序章 歌姫と騎士
登場人物
・神谷拓斗/タクト・オルフェスク…主人公
・天音美歌…ヒロイン
「誰か…聴こえますか?私の声が…私の歌が…」
一人、少女は泣いていた。誰もいない礼拝堂、神の御前で…
直前まで祈りを捧げていたのか、少女の声はか細くかすれている。
少女は覚悟していたのだ。もうすぐ、主のもとへいくことを、自分の短い生涯を閉じることを…
「おい、開けろ!!」
「観念しろ!!歌姫 《デーヴァ》!!!」
礼拝堂の閉ざされた扉の前には、けたたましく獣のような男の声がする。歌姫 《デーヴァ》と呼ばれた少女は、まさしくこの者たちに
命を狙われているのである。
ドン!
「ひっ!」と彼女が口を抑えて、ささやかな声をあげる。その音は間違いなく扉が開く音だったが、礼拝堂の大きな青銅扉の、重く低い音ではなく、木の扉が開く、軽く甲高い音であった。どうやら、裏口の隠し扉が開いたようである。
「姫様、大変お待たせしました!」
少女はその聞き覚えのある頼もしい声に安堵し、精一杯声を振り絞り語りかけた。
「タクト!会いたかった…ばかばかばか!!!怖かったんだからね、
もうだめだと思ったんだからね!!」
「すいませんでした。敵の…魔奏楽団の攻撃が想像以上に激しくて、ここに来るまで時間がかかってしまいました」
少女の目の前に現れた、頼もしい声の主は、タクト・オルフェスク。彼女を、歌姫 《デーヴァ》を守護する騎士である。彼はここに来るまでに、よほど激しい戦いをしていたのだろう。彼の体からは、無数の傷と溢れんばかりの紅い血が流れていた。
「ひどい傷…早く手当てをしないと」
「心配は入りません、それより早く、儀式の準備を」
「本当にいくのですね、メイジャーワールドへ…」
少女の表情は重く、寂しさに溢れていた。
「仕方ありません。敵の手から逃れるためには、もはやこれしか手段がありません。さあ、こちらへ」
タクトは、少女を神の御前に導き、口を開き、呪文を唱える。
「我らが主、アポローンよ…貴方が愛し、貴方を愛す、愛しき歌姫 《デーヴァ》を貴方のもとへ、メイジャーワールドへ導きたまえ…」
呪文を唱え終わると、少女の体が輝き始めた…
ドゴオォン!!
「ふぅ、やっと開いたぜ!」
「げぇ、あれはタクト・オルフェスクじゃねぇか!?ついてねぇ」
重く低い音をならし、礼拝堂の青銅扉は、打ち破られてしまった。
「タクト!あなたも早くこちらへ!」
少女は、敵の前に立ち向かった彼に声を掛けるが彼は、その言葉に
振り向くことはなかった。
「姫様、私は最後まで歌姫 《デーヴァ》を守護する騎士として、あなたが無事に旅立つのを、見守ります。大丈夫です、こいつらを倒したら、私もそちらへ向かいますよ」
「いやぁぁ!タクト!」
光に包まれて消えていく少女の伸ばした手は、彼に届くことはなかった。
「さよなら、ミカ…」
少女が、ミカが、旅立つのを見送って、彼は目前の敵に言い放つ。
「我は、シンフォニア公国第一師団団長 歌姫の守護神 《ガーデアン・オブ・デーヴァ》、タクト・オルフェスクだ!我らが姫君に楯突いた者たちに容赦はせん!!」
「ちっ!歌姫 《デーヴァ》は消えちまったか、まあいい」
「けけけ!野郎共!このいけかない騎士さんをやっちまおうぜ!」
オオオッという声が響き渡る。タクトと魔奏楽団との激しい剣撃が繰り広げられる。
だが、その戦いの行方は誰も知らない…
ガーデアン・オブ・デーヴァ 序章 歌姫と騎士ご覧いただきありがとうございました!!
次回、第一章 アイドルとアイドルオタクお楽しみください!!