角の生えたウサギ
リズはどうしたらいいのか解らず、隣にいる遙を見る。その遙は頭を抱えていた。目の前にいるのは鉛色の髪を持つ、遙の友人の一人の健。
「で、健はどこでそれを拾って来たんだ?」
「いやぁ、その・・・ちょっと大学が休みで別の町に遊びに行ったら、懐かれたっていうか、押し付けられたっていうか」
全く、健も遙のところに厄介事を持って来やがる。なんでこうも遙の周りは普通じゃない生物を店に持ち込んでくるんだ。遙は言わないが、表情に出てる。
「他に適任者がいるだろ」
「だって、オレはあの娘の連絡先は知らねーし」
「それなら護に言えばいいだろ、あの娘に一番近いのは護だ」
「アイツはアイツで、忙しいらしいしー」
若干、不満そうな健に益々、遙の表情は迷惑そうになる。当の遙は、どうしても厄介事を回避したいらしいが。
「でさ、遙」
「なんだ」
「コイツって何なんだ?」
しばらく沈黙が流れた。健は今、自分が抱えている生物が何かも判らずに、店に連れてきていたのか。
その生物は鹿のような角を生やしたウサギだった。遙もリズも、正直ほとんどこういった生物を見ないのでわからない。
「あの娘が使い魔にしていたウサギとは違うよな?」
「アレとは別の生物だな」
とりあえず、この生物が何かを聞く為に、遙はポケットからスマートフォンを出して、健が抱えている生物の写真を撮る。それをメールで送ると、すぐにその相手から返事が来た。
『これは『ジャッカロープ』ですね』
『君の使い魔とは違うよな?』
『わたしが飼ってるのは『アルミラージ』っていう獰猛な肉食獣ですが、その子は基本的に大人しい、ウイスキーが好きな動物です』
コイツはウサギの癖に酒を飲むのかと、遙は思うがそれ以上の感想はない。それと使い魔は飼っているのかよ。
「で、健はそいつをどうしたいんだ?」
「んー?どうしたいって言われてもな・・・どうすればいいか、わかんねーから遙のところに来たんだけど?」
その発言に、遙はさらに頭を抱えている。そんな事ぐらい自分で考えろと言いたそう。あと、動物関係だからって、何でもかんでも遙のところに、持って来るなとも。
リズもカルテとペンを持ったまま、健の様子に呆れて固まっている。
「あのな、健」
「うん?なんだ?」
「いくら俺達が色々と動物関係のことを勉強しててもな、野生動物まではさすがに請け負えないんだぞ?」
「そっかー、遙でも無理かー」
「そういう事は早く気付いてくれないか?」
「あははっ、悪いな」
健は呑気に笑っているが、遙とリズにとっては笑い事ではない。もうヤダ、この思い付きだけで動く奴を相手にするの。
「とりあえず、健、あの娘には連絡を入れておいてやったから、さっさと行ってこい」
「マジ?サンキュー、遙」
健は満面の笑みを浮かべて、大きく手を振って店を出ていった。それを見送った遙は大きなため息をつく。
「オーナーの知り合いって、変な人が多くありません?」
「・・・否定が出来ないから困る」
リズの言葉に遙は頭が痛くなった。
○o。. ○o。.
午後は新規の客が来た。まあ、この飼い主のバb(殴) 女性の話が長いこと、長いこと。
「この子って、爪が変なところから生えてるのよー、前に行ってたペットサロンで言われてね、奇形なのかしら?もしそうなら、この子を買ったペットショップを訴えてやろうかと思うんだけど」
その客が連れてきた柴犬。ワクチンも済んで、シャンプーなども出来るようになったらしい。その柴犬の前足の内側。片方ずつに一本の爪が生えている。
「あー、これは狼爪ですねー」
狼爪というのは犬でいうところの親指に相当するところから生える爪である。子犬の時に切除することもある爪。だから生えていたとしても、奇形でも何でもない。最近の愛玩犬では、狼爪が生えてるのは珍しいのかもしれないが。
「まあ、地面と接することがほとんどないので、切らないと伸びるんですよね」
ちなみに、どうでもいいがプードルとかコーギーとか尻尾が短い犬種は、子犬の時に尻尾を規定の長さに切っちゃうんですよ、これを断尾というのだが。ええ、それはもう、ばっさりとね。
「とりあえず、この子に問題はないので、お預かりしますねー」
「お願いします」
トリミング室に入ったリズは、こんなので奇形だとか言ってたら、鎌鼬とかどうするんだよと、思わずため息が出た。
この柴犬の飼い主は迎えにきた時も、ずっと喋っていやがった。ちょうど次の予約の客も来たので、リズはさっさと打ち合わせをする為、遙に会計で相手をしてもらうことにした。
「こんにちはー♪」
「今日もお願いします」
「毛の長さとかどうしますー?」
「あ、いつも通りで」
遙は仕方ないと思いながらも、表情では早くこの客に帰ってほしそうである。遙にも仕事があるしね。
「えっと、終わる時間なんですが・・・大体5:30くらいには終わりますかね、終わりましたらここに連絡で?」
「はい、それでお願いします」
「それでは、お預かりしまーす♪」
犬を預かってリズはそのままトリミング室に逃げる。遙が何かリズに目で訴えてた気がするけど、気にしない。
「まぁ、気が済めば帰るでしょ」
遙には悪いけど、そんなことを思いながら、リズは自分の仕事を始めた。
○o。. ○o。.
閉店後。遙は向かいの喫茶店へ。なんかもう、これが習慣のようになってる気がする。
「いらっしゃい、遙」
「キュウン」
「出雲もいるのか」
いつものように遙はカウンターの奥の席に座る。何か今日は優と出雲は嬉しそうにしていた。
「そうそう、昨日ね、出雲が変化してたんだよ」
「出雲が?変化が出来るようになったのか」
「少しの間だけなんだけどね」
ただ、まだ言葉は通じないらしい。それでも本人達はいいみたいで。
「その事をシオンさんに言ったら『成長すれば、変化の出来る時間も長くなって話せるようにもなる』ってさ」
「あの娘のところにも、狐が何匹かいたよな」
「確か、彼女の狐は九尾の狐だったよね?出雲もいつかそうなるのかな?」
「話を聞いたら、あの狐達は千年近く生きてるらしいけどな」
優は遙にコーヒーを出す。それをいつも通りに遙は飲む。
「そういえば、今日は久しぶりに健にも会ったよ」
「奇遇だな、俺もだ」
「ってことは、何か動物でも連れてきたのかい?」
「角の生えたウサギを連れてきやがった」
「もしかして、鹿の角みたいなのを生やしたウサギかい?それなら僕が会った時に彼女が抱いてたけど」
優は「それで今日、健は彼女と一緒にいたのか」とどこか納得した様子だった。
「つまり、健が連れてきたのを彼女は抱いてたのか」
「そういうことじゃないかな」
「全く、何でもかんでも俺のところに動物を連れてきやがって」
「あはは、だって遙なら、なんとかしてくれそうなんだもん」
そんな理由で動物を連れてこられても、遙は困る。遙だって、動物相手なら何でも対応できる訳じゃない。
「よく考えれば、本当なら遙よりも先に行かなきゃならない所はあるんだよね」
「なんで、それをしないで俺のところに連れてくるんだか」
「やっぱり遙が一番近くにいるからじゃない?」
笑いながら優はそう言うが、遙としては笑えない。今のところは特別、何かあった事ないが、それで遙に何かあったら、優達はどうするつもりなのか。
「一番は、そうならないといいんだけどね」
「なら、俺のところに連れてくる前に、彼女か護のところに行ってくれ」
「うん、今度からそうするよ」
相変わらずの優の反応に、遙は大きなため息をついた。




