久しぶりの母校
遙とリズは母校の専門学校に来ている。なんでも文化祭みたいなのをするというので、卒業生が毎年呼ばれているのだ。
相変わらず遙は不機嫌というか、どこか冷めている。
○o。. ○o。.
──その文化祭の便りがリズ達に来たのは、一週間前のこと。
「今年もやるんですって、文化祭」
「らしいな」
「オーナーは行かないんですか?」
「リズは行くのか」
リズが持ってきていた手紙を見るも、遙は興味が無さそうだ。
「ちょうどこの日は暇そうですよ?」
「それでも、勝手に休みには出来ないだろ」
「あー・・・そうですよねー、でもこの予約が終わって暇だったら、行けそうですよ?」
遙から返された手紙と予約帳を確認するリズに、遙は呆れた表情を見せる。その日の予約は一件だけだった。リズは少しだけ残念そうにしている。
「そんなに行くのが嫌なんですか?」
「別にそういう理由じゃない」
遙は行きたくなくて(それもあるけど)言ってるのではない。ただ単に自分を知ってる人間に会いたくないだけ。
「まぁ別に、あたしは文化祭じゃなくても遊びに行ってるんでいいんですけどねー」
「そうか」
「オーナーも先生と話したりしたくはないんですか?」
「別に話すことなんてないだろ」
リズの言葉にも、遙の反応は冷めたものだ。
「他の先輩とかと連絡は?」
「全くしてない」
「・・・年賀状とかも?」
「一切ない」
もうリズは何も言わない。どこまで遙は人付き合いを避けてるんだろう。もうここまで来ると、いっそ清々しい気がする。
「たまにですけど、あたしのところに先生達からメールが来るんですよ」
「それはいいじゃないか」
「オーナーの生存確認するのが中にはあるんですけど」
「・・・そうか」
「生存報告しに行きません?」
しばらく二人の間に沈黙が流れる。遙は予約帳を開いて何かを考えている。
沈黙に耐えきれず、リズは再び口を開いた。
「オーナー?」
「とりあえず、その日はリズの休みにしとくから」
「それは、あたしに行ってこいって言いたいんですね?」
「俺が行く理由がないしな」
本当にコイツはどれだけ外に行くのが嫌なのだろうと内心、リズは思う。でも、遙にも友人は(少なからず)いるのだから不思議だ。
「オーナーって休日は何をしてるんです?」
「別に何も」
なんとなく予測してたよ、と言いたげなリズ。遙を誘うのも、諦めたようで。
──だが、その予約の数日前に、家の人が体調を崩したということでキャンセルされ、別の日にずれた。
「・・・オーナー」
「行かないぞ?」
「まだ何も言ってないじゃないですかー」
「文化祭だろ?」
「・・・はい」
考えてた事を当てられて、リズは少ししょんぼりしている。これは遙が凄いのではなく、リズがわかりやす過ぎるのだ。
「なんでリズは俺をそんなにつれ出したいんだ」
「引き込もってばかりじゃ、体調崩しますよ?」
「別にいつも引き込もっている訳じゃない」
「たまにはいいじゃないですか、ね?」
遙は渋々という感じだが、リズに仕方なく押しきられる形になった。
○o。. ○o。.
仕事終わりに、遙はそれでもどうしようか悩んだので、向かいの喫茶店に入る。
優に言って解決するとは思わないが。
「やあ、遙、今日はどうしたんだい?」
「少し悩み事」
「ふーん、珍しいね」
いつものように、遙はカウンターの奥に座る。注文もいつも通り。
「で、そんな遙の悩み事って?」
「数日後に、俺が行ってた専門学校で文化祭をやるんだそうだ」
「へえ、行くの?」
「俺としては行くつもりはない」
なら何故、悩む必要があるのかと優は思ったが、なんとなく察しがつく。
「リズちゃんは行くつもりなんだね?それも、遙と」
「まだ、俺も『仕事があるから』って理由が使えれば逃げ道があったんだ」
「ん?ってことは・・・」
「最悪な事にその日の予約がない」
なるほどね、と優は口には出さないものの、遙の悩み事に対して何か思ったらしい。
「それなら行ってくればいいじゃないか」
「なんで」
「たまにはそういう休みも必要だよ、遙」
「だが」
「そういうのも経営者の特権だと思うんだけどなぁ、僕は」
優はにっこり笑って遙にコーヒーを出す。なんだか腑に落ちないようだ。
「遙が他人と距離を置いてるのも、そうしている理由も僕は知ってるけどさ」
黙ってコーヒーを飲む遙に、優は続ける。
「少しは他人と関わることを、遙はしないといけないんじゃないかな?」
「・・・」
「それに、せっかくリズちゃんが誘ってくれてるんだからさ」
「・・・そうだな」
やはり、渋々という感じだが、遙の悩み事は解決したようだった。
○o。. ○o。.
そして当日。遙が朝弱いのをリズも知っているため、お昼が近い時間にリズは遙の自宅にやって来た。
「おはようございます」
「本当に来るとは思わなかった」
「さ、行きましょう♪」
「先に行っててもいいのに」
「それじゃ、絶対来ないでしょ」
満面の笑みのリズ。今の遙にはその笑顔が鬼畜なのだが。凄いドアを開けたくないという雰囲気がある。なので。
「もしかしてオーナー、さっきまで寝てました?」
「いや、起きてたけど」
「お邪魔しますっ」
こうして遙は、リズに強制連行されることになった。
○o。. ○o。.
やはり文化祭ともなると人が多い。遙は先生達を見付けても、特に話すこともないので、遠巻きに歩いていた。
「先生ーっ♪」
「おぉー、水無瀬じゃないか」
「お久しぶりですぅー」
リズは担任だった先生を見付けて、駆けていく。それも、遙の腕をがっちりと掴んで。
「おや、峰岸も一緒なんて珍しいね」
「えへへ、近所なので連れてきちゃいました」
こうなると嫌でも遙はされるがままの状態になってしまう。なんというか、リズは遙を追い込む術を知っている気がする。
「峰岸とは卒業以来かな?」
「・・・そうですね」
つまり、遙は二年近く会うどころか、連絡をすることもしていない、ということになる。
「忙しいんだとは思っていたんだけどね?」
「えー、まあ・・・そうですね」
「相変わらずだね」
その後、リズは後から来た同級生達と楽しそうに話をしていたので、遙はそれとなく離れた場所に移動した。
○o。. ○o。.
同級生達と話が盛り上がり過ぎて、ふと遙がいないことに気付いたリズが、遙を探すと、遙はちょっとした休憩スペースで何か食べていた。
「で、先輩は何をやってるんですか?」
「見てわからないのか」
「何か食べているのは、あたしが馬鹿でもわかります」
テーブルにスマートフォンと手帳があるところを見ると、今日ではないが、予約が入ったりしたようだ。ここに来ても仕事をしてるのか、この人は。
「あ、予約が入ったんですか?」
「ああ、明後日に一件」
「トリミングですか?」
「それはカルテを確認しないとわからない」
遙が開いた手帳には、予約が書き込まれている。時間とかシャンプーかとか、結構詳しく書かれていた。
そこから、シャンプーでもトリミングでも入れられる日を確認していたようだ。
「で、リズは俺に何の用だ」
「先輩がいつの間にかいなくなってたから、探してたんですよ?」
「別に俺がどこに居ようと、俺の勝手だと思うんだけどな」
「勝手に帰ったかとも思いました」
「そこまで俺は非常識じゃない」
頬杖をついて、遙は退屈そうにしている。そういえば在学中も遙はこんな感じだったな、とリズは思い出す。
他人と一線を引いて、どこか遠くから他人を見ているのだ。本当に遥か遠くから。
「先輩が食べてるの見てたら、お腹空いてきちゃいました」
「なら自分で何か買ってこい、ここで待っててやるから」
「はーい、行ってきます」
リズはどこか楽しそうに、生徒達が開いている屋台の方に駆けていった。




