冒険者たちin機械人
戦闘終了後、現場から速やかに移動中、落ち着いた所で互いに名乗り合う。
「助太刀感謝します。〔明けの星風〕のレジーナと申します」
端正な顔立ちの娘は、颯爽としてこちらに挨拶をしてきた。
胸に腰、胴体や肩部、肘、膝他に関節部を保護した、朱色に近い色味の革鎧を装備した姿は、どことなく女忍者っぽい雰囲気である。
如何にも素早く動くための、回避重視型に見える。
さっきの戦闘を見る限り、忍刀の様な武器で攻撃するスタイル。
ただ、スキャン上、全身に隠し武器の様なレイアウトで暗器等が見え隠れしている。
[御口上、痛み入る。私は]
「アンタすげぇな! 俺は同じ〔明けの星風〕のダスティンだ!」
……被せんなよ。握った手ぇ、ブンブン振んなよ。
……若い奴ぽいけどな。したたかそうな風貌だ。
レジーナと同じ様な革鎧姿だが、こちらはより全身をカバーしている感じだ。
が、軽装備というよりは、動きを阻害せずに実質的な防御力にも主眼を置いた様である。
中に着込んだ黒のアンダーウェアと、鎧の濃緑色に近い色合いがサマになっている。
先の戦闘を見るに、主武装は腰部後ろの双剣だろうが、胸や各所に投げナイフなども持っている様だ。
「失礼だぞダスティン、相手の名乗りの途中だろうが……すまない。俺は、グスマンと云う」
一見、如何にも鋼の鎧といった、全身鎧を着込んだ様な姿の大男は、重々しく名乗った。
よく見ると、胸当てからセパレートで各部装甲が接続、隙間が巧くカバーされている。
両腰に其々大小の片手剣を装備し、戦闘中は前面に構えていた大楯を背中に装着している。
[いや、気にしていない。私はマスターライト。スタイと呼んで欲しい]
「スタイさん? さっきはありがとうございましたぁ。他と一緒でアイシャでっす!」
こちらは比較的軽装ではあるが、如何にも魔法を駆使する後衛職然といった風体で、大き目の杖を持ち、肩から膝までを覆うマントを羽織っている。
薄く透き通ったそのマントは、見たことも無い奇妙な模様で縁取られていて、中に着込んだ服には密着せず、常にフワっと軽やかに波打っているのが印象的だ。
「同じく、リベイラ。礼を言います」
そう名乗った人物は、どう見ても女性型な全身鎧が鈍色に反射して、どこか不思議な印象を醸し出していた。
此方が思わず注視してしまったのに気づいたのか、纏い直した象牙色のローブの頸淵をツっと引っ張り、頭部も丸ごとフードを被ってしまった。
「アビゲイル」
胸部と腰当、肩と各関節部分のアーマーは上質な革製鎧の構成はレジーナと似た様な軽装備だが、彼女は背中に大きな弓矢を装備している。
山吹色に統一された各アーマーが、全身を組まなく覆う短めの漆黒の毛並みに映え、狩人然とした雰囲気である。
「グラバイドだ」
その総量の為に若干丸味を帯びたシルエットに見えている、黄金色の見事な毛並みを持つ彼は、喰い込み気味に全身に装着した濃い茶色の革装備を、バシッと鎖骨から腰に掛けて斜めに交差した分厚い部分を指で弾いてみせた。
両拳迄を覆う、硬そうな両手甲部にはアタッチメントが黒光りしている。
腰の後ろには頑丈な爪を其々複数装着しており、さっきの戦闘時には、それを手甲に着けて近接攻撃を行うのが戦闘スタイルだった。
コクっと皆一様に頭を下げる。
其々が手練れなのだろう、此方のセンサーには、孰れも全身に複数武器を隠し持つのが示されている。
寡黙な獣人二人に人族四人、機械人が一体(?)といったパーティー構成の様だ。
[皆(〔明けの星風〕)は、あそこで狩りでも?]
俺の疑問に、気まずい表情でダスティンがしどろもどろに、そこに被せる様にグスマンが吐き出す。
「え、あ、いやぁ……まぁそんなモンかなぁ」
「いや、実はお恥ずかしい話、謀られてな、我々」
周りを見渡すと皆、仕方が無い。という風体で、特に誰も口を挟もうとはしなかった。
グスマンによると、どうやら別のパーティーの奴らが〔明けの星風〕を潰そうと、この草原へ誘い出し、魔獣(の群れも)をけしかけてきた。との事らしい。
[何か恨みでもかってたのか?]
「なら相手の逆恨みですねぇ。自分で言うのもなんですけどぉ、アタシ達ってこの国では結構名の売れた、自由なパーティーなんですよぅ? キッチリ分け前も均等にしたりして、ね?」
「まぁ分け前の均等は当然として……つーか、同種族主義ってのがねぇ」
「差別意識も大概にしろってこった。何より互いの長所を活かし、短所を補い合ってこそ、パーティーの醍醐味だってのにな!」
「それを理解しようとしない、浅はかな連中が居る。と云う事なのです」
纏めたなぁ。やっぱりリーダーはこのレジーナと云う娘か。
若く、凛とした美人だが厭くまで線は細い。
どうやらこの世界でも「出る杭は打たれる」モンなのか。
「もっとも、他国ではそんな風潮は殆どねぇんだがな! この国が異常なんだ!」
獣人二人組は男のグラバイドの方がお喋りな様だ。
女のアビゲイルは一声発しただけで、「機械人」のリベイラはさっきからムッツリ黙っている。
因みにモフモフなのはグラバイド。毛玉の塊の様だ。
まぁその下に鋼の様な筋肉があるっぽいが。
アビゲイルはスレンダーで、全身を覆うその毛並みは、一見ビロードの様に滑らか、且つ艶やかな光沢を放っている。それは何処か高級なシャム猫を連想させた。
人族組は、グスマンはちょい真面目な中年の筋肉オヤジて、とこかな。
若い痩身のダスティンは、全身バネの様な瞬発力に富んだ戦闘スタイル。
レジーナは恰好から「忍者」っぽい。さっきの戦闘でも急所を的確に攻めていた。
だがアイシャに至っては……君、見た目は娘だけど……付いてるよね。アレ。
言動と雰囲気に違和感を感じてついスキャンしただけなのだ! ホントだよ?
いつもじゃないよ! 断じて! と胸の内だけに秘めておく。
[ところで、私は一人旅でね。良かったら近くの街まで案内を頼めるだろうか?]
「あら、良いんじゃない。恩人だし。ね? レジーナ」
「えぇ、こちらこそ歓迎しますよ、スタイさん」
「バカ共に御礼もしなきゃだしね!」
[ありがとう。よろしくお願いする。]
「ようこそ、〔明けの星風〕へ」
「なぁスタイさん、さっきの技、アレどうやってんの? やっぱり機械人のスキル?」
「アレは「スキル」なんかじゃない。貴方は本当に機械人なの?」
漸く口を開いたか。
[その事で君と話しがしたい。出来れば二人きりで。]
「「「え!?」」」
「早ェな!」
「ん? なんだ?」
[え? あ! ち、違うのだ!]
[お、同じ種族に合うのは初めてなのだ! 何より頼みたい事があるし! 本当だ! 断じて邪な思いは無い!]
あちゃー、ヤッてしまった。俺とした事が。ガキみたいに狼狽えてしまうとは。
その後、俺達は街道へ移動し、今夜は野営する事になった。
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「……で、頼みたいこと? て、何なのかしら?」
野営中の周囲の警戒を交代した俺に、機械人のリベイラが話しかけてきた。
あの直後、散々警戒された挙句、しばらく近寄れなかったのだ。
が、元々その雰囲気には険は無い。そして今は周りには誰も居ない。
「私も気にはなっていたから。……あ、勿論そんな意味は無いわよ?」
[重々承知している。私は若くは無い。安心して欲しい]
「あらフフ、そう? 本当は私もそんなに若くは無いの。と、ソレより貴方……本当に機械人なの?」
[ソレは主観に因る……と云うのも無粋だな。まぁ、駆け引きをするつもりは無い。正直に話そう]
俺は出生の秘密(?)までは流石に伏せて於き、この世界に殆ど馴染みが無い事、身体の内側に眠ったままの相棒が居る事、ソレを復活させる為に旅をしている事を告げた。
「…驚いた…そう、貴方は《賢者持ち》しかも[星を渡る者]だったのね。……それで《光の主》ね」
あ、ソコニハフレナイデイタダキタイ。
気になる固有名詞が出て来たが、直後に発生した厨二病の後遺症に、思わず絶句してしまった。
ま、まぁ良い。後から改めて聞けばいい事だ。今はソレよりも
[い、いやソレは気にしないで…ゴホン! 兎も角その…、《賢者》とは何か? 「星を渡る者」って? 何の事だろうか?]
「う~ん、そうね…。今は未だ旨く説明出来ないけど、故郷に行けば或いは。ってトコかしら」
[そうか! それは良い情報だ。どうかその場所を教えてくれないか?]
「ええ、ソレは良いけど……直線的過ぎるのは、あまり魅力的ではなくてよ?」
[おっと、コレは申し訳ない。では……]
[君の故郷の事から教えてくれないか。それから、良ければ君自身の事も……ぜひ知りたい]
「あら、話せるじゃない。姿勢は悪くないわ。合格点はまだ上げられないけど」
[ソレ(お楽しみ)は後に取っておこう。互いを知るのはコレからなのだから]
「フフフ、良いわ。教えてあげる。……そうね。でもいつか」
[あぁ、約束する。君がその時まで覚えていてくれたら。だけど]
「ええ。……あぁ、なんだか久しぶりに『男』と話した気がする。」
[ソレは勿体ないな]
少しだけ身を寄せ、それから互いの距離を図るように、何となく座り直す。
皆も寝静まり、とっぷりと更けて来た深夜に、二人の声がヒソヒソとコダマしていった。
――――――――――――――――――――
翌朝。
「昨夜は、お 愉 し み でしたね!」
お前は某国民的RPGの宿屋NPCか。
ほぅお嬢ちゃん、フザケたいのね? 君♂だけど。
勘ぐってくる男娘に軽く溜息を付きつつ、ちょっと相手をしてやる。
[ああ、実に有意義な一時だったよ]
ニヤリ。とした雰囲気を醸し出すリベイラに、俺は軽く会釈をして見せた。ちょいキザ目にな。
リベイラもノッてきて、くるりと俺に背を向け、ワザと衣服の首から胸元、腰までを手先でチョイチョイと整える仕草をして見せる。
ブッ! そりゃ悪ノリだよ(苦笑)
まぁ、機械同士でナニするワケでもないし。ああした知的な(?)会話に情動効果を見出すのが大人なのさっ。
「アレ?! なんか悔しいっ!」
キーッ! っとハンカチ状の布めいたモノを咥えて、パチンと引っ張た後、アイシャは他の皆の所に走って行った。……ベタだなぁ。
さぁ、ソロソロ出発だ。俺も後ろから態々、静々とついてくるリベイラに、まだやってるのか。と苦笑しながら、皆の方へ歩き出した。
次回の更新は5/22予定です。
拙い物語でも読んでくださる方が居てありがたい。
なにより励みになります。ありがとうございます。