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第3話 召喚の日

3話目で、すでにストックが尽きた………(゜◇゜)ガーン

ごめんなさい。

なるべく早めに書きます………。


 その日は、11月の半ばのとある日だった。

 文化祭後の中間テストも終わり、落ち着いた日常に、秋の深まりを感じる頃だ。

 授業が終わった放課後、委員会の用事で遅くなった俺は、途中の購買で買い物をしてから、教室に向かった。

 うちの高校の購買は、ちょっとしたコンビニのような感じで、品揃えも多い。部活動の生徒に配慮してか、放課後も5時半頃まで開いてるので、なにかと便利だ。


 教室に入ると、須藤1人が机に突っ伏して寝ていた。


 「ああ、“待ち”か……」


 教室を出る前に、須藤の幼なじみらしい隣のクラスの美少女が来て、帰ろうとする須藤を引き留めていたのだ。

 須藤の周りの人間は、些細なことも何かと大袈裟で目立つから、教室にいれば、嫌でも目に入る光景だった。

 おそらくは幼なじみの我が儘に、須藤が折れたのだろう。彼女気取りの幼なじみだが、見ていると須藤の方は彼女に恋愛的な感情はないようだ。

 まぁ、幼なじみだけあって、甘いのは甘いが、妹のような感じに見える。


 「大変だな、こいつも……」


 俺は同情みいた言葉を呟きつつ、自分の机に行き、荷物を手に取った。学生鞄ではなく、斜め掛けの青×白いデザインの帆布地の鞄は、高かっただけに丈夫で軽く、大容量で気に入っている。

 その鞄に、買い物した品を入れると、俺は鞄を肩に掛けた。


 ふと、腕時計をみる。

 委員会で遅くなったので、購買も閉店ギリギリだった。最近は暗くなるのも早いので、部活動の最終下校時間も早くなっているはずだ。

 俺は、ちらりと須藤を見た。

 いつもなら…………あの文化祭前の会話の前なら、俺は確実に須藤を無視して、さっさと帰っていただろう。

 だが、須藤は悪い奴じゃない。

 むしろ、話した印象では、付き合いやすい奴だと思う。

 しかし、須藤の周りが厄介で、彼の周りに誰かしらいれば、俺は須藤に話しかけるなぞ、絶対にしなかったに違いない。

 人気者とモブ、その壁は厚いのだ。

 誰だって、面倒ごとには関わりたくない。そういう意味では、須藤は、空気が読めるいい奴だった。

 あの文化祭前の日以降も、視線は向けられるものの、無闇に話しかけてきたりしなかったからだ。

 だから、俺も少し絆されていたのかもしれない。

 さらに言えば、今、この場に須藤の取り巻きも、ファンの女子もいなかった。


 「おい、須藤」


 俺は、寝ている須藤の肩を揺すった。

 須藤はなにやらぼやいていたが、寝ぼけた様子で緩慢に顔を上げる。


 「……灯塚?」

 「もうすぐ最終下校時間だ。そろそろ、週番が教室の鍵を締めに来るぞ」

 「…………ええ?もう、そんな時間?」


 須藤は、身体を起こして、大きく伸びをした。


 「……理沙の奴、来てないよな?」

 「俺が戻ってきたのは、さっきだから分からないが、ここまで誰にも会ってないぞ」

 「ったく、待ってろって言ったのは、あいつだろ?相変わらず勝手な奴だなぁ」


 須藤は、はぁ…と、大きく溜め息を付いた。


 「後で文句言われたら、週番に教室追い出されたとでも言っておけ。最近は、暗くなるのが早いから教室の閉錠も早いからな」

 「おお、なるほど。サンキュー!」


 俺の助言に須藤は、ぱっと顔を明るくした。そして、席から立ち上がるといそいそと帰り支度を始める。


 「じゃあ、俺は行くぞ」

 「え!……ち、ちょっと待て!途中まで一緒に行こう!せっかくだし!」


 教室のドアに向かおうとしたら、須藤が焦ったように声を掛けてきた。


 「なにが、“せっかく”なんだ?」

 「いやぁ~、だって、俺、灯塚と友達になりたいしさ。わざわざ起こしてくれただろ?

 なんていうか、灯塚の“デレ”を見た気がする」

 「…………一人で帰る」


 俺は、半眼で教室のドアに手を掛けた。


 「え~、灯塚、待てって!うわっ?!」


 ガタンと、背後で大きな音が響いた。

 俺は、小さく息を吐いて振り向けば、机の足に躓いたらしい須藤が、「いてて……」と立ち上がっているところだった。

 その足元から白い光が浮かび上がっている。


 「………なんだ?」


 俺は、目を凝らした。

 須藤の足元だけじゃない。薄暗くなった教室の床全体から光が浮かび上がっていた。

 俺は、自分の足元も光っていることに気づき、無意識に後退した。

 よく見れば、全体が光っているわけでなく、床に走る光の紋様から発せられているようだ。


 「灯塚、大丈夫か?」

 「ああ、だが、なんだこれ………っ?!」


 そばに来た須藤と俺は立ち尽くす。

 まるで、あれだ。

 アニメや、ライトノベルやネット小説のファンタジーで流行りの異世界召喚もののようだ。


 「これってさ、魔法陣ってやつ?じゃあ、あれか?まさか、異世界召喚じゃないよな?」

 「…………須藤でも、その手のやつ読むのか」

 「いや、だから、俺はフツーの庶民だって!ゲームもするし、漫画も読むし、アニメだって見るよ!

 ………まぁ、ファンタジーは妹が好きでさ、読まされたらハマったけど………っ!!」


 床の光が強くなり、粒子のようなものが舞い上がる。須藤の顔が強張った。足が動かないことに気づいたのだろう。その表情に焦りが浮かんだ。


 「なんで、灯塚は冷静なんだっ?!」

 「別に冷静じゃないっ!こっちだって、マジに怖いんだよ!」


 須藤の叫ぶような声に、俺も声を上げた。

 当然だが、俺の足もがっちりと床に固定されたように動かない。手を伸ばせば届く教室のドアも開かずに、おもわず舌打ちする。


 クラス召喚なら、昼間にしてくれ。

 なんでこんな人気のない時間に召喚するんだ。しかも、須藤と2人って、どうみても俺が巻き込まれで須藤が勇者ってパターンだろ?!

 俺は、頭の中で、パニック状態の八つ当たり的に叫んだ。

 怖いんだ。

 元々、俺は臆病なのだ。

 今でも、須藤には冷静に見えるらしいが、怖くて固まっているだけで、本当は叫びたい。叫んで逃げだしたいが、須藤がいるので、必死に耐えてるだけだ。

 

 「なんで“溜め”が長いんだよっ?!召喚するならするで、さっさとしろっ!!」

 「………いやいや、灯塚さん?!!マジに召喚とかって、洒落にならないからっ?!」

 「大丈夫だ。勇者役は、リア充な須藤(おまえ)一択だから!ファンタジーの定番だろっ!」

 「だったら、灯塚は脇役チート最強主人公枠だろーが!?」

 「よく知ってるな………じゃなくて!俺はクラスでいじめられてないし、美少女とも知り合いじゃないっ!完全モブだっ!!」

 「あー…………なるほど。じゃなくて!ちょっ?!マジにこれ、ヤバいだろ!!!」


 2人してヤケクソ的に叫ぶ。

 おもわず互いにしがみついてしまったのは、無意識だ。

 俺はともかく、須藤がその手のネタを知っているのが新鮮だった。

 普通、“優等生”って、そういうネタ知らないだろ?漫画とかゲームとか、高校生にもなって興味ありません的な感じだろ?

 ……………偏見すぎたか?


 足元から光の蔦のようなものが無数、俺たちの身体を包み込むように上がってくる。

 白い光なので、一見、幻想的ではあるが、じわりじわりと上がってくるそれに、俺たちは「ヒッ!!」と、互いに悲鳴を上げた。

 最後まで意識があるのも、問題なのだ。

 恐怖心があおられる。


 「ほ、ホラーかよっ!!」

 「えげつない。えげつなさずきるだろ、この召喚っ?!!」


 召喚って、普通、一瞬じゃないの?

 そりゃ、床に沈み込むパターンもあるだろうが、大抵、短時間のはずだ。

 いや、俺たちの感覚がおかしくなっているのかもしれないが、こうも、じわじわと焦らすような長い召喚ってあるのか?


 そう考えているうちに、俺たちを包み込む光の蔦は、俺の首もとまで迫ってきた。

 ぶわっと、視界が真っ白に染まる。


 「ひ、灯塚っ!!」


 須藤の焦った声が上から聞こえたのを最後に、俺の意識はぶつりと消えた。




 ……………今、思い出しても、あの召喚はえげつなかった気がする。

 どうやら、“地球”とこの世界が、あまりにも離れすぎていた為に、安全に確実に召喚をしようとした結果、あんな感じになったようだ。

 パソコンとかで送るデータが重すぎて時間が掛かるのと同じようなイメージだろうか。

 人1人の“データ”というのは、物凄い量だ。

 物語では、一瞬だったりするが、実際は、人数が多くなればなるほど時間が掛かるらしい。

 しかも、召喚時に、召喚する世界に順応できる構成に書き換えたり、その世界に合わせた能力の付与や潜在的な才能の開花など、様々な要素の変化があるので、かなり危険な術なのだ。


 下手をしたら、ただの人間が意志もない恐ろしい化物になって召喚されることだって、ありうるのだ。


 それ故に、後の時代、[異世界召喚]は、禁忌の術として封印されたという。

 自分たちの世界のことは、自分たちの手でどうにかするのは、当たり前だ。

 今回は、たまたま、“勇者”になりうる才能を持った人間が召喚されただけで、後々の時代、禁忌をやぶり、異世界召喚に手を出した悲惨な結末が、その“事実”と当たり前の認識を証明している。


 それに、俺と上総、“異世界人”である俺たちは、この先、何度も元の世界に帰れない絶望に身を浸すのだ。

 特に上総は、どんな想いであの戦いの日々を乗り越えたのだろう。


 あの日、召喚されなければと、何度も思う。

 あの日、上総を置いて帰れば良かったのだと思う日もあった。

 だけど、多分、それは後悔しただろう。

 だからといって、これで良かったなんて思うこともなく、ただ、あの召喚がなければと、何度も何度も思ったのは確かだ。

 

 「………今でも思うのか?」

 「さぁ、どうだろうな……あまりにも時間が経ちすぎて、時々、チクリとする程度かな。

 少なくとも、“今”は幸せだしね。

 俺の世界の言葉に、“終わりよければ全てよし”って言葉があるけど、上総も、幸せになって去ったし、多分、そういうことなんだろうな」

 「お前の場合、あの時代では無理だったかもしれないな」

 「だから、世界樹に選ばれたのかもしれないって、思うときはあるよ。“異世界人”って、その存在そのものが大きな影響を世界に与えるからね」

 「千年も掛かって、ようやく“幸せ”とか、お前…………不器用だな………」

 「まぁ、そうかもね」


 エンディラシェルノの呆れた言葉に、俺は、苦笑する。

 あの時代は、俺にとっては“生きにくい”時代だった。それは間違っていない。

 けれど、懐かしいほどに鮮やかな時代でもあったんだ。





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