鎌鼬との再会
仕事を終え、遙は部屋でスマートフォンをいじる。メールで護に聞きたいことがあったのだ。
『あの鎌鼬って殺処分されたりするのか?』
さすがにこういうことを、人前で聞くのはどうかと遙は思ったので、メールで聞くことにした訳だが。向こうも仕事は終わっていたらしく、すぐに返事がくる。
『アイツがなんか裏でやってたらしくて、あの鎌鼬は《相談員》の一人に引き取られたよ』
どうやら、その魔術師は鎌鼬のような魔物を探していたらしく、仕え魔か使い魔にするつもりでいたようだ。
『そうなのか、それと彼女は『ケット・シー』のことは覚えてるのか?』
『それは覚えてるよ、どうしても条件に合う魔術師が見付からないって愚痴ってたぜ』
『そうか、それは悪かったな』
『まあ、こういうのも慣れてるし、俺は別にいいんだけどさ
話は戻るけど、その鎌鼬の引き取り手と、明日そっちに行くことになった』
現場検証の続きというより、その引き取り手を介して鎌鼬に事情聴取に近いことをするらしい。大体、言葉が通じるのか?
『その魔術師って鎌鼬の言葉が解るのか?』
『アイツが言うには、お互いの相性が良ければ『念話』で通じることがあるんだそうだ』
『どういう原理なんだ』
『知るか、俺に聞くな』
やはりというか、護の返事は予想通りだった。魔術が使えない人間に、魔術とかそういうことを聞いても仕方がないのだが。
そういうことなんだ、としか言えないのだろう。別にこういう事は珍しくはない。
『そもそも、そういうのが常人に理解出来るほど魔術とかは簡単じゃないってことか』
『そういう事だな、だからこそアイツは『魔法』は『奇跡を起こす方法』だって言うんだろうし』
とりあえず護に聞きたい事は聞いたので、遙はスマートフォンをテーブルに置く。そして夕食の準備をするかと、立ち上がった。
○o。. ○o。.
翌日。遙は店の掃除しているリズに、昨日護から聞いたことを伝える。それを聞いたリズはどこか嬉しそうに準備を始めた。
「いやー、良かったですね、行く所があって」
「心配だったのか」
「もし、殺処分されたら可哀想だと思って」
「でも、そのまま逃がしても、また被害が出るだけだぞ?」
今回は店に被害があっただけで良かったが(実際には良くないが)、最近では人身被害もある。最悪の場合、死ぬことだってあるのだ。
「でも、生きてる動物を人間の都合で殺しちゃうのは、やっぱり可哀想ですよ」
「そうしないといけない時もある、誰かが生きる為に犠牲になる奴がいるのが事実だ、ただその犠牲は多すぎてもいけないが」
「うーん、バランスが大事ってことですか?」
「そういう事だな」
遙の言葉に、リズは何かを考えている。自分の中で何か結論が出たのか、リズは仕事の準備を再開する。
○o。. ○o。.
午後になり、護と鎌鼬の飼い主になったという魔術師が店先にいた。
白い傘を持った、ツーサイドアップの空色の髪の少女は肩に鎌鼬を乗せたまま、店から出てきた遙とリズに頭を下げた。
「よぉ、遙」
「護が昨日、言ってたのはその子か」
「えっと・・・この度、この子の飼い主になりました、ツバサです」
「え、あ、どうも」
「すみません、この子がご迷惑をかけたみたいで」
「いえいえ、今はもう元通りになっていますし、ね、オーナー」
鎌鼬がやったことではあるものの、ツバサが謝ることではないのだが。飼い主になったということもあるから、彼女も責任を感じたらしい。
「その子に名前とかって、つけたんですか?」
「ええ、『風』と書いて『フウ』にしました」
にっこり笑ってツバサは風を撫でる。鎌鼬と言われても、風は見た目は普通の鼬(こう見るとフェレット)である。ツバサから貰ったのか、風は銀色の羽根のペンダントをつけていた。
「今は大人しい鼬ですけど、対象を切りつける時は爪が鎌のようになるんですよ」
「よくそんなのを手懐けられたな」
「徹底的に交戦しましたからね」
護はどこか感心しているが、つまり、ツバサは実力行使でどっちが上か、身を持って解らせたようだ。そりゃ、実力が鎌鼬より上なら簡単に従えられるだろう。
「ツバサさんは、なんでその子を引き取ろうと?」
「ふふっ、それはアタシが『風』の魔法を使うから、そういう仕え魔が欲しかったのです」
やはり、そういう相性があるのかとリズと遙は改めて納得する。だから今、リズの所にいるケット・シーの里親探しが難航しているのか、とも同時に思う。
そして、ツバサがここに来たのは他にも理由があるらしい。
「えっと・・・今度、空いてる日にこの子のシャンプーとかお願い出来ないかなぁ、なんて思って」
正直、遙もリズも鼬のシャンプーは初体験である。そもそも、ここはそういうのを想定していないし、鼬って普通にシャンプーしていいのか?
「大人しくしてくれますかね?」
「そこはちゃんと解らせておきますよ」
「一応、考えておくか」
遙の言葉に、リズは黙って頷いた。
そしてツバサはこの後、仕事があると言う。
「え、お仕事?時間は大丈夫なんですか?」
「大丈夫です、空を行けば」
「え?どういうことですか?」
「──天空を舞う、風の精の遊戯 《微風の流転》」
ツバサが持っていた白い傘を開くと、ふわりと宙に浮く。ツバサが持つ白い傘は、まるで風に漂う綿毛のよう。
「ふふっ、これでご理解いただけましたか?」
「おぉーっ、凄い」
リズの周りに魔術師がいない訳ではないのだが、こうやって目の前で魔法を使われると感動する。傘で空を飛べるとか、なんか羨ましい。
「それでは、また今度」
ツバサはリズ達に手を振って、そのままどこかへ飛んでいった。
○o。. ○o。.
仕事を終えて、リズは帰宅。遙は向かいの喫茶店にいた。
「遙は最近、何かと大変そうだね」
「狐の次は鼬かよ、全く嫌になる」
コーヒーを飲みながら遙は愚痴をこぼす。そんな遙を優は笑っている。
「仕事が全くないよりは、あった方がいいんじゃないの?」
「それはそうなんだが、せめて普通の犬とかにしてほしい」
遙は頭を抱えている。ここまで遙がこうなっているのは久しぶりだなと、優は思う。
「まあ、そこはやるしかないんじゃない?」
「・・・そうだな」
遙もそれは頭では解っているのだろう。頭では。でも、あまりない(というか初めての)事に戸惑っているのだ。
「そう言ってるのなら、リズちゃんに任せてみるかい?遙」
「それは何かあったら俺が困る」
「なら、頑張りなよ」
いつものように穏やかに笑う優に、遙はジトッとした視線を送る。
「全く、他人事のように言いやがって」
「だって他人事だもん」
「・・・帰る」
遙は代金を支払い、店を出た。
○o。. ○o。.
リズは自宅で調べ事。鼬の(というよりフェレットの)シャンプーについて。
「へぇー、フェレットも犬みたいに月一で洗っても大丈夫なんだね」
「リズは勉強熱心にゃのにゃねえ」
「んー、これは勉強っていうか、鼬のシャンプーなんて、あたしもやった事ないんだもん」
クッションを抱え、パソコンをいじるリズをケット・シーは退屈そうに見ている。
「でも、相手するのは遙じゃにゃいのか?」
「一応、あたしが知ってて損はないでしょ」
「それはそうかもにゃ」
ゴロンと寝転がるケット・シーにリズは視線を移す。
「そろそろ、アンタもシャンプーする?」
「え?わ、我輩はまだいいのにゃ」
「そう?でも、行き先が決まったらシャンプーはしないとね」
「そ、その時は我輩も覚悟しとくのにゃ」




