反撃準備
出発の際に、俺は親方に貰ったローブと大剣を改めて身に着けた。
俺からしてみれば、折角貰った一丁裏を汚したり、最悪破損させたく無かったから、仕舞っておいたのだが、初めてソレを見た皆は、何故か一様に驚いていた様子。
特に前衛職の一人であるダスティンが、俺の背負う大剣に遠慮のない視線を送るが、レジーナが小さく首を振り、したり顔のグスマンに何か言含められたのか、あからさまに聞いて来る事はなかった。
〔明けの星風〕一行と俺は最寄りの街を目指す。
尤も、一行にとっては暫く拠点としていた街である。街道を歩く三時間程は何事も無く、後一時間位で「トラム」の街が見えてくる、――といった林道に差し掛かると、最初はダスティンとアビゲイルが、その後今度はアイシャとグラバイドが其々何時の間にか居なくなり、また直ぐ戻ってきた。
[何やら五月蠅い虫でも居たのかな?]
俺のとぼけた問いかけに、アイシャがしれっと応える。
「あら、気付いてた?」
[いや、手伝おうかと思ったが無用だった様だ]
「我々も舐められたまま黙っていられる程、慈悲深くは無いのでな……」
グスマンの重い口調を、ダスティンがサラリと流す様に俺に言う。
「いやぁ、サプライズ? て奴ッスよ!」
すると寡黙だったアビゲイルが忌々し気に吠える。
「奴らの吠え面を、叩き潰すのが待ち遠しいねぇ!!」
と、右胸辺りの絡んだ毛先が気になるのか、ボリボリと手串でバラしながら、グラバイドが話題の矛先を変える。
「けどよぉ、今度のイチャモンにゃ、ギルドも絡んでやがるよなぁ? でなきゃ、あの数の魔獣なんてよぉ?」
「ダヨネー、なんてったっけ…〔黄昏の〕ナントカだっけ? あんな蓮っ葉な連中じゃ、絶対ムリムリ!…だとすっと…」
アイシャが受け、左掌を顔の前で左右に振った。
「その時はギルド毎、叩き潰すまで。だわ」
リーダーのレジーナは、伏せ気味だった顔を上げ、歩む遥か先へと視線を戻し、決然と言い放った。
何やら物騒な話だが、皆も異論は無い様子。
どうやら今回の一件だけでは無いらしい。
昨晩俺の見張り交代の際に、皆で話し合っていたらしく、既に腹は決まっている様だ。
さっきの林道の道中で、ダスティン達が抜け出ていたのは、潜んでいた敵の監視者達を縛り上げていたのである。
尤も俺は、レーダー&センサーが勝手にモニターして居たから解ったのだが。
[よく判らんが、冒険者ギルドってのは潰しても良い物なのか?]
俺の問いに、今度はリベイラが言い含む
「それはダメに決まってる……かもね?」
更にグスマンが続ける。
「我等は謀られ、ギルドがソレを知っていて見て見ぬ振りをするのなら、相応の対価は払って貰う」
その決して軽くはない口振りに、秘めた怒りを、というか相当腹に据えかねた決意を感じる。
なるほど聞けば、かなり迷惑を被っていた様で、負けん気の強さの顕れだろうアビゲイルのさっきの台詞も、「自分達をハメた奴等に10倍返ししてやる!」とばかりに息巻いているのだ。
「今のギルド長のベゼルは守銭奴だし! フン、とに! …あンのクソエロおやじ!」
アイシャ(♂の娘)はアイシャで、ギルドマスターへの悪態が止まらない。
さっきからずっとである。
《…何かあるのか? …まさかね》
其れを半ば呆れ顔、否何処か涼し気な表情、ともとれるレジーナがいなす。
「厭くまで裏が取れたら、ね」
そんな会話をするうち、やがて小高い崖の上に出ると、少し遠めにも立派な城門(?)を持つ、かなり大きな建造物が横に見えてきた。
その全景は、かなり開けた平野の中心にあり、遠くの山から伸びている、河の支流の一本がこの巨大建造物の中を貫いて、外の川筋の少し先には海が見えた。
中心部には成程、大小様々な建物が集まっているが、反面壁側に行くほどほぼ田園や畑の様で、区画整理された豊かな緑が広がっている。
なかなかどうして、如何にも堂々とした城塞都市と云った風情である。
地理的にもかなり好条件だな。
[見晴らしの良い場所だな。]
思わず俺がそう洩らすと
「まぁな…こっからだと街の全貌が良く見えるだろ?」
グラバイドが鷹揚に応え、俺は頷いて見せる。
[これで魔獣等の外的な阻害要因さえ無ければ、将来的にとても有望な立地という所だろうな。]
「ん?……まぁそうなんだが、適切に処理された魔獣の肉は、喰えば魔力も補給してくれるからな」
「実際、魔獣肉って美味いしね!」
グスマンの言葉をアイシャが主観的に肯定する。
「アタシャ、魔魚の方が好きだねぇ。刺身にして…キュッと一杯やりたいねぇ」
「え~~、私は苦手。お魚ならどっちかっていうと煮た方がイイかなぁ」
「あらそう? 旬のモノなら、背切りにして氷洗いしても乙なものよ?」
「魚はやっぱ、旬だよねぇ」
「ジックリ焙って、控えめに出汁を垂らすのもイイわね」
「いえいえお肉でしょ、お肉! 丸焼きの中にお野菜詰めて、こんがりしっとりローストするの!」
「この間の、炉内全体に火炎石を仕込んだ鳥獣ロースト! アレ漫勉なく火が通ってて美味しかったよね…」
「ルード風とか言ってたから…この地方独特の味付けだったっけ……」
途端に女性陣の食好み舌戦が始まる。
……まぁ一人、肉体的には女性じゃないのも加わっているが。
男共はニヤリとしながらも頷いている。
どうやらこの世界の食糧事情では魔獣(魔魚?も)は立派な食材、主要なタンパク源のみならず、魔力供給源の一つであるらしく、故に飼い慣らされた家畜等も多数存在し、大都市国家圏では養殖や畜産業も往々にして盛んだったりする。
と、街道を兼ねた広く緩やかなくだり坂の道中、〔明けの星風〕一行は語ったのだった。
「知ってるだろう?」
とグスマン達は何となく首を傾けて此方を見るが、俺が素直にリベイラとは違う人種である事を手短に伝えようとすると、
[うん、実は私は…]
「彼は一般的な機械人とは少し変わってるの。疑問に思う所が、特に、ね。」
やんわりとリベイラから口留めされた。
皆もそれ以上は特に詮索して来る事は無かった。
坂を下り切った先の林を抜けて、視界が拓ける直前まで来ると、いつもそうなのであろう、陽気な口調でダスティンが声を掛けた。
「さて、着いたぜ。んじゃギルドで合流だ!」
リーダーのレジーナが引き継ぎ、俺達は応える。
「ではリベイラ、スタイさん、後で」
「ええ、手筈通りに。また後で」
[了解だ]
俺達が頷くと、彼らは足早に正門へ散っていった。
改めて仰ぎ見る城壁は、正に巨大としか言いようのない威風を放っていた。
――俺に取ってこの世界で初めての街、「トラム」。
人口は約10万。この世界では大都市、の中規模に当る城塞都市である――
端的に言えば、東門(正門)での手続きは思った程長くは掛からなかった。
立派な正門前の結構手前から魔獣用(?)侵入防止用の一見して頑丈と思える防御柵を一瞥しながら、俺達二人は正門を守る入口へ辿り着いた。
リベイラが門番に話し掛けると、既に顔なじみなのか、リベイラと簡単な挨拶を交わし、連れが俺だけと見た兵士が待機所へ行く様指示し、そこで質問に答えて登録して終わり。
チェーンタグの様なものを渡され、それが入場証になるとの事。
入場証さえあれば、既に〔明けの星風〕として知られたリベイラが居て、更に同じ機械人同士なら何の問題も無く街を歩けるらしい。
リベイラ達から事前に、大体の質問内容を簡単にレクチャーされていて良かった。
心構えがあるのと無いのでは大違いだったからである。
そう言えば、待機所の兵士に乞われ、親方印の大剣を見せた時は、マジマジとかなり魅入っていた様子で、それから態度が変わった様にも感じたが、
「おい……見ろコレ!」
「ん?? どっかで見た堀印だなぁ……?」
「(バカ、あの伝説のマイスター……)の印章だぞ!」
「(え、嘘だろ……ほ、本物……だよな?)」
「イイから! 鑑定用のアレ、早く持ってこいよ!」
兵士たちがバタバタして、一人が奥から何やら小さ目の箱を抱えてきた。
そして中からキラリと光る、細いチェーンで繋がれた、ピンポン球状の綺麗に磨き抜かれた宝石の様なモノを取りだした。
兵士が大剣に彫られた印章にその石をかざすと、その場にいる兵士全員が食い入るように見つめる。
すると忽ちその石は、鮮やかな青い光を発光し、中央に不思議な紋を浮かび上がらせた。
その結果に兵士たちが興奮しだした。
「ほ、本物だ! ホラ、魔紋石がこんなに青く、クッキリ光ってる…!」
「スゲェ…俺、初めて見た……」
相当な効き目の様だった。
……これは後からデイフェロ親方に感謝しとこう。
興奮冷めやらぬ様子の兵士達から、何故か握手を求められたりしながらも、そっけなく応じ俺達はその場を後にした。
そのまま兵士の一人に案内され、俺とリベイラは城門へ戻る。
「ようこそトラムの街へ!」
〔明けの星風〕の新顔と判断したのだろう、案内した兵士に促され、若く少し気負った門番が、俺に律儀に挨拶する。
若い兵士は巨大な門の脇に退き、先を促され俺達はそのまま中へ進む。
40m程の高さを持つ城壁に密着した城門は、横幅と高さが10m、長さ20m程のトンネルと繋がっており、出口の向こうに陽の光に照らされた広大な土地が広がっていた。
トンネルを抜けて振り返ると、城壁の一部がくり貫かれた様に段差が無い事からも、城壁その物の厚さが最低でも20m近くはありそうだ。
かなり堅牢な作りである。コレなら確かに少々魔獣の群れに襲われても、出入口さえしっかり固めればそうそう突破される事もないだろう。
抜けたトンネルの中にも、壁内に何重にも段差が設けられ、分厚い岩石上のレールが見受けられた。
出口付近はかなり広めの敷地に、巨大な倉庫状の建物が両脇に陣取り、一見商業港の倉庫街の様な雰囲気であった。
兵士たちがやたらと眼に入るので、後でリベイラに聞いたが、街を守る兵士たちの装備や、城門その物を塞ぐ巨大な突貫武装を収めた軍事施設であるらしい。
成程、確かに魔獣接近や不審者侵入の際などに態々中心部から出立していたのでは間に合わないだろう。
合理的というか、必然的に昔から城塞都市では城門出口付近はその様になっているとの事だった。
へー、ほぅ。ふーん……と、一々呻る様に頷く俺に
「まぁ、他にも色々あるんだけど、追々ね……」
俺がキョロキョロする道すがら、リベイラが説明してくれた。
アレはなんだろう?と疑問に感じた部分から、身体のセンサー類が無意識にスキャンし捲ってドンドンDB化していくのが煩わしく感じて、俺は無意識下での知覚を何となく鈍化させた。
そのまま軍事施設地帯を抜けて、中心街に直結した大通りへと歩んでいく。
遠くに果樹園みたいな繁みや、家畜の農場めいた物も散見される、周りを広大な田畑が埋める中、場違いな程幅の広い、ある程度舗装されたレンガ道を進み、ふと辺りを振り返った。
この街、どれ位の規模なんだろうか……
すると――どういう原理か解らないが――グリッドに小窓が開き、都市を遠望する俯瞰した情景が緩やかに回転しながら映し出された。
どうやら少々歪ではあるが、半径凡そ10kmの円形上に城壁が囲んでいるらしい事が解る。
恐らくは魔法なるモノを併用しての成果だろうが、相当な建築技術である。
いや……ここ迄来ると最早、建築「力」だ。
俺は改めて、この世界で初めて見る巨大人口建造物に感嘆した。
それにしても、と
あぁ、……本当に……塀が高い。
まるであの上から超巨人が頭を覗かせそうな雰囲気だ。
強固な城塞がこの世界の都市には必須とは言え、日照権とかどうなんだろう?
まぁ住居みたいな殆どの建物はかなり壁から離れてるから、結構陽が傾かないと日陰には為らないかな?
その頃にはもう夕闇だろうし。いやぁ、それでもあの壁の影すら届かないな。
中心街(?)はかなりごちゃごちゃしてるな。
などと、グリッドにズームされた映像を見ながら、歩みを進め俺は実感する。
建物がひしめく大通りを人々が行き交い、活気に満ちた商店街や、奥にそびえる大き目の建物群。
怒涛のスケールと本物の生活に裏付けされた現実。
《なるほど、確かに「街」だ。そう呼んで良いな》
「トラム」の様相は、東西南北の各正門が大通りに直結していて中心部へ真っ直ぐに伸びている。
壁側は殆ど田畑や牧場などの農業地帯で、壁から離れて中心に行くほど建物の密度と階層が増し、一見して居住区や商業区などと判る、割と整然と区画整理された印象を与える。
基本的に石材やレンガ造りの建物がほぼ全体を占めている。
それと目に付いたのが、生活用水は言わずもがな、運搬と排水も兼ねているのだろう、農業地帯を帯びとして都市内に水路を形成している光景である。
無論上水道は別だろうが、水路其の物も比較的清潔に保たれている様に見えるのが意外だった。
(いや、コレ凄いな。……大元の大河さえ干上がらないなら、水不足で困る事も少ないだろう。)
都市計画が最初から余程綿密に立てられ、実行されたのだろうか。
極めて合理的で、街建設のお手本みたいだな、と印象を持った。
まぁ、本当に河が干上がらない、なんて事が全く無いのかは知らないが。
元の世界では水源にダムを建設して調整していたが、似た様なモノがこの世界にもあるのだろうか。
……が、今はそんな事はどうでも良かった。
俺はセンサー&レーダーでレジーナ達の動向を伺う。
意図的にスキャンしたマッピングデータが、グリッド上に即座に作成、表示される。
どうやらこの街の冒険者ギルドは、大通りから西側に少し進んだ所にある様だ。
事前に訊いていたロケーションの特徴は、中々的を得ていた様で、容易に特定出来た。
グリッド上にタグ付けした〔明けの星風〕が、マークした光点へ向かっている。
その内の一つ一つが時折、フッと移動してはまた元に戻る。
《間者を見つけたのか? マメに潰して行くなぁ。あぁ、「裏を取る」って奴か》
ついでに目前を見回すと、周囲はペア以上の同種族同士の人達が行き交っている。
商人の様な出で立ちの人達を除いて、何故か一人で歩いている者を見掛けない。
どうも一人旅には優しくない街の様だ。
それとも犯罪が多いのか? そんなモンなのか?
しばしの間、初の異世界文明に浸っていた俺に、またリベイラが声を掛ける。
「……商店街にでも寄っていくつもり?」
[え? あぁいや、すまない。何せ街に入るのは初めてでね。…打ち合わせ通りに行こう]
リベイラの後を追い様にして、逸れない様人混みを避けながら俺は疑問を口にした。
[……治安はあまり良くないのか?]
「なぜ? ……あぁ、皆同じ種族同士で固まっているから? コレがこの街の現状なの。独りじゃ何も出来ない。其れを楯にボられるし…「自由」なんかじゃないわね……」
リベイラの話では、この都市では属する種族コミュニティの規模自体が勢力としてモノを言うらしい。
要するに少数種族は肩身の狭い思いをする、というのが現状との事。
聞いてる傍から、買い物をする店先で店主と客とで大人同士の諍い、蔑み合いが聞こえてくる。
何のことは無い。獣臭い奴にはコレで充分だとか、取柄もないツルペタの癖にボッたくる気かとか、果ては子供同士が其れを真似て喧嘩腰……
どうもそこかしこで似た様なギスギス感が醸し出されて、折角の(俺の勝手な)異世界満喫気分が台無しな事この上ない。
表情を見るに、子供達の中ではソレが当たり前の、ケンカごっこみたいになっている感じがする。
……こういうの、大人になっても引きづっていくのかねぇ……ごっこで終わっておけよ……
そこから出てくるのは、集団の中に一人でいる事の恐れ。
自分とは種族の違う多人数に囲まれた時、一方的に痛めつけられるのではないかという猜疑心が、余計に恐怖を煽り、我が身を守る為に攻撃的になる。
その悪循環が解消されなければ諍いの始まりだ。
俺が小さな溜息を思わず洩らすと、リベイラが小声で続けた。
「……どの国家も殆どそうだけど、この国だって元々はどこの誰それ、どの種族が建国した、という史実は残って無いの。少なくとも彼の帝国や聖都だって、その信仰や組織体制に準ずる人達が集まって出来た集団だもの……。私の故郷、機械都市国家ですら色んな人達が住んでいるのよ? 寧ろ希少価値を尊重される所だってある。……でもね、何事も加減てモノがなくちゃ、ね……この街は、何処でもそうだけど……住民がそう言う事に慣れきって、自分達にとって何が本当の理不尽の元なのか、未だ解ってない……いえ、立ち上がってないから……」
アッチを立てればこっちが立たず、か。どこの世間でも似た様な不具合があるんだな……
成程な。と頷きながら、それなりに賑わいを見せる通りを、俺はローブを放るがせ、リベイラと先を急いだ。
――少し離れた路地にて。
スタイ達を覗き見る男達の影があった。
「オイなぁ、〔明けの〕連中は全滅したんじゃ無かったか?」
「アン? …ありゃぁ、確かにメンツの一人だったな……連れは、見た事ねぇ奴だ……」
「大仰な剣だな……奴に知らせとくか?」
「…ハ? 止めとけ止めとけ! 一銭にもなりゃしねぇ!」
「……おぅ、お前ら命拾いしたなぁ」
背後から、いきなり自分達の首に突き付けられた鋭利な冷たい感触、
「あ!? お、おめ、アンタ! お、俺達ぁ金に為んねぇこたぁしねーよ! 誓って!」
振り向かせる為、自分達をワザと開放した毛むくじゃらの獣人が、突然放ったその殺気に、口から泡を吹いて気絶しそうになる二人組。
「何に誓うのか知らんが、今から聞く事は素直に答えろ。ま、言わねぇんならソレで終わり、だ」
スチャリと両腕に装備された鋭く巨大な鋼爪をクロスさせ、キーキーと鳴らすグラバイドが舌なめずりしてニヤリと凄む。
「い、言ったら、こ、殺さねぇでくれ……る、か?!」
「そりゃぁよ、ちゃぁんと吐けば証人だぁな。殺さねぇでやらぁよ。が、何も吐かねぇってんなら殺るしかねぇよなぁ? 解ってんだぜ。オメェら、俺等売った奴の仲間、みてぇなモンだろぉがよぉ?!」
貧相な面妖の二人は心底震え上がり、グラバイドに知っている洗い浚いをぶちまける。
「い! 言うよ! なんでも! それに仲間なんかじゃねぇって! 俺達、負い銭で雇われただけなんだって! あのクソに義理はねぇ! あんなドケチな野郎!……」
グラバイドに震えあがった男達だったが、正直に言えば殺されないと悟った途端、寧ろ清々するぜ! と言わんばかりに勢い込むのであった。
あっちではダスティンが。
彼方ではレジーナが、其々同様に事を済ませていた。
スタイ達以外の、一行に掛けられた認識阻害の魔法を巧みに利用しているとは言え、そんな荒業をギルドに向かう短時間で遣って退ける彼らもまた、十把一絡げの冒険者とは凡そ「格」が違うのであった――
「さぁてと、証拠(人)も抑えたし、あとは……おや、漸くお出ましかい?」
アビゲイルの姐御口調に、様になってるなぁ。
等と余計な感賞は挟まず、リベイラと二人してテクテク歩いてきた俺は
[粗方終わった様だな。すまない、遅かったかな?]
と声を掛けると、ダスティンが応えた。
「いやいや、まぁだメインの奴共が残ってるよ」
[そうか、乗りかかった舟だ。伴をしよう]
「良いんですか? この街にはもう来れないかもしれませんよ?」
レジーナは何故そこまで?といった顔だ。
「彼にも目的があるし、私も便乗したい。皆もこの茶番が終わったら、一緒にどう?」
俺の目的を唯一知っているリベイラが、皆に提案する。
「そりゃ良いかも知れんな。どうせ居られん」
いつもしたり顔なグスマンが賛同すると、
「拠点を移すのは賛成だわ」
「ククク……茶番ねぇ、相変わらずだねぇリベイラは。イイねぇ、ノッたよ!」
「ま、ソレしかねぇな」
「問題な~し♪」
「なら! 決まりだな!」
どうやら他の皆も異論は無い様だ。
街は昼下がり。行き交う人々も、午後の気だるげな若干の眠気を振り払う様に、その賑わいを増していた。
時間て貴重ですよね・・・(´・ω・`)