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魔獣美容師の日常  作者: 星咲 美夜
休憩時間:回想
23/48

遙が見た風景

家に入ってすぐに、遙は荷物を床に投げ出して、ソファーに座る。別に、はしゃいでた訳ではないものの、疲労感が仕事の時以上にある。

大きく息を吐いて目を閉じた時、ふと過去の事を思い出す。



  ○o。. ○o。.



──遙がその狼に出会ったのは、高校生の時のこと。その時の遙は別の街に住んでいて、遙と友人達はよくその街で遊んでいたりした。まあ今では別の理由でしか、その街に行くことはないが。


その街の南西には森があり、遙達は何を思ったのか、休日にその森に入って『肝試し』まがいの事をしていた。昼間だったら、少しぐらいは森に入っても大丈夫だろうと思っていた。


「オレと護の次ー、(ゆたか)と遙の番な」

「ええー、やっぱり止めない?僕は行きたくないな」

「何も一人で行く訳じゃないんだし、大丈夫だろ」

「なんで遙はそう言い切れるのさぁ」

「だって護と(たける)は普通に戻ってきたじゃないか」


特に肝試しと言っても、ただ少し歩いて元の場所に戻ってくるっていうだけのもの。日が暮れる前に帰ればいいだろうと軽い気持ちでいたのだ。

優は渋々だったが、遙と森の中に入っていった。その時に止めていたらよかったのに。


しばらく歩いていた時、遙がふと隣を見ると優がいなくなっていた。急いで元の場所に戻って、そこにいた護と健に確認するが、優は戻っていないという。


「優とはぐれたのか?遙」

「え、それヤバイんじゃないか?俺達で探すか?健」

「護、どうにか出来そうな人いないのか?」

「いないことはないが・・・」

「一応、ダメ元で連絡してくれ」


遙の頼みもあるが、事態を重く見た護が携帯を出してどこかに連絡をしていた。


「あ、しぃ?・・・今、時間は?・・・で、お前はどこにいる?・・・なんでお前が森にいるんだよ」


護の電話の相手は、会話から遙達にも誰かが判った。護の幼馴染みにして、護が一番、頼りにしている魔術師だろう。


「・・・え?・・・あぁ、それが、ちょっと森で遊んでたら優がいなくなって・・・それで俺らで捜そうかと・・・いや、その、お前にも手伝ってほしくて」


だんだんと護の口調がしどろもどろになっていく。表情も引きつっている。


「・・・あ、はい、それはわかって・・・うん、俺らが悪かったって・・・あ、はい」


相当、彼女に怒られているらしく、雰囲気的に小さくなっている。遙と健はなんだか護が可哀想に思えた。


「・・・えっと、俺らは?・・・うん、多分な・・・わかった、ありがとう」


護が通話を終えて、大きなため息をついた。哀愁が漂っていたのは気のせいではなかったと思う。


「で、護、彼女はなんだって?」

「どうせ俺らの事だから『帰れとか、そこで待ってて、とか言っても聞かないでしょう?』ってことで使い魔をこっちに向かわせるから、その後をお前らと一緒についてこいってさ」

「へー、あの娘も使い魔なんかいるのか」

「そりゃ彼女は、ああ見えても魔術師だぞ?健」


少し待つと、ガサガサと何かが飛び出してきた。それは可愛らしいウサギ・・・だと思ったら、普通のウサギよりでかいし、額から角が生えていた。


「・・・コイツって『アルミラージ』とかいう狂暴なウサギだよな?遙」

「護、彼女の使い魔ってコイツか?」

「一応、確認するか」


黄色い体毛に黒い角を生やしたウサギは、ジーッとこちらを見ている。


「あ、しぃ?・・・それってもしかして、ウサギみたいなの?・・・ああそう・・・じゃ」


確認を手早く済ませて、護がアルミラージを見下ろす。


「使い魔はコイツだって、で、しぃ・・・じゃなくてお前の主人のところまで俺達を案内してくれ」


アルミラージが森の中に入っていくので、三人はただただ、ついていった。



  ○o。. ○o。.



しばらく歩くと森の開けたところに、一人の黒髪の少女と優がいた。だが、それだけではない。彼女の近くには血まみれの狼がいた。


「しぃ、優」

「あ、来ましたね・・・案内ご苦労様です、ヴィヴィアン」

「おいおい、大丈夫かよ・・・その犬、今にも死にそうじゃんか」


アルミラージを護符に戻した少女の後ろにいる狼に健が驚く。


「えーっと、この子は犬じゃなくて狼なんですけどね・・・」

「で、なんで君はここにいる?」

「峰岸くん、その言葉をそっくりそのまま貴方達にお返しします」


にっこり笑って少女は四人を見る。その狼の傍らには二匹の小さな狼がいた。


「しぃ、頼むから何をしているのかを説明してくれないか?」

「この子達に『父親を助けてくれ』と依頼を受けました、以上です」

「シオンさん、何があってこういうことに?」

「見たところ、銃で撃たれたみたいですけどね?」

「治してやらないのか?」

「あら、それを邪魔したのはどこの誰でしょうねぇ?護くん?」


どうも木の枝でシオンがガリガリと地面に何かを描いていた途中で、護から着信があったらしい。それを含めて、彼女はお怒りのようです。満面の笑顔だったけどな。


「まぁ、準備は終わったので、あとは実行あるのみです」


クルリと四人に背を向けて、シオンは魔術の行使する。彼女にしてみれば、ただそれだけなのだが、遙達には凄いことだった。


「──降り注げ、木精(ドリアード)のもたらす癒しの輝光《森林浴》」


その時に見た、木洩れ日のような光が綺麗で、凄く遙には印象に残っていた。しばらく狼を眺めていた彼女は、何かを考えているような、そんな素振りを見せる。


「うーん、これは困りましたね」

「どうしたの?シオンさん」

「やっぱり『精霊魔法』だと治しきれないようです」

「なら、なんで君はそれを使ったんだ?」

「それが一番自然に近くて、負担が少ないと判断したからですよ」


まぁ、彼女は困ったと言いながらも、全くと言っていいほど困っている様子はない。むしろ、この状況を楽しんでいるようにも見えた。


「とりあえず、しばらくはわたしの家で様子を見ながらですかね?」

「ちょっと待て、お前の家って今、どうなってる?」

「護、それってどういう意味だ?」


遙は最初、護の反応に疑問が浮かぶ。


「あ、いや・・・コイツさ、最近よくこういう怪我した魔物を拾ってくるらしくてさ」

「拾っているんじゃありません、あくまで『保護』です」

「で、お前の事だから、その狼達も連れて帰るんだろ?」

「もちろん」


どうやら、彼女の家はそういう魔物でいっぱいらしく、同居人が若干迷惑しているようだ。


「この小さい子達は、その同居人についてもらう『約束』なので連れていくしかないんですけどね」

「じゃあ、その大きいのは?」

「そうですね・・・それならば」


彼女の視線は護に行く。それが何を意味するのかを護は感づいたようで。


「あ、やっぱりまだ怒ってる?」

「うふふ、立ち入りを制限されている森で遊んでいるような悪い子には『お仕置き』が必要だと、わたしは思うんですよねえ?」

「あー、うん、それは・・・」


彼女は笑顔で言っていたが、その言葉の内容と表情が合っていない。


「で、しぃは俺に何をしようって言うんだ?」

「疑似的にですが、この狼を『憑依』させます、一番良いのはわたしに『憑依』させる事なんですけど」

「しぃ、それは無しで」

「・・・はいはい」

「そうなるくらいなら俺でやってくれよ、しぃ」


それが彼女達の中では良い方だったらしいのだが。


「・・・えー?我が儘言わないでくれます?」


彼女が狼の方に話しかける。突然、何事かと遙達は思ったが、彼女は狼の言葉が解っていたようだ。


「え、どうした?」

「・・・どっちかと言うとわたしは近くにいていただいた方が良いんですけど?・・・嫌と言われましてもね」


プイッと狼が不貞腐れたようにそっぽを向く。彼女の言葉と狼の反応から、彼女の近くに居たくないらしい。


「どうしましょう」

「なぁ、俺じゃダメか?」

「遙?」

「それはオススメしませんね、身体的にも負担が大きすぎる」

「優がいなくなった時、俺が一緒に(ここ)に入ったんだ」


だから、その狼を引き取ると遙は言った。彼女は、その時初めて複雑そうな表情を浮かべた。


「方法はなくはない、か」

「じゃあ」

「この狼がそれでもいいって言うなら・・・それでも妥協ですか」


彼女は本当は嫌だったんだな、というのは表情からわかった。でも、どこかで妥協をしなくてはいけなかったようだ。

こうして、その狼は遙のところに来ることになった。

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