狐と狸
『──続いて、一昨日未明に起きた『××金融』の強盗傷害事件です』
今日もそのニュースは報道されていた。全く、報道する側も飽きないね。
「まだ、犯人捕まってないんだ」
「にゃんでも、防犯カメラに映ってた人物が、何者かが変化していたモノらしいのにゃ」
「え、じゃあ犯人は今は違う姿かもしれないってこと?」
「そうにゃるにゃ」
まぁ、高度の変化が出来る魔物の種族は限られるけどとケット・シーは言う。それでも、魔物の中には変化の魔術を覚えている者もいるので、特定は出来ないらしいが。
「でも大体が完全に変化が出来てにゃいのにゃ」
「確かに、そういう子って耳とか尻尾が出てるよね」
リズは常連客の猫又のリリを思い出す。リズ以外の人や客がいない時は人の姿をとって自分で爪を切っている。
その時のリリは耳と尻尾がそのまま出ていた。本人曰く、隠す気になれば隠せるらしいけど。
「今回は防犯カメラに耳も尻尾も映ってにゃかったらしいのにゃ」
ケット・シーは昼間に暇なので、よくニュースを見ているようだ。
「アンタは犯人の特定とか出来るの?」
「予想はたてられるけど、特定までは出来にゃいのにゃ」
リズの言葉にケット・シーは肩をすくめて首を横に振る。
「じゃあ、アンタのその予想だけど」
「あれだけの変化が出来る者だが、動物にゃらば狸、狐、猫かにゃ?」
「ふーん、で、動物以外は?」
「そうだにゃ・・・一部の純血の吸血鬼とドッペルゲンガーかにゃ」
まずそういった動物ならどこにでもいる為、特定が難しいらしい。魔物だとしても、前者は種族的にほとんど見ないくらい数が少ないので、これも無いようだ。あと現場に立ち会った訳でもないし。
「だから特定は難しいのにゃ」
「そうだね」
そうは言っても、ケット・シーはなんだか得意そうだった。
○o。. ○o。.
翌日もリズはケット・シーと出勤する。その後はいつも通り、店の鍵を開けて、掃除と準備。
「ん?」
物陰に隠れるように、茶色い『何か』がいた。何をしているのかはわからないけど。
「えっと・・・あれは何だろう?」
リズが恐る恐る近寄ると、その『何か』はリズに気付いて、サッとどこかに逃げていった。多分、野生の動物だろう。逃げるのは当たり前か。
「リズ、どうした?そんなところで」
珍しく、遙が店の外に出てきている。特に用はないらしい。
「あ、オーナー、さっきそこに何かいたんですよ」
「きっと、狸か何かじゃないか?」
「そうですかね?」
「例え違うとしても、何だかわからないモノに近付くのはどうかと思うが」
遙の言葉は正しい。正しいのだが、リズは気になってしまったのだから仕方ない。気になったモノを怖がりつつも見たくなるのは、どうしようもない人間の性である。
ただ、そんなことは遙にとってはどうでも良いらしく、遙はリズを置いて店の中に戻ってしまう。
「オーナー、何しに外に来たんだろう?」
一人、取り残されたリズは首をかしげたが、何事もなかったかのように、すぐに掃除の続きを始めた。
○o。. ○o。.
午後の休憩時間なのだろう。優と出雲が来店する。
「こんにちはー♪今日も出雲ちゃんはシャンプーですよね?」
「うん、出雲は毛が白いから、汚れとかが目立つんだよね」
「キュゥー・・・」
優に抱かれていた出雲は小さく鳴く。話によると、出雲は未だ変化が出来ないらしく、よく一人で練習をしているそうだ。
「出雲のシャンプーが終わったらどうする?」
きっとシャンプーが終わった時には優は忙しいだろう。そういう時は大体、閉店まで預かって、遙が出雲を喫茶店まで連れていく。
「遙、いつも通りでいいかい?」
「ん、わかった」
優の言葉に、遙はただ頷くだけだった。
○o。. ○o。.
出雲をリズが洗って乾かしていると、窓の外に小さな茶色い生物がいることに気付いた。
「・・・出雲ちゃんの知り合い?」
リズの言葉に出雲は、ふるふると首を横に振る。
「迷子かな?多分、野生のだけど」
遠目ではあるが、その茶色い生物は狸のようだ。その狸はジッとこちらを見ている。
「ま、いっか」
リズはそのまま狸を放っておくことにした。だが、しばらく経ってもその狸は逃げる様子がない。
「ずっと見られてるってのも、何かちょっと気まずいかな」
出雲はそんなリズの様子に少し首をかしげる。可愛い。
「よし、出雲ちゃん乾いたよー♪」
「キュウン♪」
「うふふ・・・凄い気持ちいい」
シャンプーを終えた出雲は真っ白でフカフカしてる。可愛いし綺麗。
「さ、オーナーに報告・・・ってまだあの子いるし」
出雲を肩に乗せて、リズが店の方に顔を出す。そのまま出雲をリズの肩から飛び降りて、遙の足下に行く。
「終わったのか」
「はい、それとオーナー、さっきから外に何かいるんですけど」
「・・・狸だろ?」
「何でわかるんですか」
「前を通ったのを見た」
「そうでしたか」
まぁ、もういないだろうと笑いながらリズが店の外に出ると。
──いた。
しかも、リズが近付いても逃げない。ぷるぷると震えてはいるが。
「うわぁー、ちっちゃい、震えてるけど可愛い、何この生物」
しゃがんで、狸を観察してみる。さすがに手を出すことはしない。噛まれたくないし。
「リズ」
「あ、オーナー」
「・・・お前はまだいたのか」
遙は肩に出雲の乗せ、リズの目の前の狸を見下ろし、小さくため息をつく。
「オーナーはこの子を知ってるんですか?」
「しばらく見ないなとは思っていたけどな、コイツは豆狸っていう妖狸だ」
「じゃあ、人の言葉とかってわかるんですかね?」
「わかってるよ、で、どうしたんだ?お前は」
豆狸は何かを訴えるように、その小さな手をパタパタと忙しく動かす。
「えーっと?」
「何が言いたいのか全くわからん」
そんな二人の様子を悟ったのか、豆狸は諦めたようだ。
さすがに店の中には入れられないので、その豆狸とは別れて遙とリズは店に戻った。
○o。. ○o。.
仕事も終わり、遙が店の施錠をし、自宅から喫茶店に向かう。
「遙、お疲れ様、出雲はおかえりかな」
「リズが『出雲は今日も大人しかった』とさ」
「そうか、良かったなぁ、出雲」
出雲は遙の肩から飛び降りて、いつもの定位置である喫茶店のドアの近くに移動する。
「遙、今日は何かが店の前にずっといたみたいだけど?」
「豆狸だ、何かを知らせに来たみたいだけど、生憎、俺は動物の言葉がわからない」
「フェンリルは?」
「・・・どうだろうな」
遙は心底嫌そうな顔をする。
「後で聞いたら?」
「そうする」
そんな遙に優はいつも通りにコーヒーを出した。
「そういえば、狐と狸は仲が悪いって聞くけど」
「ここでは他種族間の縄張り争いってそうそう無いらしいな」
「そうなの?」
「今では分布も違うし、そこまで争う理由もないんだろう」
コーヒーを飲みながら遙は、優の質問に答えていく。特に確証はないが。
○o。. ○o。.
一方、その頃。リズはケット・シーと共に帰宅。マンションの前に昼間に会った、豆狸を見付けた。
「あれ?」
リズが近くまで行っても豆狸は逃げずに待っていた。
「どうしたのにゃ?」
「昼間にも店の前にいたのよ、あの子」
「リズは話を聞いてやったのか?」
「何か言いたそうだったんだけどね?あたしじゃわからないし」
「にゃら、我輩が聞いてやるのにゃ」
リズの肩からケット・シーは飛び降り、豆狸の話を聞いている。
「ふんふん・・・それで?・・・そうだったのか」
「何かわかった?」
「この間の事件の犯人が自分(豆狸)の仲間だったらしいのにゃ」
「え?」
「どうやら、そのまま仲間は、いにゃくにゃったようだにゃ」
ケット・シーからの言葉なので、あまり信用は出来ないが。
「一応、変化はこの子も出来るのだが、字が書けないので教えてほしいとの事にゃ」
「それだけ?」
リズの言葉に豆狸とケット・シーは頷いた。




