火車と猫車
『──ニュースです。昨夜、○○町の不審火により、一軒家が全焼しました。この家に住む△△さんが亡くなっているのが見付かりました』
「火事かー、それも不審火なんて怖いわねー」
「最近は空気も乾燥してきてるからにゃあ、気を付けにゃいとにゃ」
今日は予約がほとんどないからと、リズは仕事が休み。昼食を終えたあと、テレビを観ていたリズが頬杖をついて、他人事のように言う。
『──なお、付近の住人などの目撃情報から、放火の疑いも視野に捜査をしています』
「放火にしろ何にしろ、早く解決するといいわねぇ」
「そこまで長引くほど、警察も無能じゃにゃいにゃ」
「別にあたしは警察が全然、役に立たないとは言ってないわ」
リズの言葉に、ケット・シーは呆れてしまった。何かと事件が続いているから、そう思うのも仕方ないのかもしれないが。
『──それでは、続いてのニュースです』
ニュースでは、別の町で起きた事件を報道している。ほとんどが同じ内容だったりしていて、全く、報道する側も飽きないよなぁとリズはテーブルにあった食器をキッチンに持っていく。
「事件の全てを報道するのがいい事とは限らないのにね」
皿を水に付け、リズはため息をつく。キッチンまでついてきたケット・シーは首をかしげている。
「リズ、それはどういう意味だにゃ?」
「猫のアンタにそれを言っても、きっと理解出来ないわよ」
「にゃら、我輩は何も聞かにゃいにゃ」
リズの足元にいたケット・シーはリビングにあるクッションにダイブする。ゴロゴロしてる様は普通の猫そのものだった。
○o。. ○o。.
午後からリズとケット・シーは買い物へ。いつも通り、ケット・シーはリズの肩に乗っている。
「ねぇ、アンタちょっと太った?」
「そんにゃことはにゃい、と思うのにゃ」
「そう?なんか重い気がするんだけど」
「・・・きっと気のせいだと思うのにゃ」
軽々とリズの肩にケット・シーは飛び乗ったけど、なんかずっしりとした感じがしたのだ。ケット・シーは太ったのを否定(?)していたが。
夜にケット・シーが体重計にこっそり乗ったのは言うまでもない。
店の近くを歩いていると、珍しく、遙が外で掃き掃除をしていたのが見えた。
「あれ?珍しいですね、オーナーが外にいるなんて」
「なんだ、リズ達はこれから買い物か」
遙はリズの言葉には特に反応することもなく、リズの肩に乗るケット・シーに目を向ける。
「・・・ケット・シー、なんか丸くなったか?」
「にゃっ?!遙もそういうことを言うのにゃあ?!」
「あ、やっぱりオーナーもそう思います?」
リズもあまり気にしてはいなかったらしいけど、久しぶりにケット・シーを見た遙が言うのだから、太ったのはほぼ間違いないようだ。
「いつもリズに乗って移動してるから太るんじゃないか?」
「あたしは乗り物じゃないんですけど?オーナー」
酷いなぁ、と少しムッとした表情のリズに、遙は悪いと真顔で言う。
「オーナーはお仕事終わったんですか?」
「ああ、今は迎え待ちだ」
「外にいるってことは、オーナーは今は暇なんですか?」
「ある程度は終わらせたからな」
何気ない仕事の話をそのまましていたが、遙も飽きたのか一度、腕時計を見てから、口を開いた。
「それで、リズは買い物に行くんだろ?」
「あ、そうでした」
遙の言葉で思い出したように、リズはケット・シーを肩に乗せたまま、近くのスーパーに向かった。
○o。. ○o。.
買い物を終え、リズとケット・シーが店を出ると、少し遠いところで妙に人だかりがあり、騒がしいことに気付いた。
「この近くで火事があったみたいだにゃ」
ケット・シーが耳をピコピコと動かす。どうやら、ケット・シーはそこにいた人達の会話を聞き取ったようで。そう言われると、若干だが、焦げ臭いなとリズは思った。上の方を見ると黒い煙が見える。
「・・・ん?」
「リズ、どうかしたのにゃ?」
「今、何か上を通ったような気がしたんだけど」
他の人達がそれに気付いてる様子はない為、飛んでる鳥とかだろうと、ケット・シーは言った。リズもそれには納得する。ここでは傘で空を飛んでる人も普通にいるぐらいだし。
「まぁ、気にすることじゃないか」
リズ達はそのまま、家に帰ることにした。歩いていると、通りを現場に向かって救急車やら消防車が走っていく。
「人間は色々と大変にゃのにゃあ」
「それは仕方ないでしょ」
○o。. ○o。.
家に帰ると、リズは買ったモノをキッチンに置いて、すぐにリビングのテレビをつける。早速、帰りに見た火事はニュースになっていた。
先程の火事は、マンションの5階から出火していて、出火元と思われる一室が全焼したらしい。
「これ、さっきの火事じゃん?」
「そうにゃ、最近は何かと便利ににゃったからにゃあ、携帯とかで撮った動画がすぐに流れるのにゃ」
「それがいい事かは、また別の話だけどね」
リズはテーブルに頬杖をついてテレビを観ている。今回は放火とかいう訳じゃなさそうだが。
「・・・あれ?」
「どうしたのにゃ?」
「この、警察の人と一緒にいる女性なんだけどさ」
消火活動が終わって、警察が原因とかを調べているらしい中継の映像。その中に、リズは見知った人物を見付けた。
「この女性がどうかしたのにゃ?」
「なんで現場にいるんだろう?」
小さくてわかりにくいけど、喪服を着た、ショートカットの赤い髪の女性。それは間違いなく、リンだった。
「葬儀屋ってこういう事もするのかしら?」
「きっと、この間からの放火事件と関連がにゃいかを、彼女は魔術師として調べてるのかもしれにゃいのにゃ」
つまり、今のリンは葬儀屋としているのではなく、ただの一人の魔術師として現場にいるということらしい。本人に聞いた訳じゃないので、真偽はわからないけども。
「結構大変なんだねえ、魔術師って」
「中には魔術を悪い事に使う奴がいるからにゃあ・・・もし、そういう奴が犯人だった場合、普通の人間じゃあ対応が出来にゃいのにゃ」
「そっか、それはそうだよね」
そのまま映像を観ていると、マンションの中から『何か』を載せた猫車(工事現場とかにある手押し車)を押して、人型をとっている猫らしき人物が出てきた。煤色の髪などを見るに、多分リンの仕え魔のフォティアだろう。
「火車が猫車を押してるのかー」
「にゃんでリズは、あの猫が火車だと知ってるのにゃ?」
「だって、この間シャンプーに来たもん」
「そうにゃのか」
リズの言葉に、ケット・シーはどこか納得したようだ。
「それにしても、何を猫車に載せてたんだろう?」
「被害者はいにゃいみたいだしにゃ?」
遠目で(さらにソレは焦げて真っ黒で)何なのかがわからなかったが、リズは猫車に載せられてたモノが気になったらしい。
「きっと出火の原因にゃんだと思うのだけどにゃあ」
「あ・・・普通に考えればそうだよねー」
ケット・シーはリズの反応に、呆れてため息が出た。リズはそんなケット・シーの反応を気にすることなく笑っていた。
「さて、夕飯の準備しようかな」
「我輩も手伝うのにゃ」
テレビをそのままに、リズは立ち上がり、キッチンに向かった。




