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魔獣美容師の日常  作者: 星咲 美夜
三匹目:妖精
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猫の妖精

遙とリズは店の前にいる、その生物に困惑していた。


「さて・・・どうしたものか」

「どうみても猫なんですよね、この子」


猫のような動物。ただその動物が普通の猫ではないのは、遙が確認済み。


「こういう場合って、連絡は警察なんでしょうか?それとも市役所?」

「もしくは《協会》か」


二人は頭を悩ませた。



  ○o。. ○o。.



──最初にこの生物を見つけたのは、リズだった。リズはいつものように店に出勤した。


「なんだろう、大きな犬かな?」


リズが遠くを歩いているうちは、大きな黒い犬がいると思ったのだが、店に近づくにつれ、その生物が犬ではないことに気が付いた。


「え?あれって・・・?」


そして、リズが店の裏に回り、家のインターホンを鳴らしたことにより、遙は起きたようだった。


「なんだ、リズか」

「あ、おはようございます、オーナー」

「どうしたんだ」

「大変なんです、店の前に大きな黒い猫がいるんですよ」

「・・・何があったのかは知らんが、俺が行くまでそこで待ってろ」


遙が一度、窓を開けて外を見ると、店の前にいる黒く大きな猫が確認できた。


「フェンリル、出てこい」

「珍しいな、お前さんが儂を喚ぶなんて」


遙の影から、フェンリルが出てくる。

遙は特にフェンリルの方を見ることなく、窓の外を指す。


「お前はアレが何か判るか?」

「んー、アレは『ケット・シー』だな」

「『ケット・シー』?なんでソレがこんなところにいるんだ?」

「知らん」


ケット・シーというのは猫の妖精である。普段は森の中などに生息していると、知り合いが言っていた。

ケット・シーは人前だと普通の猫を装うが、実際は二足歩行が可能で魔術などを扱える。


「アレがケット・シーなのはわかった、とりあえず・・・俺は外に行くから、フェンリルは戻れ」

「はいよ」


そして、着替えなどを済ませた遙が、リズと共に店の前に行ったことで、今に至る。そのケット・シーは行き倒れという感じではなく、なんとなく、ただ寝ているだけのように見える。


「この子って何なんですかね?」

「コイツはケット・シーらしい」


一応、フェンリルに確認はしてもらったが、今、目の前にいる生物がケット・シーである確証が遙にはない。


「今日って午前中に予約あったか?」

「無いですけど、それでもこの子に起きてもらわないと」

「それもそうだな」


だが、どうやって起こすか。下手に手を出すとこちらが危ないのは、リズも解っている。


「ん?あれはリリちゃんか?」

「もしかしたら、リリちゃんなら言葉が通じるかもしれないですね、同じ猫ですし」


朝の散歩をしていたのだろう、遠くから白い猫のリリが歩いてきた。月一でシャンプーに来る常連である。

リズはリリに挨拶すると同時に、リリを抱き上げる。


「リリちゃん、おはよう」

「にゃあん」

「まず、リリちゃんにリズの言葉が通じるのか?」

「きっと大丈夫です、リリちゃんはお利口さんですから」

「あのな」


リズはリリが猫又なのを知っているため、話が通じるのは判っているが、遙にしてみたら、何処からリズのその自信が来るのかがわからない。


「とりあえず、リリちゃん、あの子起こせる?」

「にゃぁ?」


さすがに遙がいるからか、リリは理解できないという反応をリズに見せた。


「とりあえず、リズは裏から店に入って準備してこい、コイツは俺がなんとかするから」

「オーナーに何かあったらどうするんですか?」

「心配するな、とりあえずリリちゃんを放してやれ」

「・・・はーい、ごめんねリリちゃん」

「にゃあん」


遙がなんとかするって言っているので、渋々だったがリズはリリを放して、裏から店に入っていった。リリは逃げるように帰っていった。


「・・・行ったか、フェンリル」

「はいよ、ケット・シーを起こせばいいんだろう?」

「リズに見付からないよう、手早く頼む」


遙としては、リズに何かあっても困るし、フェンリルを見られても困るため、早々にリズに店の中に行くよう、指示した。そして、リズが行ったのを確認するとフェンリルを喚び出す。

遙の影から現れたフェンリルは、周りを伺いながら、ケット・シーに音もなく近付く。


「お前さん、起きろ、儂に喰われたいのか?」

「うにゃあぁー・・・にゃんだよ?ヒトが気持ちよく寝てるってのにぃーっ・・・にゃんだ、狼か・・・って狼?!」

「あんまり騒がしくするな、あの嬢ちゃんだけじゃなく、周りの他人(ひと)まで来る」


フェンリルに驚き、ケット・シーは飛び起きた。


「にゃ、にゃんで狼が、こんにゃところにいるのにゃあ?!」

「うるさい、コイツに喰われたいのか?」

「そ、そんにゃ訳あるかぁーーっ」

「なら、少し落ち着け」

「・・・わ、わかったのにゃ」


遙の言葉にケット・シーは大人しくなる。


「フェンリル、戻れ」

「儂に労いの言葉はないのか?」

「リズが来る」

「それなら仕方ないな」


素早くフェンリルは遙の影に戻り、それを見てケット・シーは少し安心したようだ。


「オーナー、大丈夫ですか?」

「心配しなくても俺は大丈夫だ、だがリズ、なんで表から出てくる」

「・・・え?あぁ、そうですよね」


店のドアの方を見ると、リズがドアを少し開けて顔を出す。遙が心配で、リズが慌てて出てきたのはわかるが。


「あ、でも起きたんですね、その子」

「あぁ」

「うにゃあ、怖かったにゃあ」


あまり放っておくと、余計なことを喋りそうなので、遙は座っているケット・シーに視線を移す。


「で、お前は何者だ?」

「見てわからんか?ケット・シーにゃ」

「名前は?」

「まだないにゃ」

「まだっていうことは、飼い主とかがいないってことですかね?オーナー」

「そうだな」


すかさず、遙は次の質問に移る。


「それで、なんでお前はこんなところで寝ていやがるんだ」

「いやー、我輩は森で若いもんに縄張り争いに負けちゃったのにゃ、そんにゃものだから、誰かいい魔術師の所にでも行って、修行をしようと思ったのにゃ」


遙の質問に、ケット・シーは遙の欲しい答えを言わずに話し始めた。なので、遙はもう一度、ケット・シーに質問をする。


「俺はここに来た経緯を聞いたんじゃない、なんでお前がここで寝てたかを聞いたんだ」

「それがにゃあ、その縄張り争いで我輩は魔力切れを起こしてしまったのにゃ」

「なら、そのままの大きさでいるより、小さくなればよかっただろう」

「あ、それもそうか」


あっけらかんとしたケット・シーの言葉に、遙は頭を抱える。そんなことはお構い無しに、ケット・シーは普通の猫のサイズになる。


「おぉーっ、これなら、あたしも出て大丈夫ですかね?オーナー」

「まぁ、まだ油断は出来ないが」


顔だけ出していたリズが、遙の隣にまで出てくる。

そして、座っていたケット・シーは二人の目の前で後ろ足だけで立つ。


「ところで、お二人は誰か、いい魔術師を知らにゃいかにゃ?」


ケット・シーの言葉にリズは首を横に振って、遙の方を見る。


「なんでリズは俺を見る」

「あたしの友人に魔術師はいますけど、今はこの町にいないし・・・オーナーの知り合いにはいないんですか?」

「いないことはないが、俺の知り合いもこの町に住んでる訳じゃない」


しばらく二人は悩んだが、遙が思い出したように言った。


「この町を出て、南東に行った場所で『相談所』をやっている奴がいる、俺の友人に連絡すれば、多分そこまで連れていってくれるだろう」

「それは本当かにゃ?そうしてくれると、ありがたいにゃあ」

「意外にオーナーって、すぐ連絡を取れる知り合いとかいるんですねー」

「意外にってなんだ、意外にって」


遙の言葉に、リズはそっぽを向いた。

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