犬神の作り方
「全く、アイツに厄介なのを押し付けてくれたな、お前ら」
遙達が捨てられていた(?)犬神をシオンに預けてから一日。優の喫茶店に、護から遙は呼び出された(もちろん仕事が終わってからだが)。
「えっと、その『厄介なの』って犬神のことかい?」
「それ以外に何がある」
「そうは言ったって、護はその時、仕事が忙しかったんだろう?」
「護がそういう事を言うってことは、彼女に何かあったのか?」
珍しく護は苛立ってる様子。シオンの事、特に彼女に何かあると護はいつもそうだ。見た目はともかく、彼女だって子供じゃないのだから、さすがに過保護過ぎやしないか?
「一時的で、さらに仔犬とはいえ一気に犬神5匹も相手になんかしてたら、いくらアイツでもそのうち倒れるっての」
「それは・・・大丈夫なのか?」
「大丈夫な訳あるか」
護の言葉を要約すると、シオンが犬神の相手をしていて霊障にあったらどうしてくれる、ということらしい。そんな事を遙達に言われても困るのだが。
「お前らさ、犬神が一体どういうモノなのか知ってるのか?」
「いや?それは知らない」
「犬神っていうのは、呪術の一種なんだよ」
護はそういった『憑き物』の類いは独自で調べていて、ある程度知っていたらしいが。まぁシオンは呪術も扱えるので、彼女自身も犬神がどういうモノなのかを知っていてもおかしくはないはずなのだが。
「結構、酷いもんだぜ?犬神の作り方」
護が言うには、まず犬を顔だけ出して埋めたり、縛っておく。そしてその犬の目の前の届かない場所に餌を置き、飢えさせる。その飢えが頂点に達した時に首をはねると、その犬の首が餌に食い付くらしい。
──ざっくりと説明するとこういう感じ。
「そうして出来るのが犬神なんだよ」
「うわぁ・・・なんかそれって可哀想じゃない?」
今、そういう事をやろうものなら、動物愛護団体が黙っていないだろう。あと、法律的にもアウト。そしてそういうのを、なんで護は調べていたのかも少し気になる。
「で、護、その犬神が及ぼす影響は?」
「犬神に限らず、憑依されると突然トランス状態になったり、体調を崩すことがある、最悪の場合は祟られて死ぬ」
「それ、彼女は本当に大丈夫なのかよ?」
「今のところは大丈夫だ、ってアイツ本人は言ってるが」
そんなモノを遙達はシオンに預けていたのかと、少し彼女が心配になった。
護としては気が気でないようだ。それなら直接、彼女に会いに行けばいいのに。遙はそれを護に言ってみたところ、護は大きなため息をついた。
「アイツは『心配のし過ぎ』って」
「あ、つまり、護は彼女に会いに行ったんだけど、軽くあしらわれたんだ?」
優の言葉に護は頭を抱えて、黙って頷いた。なんというか、不憫。
「『そんな一日二日で大した影響はないですから』とは言うけどさ」
「・・・あの娘は楽観的なんだな」
「アイツのことだから大丈夫だとは思うんだけど、それでも心配なんだって」
遙達の知らないところで過去に色々とあったようで。それを聞くことはしないが、護は本当に苦労しているんだなと遙と優は思った。
「今度、飲みにでも行くか?」
「話だけなら聞くよ?護」
「・・・あ、うん、暇な時にな」
きっと、護も言いたい事はたくさんあるんだろうなとは思う。あまり弱音を吐く奴ではないのは知ってるけど。
○o。. ○o。.
それからさらに、しばらくして優の元にシオンから連絡があったと遙は聞いた。
「あの犬神達はどうなったって?」
「引き取り手がいたらしくてね、彼女と彼女の知り合いが、その家に持っていったみたい」
現在、遙の自宅の寝室を優が片付けている。そこに仕事終わりの遙が自宅に上がってきた訳だが。優は、どうしてこうも遙の寝室は物で溢れるのだろうかと言いたそう。それを遙に言ったところで改善される事はないが。
「別に掃除をやってくれとは頼んだ覚えはない」
「でも、このまま放っておいたら寝室どころか、リビングにまで侵食するだろう?」
「・・・否定はしない」
遙の言葉に、優は苦笑しながら掃除を続けている。遙が普段忙しいのは、優もわかってはいるのだが。そして、それは優も同じなはずなのだけど。
「なんで遙は片付けられないのかな?」
「・・・一応、後でやろうとは思ってる」
「それ、絶対にやらないよね」
優の冷たい視線がガンガン刺さっているにも関わらず、遙は呑気なものだ。
「話を戻すが、引き取り手の家に持っていったってことは『憑き物筋』が増えたって認識でいいのか?」
「多分そうだと思うんだけど、それか元々が『憑き物筋』の家、それも犬神憑きの家に引き取ってもらったかのどちらかだよ」
優に来た連絡と言うのも『犬神の引き取り手が見付かった』という一文だったらしい。優も詳細まではシオンに聞いていないようだ。
「まぁ、これで護の悩みの種は一つ減ったのか?」
「かなり彼女の事を心配してたしね」
掃除を終えた優がリビングに戻ってくる。なんだかんだ言っても、遙の寝室を綺麗に片付けてくれるんだから、ありがたい。
「優はこの後どうするんだ?」
「別に何もやることないしね」
「護も誘ってどっか行くか?」
「向こうが暇ならいいけどね」
そう言いつつ、優はスマートフォンをポケットから出して弄っている。誘う気満々でした。
「護はどうだって?」
「ちょうど明日は休みらしいよ」
「じゃあ行くか」
「あ、出雲も連れて行きたいんだけど」
「なら一回、優の家に寄るか、家にいるんだろ?」
「うん、悪いね」
遙は出掛ける用意をして、優と外に出た。
○o。. ○o。.
翌日。遙の様子にリズは最初、呆れて言葉が出なかった。かなり足元がおぼつかないし、店のカウンターに突っ伏していた。
「えっと、どうしたんです?オーナー」
「リズ、頼むから・・・あまり大きな声出すな、頭に響く」
その様子から、リズは察する。多分、リズじゃなくてもわかるとは思うけども。
「オーナー、もしかしなくても二日酔いですか?」
「・・・悪い」
「今日も仕事があるって言うのに、そんな飲んだんですか」
「そんなには・・・飲んだ覚えはないんだが」
「あ、オーナーがお酒に弱いだけですね」
現在、遙は休憩室のソファーで横になっている。仕事だからと一応は下に下りてきたようなのだが。まだ、今日の予約が少なくて良かったが。
「で、結局、昨日はどれくらい飲んだんですか?オーナー」
「・・・えっと、ビールと日本酒」
「え、本当にそれだけですか?」
「多分」
本当に遙はお酒に弱いんだなとリズは判断する。それと同時に、遙自身はお酒に弱いのを理解してないのかとも思った。そして、こんな状態でよく家に帰ってこれたな。
「大丈夫ですか?仕事できます?」
「・・・これで大丈夫に見えるのか?」
「全然、見えません」
キッパリとリズは断言する。今日の遙は、リズでも見たことがないくらいに終わってる。色々と。
「全く、誰と飲んでたんだか」
「護と優」
「とりあえず、ここに水置いときますからね」
「・・・すまない」
リズはこれ以上、遙に構ってもいられないので、テーブルに水の入ったコップを置き、休憩室から出て仕事の準備をしにトリミング室に向かった。
「あれで今日は仕事が出来るのかしら?」
リズは誰もいないトリミング室で、大きなため息をついた。
「こうなったらもう、仕方ないわよね」
遙の体調が回復するのを願いつつ(回復してくれないと困るけど)、リズは準備を始めた。




