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魔獣美容師の日常  作者: 星咲 美夜
六匹目:雷獣
26/48

保護のちシャンプー

翌日の朝になっても、この町の電力は復旧していなかった。日が射してるとは言え、部屋は若干薄暗い。


「これは困りましたね、オーナー」

「さすがにケット・シーに頼る訳にもいかないしな」


火や水は使えるものの、停電していてはドライヤーなどの道具が使えない。


「こういう時はどうするか・・・」

「ケット・シーに風の魔法を使ってもらって乾かすとかでしょうか?」

「それならケット・シーに原因を調べさせる方が早いだろ」


それもそうかとリズはポンッと手を打つ。遙はやれやれと二階の自宅に上がっていってしまう。


「えっと、オーナー?」

「ちょっと下で待ってろ」


リズを店に残して遙は一人、リビングを通り玄関に行く。


「フェンリル」

「はいよ、この停電の原因を儂が調べればいいんだろう?」

「わかってるなら、さっさと行ってこい」

「全く、狼使いが荒いな」


玄関からフェンリルが颯爽とどこかに駆けていったのを見て、遙は静かに玄関のドアを閉めた。


「オーナー、何をしに行ってたんですか?」

「別にリズが気にすることじゃない」

「はあ、そうですか」


二階から降りてきた遙を、リズは不思議そうに見て首をかしげている。


「オーナーって稀にですけど、雰囲気が変わってません?」

「気のせいだろ、俺自身は何も変わってないぞ」

「本当に不思議な人ですよね、オーナーって」


そう言ってリズはトリミング室に入っていった。どことなくリズは勘がいい気がする。



  ○o。. ○o。.



しばらくすると、店の明かりが点く。ラジオからも電力が回復したと情報があった。


「あ、復旧したみたいですね」

「なんとか午後からは仕事が出来そうか?」

「ですね、良かったー」


これで安心して仕事が出来ると、リズは笑っていたが、遙としてはそうもいかず。


「結局、原因は何だったんだか」


ぼんやりとそんな事を考えながら、遙は店に立っていた。



  ○o。. ○o。.



台の上で白い猫はリズに話かける。


「大変だったわね、停電」

「もしあのままだったら、リリちゃんの予約もずらさないといけなかったよ」

「嫌だわ、月に一度の楽しみなのに・・・ねえ、知ってる?なんでも昨日の雷で、雷獣が落ちてきたみたいよ?」

「それ、誰に聞いたの?リリちゃん」


リズの質問に、リリは知り合いの仕え魔と答え、大人しく爪を切られている。いつもならリリが自分で切っているが、今日は他にも客がいるので自重していた。


「相当、捕獲に時間がかかったみたいね」

「それで、ずっと停電だったのね」


なんでも雷獣は毒気を発しているらしく、その毒に当てられた人がいるという。それも復旧が遅れた原因らしい。


ふと、ガラスの向こうを見たとき、灰色の鼬か何かはわからないが動物が、黒猫と狼に追われていたのが見えた。


「ん?どうしたんだろ」

「あら、あれはマヤにフェンリルくんじゃない」

「リリちゃん、知り合いなの?」

「そうよ、きっと仕事中なのね」


リズは怪我をしなければいいけどと、鉗子にコットンを巻き付けて、リリの耳掃除を始めた。


「今日は声を出すのは我慢しないとね」

「ふふっ、オーナーにばれちゃうもんね?」


リズがリリを洗っていると、トリミング室のドアが開き、遙が顔を出す。


「リズ、迎えって、リリちゃんを洗ってたのか」


遙はリズの様子を見て、棚から預かった首輪などを取り出し、ゲージから犬を出して連れていった。



  ○o。. ○o。.



しばらくして、店に護が来た。頭に黒猫、隣にフェンリル、脇には灰色の生物を抱えていた。よく見るとフェンリルの毛には所々に血が付いている。


「なんでこうも、俺の周りはペット以外の動物を連れて来るんだ」

「あー、うん、遙の言いたい事はわかるんだけどさ」

「で?」

「こいつら全員なんだけどさ、飛び込みで出来ないか?」

「多分、営業時間を越えるぞ、それ」


遙と護が話していると、リズがトリミング室から顔を出す。


「オーナー、リリちゃんのシャンプー終わりましたー・・・ってあれ?」

「わかった、連絡はしておく、それと今からシャンプーとか出来るか?」

「はい、頑張ってみます」


遙にカルテを渡し、リズは腕時計を確認する。


「あ、マヤちゃんは後回しでもいいってアイツから言われてる」

「そうか、ならフェンリル達からでいいな」


そして遙は護が抱えている生物に視線を向けた。


「護、その脇に抱えているのは何だ?」

「雷獣、アイツが言うには、昨日落ちてきた中で一番大人しい奴だとさ」

「相変わらず、あの娘はそういうのに懐かれるな」

「ただ、コイツは慣れてないから暴れるかもとは言ってた」


遙はフェンリルに付いている血は、雷獣が暴れた時に付いたのかと判断する。


「フェンリルちゃん、血が付いてますけど、どこかに怪我を?」

「ああ、それはフェンリルのじゃない」

「え?そうなんですか?」

「ちょっとリズさんが知るには刺激が強いかな」


護の言葉から、これは表に出せない事である事を遙は悟る。護はそういう事に関わる仕事をしている。


「とりあえず、全員怪我はないんだな?」

「ああ、アイツが見たから確実だ」

「まずは一番厄介そうなその雷獣からだな、リズ、悪いが俺の道具を上から持ってきてくれ」

「はいっ」


護から雷獣を遙が預かり、リズに指示を出す。遙は黙ってシャンプー台に直行。フェンリルの上にマヤが乗り、遙の後をついてくる。


「全く、こういう奴のシャンプーするところじゃないんだがな」


雷獣を濡らしながら、遙は大きくため息をついた。



  ○o。. ○o。.



遙はどうしていいかわからないので、とりあえず、薬用シャンプーを使う。

野生のっていうこともあるし。


大型犬用の台では、リズがフェンリルの足裏の毛をバリカンで刈っている。


「フェンリルちゃん、爪どうします?」

「長いか?」

「そんな伸びてないかと」

「ならヤスリだけかけとけ」


その後もフェンリルはリズにされるがままの状態で、リズはシャンプー前にやる工程を終わらせた。


「あ、リリちゃんお迎えきたよ」

「にゃあん」

「じゃあね、リリ」

「あれ?マヤちゃん、喋ってる?!」

「ああ、言い忘れてたが、マヤちゃんは俺の知り合いの魔術師の仕え魔だ」

「へー、そうだったんですかー」


リリをゲージから出して、リズはトリミング室を出ていく。その間に、遙は雷獣のシャンプーを終わらせた。


「ふふっ、貴方には迷惑かけますね」

「全く、君の主人といい、護達といい、ここを何だと思ってるんだ」

「ペットサロン」

「っ・・・確かにそうだけど、そうなんだけど」


雷獣を乾かしながら、隣の台に乗っているマヤを見る。マヤは遙とフェンリルのシャンプーをしているリズの様子を楽しそうに見ている。


「何事も経験ですよ」

「こんな経験はいらん」

「いいじゃないですか、オーナー、仕事が無いよりはあった方が」

「ほら、可愛い彼女も言ってるじゃないですか」


この黒猫といい、リズといい、遙は本当に頭が痛くなってくる。ただでさえ、雷獣だってシャンプーするのは初めてだ。まだ、どうするかを聞ける相手がいるだけマシだが。


「マヤちゃん、コイツは爪とかは切った方がいいのか?」

「別にいいと思うわ、だってその子は他の魔術師さんのところに行きますし」

「あの娘の言葉を借りるなら『保護』か?」

「そうなりますねぇ」


乾かし終わった雷獣を、新しいタオルと一緒にゲージに入れ、遙はマヤに取りかかる。


「マヤちゃん、爪はどうする?」

「すぐ伸びるし、お願いします」

「了解」


フェンリルのシャンプーが終わると同時に、マヤのシャンプー前の工程が終わる。


「マヤちゃん悪い、少し待っててくれ」

「ふふっ、いいですよ」

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