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魔獣美容師の日常  作者: 星咲 美夜
十匹目:犬神
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犬神と管狐

結局のところ遙は一日中、二日酔いの頭痛に悩まされていたようなので、仕事どころじゃない状態だった。なんとかリズは一日の仕事を早めに切り上げて、店の向かいにある喫茶店に入る。


「いらっしゃい、リズちゃん」


そこにはいつもと変わらない、穏やかな笑みを浮かべた(ゆたか)がいた。


「あれ、マスターは二日酔いとかじゃないんですね」

「だって僕は昨日、二日酔いになるほど飲んでないし・・・ってなんでリズちゃんが知ってるの?」

「オーナーから聞いたんです」

「あ、もしかして遙は二日酔いでぐったりしてたのかい?」

「ええ、しばらくの間は」


カウンターの席が空いていたので、そこにリズは座る。ティーカップなどを用意しながら、優は「遙は本当にお酒に弱いなぁ」と笑っていた。


「マスター、こっちは笑い事じゃないんですよぉ」

「あはは、ごめんごめん」

「もぅ・・・それで、マスター達はお酒強いんですか?」

「んー・・・どうなんだろうね?僕は普通だとは思うんだけど」


優は今も普通に過ごしているみたいなので、本当にただ遙が弱いだけのようだ。


「まだ遙はリズちゃんが介抱してくれるからいいけどね」

「えっと、あたしとしては良くないんですけど、どういう事ですか?」

「僕なんか一人だし、出雲が介抱してくれるとは限らないし」

「あー・・・そういうことですかー・・・」


優くらいなら彼女の一人はいそうな気がするのだが。周りが遙とかみたいなのだから、それは無理か。


「っていうか、マスターもオーナーがお酒に弱いの知ってるんだったら、ああいう風になる前に止めてくださいよ」

「実際に僕も護も、遙があそこまで弱いとは思ってなくて」


それでも酔い潰れるまで飲ませるのはいかがかと。リズとしては何としても、止めてほしかった。


「別に無理には飲ませてないよ?だって僕達が気付いた時にはもう、遙はかなり酔ってたから」


本当に遙は仕事以外の時は、ダメ人間のようです。本人がこの場にいないので何とも言えないけど、もう少ししっかりしてください。マジで、冗談抜きに。


「まぁ、遙には僕からも言っておくからさ、はい、いつもの紅茶ね」

「・・・ありがとうございます」


この人達は、ちゃんとしてるんだかしてないんだか、リズにはよくわからない。と言うか、優が言っても遙は聞かない気がする。


「遙も人間だしね、たまにはこういう事もあるよ」

「そんなに、ストレスが溜まってたんですか?あの人は」

「色々あるからね、遙は」


リズの知らないところで、遙は色々とあるんだなと、リズはそう思う事にした。



  ○o。. ○o。.



翌日。今日の遙は、昨日とは違う意味で頭が痛かった。


「リズ・・・コイツをどこで拾ってきた?」

「えっと、昨日の帰りに・・・いつの間にか、この子がいました」


リズが出勤した時に抱えていた犬。仔犬という感じではないが、小さい犬。見た目はやっぱり普通の犬。


「それ、飼うつもりなのか?」

「そのつもりはないんです、なんでか解らないんですけど、(ここ)までついてきちゃって」


遙の質問にリズは首を横に振って答える。正直な話、リズはケット・シーだけで世話は手一杯のようだ。そしてリズがケット・シーに聞いたところ、この犬も犬神らしい。


「憑かれたっていうよりかは、懐かれたんだろうな」

「ええぇーっ?」


リズは困惑しているが、当の犬神は遙達の気持ちを知ってか知らずか、嬉しそうに尻尾を振っている。


「一応、ゲージに入れておくかしておけ」

「え、いいんですか?」

「俺がとりあえず護に連絡しておくから」

「すみません、オーナー」


遙は気にするなとスマートフォンをポケットから出して弄り始めたので、リズは犬神を抱えたままトリミング室に連れていく。


しばらくして、護が店に来た。のだが、何かまた生き物を連れている。遙は一瞬だけ嫌な予感がした。


「・・・護」

「あ、コイツはしぃから借りた奴だから気にしなくていい、コイツの名前は『いずな』っていうらしい」

「そうだったのか、って貸し借りが出来るのか」


遙の目線に気付いたのか、護は慌てて遙の言葉を聞く前に、遙の考えを否定する。

護の首にくるりとマフラーのように巻き付くようにいた、細長い体型の真っ白い狐。優のところの出雲とは、また違う。


「それで、その狐は何なんだ?」

「管狐、本当は筒なんかに入れて持ち運びするんだけど」

「なんでまた」

「管狐も式神みたいに使えるから、俺が不安だって言うなら、いずなを連れていけってアイツが貸してくれたんだ」


この間の犬神の事で、シオンも少しは考えたらしい。そして彼女が出した結論が、管狐を護に貸すことだったようだ。


「アイツが言うにはさ、最近の犬神は自分が犬神だと自覚してないんだと」

(たち)が悪いな、それは」


どうも、彼女はこの間の犬神の相手をしながら、そういう事を見ていたらしい。犬神本人に自覚がないから、いつの間にか拾った人間が霊障にあう事が多発していると、護には言っていたようだ。


「だから、リズさんが拾ったのも『もしかすると、自分が犬神だって自覚してないのかもね』だってさ」

「なんでまたそういう犬神が出てきたんだか」

「さぁな、でもそれは放っておけないしな」

「その度に護と彼女の知り合いは動員されるんだろ?ご苦労様」


リズは現在、トリミング中。手の空いている遙がゲージに入れられていた犬神を連れてくる。


「なんか、凄い人懐こい感じはするな」

「こう見ると、普通の犬と変わらないよな」


本当に人間が好きなのかはわからないが、護に対しても犬神は嬉しそうに尻尾を振っていた。


「それにしても最近、犬神が捨てられてる(?)の多くないか?」

「単なる偶然なんだとは思うんだけど、やっぱり気になるか?」

「その『偶然』にしては多すぎるんじゃないか?」

「そもそも犬神っていうのは、犬神憑きの人間が結婚することで増えるはずなんだけどな」

「原因はわからないのか」

「こっちでちゃんとそれは調べてるよ」


これから護も仕事だと言うので、犬神と管狐を連れて店を出ていった。



  ○o。. ○o。.



少ししてからリズが店に顔を出す。きっと、カットの確認と(リズのことだから)犬神について聞きたいのだろう。


「オーナー、カット終わりましたー」

「わかった、すぐにそっちに行く」


椅子から立ち上がって、遙はトリミング室に入った。


「あの子ってどうなるんですかね?」

「さぁな、きっと犬神憑きの家で欲しがるところがあれば、そこに引き取られるんじゃないか」

「確か、犬神は家に憑くんでしたっけ?」

「らしいな、あとは式神として使うみたいだが」


リズから借りたコームで毛を起こしながら確認をしている遙の横で、リズはその様子を伺いながら気になった事を聞いていく。でも、ちゃんと目線は遙の手元とか犬の方を見てる。


「オーナー、式神って何なんですかね?」

「式神っていうのは数式とかと同じで、その式の仕組みとか行程を理解していれば、誰でも使えるとは聞いたことがある」

「へぇー、じゃあ、あたしでも頑張れば使えるんですかね?」

「リズじゃ無理」

「うわぁ、何気に酷い事をさらっと、しかもキッパリと言った」


リズの反応に遙はクスッと笑ったが、その後は何事もなかったようにカットの確認をしていた。そして特に、カットに問題とか気になったところはなかったらしい。これで大丈夫だろうとコームをリズに返して、遙はカルテを持ってトリミング室を出た。


「そういや、フェンリルもそういう風な感じになってるんだっけか」


カウンターの上にある、電話の子機を取って遙は、ふとそんな事を思い出した。

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