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魔獣美容師の日常  作者: 星咲 美夜
五匹目:鎌鼬
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鎌鼬と突風被害

──最近、この町でも突風の被害が報道されている。それは気象によるモノがほとんどなのだが、稀に原因のわからない突風がある。



  ○o。. ○o。.



いつものようにリズはトリミング室の掃除をしていると、突然、遙がカタログを持って入ってきた。


「リズ、このカタログの中でこういうリボンが良いっていうのはあるか?」

「え?・・・えーっと」

「別に急いで決める必要はないが、時間があるときに目を通しておいてくれ」

「はーい」


時間がある時も何も、現在のリズは暇なのである。予約は安定してきてはいるものの、やっぱり暇な時は暇。


カタログを見ると、秋・冬のモノ。正直、現在のリボンのストックも少なくなってきているが、何色もあるので夏が終わる頃までは持つだろう。立ち耳なら一つだが、垂れ耳だと一匹につき二つ一組のリボンを付ける為、結構な量を消費してしまう。


まあ、中には毛が短くてリボンがつけられない子や、男の子なのにリボンをつけるの?って人もいるので、バンダナもこの店にある。


「うーん・・・どれも可愛いなー」


犬用のリボンとはいえ、季節感があるモノがいい。春なら苺とか可愛い花のモノ、夏なら向日葵や、変わったモノだと麦ワラ帽子などか。


「秋はハロウィン、冬はクリスマスとか正月があるからリボンの種類は多いけど、期間限定なんだよねー」


パラパラとページを捲る。業務用リボンはどれも可愛いので、凄く悩む。結局はお客様の犬につけるのだが、使う方もやっぱり可愛いのが使いたい。


「多分、クリスマスとかのはオーナーが考えているよね」


カタログの上には遙が付けたらしい、いくつかの付箋がついている。


「あー、やっぱりね」


付箋のページは、やっぱりそういう季節もののだった。きっとそれ以外でリズの趣味(?)に合うモノを、ということだろう。


「そろそろ、お昼行くかぁー」


時計を見ると12:00近い。新たに予約が入る様子はないが、午後からの予約はあるので、リズがカタログを持ってドアに手をかけた時だった。



──ガシャーン



「えっ!?」


突然、道路に面したガラスが大きな音と共に激しく割れた。それと同時に強い風が吹き込んできて、リズは思わずその場に座り込んだ。


「リズ!?」


血相を変えて、遙がドアを開ける。リズは何が起きたのか解らず、放心状態だった。


「リズ、怪我は?」


遙の問いかけに、リズは無言で小さく首を横に振る。あまりの出来事で、リズは何も言えなくなっているようだ。


「ん?」


遙は壁際で伸びている、一匹の(いたち)のような生物を見つけた。



  ○o。. ○o。.



店の周りは、騒ぎを聞きつけた人で賑わっていた。


「コイツは鎌鼬(かまいたち)らしいな」

「鎌鼬?」


護の言葉に、リズは首をかしげた。

現在、遙とリズは護と共に現場検証に立ち会っている。


遙が見つけた生物は、とりあえずゲージの中に入れておいた。そして、通報によって駆けつけた護に状況を説明して、今に至る。

護も最初、この生物が何なのか判らず、写真を撮って誰かに聞いたらしい。その鎌鼬はゲージから出せと言わんばかりに暴れている。


「ここ最近の原因不明の突風の原因がコイツじゃないか、とされてはいるんだが・・・」

「それさえも仮定だったのか?」

「そりゃあそうさ、なんせ被害者はいても目撃者がいないんだからな」


護はやれやれといった感じだ。だが、今回のことで、それは立証が出来そうだ。


「で、これどうするんですか?オーナー」

「しばらくは営業休止・・・だろうか」

「片付けとかしないといけないですしね」

「二人とも、検証が終わったら俺がアイツを呼ぶし、片付けとかは心配はしなくていいと思うけど」

「大丈夫なのか?」

「心配するなよ、アイツのことは俺が一番よく知ってるから」

「そうか」


話もある程度終わり、遙とリズは昼食に行ったら?と護に言われたので、大人しく休憩室にいた。遙は予約帳と店の電話を持っている。多分、今日の予約がずれるだろうということで。


「そういえば、あの人の仲良しの人ってどんな人なんでしょう?」

「見た感じは、至って普通の人だったな」


本当に見た目は普通。それは凄く強い魔術師だと言われても、本当に疑わしいくらい。


「一度、その人に会ってみたいですねー」

「興味本位でならやめておけ、迷惑だろ」

「じゃあ、迷惑にならないように見ればいいんですね?」

「どうしてそうなる」

「えー・・・別にいいじゃないですかー」

「仕事の邪魔になるだろ」


遙としては、関わらせたくないというより、向こうの仕事の邪魔になると思っているのだが。リズは不満そうだ。


「大人しく待ってられないのか」

「はいはい、わかりましたよ」

「なんで俺が、我が儘言ったみたいになってるんだ」


仕方ないなぁという表情のリズに、遙は頭が痛くなる。


しばらくすると、騒がしかった外の様子が落ち着いてきた。そろそろ終わったのかと、リズと遙は店の方に出た。


「護、終わったのか?」

「ああ」


トリミング室に入ると、何もかもが元通りになっていた。


「うわー・・・凄いですね、全部元通りになってる」

「で、彼女は?」

「帰った」

「えー?帰っちゃったんですか?」

「なんだ、リズさんはアイツに会いたかったのか?」


残念そうなリズに護は苦笑している。帰ってしまったのは仕方ないし、また呼び出す訳にもいかないだろうし。


「でも、魔術だとしても何をどうしたらこんな元通りに出来るんですかね?」

「どういう事なのか聞いたが、俺でも理解が出来なかった」

「で、なんて説明されたんだ?」


遙の質問に、護はさらに困ったような表情だ。多分、遙達にも解らないのは護も予想はついているのだろう。


「きっと解らないだろ?」

「一応、聞くだけ」

「なら内容の方をまず話すけど、何でも『壊れた場所に境界を敷いて隔離、隔離した場所の時間を巻き戻して、且つ、そこから壊れる未来を切り取って壊れなかった未来に繋ぎなおし、壊れる可能性そのものも消滅させた上で、壊れた事を無かった事にした』らしい」

「結構な事をやってるんだな」

「ちなみにそれを『猫箱に入れて『壊れる可能性』を全て潰した上で箱を開けた』ってアイツは言ったんだよ」

「確かにそれでは理解出来ないな」


護は短く説明するよう言ったところ、後の言葉が返ってきたので、どういうことかと内容を聞いたところ、かなり長い説明が返ってきたらしい。いつものことらしいので、護は慣れたらしいが。

見た目は普通でも、その思考は異常で、護や遙にも理解するのは無理なようだ。それでも護は彼女と一緒にいようと思うんだから物好きというか。


「しかも指を一回鳴らしただけで実現するんだぜ、アイツ」

「そこはさすが魔術師ってところか」

「それであの鎌鼬ってどうなったんですか?」

「一応、こっちで連れていったよ」

「あ、そうなんですか」


ゲージに入れていた鎌鼬がいなくなっていたので、リズは行方が気になったらしい。リズが聞いたこと以外に遙は何か気になっていたようだったが、何も言わない。護はそれに気付いていたみたいだった。


「護、仕事が終わったら後でメールする」

「・・・ああ、わかった」

「まあ、とりあえずこれで仕事は出来そうですね、オーナー」

「そうだな」


今日の騒ぎで予約はずれたものの、明日からは普通に営業出来そうだ。遙とリズは安堵のため息をついた。

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