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魔獣美容師の日常  作者: 星咲 美夜
六匹目:雷獣
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理由

「マヤちゃん、ちょっとチョーカー外すよー」

「大切なモノだし、濡らせないしね」


マヤがつけていた青いリボンのチョーカーを外して、リズがマヤのシャンプーを始める。ある程度乾いたフェンリルは遙に任せている。任せているっていうか、マヤをシャンプーしろと遙に言われたのが正しい。


「さすが仕え魔さん、大人しいねー」

「命の危険がないことはわかってますもの」


どうやらマヤは普段から気を使うらしく、リズがシャンプーをしている間はとてもリラックスしていた。


「マヤちゃんも何か魔法とか使えるの?」

「そこまで大掛かりな魔法は無理ですけど、そこそこは」

「昨日の停電は大変じゃなかった?」

「停電ですか?うーん、そんなに大変だったかしら」

「マヤちゃんのところは停電はしなかったの?」

「してましたけど、うちのご主人達がすぐに復旧させてましたし」


何それ羨ましいと、リズはマヤに言う。一応、この町の復旧も手伝ってくれていたようで。


「結局、マヤちゃん達は何をしてたの?」

「あー、あたし達の仕事に関して、貴女は知らない方が幸せだと思いますよ、精神的にもね」

「ま、そう言うなら無理に聞こうとは思わないけど」


二回目のシャンプーを流して、リズはリンスを手に取る。そして、しっかりと流す。


近くに用意しておいたバスタオルを広げ、マヤに体の水分を飛ばしてもらう。フェンリルとマヤを洗っていて思ったが、この二人(二匹か)の毛は凄く撥水性がいい。


「見た目は普通の猫と変わらないのにねえ」


バスタオルに包んでドライヤーで乾かすけど、普通より乾きが早い。リリでも結構かかるのに。


猫を乾かす時にリズはスリッカーを使わない。というのも、猫の皮膚は犬と違って柔らかいので、スリッカーを使うと傷付けてしまう。


「マヤちゃんは毛が短いから、早く終わるとは思っていたけど」

「これなら営業時間に収まりそうだな」

「ですねー」


隣でフェンリルにコームを通したり、耳を拭いてたりしていた遙が時計を見た。時刻は5:50。営業時間ギリギリである。



トリミング室のドアを開けると、フェンリルは自分から出ていく。マヤはリズに、雷獣は遙に抱かれて。


「お待たせしましたー」

「お、大丈夫だったか?」

「なんとかな」


護は遙から雷獣を受け取り、会計をする。


「あ、遙」

「どうした」

「アイツが『一応、領収書貰ってきてね』って言ってたんだけど」

「彼女の名前でか?っていうか《協会》で落とすつもりなのか」

「アイツ曰く『あくまでも一応』だとさ」


それは出来たらやるという意味だと思うが。多分、護もそう思っているようだ。


「とりあえず、領収書(これ)な」

「ああ、悪いな」


来た時と同じように頭にマヤ、隣にフェンリル、脇に雷獣を抱えて護は店を出ていった。



仕事を終えた遙は向かいの喫茶店に入る。相変わらず(ゆたか)は笑顔で遙を迎え入れる。


「いらっしゃい、遙」

「悪いな、呼び出すことになって」

「別に構わない」


ほとんど客はいないが、カウンターの奥に護がいた。足元にはフェンリル。ただ、大きいままでは邪魔になると思ったのだろう、小型犬サイズになっていた。


「護、彼女はいないのか」

「さっきまでアイツもいたんだけど、雷獣を連れて出ていったよ」

「そうか」


のそのそとフェンリルが遙の足元に移動する。かなり疲れた様子だ。そのまま何も言わずに遙の影の中に入っていく。


「護達は一体、何をやってたんだ?」

「雷獣駆除」

「そのおかげで電力が復旧したみたいだけど、どうなんだい?」

「アイツが言うには半分は当たってるらしいけど、どうなんだろうな」

「結局、原因はわからないのか」

「ああ」


どことなく不満そうな表情で、護はコーヒーを飲んでいる。


「で、フェンリルは役に立ったのか?」

「なったっていうか、ほとんどの雷獣がフェンリルに喰われたっていうな」

「はぁ?!」


だからフェンリルに血が付いていたのか。それを不覚にも想像してしまい、遙の背筋が凍る。


「まぁ、フェンリルは狼だしな、おかしいことじゃない」

「そんな凶悪な奴だったのか、こいつ」

「それだってフェンリルの姿の一部だよ、遙」


まあ、今回のそれは彼女の指示での行動だと護は言っていた。とりあえず、フェンリルを遙に返すのにいただけだったようで、護は会計をして店を出ていった。


「護も大変だな」

「そうだね、僕だったら絶対無理だなあ」

「俺でも無理だ」


優が出したコーヒーを飲んで、遙は一息つく。


「そういえば、フェンリルは雷大丈夫だったの?」

「なんだよ、突然」

「いや、犬って雷が嫌いだっていうじゃん?狼もそうなのかなって」

「さあな、フェンリルは外に出してなかったから知らん」

「そっか、昨日はリズちゃんもいたんだね?」

「ああ」


そんなことを話していると、休憩から戻ってきたのだろう、灰色の髪のウサギのウェイトレスのレナが出てきた。


「あ、遙さん来てたんですね」

「どうも、そっちは雷大丈夫だったのか?優」

「なんとかね、出雲もちょっと協力してくれてね」

「遙さん、リズは昨日の雷大丈夫でした?」


レナが心配そうに遙に聞く。そういえばレナはリズの友人だったな、と遙は思い出す。


「リズは雷が苦手みたいだが」

「あぁー、やっぱりダメだったかー」

「何かあったのか?」

「えっと、これは中学生の時なんですけど」


なんでも、リズが中学生の時、リズの通っていた中学校(の避雷針)に雷が落ちたらしい。その時に校舎にいたリズは、それから雷が苦手になったという。


「落ちた時の轟音と震動が凄かったですからねー、苦手になるのもわかりますよね」


確かにそれではトラウマになるし、遙はリズに悪いことをしたかなという気がしてくる。


「まぁ、雷は時間が経てば過ぎ去るんだけどね」

「その間は、地獄の時間なんだろうな」

「でしょうね」



自宅に戻った遙はソファーに座る。

普段なら理由もなくフェンリルが出てくるのに、今日はそれがない。


「相当、疲れたのか」


まあ雷獣を追いかけて走っていたし、本人曰く、年だとも言っているし仕方ないか。


「・・・俺が気にすることではないか」


遙は立ち上がると思い出したようにキッチンに向かった。



帰ってきて早々に、リズはリビングのクッションにダイブする。


「ふえぇー、疲れたー」

「リズ、おかえりにゃのにゃ」

「ご飯まだー?」

「もうすぐ出来るのにゃ」


クッションから顔を上げ、キッチンの方を見るリズに、ケット・シーは淡々と返事をする。もう、この光景が定着しつつある。


「リズは我輩がいにゃくにゃったら、生活が出来るのかにゃ?」

「そもそも、アンタが来る前から生活出来てたし」

「そういうことにしておくにゃ」

「えー、何よー、その言い方はー」


ケット・シーは困った様子を見せるが、リズはお構い無しだ。


「何、行き先でも決まったの?」

「今日『相談所』のお嬢さんに会ったから一応、聞いてみたのにゃ」

「ふーん、で?」

「どうやら、このままリズのところにいた方が良いって言われたのにゃ」

「それがいいってなら、あたしは別にいいけど、アンタはどうしたいの?」


リズの言葉にケット・シーはさらに困ってしまう。


「うにゃあ、でも停電とかがあった時はリズは一人にゃ、だからここにいてもいいかにゃとは思ったのも事実にゃのにゃ」

「それはアンタが決めることだしね?あたしのところにいるなら、それでもいいしね」

「もう少し考えるのにゃ、一応、向こうも引き続き探しておいてくれるらしいにゃ」

「そうなの、でさ、ご飯はー?」

「今、持っていくのにゃ」

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