仕事終わり
「ありがとうございましたー♪」
ドアが閉まった反動で、カランコロンとドアに付いたベルが鳴る。
「うぅーんっと、これで全員お迎えきましたねー」
一通り預かっていた犬を帰したので、リズは大きな伸びをする。
「お疲れ、リズ」
「まだ片付けは終わってないんですけどね」
「そうか」
カウンターでは、遙が今日の売り上げの精算をしている。それは遙のいつもの仕事なので、リズはトリミング室の掃除と後片付けを再開する。
「ふぅ・・・今日は結構バスタオルも使ったなぁ」
使ったバスタオルを洗濯機に入れ、洗っている間にゲージとか床の消毒。あとはシャンプーの補充やら色々。大体、掃除が終わる頃には洗濯も終わるので、トリミング台などを利用して干しておく。トリミング室の明かりを消して、リズの仕事はこれで終わり。
「はぁー、終わったー♪」
道具を持って、リズは休憩室に置いてある小さなロッカーにエプロンをしまい、荷物を持って店を出る。
「お疲れ様でしたー」
「気を付けて帰れよ」
「はーい」
いつもは店の戸締まりもリズが店を出る時にやっている。リズが(稀に)かけ忘れた時とか、のんびりお茶してた時には普通に遙がやっているけど。
「・・・今日は店の鍵を忘れたんだな」
遙は一応、戸締まりの確認をする。鍵が開いているので、今日はかけ忘れたようだ。リズは鍵自体を家に忘れることも何故かある。バッグに入れたままにしてるはずなのに、とリズ本人は言っているけど、何かを出した拍子に落ちたとかだろう。
まぁ、たまにはいいかと、小さくため息をつくと静かに鍵をかけた。
二階の自宅のリビングに戻ると、遙のスマートフォンに着信があることに気付く。
「メール・・・護からか」
多分、犬神についての事だろう。早速引き取り手が見付かったのか、はたまた別の事か。
『突然に悪いな、遙、とりあえず報告
今日の犬神の事なんだけどさ、一応、引き取り手が見付かったっていうのと、そっちで犬神が増えてた理由もわかったぜ』
『結構、今回は引き取り手が見付かるの早かったな
それと原因までわかったのか』
原因の方はあまり詳しくは護の口からは言えないらしく、遙もそういう事ならばと聞くことはしなかった。
『それで、その引き取り手っていうのは、どういう人なんだ?やっぱり犬神憑きの家の人なのか?』
『うーん、犬神憑きの家っていうよりかは、祓魔師とからしいな』
『それじゃあ、犬神は式神として使われるってことか?』
『そういう事だろうな』
わざわざ報告しなくてもいいのにとは思ったが、こういうことに関しては護はかなり真面目なので、遙はとりあえずお礼を返信してスマートフォンをテーブルにおいた。
○o。. ○o。.
家に帰ったリズは、テレビをつける。特に何か観たい番組はないのだが。なので、適当にチャンネルを回す。
「リズ、今日もお疲れ様にゃのにゃ」
「本当に、今日は珍しく忙しかったわー」
「それは良いことにゃのではにゃいのか?」
「うん、仕事はあるに越したことはないけどさ」
さすがに予約が短時間に詰まっているのもどうなのかと。珍しく遙もリズの隣でトリミングをしていたし。
テーブルに突っ伏すリズに、ケット・シーがコップに飲み物を入れて持ってくる。中身は麦茶だった。
「まぁ、これでも飲んで落ち着くのにゃ」
「・・・ありがと」
『──それでは次のニュースです』
ニュースでは、犬を虐待して殺害していた高校生の少女が捕まったと突然の報道があった。しかも、この町の付近に住んでいたと言うではないか。
「うわぁー、最近の子の考えることって、本当にわからないわね」
「色々と歪んでいるのにゃあ」
全く、殺される犬の身にもなれよと言いたくなる。罪もないのに可哀想に。
『──なお、殺害された犬の一部は不完全な犬神になっているという情報もありますので、付近の住民の皆さんは、見かけても不用意に近付かないようにしてください』
「・・・今、犬神って言った?」
「そう言ってたにゃ」
「こうやって犬神って増えるの?」
「本来の増え方とは別にゃのにゃ」
リズは一瞬、昨日リズについてきた犬神もこういう事で生まれたのではないかと思う。まぁ、これはあくまでもリズの推測でしかないのだが。
「当たらずとも遠からずだと思うのにゃ」
「そう考えると犬神って、かなり可哀想なのね」
「実際、犬神も動物霊の一種だからにゃ」
どうやら、ケット・シーにしてみれば、犬神は『こっくりさん』と同じようなモノらしい。但し、あれは狐とか狸みたいだが。
「あたし、霊感はないはずなんだけどなー」
「この世界の犬神は種として固定してるのにゃ、それに普通の動物の妖怪化もあり得にゃい事ではにゃいしにゃ」
「へー、そんな事があるんだ?」
「滅多にある事ではにゃいけどにゃ、あと、魔力がにゃいからといって、霊感がにゃいとも限らにゃいのにゃよ?」
『魔力』と霊感の基になる『霊力』は微妙に違うとケット・シーは言うけど、リズには理解が出来ないので、それ以上は聞かない。
「ふーん、そうなんだ」
「あ、興味にゃいのにゃね?」
「で、ご飯まだー?」
「はいはい、もうすぐ出来るのにゃ」
リズの催促の言葉に、ケット・シーは呆れた表情を浮かべて、ため息をついた。なんだか色々と間違っている気がする。特に立場とか。
○o。. ○o。.
翌朝。いつものように出勤したリズは店の前の掃き掃除。あれから、ほとんど犬神を見かけることは少なくなった。
「やっぱり、あの事件が関係してたのかしらね?」
「どうした?リズ、ぼーっとして」
「ひゃあぁっ?!・・・って、オーナーか」
「毎回思うんだが、そんなに俺は気配がないのか」
いつの間にか、リズの後ろにいた遙の突然の言葉に思わず驚く。ちなみに遙の気配がないのではなく、ただ単にリズが考え事に集中し過ぎていて、遙が来たことに気付いてないだけ。
「あ、え、いや、その、ただ、えっと」
「少しは落ち着け、リズ」
驚き過ぎて、リズの言いたいことが遙には全く伝わらないし、わからない。その遙は仕方なさそうな、困ったようにも見える表情をしている。
「えーっと、オーナーが幽霊みたいだとかって事ではなくて、ですね・・・えっと」
「結局、リズは何て言いたいんだ」
「うーんと・・・とりあえず、驚かさないでください?ですかね?」
「そんなつもりは、なかったんだけどな」
ますます遙の表情は困惑したものになっている。まず、リズが勝手に驚いているので、遙に悪気はないし。リズも遙を困らせるつもりはなかったのだが。
「それで、オーナーはどうしたんですか?」
「午前の予約が別の日にずれたことをリズに言いに来たんだが」
「え、ずれたんですか?・・・まぁ、こればかりは向こうの予定もあるし、仕方ないですよね」
リズに必要なことだけを伝えて、遙はそのまま店に戻っていく。一人、リズが店先に取り残されるのも、毎回のお約束。
「昨日は予約が詰まってたし、今日ぐらいはのんびり仕事っていうのもいいのかな?」
予定が突然すっぽりと抜けてしまったので、リズは久しぶりに後回しにしていたことをやってしまおうと思い至る。
「もしかしたら、新たに予約が入るかもしれないしね、やれる時にやっておこうっと」
ゴミをまとめ、使っていた箒をしまって、リズは店の中に入った。




