ピンからキリ
帰宅したリズはパソコンを立ち上げる。研ぎに出すにしても、どれだけかかるのかを、予め知っておいてもいいかと思って。値段とか色々。
「値段の平均は・・・ふーん、これくらいなのか」
多少は前後するだろうと思うが、出せない金額ではないと、リズは自分の財布を見る。
「またリズは何かを調べているのにゃ?」
「まあね、生活費とかも色々と考えないといけないでしょ?」
「あまり余裕はにゃいんだにゃ?」
リズの後ろからケット・シーが話しかけてくる。余裕がないのは仕方ない。だってお給料は安いのだから、人気の割りには。
「にゃら、誕生日とかに誰かから貰うとかはどうにゃ?」
「何、アンタがハサミくれんの?」
「まず、それが我輩じゃ無理にゃのをわかってて言ってるにゃ?」
「当たり前でしょ」
ケット・シーはリズの家に居候中なのだ。そんなこともリズがわからない訳がない。
「あたしの友達は『就職したら、学校のハサミは切れないように出来てるからって新しいのを買わされた』とかって言ってたなぁ」
「そこはお給料はよかったのかにゃ?」
「まぁ、その店の大きさにもよるけど、どこも変わらないと思うよー?」
それでも、リズは在学中からずっと使ってきた訳だが。今の今まで切れないと感じたことはない、一応。それに遙はリズのお財布事情を知っている(当たり前だが)ので、そういう事は言わないのかもしれないが。
「とりあえず、買うとしたら仕上げからかしらね?それか仕上げだけでもいいかも」
「そういえば、ハサミってどれくらいするのにゃ?」
「かなり安くても1〜3万前後、高くて6〜7万だったかしら?」
「値段の降り幅が酷いのにゃ」
ちなみに、リズが言ったのはハサミ一本辺りの値段。ただ、材質とかによっても変わるので、一概にはこの値段だとかは言えないのだけれど。
「でも、あんまり高いとねぇ、気を付けていても落としたりするから」
「それで切れにゃくにゃったら勿体にゃいと」
「そういうこと、だからといって安いもの(その辺で売ってたりする)にすると、当たりハズレがあるし」
リズの言葉は真剣そのもの。まぁ、生活もかかってますからね。
「値段を取るか、質を取るかっていうことかにゃ?」
「そうなるけど、あたしが買うとしたら中間ぐらいかなー」
パソコンの電源を落とし、リズは隣にいたケット・シーを見る。
「それで、どうしたの?」
「あぁ、そうそう、ご飯出来たのにゃ」
「じゃあ、テーブルの上を片付けてご飯食べようか」
「そうだにゃ」
テーブルにあったパソコンを手早く片付け、リズはキッチンに向かった。
○o。. ○o。.
翌日の朝、リズは遙から業者が午後に来ると聞かされた。なんとなく、昨日の時点で予想はしてたけど。だって朝から来られても困るし。
「あと、ハサミに何か目印とかあるか?」
「一応、シールが貼ってあります」
在学中からリズのハサミは他人のと区別するのに、小さな雫のシールが貼ってある。
「なら、取り違えることはないな」
「そういう事は、そうそうないと思うんですけどね」
そして午後、業者の人が来た。話を聞くと、店は定期的に回っているという。ハサミも研ぎに出しすぎてもいけないらしいが。
「あと、新しいハサミも、買おうか迷ってたんですけど」
「トリマーさんの間でも、よく使われてるのはこのハサミかな」
リズはハサミのカタログを見せてもらう。値段もそれなりにしてるので、やっぱりまとめて買うのは無理そう。
「とりあえず、仕上げだけでも考えておこうかな・・・」
そんなリズの様子に遙は何を思ったのかは定かではないが。リズが仕上げバサミだけを預けて(他のはまだ切れるし)、トリミング室に戻って店の方を見ると、遙が何かを話している。ここからでは、何を話しているのかわからないけども。
「まぁ、いいか」
リズは少し気になったけど、仕事に戻る。後で何を話していたのか遙に聞いてみようとは思う。
「リズ、ハサミの研ぎ代なんだが」
「あ、はい」
業者は帰ったらしく、遙がトリミング室に顔を出す。研ぎ代について、リズは聞き忘れていたので、それを言いにきたようだ。一番大事なことをリズは忘れていました。
「それで、オーナーはさっき、何を話してたんですか?」
「別に大したことは話してないが」
「そうでしたか・・・」
どうやら、リズが気にすることではなかったようです。遙は、リズがなんでそんなのを気にしたのか不思議そうだったが、必要なことはリズに言ったらしく、また店の方に行ってしまった。
「はぁ・・・オーナーに何を期待してたんだろう、あたし」
リズは一瞬だけ『もしかしたら』、なんて事を思った自分に嫌気がさす。いくら何でもないって。
「まぁ、今すぐハサミも買わなきゃならない訳じゃないしね」
遙から借りたハサミを使いながら、リズはカットを進めていく。今日のお相手はマルチーズです。切ってはコームで毛を起こして確認。それを繰り返す。
「・・・よし、これで大丈夫かな」
一通り確認をして、リズは遙を呼んだ。
○o。. ○o。.
それからしばらくして、リズのハサミは戻ってきた。一応、ちゃんと切れるか確認してほしいという事で。目の前にいるシーズーを(悪いけど)実験台に。
「おぉ、切れる切れる」
「問題はなさそうだな」
「はい、全く問題はないです」
ちょうどカットをしていたので、試しにというか、あくまでも確認の為に使ってみたが、凄い切れる。この前まで切れにくかったのが嘘のよう。
「今すぐは出せないだろうし、代金は立て替えておくから」
「あ、はい、ありがとうございます」
遙はリズの様子を確認して、黙ってトリミング室を出ていく。リズは仕事の続き。
「なんだろう・・・なんとなく、自分のハサミの方がしっくりくる気がする」
遙から借りたハサミは、リズのハサミとは変わらないはずなのだが。あまりリズのカットに支障がないようにと、遙は考えてくれたみたいだが。
「やっぱり同じ型でも、使う人によっては使い方が違うからなのかな」
まぁ、それを気にしても仕方ないと、リズは仕事を続けた。
○o。. ○o。.
仕事を一通り終えて、リズは遙に立て替えてもらった代金の支払い。あと、研ぎに出してた間に借りたハサミをちゃんと綺麗にして、遙に返す。
「ありがとうございました、オーナー」
「ん・・・」
遙は精算をしながらも、リズから代金とハサミを受けとる。まぁ、遙も今は大事なお金を扱っているので、返事はほとんど、あってないような状態。そんな遙の邪魔をする訳にはいかないので、リズは休憩室に行って、帰りの支度をする。
「ところでリズ」
「何ですか?オーナー」
「今度、ドッグショーがあるみたいなんだが、行ってみるか?」
遙曰く、ドッグショーでハサミとかが安く買えることもあるという。今すぐ買うという事ではなくても、見てくるだけということらしい。
「そういうことなら、行きます」
「なら、その日は休みにしておく」
「わかりました」
実際に実物が見れるなら、リズとしてもその方がいい。遙もそう考えたようだ。あと、遙も一緒に行ってくれるとのこと。こういうことは遙も結構、協力的でとても頼もしくリズには感じた。
「さすがに俺でも、リズ一人で行けとは言わない」
「そんなこと言われたら、あたしだって不安ですし」




