捨て犬
今日は定休日で、リズも遙も仕事はないのだが。今、リズ達の目の前には大きな段ボール箱がある。
「オーナー、この子達どうしましょう?」
「・・・これは困ったな」
向かいの喫茶店の横の空き地に置かれていた段ボール箱。遙はリズと優に呼ばれて、その空き地にいた。優の足元には白狐の出雲もいる。
「全部で5匹か・・・さすがに、このまま放っておくことも出来ないしな」
「誰かに預けるっていってもねぇ・・・」
その段ボール箱に入っていた仔犬達。パッと見だと、生後3ヶ月くらいではないだろうか?但し、遙は獣医ではないため確証はない。
「あと、コイツ等は普通の犬って訳でもなさそうだ」
「え?オーナーは見ただけで、そんな事もわかるんですか?」
「遙、それでもはっきりとは言えないんだろう?」
「それはそうだ、俺だって一介の人間だからな」
段ボール箱にいた仔犬達に、怪我がないかを一通り確認して、遙は優に視線を向ける。
「優、彼女か護に連絡とれるか?」
「うーん、どうだろうね?二人共、今は忙しいんじゃないかな」
「一応、連絡してくれるか?」
「うん、わかった」
二人のやり取りを、リズは不思議そうに聞きつつ、段ボール箱を不安気に見ている。
「リズちゃん、心配しなくても大丈夫だよ」
「別にあの二人なら、すぐに保健所に連れていくとかはしないだろうしな」
優がスマートフォンを操作する。どうやらメールで連絡をしているようで。
「遙・・・護は忙しいってさ」
「彼女の方は?」
「えっと・・・もう少しすれば、シオンさんは大丈夫そうだよ」
「そうか、それと彼女に来てもらった方のが早いよな?」
「そうだね」
遙の言葉で、優はさらにスマートフォンを操作する。
「遙、彼女から・・・準備が出来たらすぐに来るってさ」
「そうか、なら来るまでここで待ってるか」
遙はそう言って立ち上がると、どうしたものかとリズを見る。
「・・・リズは帰ってもいいぞ?」
「え?・・・あ、はい」
「無理に僕達に付き合う必要はないからね」
二人はリズに気を使って言ってるのは、わかるのだが。なんだか邪魔だと言われているようにリズには感じた。
「別にリズが邪魔だって訳じゃないが、買い物とかあるんだろ?」
「あ、そういえば」
元々、リズは買い物に行く途中だった。そこで、たまたま空き地にいる優と出雲に会ったのだ。
「リズちゃん、買い物に行くなら日が暮れないうちに行っておいで」
「はい、じゃあ行ってきまーす」
優に見送られ、リズは慌ててスーパーの方に走っていった。
「遙、これでフェンリルを出せるんじゃない?」
「やけにリズをここから遠ざけようとしてたのは、やっぱりそれか」
「それ以外に何があるっていうのさ」
「でも、彼女を呼んだんだ、フェンリルを出さなくても別に困らないだろ」
「それもそうだね」
若干、優が黒い気がするが、遙は気にしないことにした。
○o。. ○o。.
リズが買い物に行ってすぐのこと。空き地に一人、遙達がシオンと呼ぶ少女が来た。彼女は黒いセミロングの髪に四つ葉が装飾された髪飾りをいつもつけている。これは学生時代から変わらない。
「悪いな、君も忙しいのに急に呼び出して」
「いえいえ、今日はこの後は時間があるので、そんなに気にしなくてもいいですよ」
少女、と言ってもシオンは遙達と同い年なので年齢的には少女ではないのだが。ただ、見た目はその辺にいる高校生とかの学生と然程、変わらないので少女、と言っているけど。
「シオンさん、僕がメールで言ってたのはこの子達で、出雲が見付けたんだ」
「あらら、この子達はまだ小さいですが『犬神』ですね」
「『犬神』?なんでそんなのがここに捨てられてるんだ?」
「うーん・・・管狐と違って、爆発的に増えるってことはないとは思うんですけどね?」
シオンが見ただけで、この仔犬達が何なのかが判ったのにも驚いたが、それ以上に、なんで犬神がここにいるのかという疑問が遙と優に浮かぶ。
その事に関しては、術者が飼いきれなくなったのでは?と彼女は言う。それもなんだか勝手な話だなと二人は思う。
「わたしの友人の親戚に『犬神憑き』がいるので、連絡してみましょうか」
「全く、君の交友関係は一体どうなってるんだ?」
「あはは、それは護くんにも言われました」
携帯でシオンがどこかに電話をかけている。遙と優はそれを眺めていることしか出来ないのだが、その時間が少し暇。
「優は店の外にいて大丈夫なのか?」
「一応、従業員の子達に任せてるけど、そろそろ戻った方がいいよね」
優は一旦、様子を見てくると言って店に戻っていった。
○o。. ○o。.
リズが再び、買い物の帰りに空き地に寄ると、段ボール箱はなかったが遙と優がいた。
「あれ?もう連れて行っちゃったんですか?」
「ああ、ここに居させておくのは色々と危ないって彼女がな」
「里親探しもあるし、こういうのは早い方がいいってことでね」
リズはどこか残念そうな表情だ。だが、シオンが犬神達を連れていってしまったのだから仕方がない。
「結局、あの子達って何の仔犬だったんですか?」
「シオンさんが言うには『犬神』だってさ」
犬神と聞いてもリズはピンと来なかったようで、小首をかしげていた。
「まあ、俺もよくは知らないが、犬の妖怪らしいな」
「えーと、つまり・・・フェンリルちゃんみたいな感じですか?」
「うーん、どうもフェンリルとは少し違うみたいだよ?」
そもそも、フェンリルは犬じゃなくて狼だと遙は苦笑する。遙達は口には出さないが、シオンが言うにはフェンリルが犬神のようになっている、というのが正しいらしい。
「とりあえず、一旦は保護ってことらしいから、心配はない」
「その『一旦』というのが気になるんですけど」
それも気にしても仕方ないことなのだが。その後、優は仕事があるからと店に戻ったので、遙とリズも各々の自宅に戻ることにした。
○o。. ○o。.
家に帰ったリズは早速、ケット・シーに犬神について聞いてみた。
「ねぇ、犬神って何なのか知ってる?」
「犬神?我輩はそこまで詳しくは知らにゃいのにゃ」
「犬神っていうくらいだから、一応、神様なのかなって思ったんだけどさ」
「確かに犬神もちゃんと祀れば、式神みたいに使役は可能だにゃ」
ケット・シーの言葉で、リズの頭には「?」が浮かんでいる。ほとんど、こういうモノとは無縁だから余計にだろう。
「犬神と似たような奴に管狐がいるのにゃ」
「ふーん、結局、犬神が何なのかはわからないけど、そういう生き物ってことなのね?」
どうやら、リズはケット・シーから犬神についてを聞くのは諦めたみたいです。スマートフォンを弄っている。
「やっぱり神様みたいなモノなんだね、犬神って」
「我輩に聞く前に、最初からそれを使えばよかったんじゃにゃいかにゃ?」
ケット・シーの言葉は最もだった。リズもそうすればよかったと、頬杖をつきながら思ったようだ。
「それにしても、なんであんなところに犬神が捨てられてたんだろう?」
「犬神は家に憑くから、普通にゃら捨てる事は無理だと思うのにゃあ」
「それは、結局は戻ってくるってこと?」
「そりゃそうにゃ、だって犬神が帰る場所は個人じゃにゃくて、憑いてる家そのものだからにゃ」
きっとその犬神は捨てられたと言うよりは、その家が衰退して行き場がなくなったのではないかとケット・シーは推測したようだ。
「それに、神だと言っても所詮は犬、扱いは難しいらしいしにゃ」
「ふーん、そうなのね」
なんだかんだ言っても、ケット・シーはしっかり解説してるじゃないかと、リズは思ったが何も言わなかった。




