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魔獣美容師の日常  作者: 星咲 美夜
七匹目:豆狸
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変化

とりあえず、豆狸をそのまま家には上げられないので、リズは豆狸を風呂場に放り込む。豆狸の毛は茶色くてわかりにくいけど、土とかで結構汚れている。


「シャンプー・・・これ、犬用だけど大丈夫だよね?多分」


ケット・シーを家でも洗えるようにと買っておいたシャンプーが、まさかここで役に立つとは。


シャンプーの原液を、専用のボトルで1/10に薄めて、しゃがんで豆狸を洗っていく。


「ごめんねー、このままだと家の中が汚れちゃうんだ、ちょっと我慢してねー」


その言葉は通じているのか、豆狸は大人しくリズにシャンプーをさせる。どこぞのケット・シーにも見習ってほしいものだ。


やはり、シャンプー台とは違い、とても洗い辛い。さらに豆狸が小さいから余計に。


「リンス・・・一応しとこうか」


もちろんリンスもシャンプーと同じく薄めて使う。

シャンプーをしてリズは気付いたが、この豆狸は♀だった。野生の動物なので、リンスをするのは迷ったが。


「よし、ちょっと待ってねー」


濯いだ後にある程度、毛の水分を絞り、一旦リズは風呂場を出る。


「はい、いいよー」


ドアの向こうで豆狸が体を振るわせ、水気を飛ばす。その後、タオルを用意してリズは風呂場のドアを開ける。


「よいしょ、じゃあ、乾かしますか」


脱衣所で左手にドライヤーを、右手でスリッカーを使い、乾かしていく。大人しいけど、乾かし辛い。何とか指示して乾かしてはいるが、しゃがんでいるので腰が痛くなってくる。


「ふぇえ、キツかったー」


なんとか乾かし終え、リズと豆狸は脱衣所から出てくる。ここまで一時間。


「リズ、お疲れ様にゃのにゃ」

「とりあえず、ご飯ー」

「はいにゃ」

「あと、あたしが食べている間に教えられることは教えておいてよ」

「・・・わかったのにゃ」


テーブルの上に用意してある夕飯を、リズが食べ始めたので、ケット・シーは部屋の隅っこで豆狸と本を開いた。



  ○o。. ○o。.



翌朝。リズが起きると、いつの間にかあの豆狸はいなくなっていた。


「ああ、あの子にゃら『行くところがある』って言って、夜中に出ていったのにゃ」

「ふーん、そんなに仲間が大事なのね」

「あの子はまだ若いからだと思うけどにゃ」


ケット・シーが言うには、あの豆狸は変化も覚えたてだったらしい。

それよりもリズが気がかりだったのは、事件のことだ。いくら人間の言葉がわかるとはいえ、犯人は動物だったのだ。


「この場合って、どうなるのかしらね?」


見付かっても、殺処分とかにならないといいけどと、リズはぼんやりと考えていた。



  ○o。. ○o。.



リズが出勤した時には、珍しく遙が店にいた。


「珍しいですね、オーナーが早起きして店にいるなんて」

「そうか?」

「きっと明日は雨ですね、まぁ、あたしは明日休みなんで、雨でもいいんですけどね」

「そこまで言うか」


荷物を置いて、リズはトリミング室で準備を始める。準備といっても簡単な掃除とかだが。


「そういえば、あの狸ってどうなったんだろう?」

「あいつなら今朝、俺の家の前にいたぞ」

「それでオーナーは起きてたんですね?」

「そうなるな」


そのせいなのか、なんだか遙はまだ眠そうだ。どことなくボーッとしてる気がする。


「オーナー、まだ頭は寝てます?」

「大丈夫だ、ちゃんと起きてる」


遙が朝弱いのはリズも知ってるけど、真顔で「起きてる」と言っている。だけど本当に頭は寝てるんじゃないだろうか。



  ○o。. ○o。.



午後。リズと遙はかなり頭を悩ませていた。というのも、飛び込みで来た客が、二人を悩ませていた。


「・・・本当にいいんですかね?」

「一応、そういう要望だしな」


目の前にいるのは一匹の柴犬。別にこの犬が暴れたり、噛む犬だという訳ではない。


「そもそも、柴犬はカットする犬種ではないんだけどな」

「ですよね・・・」


リズはバリカンを持ったまま、躊躇っているようだ。それはそうだと思う。なんせ、この柴犬の飼い主はカットの希望なのだ。だから二人は悩んでいるのである。


「とりあえず、最初は5㎜とかからですかね?」

「それでもう少しってなったら・・・仕方ないが、3だな」


リズも初めての事なので、恐る恐るその柴犬の体にバリカンを入れていく。一歩間違えると、段になる(ぼかすのも大変)ので慎重に。


「・・・とりあえず、シャンプーしてもう一回か」

「そうですね・・・」

「終わったら呼んでくれ」

「はーい」


遙はそのままいる訳にもいかないので、トリミング室を出ていった。



  ○o。. ○o。.



柴犬のシャンプーなどを終え、リズは遙を呼ぶ。ふと、窓の外を見ると、あの豆狸がいた。


「あの子、また来たんだ」

「今は、気にしてられないだろ」


それはそうなのだが。じーっと見られてるのも気まずいのだ。


「一応、これは飼い主に聞くしかないな」

「そうですよね・・・」


遙はトリミング台に乗っていたカルテを持って、再びトリミング室を出ていった。


しばらく、他の犬のシャンプーをして迎えを待っていると、その飼い主が来る。

遙が柴犬を連れて、一旦トリミング室を出るがすぐに戻ってきた。


「リズ、道具借りるぞ」

「どうぞ・・・もしかして、もう少し短くってことですか?」

「そういうことだ」


遙は淡々とバリカンをかけていく。その後は、ハサミでバリカンを入れてない所との境目をぼかす。一通りその作業を終えて、ドライヤーで切った毛を飛ばす。

その後、遙は柴犬に首輪とリードをつけて連れていった。それからトリミング室に戻って来ないので、今度は大丈夫だったようだ。


仕事と掃除を終え、リズが店を出ると、ケット・シーとあの豆狸がいた。豆狸はまだいたのか。


「どうしたの?」

「うーん、にゃんでも、仲間の捜索はしてもらえるらしいんだけどにゃ」

「それは良かったじゃないの」

「ただ、見付かってもにゃ、この間の事件の犯人だからにゃあ」

「そっか」


どうやら、その事を報告しに来ただけらしい。豆狸は尻尾を振って、どこかへ行ってしまった。


「あたし達も帰ろうか」

「そうだにゃ」



  ○o。. ○o。.



帰宅して、リズは早速テレビをつける。ケット・シーは夕食をキッチンから運んでくる。


『──続いてのニュースです。『××金融』の強盗障害事件の犯人と思われる情報が警察に寄せられた模様です』


「結局、どうなるのかしらね?」


報道でも犯人が妖狸(ようり)である事が言われた。さすがに狸は人間の作った、人間に適用する法律では裁けない。


「普通なら見付かり次第、殺処分なんだろうけど」

「よほどの事がにゃければ、助からにゃいのにゃ」

「それで他の妖狸まで駆除みたいなことになったら可哀想じゃないの」


いくら今回は悪人を襲ったとはいえ、それが一般市民にまで被害がないとは言えない。


「あの子も探してたのにね・・・」

「きっと殺処分を望むのが、大多数にゃのにゃ」

「それで犠牲になるのは仕方ないのかな?」

「犠牲を最小限にはするだろうけどにゃ」


こればかりはどうしようもない、とケット・シーは言う。リズでも何かが出来る訳でもないが。


『──それでは次のニュースです』


テレビでは次の事件のことを淡々と放送している。大して興味もないので、リズはチャンネルを変えた。

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