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魔獣美容師の日常  作者: 星咲 美夜
自由時間:日常の風景
46/48

家に帰り、リズはいつものように夕食を食べてから、リビングで寝転がってケット・シーとテレビを観ていた。


「さてと、一休みもしたし・・・お皿とか洗うかぁ」

「じゃあ、我輩はお風呂沸かしてくるのにゃあ」

「浴槽に落っこちないでねー」

「そんにゃ事はしにゃいのにゃあ」


キッチンからのリズの言葉に、ケット・シーは万が一そんな事になったら、リズのシャンプーコース直行じゃないかと苦い顔をして、風呂場に向かった。


「全く、別にシャンプーくらいならいいじゃないの、事故でも起きなきゃ死ぬ訳でもないのに」


洗い物といっても、食器はリズが使う茶碗とおかずで使った皿が二枚、あとケット・シーが使った小さな器。


「はい、洗い物終わりっ」


だからお風呂が沸くまでには、洗い物は終わるし暇になるので、リズはこの時に仕事で使うハサミやバリカンの刃のお手入れをしている。遙は「何も店でやってもいいのに」とは言ってくれているけど、なんとなく気まずくて。


「うーん、いつもちゃんとお手入れはしてるんだけどなぁ・・・最近、切れなくなってる気がするわ」

「それにゃら研ぎに出せばいいんじゃにゃいか?」

「うーん、そうはしたいんだけどね」


リズのハサミは専門学校に通っている時から使っているもの。在学中から、一回も研ぎに出してないので、無理もないか。ハサミの刃の部分を拭きながら、リズは考える。


「うーん、どうしようかな・・・」


ハサミの形状は人間の美容師が使うハサミと、ほとんど変わらない。ただトリマー用のハサミでは、人間の髪を切ってはダメってことぐらいか。理由としては、人間と動物の毛の質が違うから。それこそ犬の毛が切れなくなる。


「研ぎに出すっていってもなぁー、あたしが持ってるハサミはこれだけだしなぁ・・・」

「つまり、それを研ぎに出すと、リズは仕事が出来にゃくにゃるのか」


仕事をしていては、なかなか研ぎに出すことも出来ない訳で。だからといって新たに買おうにも、値段はピンからキリで、高いものだと三本(仕上げ・スキバサミ・ボブシザー)買うだけでトリマーの(ほぼ)一ヶ月分の給料が飛んでいくのだ。


「そうか、ハサミを買うとしても、一気に買わずに一本ずつ買えばいいのか」


あとは遙に相談してみるかと、リズは一通りハサミのお手入れをして、ケースに戻す。


「あ、リズ、お風呂沸いたのにゃ」

「はーい、ありがと」


道具を片付け、着替えを持ってリズは風呂場に向かった。



  ○o。. ○o。.



翌日。リズはお昼の休憩に入ると同時に、店のカウンターのところにある椅子に座っている遙に、ハサミについての相談をしてみた。


「それなら研ぎにでも出すか?」

「でもハサミがこの一式しかなくて、どうせ研ぎに出すんなら、まとめての方がいいのかなって思うんですけど」

「リズのいつも使ってるハサミ(それ)って、専門学校で教材として買ったやつか?」

「え?あ、はい・・・そうですけど?」


遙は立ち上がると、一度、二階にある自宅に上がっていく。ついでにリズも休憩室に入る。少しして戻ってきた遙の手には、ハサミが入ってると思われるケースがあった。これには見覚えがある、っていうか、リズはそれと同じものを持っている。


「えっと・・・これって?」

「俺が在学中に使ってたハサミだ、研ぎに出すなら、その間は貸す」

「え、でも、それじゃオーナーが」

「俺はハサミをもう一式持ってるし、それに今はそんなにカットも関わらないからな、気にするな」


そして遙はリズにそのケースごと渡すと休憩室から出ていき、カウンターの上にある電話の子機を取って、何処かに電話をかけ始めた。なのでリズは本来の目的である、昼食をとることに。一通り、やり取りを終えたのか、遙はリズのいる休憩室に顔を出した。


「明日、リズのハサミを預かりに、業者が来てくれるそうだ」

「え、本当ですか?」


先程の電話はそういう事だったのかと、リズは昼食を食べながら納得する。


「それと、値段は来たときに教える」

「あ、はい」


必要なことはあらかた言ったようで、遙はまた店に戻っていった。



  ○o。. ○o。.



休憩から戻ったリズは、トリミングの客が来るまで、遙と入れ代わるように店に出る。ついでに遙から借りたハサミが入ったケースを持って。


「あ、一応ちゃんとお手入れはしてあるんだ」


ハサミの入ったケースを開けて、リズは驚いた。しばらく遙は使っていないと言っていたが、そのハサミはきちんと手入れがされていた。


「オーナーって、こういうところはマメなんだなぁ」


なんだかそれが、リズには正直、意外だった。でも、実際そうでもないと他人(リズ)には貸せないのだろうけど。


「やっぱり新しいハサミ、買おうかな・・・こういう時に困るよね」


ポケットからスマートフォンを出して、色々と調べてみる。かなり種類も多く出てくる。ついでに友人にもどういうハサミがいいかも聞いてみる。


「うーん、どういうのがいいのかしら?迷うなぁ・・・」

「新しいハサミか」

「あ、オーナー、戻るの早いですね」

「そうか?まぁ、今日は予約もあまりないから、ゆっくりしててもよかったんだけどな」


遙はそう言いながらも、午前中に来た分のカルテを開き、何かを確認している。


「オーナーが今、使ってるハサミって自分で買ったんですか?」

「いや?俺が就職した年の誕生日に、護達がくれた」

「そうなんですかー」


それはそれで羨ましい。リズとしては、ハサミ選びの参考にしようとも思っていたので、少し残念。


「明日、研ぎに出すついでに、業者に聞いてみるのもいいんじゃないか?」

「そうしてみます」


ちょうどその時に客が来たので、リズは立ち上がってカルテを取った。



  ○o。. ○o。.



仕事を終えて、リズは荷物をまとめていた。ハサミはどうしようかと一瞬だけ悩んだが、遙から借りたもの以外は一応、持ち帰ることにした。


「お疲れ、リズ」

「お疲れ様でーす」


休憩室に、精算を終えた遙が入ってくる。そのまま二階に上がっていくので、リズは遙に少しだけ、遙が使っているハサミを見せてほしいと頼んでみた。遙はリズの言葉の意味がわかったらしく、すぐに持ってくると言って、また、上がっていった。


「こういう事も言ってみるものねぇ」


リズがソファーに座って待っていると、遙はその言葉通りに、すぐにハサミを持ってくる。


「仕上げだけだが」

「それでもいいです」


遙からハサミを受け取って、持ってみる。カットをするみたいに色々な方向に向けてみたり。


「オーナーのハサミって少し重いんですね」

「在学中の時のハサミは軽いし、それに慣れてると重く感じるだろうな」

「え、そうなんですか?」

「まぁ、トリマーは女性が多いからって軽量化がされてきてるし、新しく買うにしてもそれほど気にならないとは思うが」


それでも、値段はピンからキリなんですけどね。ある程度ハサミを見て、気がすんだので、リズは遙にハサミを返す。


「ありがとうございました、オーナー」

「別にこれくらい、見せるだけなら大したことじゃない」


遙はそう言うと、ハサミを持って二階に行ってしまったので、リズも家に帰ることにした。

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