角の生えたウサギ、再び
リズと遙は、その生物を見て「またか」とため息をついた。今度は護がジャッカロープを抱いて来店したのだ。
「あー・・・もしかして、前にもこういう事があったのか?」
護の言葉に、二人は黙って大きく頷いた。
「この間、健がそいつを連れて来やがったんだよ」
「マジかよ、まさか同一個体だとか?」
「いくら何でも、それは俺でもわからない」
「そうか・・・でも、健が連れて来たっていう奴はどうしたんだ?」
どうやら、護はその時のことを全く知らないようで。
「なんだ、護は彼女に聞いてなかったのか」
「アイツ、今は違う仕事で家にいなくてさ」
「だからって、どうして俺のところに連れてくるんだ、彼女の同居人に頼めばいいだろ?」
遙の言いたい事は護もわかる。だが、今、護には頼れるのが遙しかいないらしいので、仕方なくなのだとか。
「さすがに俺でもウサギは洗えないぞ?」
「いや、今日は洗ってほしいんじゃないんだ、しばらくコイツを預かっててほしいんだよ」
「なんで」
「それが、俺もこれから仕事でさ、時間もあまりないし、コイツを連れては歩けないんだよ」
「なるほどな」
そういう事なら仕方ないと、遙は護から、抱いていたジャッカロープを預かった。
「急に悪かったな、遙」
「そういう理由がある時は構わないさ」
「あとアイツには俺から言っておくし、アイツに連絡しなくていいからな」
「ああ、わかった」
遙の返事と同時に、護は店を出ていった。本当に忙しいようだ。
「あの人って結構、忙しいんですねぇ」
「ああ、護は警察関係者だからな」
「それじゃあ忙しいでしょうね」
「大変だよな」
そう言って遙はトリミング室のドアを開けて、ジャッカロープを連れていく。
「全く、こういうのをどこで拾ってくるんだか」
遙は愚痴にもとれる言葉を、ため息と共に吐いた。
○o。. ○o。.
閉店時間を過ぎても、護はなかなか店に来ない。忙しいにしても、代理とかいないものなのだろうか。
「オーナー、どうしましょうね?この子」
「俺が見とくから、リズは帰ってもいいぞ、あまり帰りが遅くなっても危ないだろ」
「え?・・・あ、はい」
リズは心配そうに、ゲージに入っているジャッカロープを見ている。心配なのは餌とかそういうモノだろう。正直、遙もそれは困っているので、早く引き取りに来てほしいのだが。
「やっぱりウサギだし、餌はニンジンとかなんですかね?」
「ウイスキーが好物だと聞いたが、家にないしな」
そんなことをジャッカロープを眺めながら言っていると、店のドアが開く音がした。店に入ってきたのは、緑色の髪の左側をサイドアップにした少女。
遙とリズは、どうしたのかとトリミング室を出た。
「こんばんは、遅くなっちゃったね」
「あ、いや・・・あの、君は?」
「あれ?もしかして、しぃちゃんも護も何も言ってなかったのかな?えっと・・・ボクはカオル、ここに預けられてる子を引き取りに来たんだけど」
「引き取りに来たって・・・あ、もしかしてウサギですか?」
「うん、二人がちょっと忙しくて引き取りに来れないって言うし、結局はボクがそのウサギを預かる事になるからね」
カオルはにっこり笑っている。どうやら、健の時も一時的に保護していたのは彼女らしい。
「リズ、頼む」
「はい、今、連れてきますね」
リズがトリミング室からジャッカロープを連れてくる。それをカオルが受け取る。ついでに会計も済ます。
「遅くまでごめんね、閉店時間も過ぎてたでしょ?」
「いや、別に構わないが・・・君はそのまま一人で帰るのか?」
「うん、そうだけど?別に問題はないよ?」
遙の心配そうな言葉に、カオルは不思議そうな顔をする。話を聞くと、結構遠くの町から、カオルはここまで一人で来たらしい。
「うーん、でもボクの事よりも、隣にいる、その子の心配をした方がいいんじゃないかな?」
カオルの視線が遙からリズの方に向く。
「その子だって普通の人でしょ?」
「ふぇ?あたしですか?」
「遅い時間だし、ボクと一緒に帰った方がいいかな?女の子だし、何かあったら大変でしょ」
「まだ一人よりはマシか?リズ」
「そうですね・・・でもカオルさん、その後は?」
「ボクはこれでも一応、魔術師なんだよ?」
ジャッカロープを抱いたまま、カオルは二人に笑ってみせた。カオルも女の子とはいえ、相当、魔術などの自信はあるようです。
「だから、ボクの事は心配しなくても大丈夫だよ」
○o。. ○o。.
リズとカオルが帰った後。遙は店の戸締まりと売り上げの精算をして、二階の自宅に上がる。
「お前さんが心配しなくても、あのお嬢ちゃんも結構な腕の魔術師だぞ」
「そうなのか・・・って、また呼んでもいないのに勝手に出てきやがって」
遙の足元を、ちょこまかと小型犬サイズのフェンリルが歩きまわる。
「で、なんで出てきた」
「別に、特に用はない」
「何度も俺は、用がないなら出てくるなって言ってるよな?」
遙に睨まれるように見られたフェンリルは、そのまま何も言わずに遙の影の中に戻っていく。それを確認した遙はソファーに座り、スマートフォンを操作する。ちょうどその時、護からメールが来た。護も仕事終わりらしい。
『連絡が遅くなって悪い、代理で引き取ってくれる子、そっち行ったか?』
『ああ、来たよ、だけどあまりに突然で俺も驚いたけどな』
『それはすまなかった、アイツに連絡した時に、その子に伝えておいてもらってたんだけど、俺もなかなか連絡する時間がなくてな』
『そうだったのか』
二人が忙しいのはわかる。だが、もう少し早く連絡が出来なかったのだろうか。
『それは悪かった』
『護はそういう仕事だから仕方ないけどさ、彼女の方は時間がなかったのか?』
『今、ちょうど俺と一緒にいるんだけど、それを聞いたら『ごめん、忘れてました』だってさ(苦笑)
全く、困ったもんだよ』
『・・・護も色々とご苦労様』
何だかんだで、護も周りに振り回されてて、苦労人なんだなと遙は思う。ただ、その苦労に遙を巻き込まないでほしいのだが。
『本当に悪かったな』
『俺だって、何でもかんでも動物の相手が出来る訳じゃないんだぞ』
『それは知ってるし、俺だって、あまり遙を巻き込む事はしたくなかったんだぜ?』
『・・・そうか』
確かに護は何かあれば、真っ先に相談に行くのは、幼馴染みの魔術師だ。彼女は渋々という態度を護にとりながらも、結局は動いてくれるから。今日は本当にどうしようもなく、らしい。
『まあいいや、とりあえず、彼女にもよろしく言っておいてくれ』
『はいよ』
スマートフォンをテーブルに置き、遙はソファーから立ち上がって、キッチンに向かった。
○o。. ○o。.
帰宅したリズが、夕飯を食べながらテレビをつけると最近人気のペットの特集をやっていた。
「犬、猫はわかるけど、ウサギも人気なのねぇ」
「ウサギはほとんど鳴かにゃいからにゃ、鳴き声の問題が比較的少にゃくてすむのにゃ」
「やっぱりそういう事なのかー」
そこに映っていた、動く毛玉の塊・・・じゃなくて、ウサギを見てリズは思う。
「アンゴラウサギって、ブラッシング大変そうだよなー」
「見た目からもう既に毛玉にゃのにゃ」
「ああいうの見ると、凄くバリカンで刈りたくなるんだけど」
「・・・それは職業病にゃのかにゃ?」
「それは違うと思うよ」
どうせ同じ毛玉なら、ケセランパサランの方が良いわとリズは笑う。ケット・シーもそれに頷いた。
「あたしは、しばらくウサギは見なくてもいいかな、それも角が生えたのは」
「そういうのは滅多に店には来にゃいと思うのにゃ」
ケット・シーの言葉に、リズは苦笑した。




