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魔獣美容師の日常  作者: 星咲 美夜
八匹目:兎
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ウサギと酒

家に帰った遙はソファーに座り、スマートフォンをいじる。


『今日は突然、俺の友人がすまなかったな』

『いえいえ、今日はわたしも比較的暇でしたし、気にしなくていいですよ』

『こっちに来てたみたいだが、どうしたんだ?』

『たまには出掛けるのも良いでしょう?わたしだって、いつも引き込もって仕事をしてはいられませんものね』

『なんか色々と大変そうなんだな』

『あら、そんなことはありませんよ』


メールの相手は比較的こういう事が突然くる事に慣れているらしい。むしろ、いつもの仕事の方が酷いようです。


『まだそれに比べたら、峰岸くん達の持ってくる案件は楽ですよ』

『そっちも苦労してるんだな』

『気苦労って意味ならば、峰岸くん程ではないと思いますけどね?』


「・・・なんで見抜かれてんのかな」


遙にはそれが不思議だった。やはり彼女は普通じゃないようだ。



  ○o。. ○o。.



翌日。朝早くから家のインターホンが鳴る。ソファーで寝ていた遙はそれで目を覚ますが、しばらく無視をする。


「・・・朝早くから誰だよ、全く」


時計を見ると6:00。リズでも、こんな朝早くには家に来ないし、出勤もしない。しかも、何度もインターホンを鳴らしている。こういう事をする奴は、遙の知る限りでは一人しかいない。

インターホンから外を確認すると鉛色の髪が見えたので、友人だった。


「やっぱり(たける)か」


渋々、遙は着替えやら色々と支度を済ませて、玄関の方へ向かう。


「あ、遙、おはよー」

「健、こんな朝早くから何の用だ」

「今日さー、取ってた授業が休講になって暇になったから遊びに来た」

「あのな、俺は今日も仕事なんだが?」

「マジかよー、それは悪かったな・・・まぁいいや、お邪魔しまーす」


全然、悪びれる様子もなく、健は家の中に入ってくる。入っていいと遙は言ってないのだが。


「で、結局あのウサギはどうなったんだ?」

「ああ、あれはあの娘が知り合いの魔術師に連絡して、一旦保護してもらえることになった」

「じゃあ何もなければ野生に帰されるのか」

「そういう事らしいな」


健は勝手にソファーに座ってテレビをつける。まるで自分の家にいるような感覚のようだ。

遙は仕方なく、キッチンにある冷蔵庫を開け、何か飲み物があったか探す。さすがに、向かいの喫茶店もまだ開いてないだろう。開いてたら(ゆたか)に相手をしてもらいたかったのだが。


「健、何か飲むか?」

「何がある?」

「お茶、水・・・あと酒」

「朝から酒は無理だなー、とりあえずお茶で」


何も朝から健に酒を飲めとは、遙は一言も言ってない。ただ視界にあっただけの話。


「で、健は俺が仕事中はどうする気だ?」

「んー?その時は帰る」

「俺としては今からでも帰ってほしいんだけどな」

「えー、それはひでぇ」


遙は特に何も言わないが、健がいなければ寝れるのにと言いたいらしい。だが健は、そういう事には疎いというか、図太いというか。言わないと全く気付かない。


「なんだ遙、調子悪いのか?」

「誰のせいだと思ってるんだ」


朝早くから健に起こされて、遙は不機嫌だし、体調も(若干)よろしくない。全員が全員、朝に強い訳じゃないんだぞ。


ソファーは健に占領されてしまったので、仕方なく遙は健の目の前のテーブルにお茶を置き、寝室のドアを開ける。


「・・・あ、しまった」


相変わらずではあるが、遙の家の寝室は物で溢れていた。床が見えない。自分の家の事ではあったが、寝室がこの状態なのを遙は忘れていた。


「どうしたー?・・・って相変わらず、遙の寝室は汚ねーな」

「・・・悪かったな」


寝室のドアを開けて固まってた遙の後ろから健が覗き込む。


「仕方ねーな、遙、ちょっと待ってろ」

「は?」

「多分、時々は優とか護が片付けてくれてんだろうけどさ」


健が遙の横から寝室に入り込み、片付け始めた。その間の遙は空いたソファーで二度寝。


「遙ー?・・・って寝てるし」


片付けをしていた健が寝室から顔を出すと、遙は爆睡している。こうなると遙はちょっとやそっとの事では中々起きない。


「まぁオレも勝手に上がっちゃったから、掃除(これ)くらいはちゃんとやっておくか」


仕方ないとは思いつつ、健は寝室の片付けを続けた。



  ○o。. ○o。.



リズが出勤すると、ちょうど健は帰るところだったらしい。


「あれ?オーナーのお友達の」

「あ、遙のところの」

「リズです、えっと、どうしたんですか?」

「リズさんか、いや、ちょっと取ってた授業が休講になってな」

「へー、そうだったんですか」


リズは健を意外そうに見る。大学に行ってたんだと言いたそう。


「あ、そうそう、遙さ、今寝てるんだ」

「え?」

「いやぁー、オレ、二時間くらい前にこっち来てさ」

「・・・非常識極まりないですね」

「まぁ、なんやかんややってたらさ、遙が二度寝しちゃってて」

「そうですか、じゃあ、あたしは仕事の準備があるんで」


リズは健の話を聞き流しつつ、店の鍵を開けて中に。正直な話、健に構ってる暇はない。


「まぁ、午前中の予約の子が終わるまでには起きるでしょ」


そんなことを思いながら、リズは準備を始めた。



  ○o。. ○o。.



遙が再び目を覚ますと、時計は9:50。慌てて飛び起きた。


「うわ・・・寝過ぎた」


着替えはとっくに済ませてあったので、必要なものを持って急いで階段をかけ降りた。


「あ、オーナー、おはようございます」

「あぁ、おはよう」


トリミング室に入ると、リズはとっくに仕事を始めている。


「相変わらずオーナーは朝弱いですね」

「一回は起きた(起こされた)んだけど」

「二度寝して寝坊しちゃったら、結局は変わらないじゃないですか」

「・・・う」


遙には言い返す言葉が見付かりません。リズの言っているのも事実だし。


「そういえば、オーナーのお友達が来てたみたいですけど」

「ああ、リズはあいつに会ったのか」

「こっち来た時に、ちょうど」

「そうか」


遙はそのまま、トリミング室を出た。



  ○o。. ○o。.



仕事の休憩中、遙はスマートフォンをいじっていた。


『あのウサギってやっぱり野生に帰すのか?』

『あ、もしかして気になってました?峰岸くんに伝えようか、わたしも迷ってはいたのですが』

『今朝、友人に少し聞いてたんだけどさ』

『あら、そうでしたか

そうそう、ジャッカロープを保護している魔術師から、こんな写真が送られてきたので、報告の代わりに送っておきますね♪』


「って・・・おいおい、これは」


その後に送られてきた写真を見た遙は、思わず笑ってしまった。



  ○o。. ○o。.



遙が休憩から戻ると店にリズがいる。いつも遙が座っている椅子に座って。


「あれ?オーナー何かあったんですか?」

「いや?特に何もないが」

「なんか珍しく楽しそうです」

「そうか?」


何かあったかと言われても、思い当たるのは、休憩中のメールのやり取りぐらいだけどなと遙は言う。


「どんなメールですか?」

「見るか?このメールなんだが」


遙がスマートフォンを操作して、リズに見せた。件名には『ウサギとお酒』とある。本文はない。


「あはっ、何これー、可愛いー」


そのメールにはジャッカロープがウイスキーのビンを抱えて寝ている写真が添付されていた。それにしても、よくこんな写真が撮れたな。


いくらジャッカロープはウイスキーが好物とはいえ、なんと言うか凄くおっさん臭い。


「何とも言えない感じが良いですねー、これ」

「何もなければ、こいつは野生に帰されるらしいぞ」

「そうなんですかー、それは良かったですね」


ちょうどその時、午後の予約の客が来たので、遙はスマートフォンを仕舞い、リズはカルテを持って応対を始めた。

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