困る]
「ホラ……行くよ!」
「アイテテ、耳ぃ引っ張んな……解ってるって」
俺達が急いでその場を離れる中、振り向くとリベイラが一人残っていた。
遠くなっていく三人が、なんだかTVの画面を見ている気分になる。
こんな展開あるんだな。
「ね……レジーナ、さっきのセリフ私に言わせる気?」
「……私…でも私、幸せになっても良いのかな?」
「貴方には誰よりもその権利があるでしょう。胸を張りなさい」
「リベイラ……ありがとう」
「レジーナ!」
「グスマン!」
あーっ。末永く爆発してください。
もう劇的にBGMすら聞こえるよーだ。て、リベイラ!君か。盛り上げすぎ!
その後の展開は(もう既にだが)口から大量の激アマの砂糖水を垂流しかねない、ので意識を別に向けた。
「出発は明日だねぇ」
「本気で宿に戻るかぁ」
「…誰か俺にもいねぇかなー!」
[次の街で出会うかも知れないでは無いか]
宿に戻ったは良いが、結局早々と開店した飲み屋で酒をカッ喰らい、深夜、店の主人から追い出されるまで野郎三人は飲み明かした。
次こそ出発です。多分。